次の記事は、『紙の爆弾』(2023年10月号)に掲載した記事のネットでの再掲載である。原題は、「週刊金曜日 書籍広告排除事件にみる 左派言論の落日」。メディア黒書の企画、「市民運動」の危険性を考えるシリーズの1回目である。
(株)週刊金曜日と鹿砦社の関係に亀裂が生じている。この事件は、はからずしも独立したジャーナリズムとは何かという問題を突きつけている。
発端は、鹿砦社が5月に刊行したムック、『人権と利権』である。この本は少女売春の防止や性的マイノリティの権利確立など、一般的にはあまり知られていな市民運動のありかたに疑問を呈した内容だ。新聞・テレビのステレタイプな報道とは方向を異にしている。編著者で作家の森奈津子氏は、性の自認を正当化する政界の動きと世論に警鐘を鳴らし、「女子トイレを守る運動」にも奔走している。
6月18日付けの『週刊金曜日』は、裏表紙に『人権と利権』の書籍広告を掲載した。鹿砦社は定期的に同誌に書籍広告を掲載してきた。
『人権と利権』がアマゾンの書籍販売ランキングで首位に躍り出ると、SNS上では炎上現象が起きた。「ネット民」らの罵倒がネット上に広がり、その矛先は同書の広告を掲載した(株)週刊金曜日にも向けられた。同社の植村隆社長によると『週刊金曜日』を指した次のようなツイートが投稿されたという。「今は極右の雑誌なのか?」、「終わっとるな」、「いい加減に鹿砦社の広告を載せるのを止めた方がいい。言論の自由とヘイトの自由は別でしょう」。Colaboの仁藤夢乃代表も、同誌を指して「最悪」と投稿した。また直接、(株)週刊金曜日に抗議したという。
Colaboとは、家出した少女らを売春から救済するなどの活動を東京の歌舞伎町などで展開している市民運動体である。仁藤氏は、フィリピンのマニラあたりまで足を運び、「日本人買春者が集まる性売買集結地「#マラテ」の夜の街を歩き」(ツィター)、その実態を発信したりもしている。著名な辣腕社会運動家である。
仁藤氏による抗議の発端は、『人権と利権』の広告を『週刊金曜日』が掲載したことである。『人権と利権』にColaboの批判が含まれていたことが許せなかったのだろう。今年1月、東京都監査事務局は、Colabo(コラボ)」の経理に関して、住民が申し立てた住民監査請求を認めた。一部に不当な点があるとして再調査を指示した。最終的に東京都は、不正は無かったと結論づけたが、鹿砦社と森氏はジャーナリズムの観点から再検証して、『人権と利権』にまとめた。しかし、仁藤氏は版元の鹿砦社ではなく、(株)週刊金曜日に抗議の矛先を向けたのである。
それを受けて植村社長と文聖姫編集長は、仁藤氏を訪ねて謝罪した。『週刊金曜日』誌上に謝罪告知を出すことも約束した。こうして両者の不和は解消され、仁藤氏は、植村社長とのツーショット写真を自らのツイッターに掲載した。問題が解決して、2人とも満面の笑みを浮べていた。その直後、仁藤氏は「ネット民」による「週刊金曜日を定期購読再開しよ」という投稿をリツィートした。はからずも『週刊金曜日』の購読者層が、編集部にとって外圧なっていることが露呈したのだ。
謝罪告知は、6月30日付け『週刊金曜日』に掲載された。その中で同社は、『人権と利権』を「差別、プライバシーの侵害など基本的人権を侵害するおそれがある」書籍と断定した上で、仁藤氏とLGBT関係者に謝意を表明した。その後、植村社長が西宮市の鹿砦社本社に足を運び、今後、広告掲載を認めない旨を申し入れた。さらに植村社長は、2度にわたり鹿砦社との決別を宣言するコラムを『週刊金曜日』に掲載したのである。そこには「Colabo攻撃を許さない」といった言葉もある。
ちなみに植村氏は、『人権と利権』を「差別本」と公言するに先立って、鹿砦社からも森氏からも一切事情を聞いていない。書籍広告を掲載するかどうかを判断する際には、著者や版元を取材する必要はないが、このケースは、鹿砦社の社会的評価を失墜させる謝罪告知の内容にかかわることであるから、相手の言分を取材するのが原則である。そのプロセスがまったく無視されたのだ。
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