1. 「押し紙」で生じた不正な資金・35年で32兆6200億、公取委が新聞社の犯罪を「泳がせる」背景に強い政治力、「世論誘導」という商品の需要と売買

「押し紙」の実態に関連する記事

2022年10月10日 (月曜日)

「押し紙」で生じた不正な資金・35年で32兆6200億、公取委が新聞社の犯罪を「泳がせる」背景に強い政治力、「世論誘導」という商品の需要と売買

2022年7月8日、安倍元首相が旧統一教会に恨みを抱く人物から狙撃されて命を落とした。この事件をきっかけとして、旧統一教会の高額献金や霊感商法の問題などが浮上した。被害額は、昨年までの35年間で総額1237億円になるという。(全国霊感商法対策弁護士連絡会」)

これに対して、新聞の「押し紙」による被害がどの程度に上がっているのか、読者は想像できるだろうか。簡単な試算を紹介しよう。

日本全国の一般日刊紙の発行部数は、2021年度の日本新聞協会による統計によると約2590万部である。このうちの20%にあたる518万部が「押し紙」と想定し、新聞1部の卸卸価格を1500円(月額)と想定すると、被害額は77億7000万円(月額)になる。これを1年に換算すると、約932億円になる。

旧統一教会による被害額が35年間で1237億円であるから、「押し紙」による被害額と比較するためには、1年間の「押し紙」の被害額932億円を35倍すれば、その数値が明らかになる。32兆6200億円である。

しかも、この試算は誇張を避けるために、「朝夕セット版」を外して、低く見積もった数値なのである。

公正取引委員会や裁判所などの公権力機関が正常に機能していれば、合法的に取り締まるレベルの問題であるにもかかわらず彼らは延々と問題を放置してきたのである。背後に強い政治力が働いている可能性が高い。

◇公取委が「押し紙」政策を泳がす理由

公権力機関が「押し紙」を取り締まらないことで、新聞社は莫大な販売収入を得る。その支払元は販売店だが、公権力機関が「押し紙」を放置しなければ、このような資金の流れは成立しようがないわけだから、換言すれば新聞社は、公権力機関と癒着することで、「押し紙」による収入を確保していることになる。

一方、公権力機関はこの裏工作の見返りに新聞社から何を得るのだろうか。それは公権力機関にとって好都合な世論の形成である。新聞にはそのノウハウがある。
GHQからの世論調査の方法を伝授された歴史記もある。

言葉を替えると、公権力機関は、世論誘導という商品を間接的な方法で新聞社から買っているのである。

その結果、新聞社サイドにこの高収入を生む世論誘導ビジネスの軌道を逸脱しない編集方針が暗黙のうちに形成される。自然にイナーシア(慣性、あるいは軌道を保持しよとする力)が生じ、それを逸脱しないことが暗黙の合意事項になる。

このようなメディア状況を最も典型的に現れたのが朝日新聞の天声人語である。
作家の辺見庸氏は、天声人語の性質を次のように指摘している。

あれはだいたい七百四十字です。原稿用紙わずか二枚足らずで世界を論じ、善意を論じ、世の中を嘆いてみせる。そこにあるのはクソ人間主義的な底の浅いヒューマニズムであり、じつに楽天的な世界像の矮小化です。しかし、この非常に伝統的な「天声人語」的なるものが世の中の“良識”というものを形づくり、これら“良識”が堆積して、創造的意識を搾取し、無化し、イナーシア(注:慣性)を全体的に支えていると私は思います。そしてこの良識は、現状を打破したり、ナーシアを止めたり、あるいは方向を変えたりするようなものでは断じてない。適度の社会批判、多少の反省、それがわれわれの日常にとっては最もいいことなのだと、世の中はさして悪くもなく特別に良くもないと、そう説いているのであると、私は皮肉として申し上げたい。(『不安の世紀から』)

わたしは、朝日新聞だけではなく、日本の新聞社全体が天声人語に象徴させる状況に置かれていると考えている。その背景に、世論誘導という商品の需要が絶えない事業がある。