読売が申し立てた「押し紙」裁判の判決文に対する閲覧制限事件①、その後の経緯と自由人権協会代表理事・喜田村弁護士への疑問
読売新聞の「押し紙」裁判(大阪地裁、濱中裁判、読売の勝訴)の判決文に対して、読売新聞が閲覧制限を申し立てた件について、その後の経過を手短に説明しておこう。既報したように発端は、メディア黒書に掲載した『読売新聞「押し紙」裁判(濱中裁判)の解説と判決文の公開』と題する記事である。この記事は、文字通り読売「押し紙」裁判についてのわたしなりの解説である。
この記事の中で、わたしは判決全文を公開した。ところがこれに対して読売(大阪本社)の神原康行法務部長から、書面で判決文の削除を要求された。理由は、読売が判決文の閲覧を制限するように裁判所に申し立てているからというものだった。法律上、閲覧制限の申し立てがなされた場合、裁判所が判決を下すまでは、当該の文書や記述を公開できない。神原部長の主張には一応道理があるので、わたしはメディア黒書から判決文を削除した。
※ただし、ジャーナリズムの観点からは、はやり公開を認めるべきだと思う。「押し紙」という根深い問題を公の場で議論する上で大事な資料になるからだ。
ここまでは既報した通りである。その後、裁判所は読売の申し立てを認めた。法律を優先すれば、判決文は公開できないことになる。しかし、裁判所が判決文全文の閲覧を制限したのか、それとも読売にとって不都合な記述だけに限定して閲覧を制限したのかは不明だ。そこでわたしは、読売の神原部長に対して、判決文全文の非公開を希望しているのか、それとも部分的な記述だけに限定した非公開を希望しているのかを問い合わせた。
現在、その回答を待っている段階だ。
森喜朗会長の失言、ワイドショーでも炎上、スピーチ原稿なしに発言できない堅苦しい時代に
東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が、「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」などと発言したことが問題になっている。森会長は、4日、記者会見を開いて発言を謝罪した。国会では、立憲民主党の枝野幸男代表が、森会長の辞任を求めた。
国会議員が「不適切」な発言をして批判を受け、非を認めて謝罪する事件はこのところあとを断たない。しかも、謝罪に追い込まれる背景には、必ずメディアの追及がある。(この種の報道にはなぜか熱心だ。)
森会長の発言内容そのものに問題があることは異論がないだろう。しかし、特定の発言に対して、謝罪を求めたり、辞任を要求する社会風潮は過剰反応ではないか。長い目でみれば、言論統制への道を開いていくからだ。おそらく国民の99%は、謝罪するのは当たり前だと考えている。
それゆえに別の視点からこの問題を再考する余地もない。
故意に「差別者」をつくる愚、表現の自由をめぐる部落解放同盟との論争
(本稿は、『紙の爆弾』(12月号)からの転載である。)
言論・表現にかかわる事件の行方は、文筆を仕事とする者にとっては職業の生死にかかわる。
菅義偉内閣が誕生してのち、言論と差別にかかわる2つの事件が浮上した。ひとつは首相が、日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した件である。もうひとつは、自民党の杉田水脈議員が、「女性はいくらでもウソをつける」と発言したとされる件である。杉田議員は「差別者」として、Change.org上で13万人から糾弾され、野党からは辞職要求を突きつけられた。後述するように、この事件はなぜか自民党サイドが報道機関にリークして、発覚させた経緯がある。
ここ数年、言論や表現に対する視線が厳しくなっている。国会で閣僚が言葉を滑らせて、野党から謝罪を要求される事件が続発し、もはや予定原稿なしに言葉を発することが議員生命を危うくしかねない状況が生まれている。国会ではヘイトスピーチ規制法が成立し、川崎市では、それに連動して差別的な表現に刑事罰を課す条例が全会一致で可決した。
こうした時代に、今度はルポライター・昼間たかし氏が『紙の爆弾』誌上で使った「士農工商ルポライター家業」という表現が、論争のリングに上がろうとしている。
部落解放同盟は、これまでも「士農工商」の後に職業をつけたレトリック(修飾方法)に対して繰り返し苦言を呈してきた。 たとえば筒井康隆氏による「士農工商SF屋」という表現である。阿久悠糾による「士農工商(注:広告)代理店」という表現である。さらに『差別用語を見直す』(江上茂著、花伝社)によると、芸能人、印刷屋、予備校生、アナウンサー、AB型、お笑い屋、百貨店、研究所、編集者などの例があるという。
部落解放同盟は、このレトリックが差別を助長するという考えに立って『紙の爆弾』に釈明を求めてきたのである。
日大講師の「差別発言」は解雇に値するのか、ヘイトスピーチ解消法の濫用へ
ヘイトスピーチ解消法は、2016年6月3日に施行された。その後、新宿区でデモの出発点として慣行的に使われてきた4つの公園のうち、三カ所の使用が禁止された。新宿区当局が下した決定である。これにより労働運動も負の影響を受けるようになった。
川崎市は、ヘイトスピーチに対して罰金を課す条例を、国に先駆けて制定した。条例が国の法律を飛び越えることはめったにない。
そのほか多くの自治体でも、差別を口実としてさまざまな規制を設けるようになった。ヘイトスピーチ解消法の余波は広がっている。【続きはウエブマガジン】
鹿砦社に対する言論弾圧事件、露骨な検察官と新聞人の連係プレー
鹿砦社に対する言論弾圧事件から今年で15年になる。2005年7月12日の『朝日新聞』朝刊の第一面は、「出版社社長に逮捕状」「名誉毀損の疑い」という見だしで、同社の松岡利康社長の逮捕を視野に入れた神戸地検の動きを「スクープ」した。
実際、この日の早朝に松岡社長は、自宅に押しかけてきた検察官に逮捕された。以後、神戸地検は、松岡社長を192日にわたって拘留した。理由は次の2点である。
①阪神のスカウトの変死事件で、遺族が執筆した記事を掲載した。その記事は、事件に球団職員が関与した可能性を示唆している。
②パチスロ機メーカー「アルゼ」のスキャンダルを暴露した。
松岡社長は、刑事裁判にかけられ、懲役1年2カ月(執行猶予4年)の判決を受けたのである。出版社の社長が刑事事件というかたちで言論弾圧されたケースはまれた。【続きはウェブマガジン】
新聞人による読売裁判の提訴から11年、なお未解決の「押し紙」問題と折込詐欺
読売新聞の江崎徹志法務室長(当時)と喜田村洋一弁護士(自由人権協会代表理事)が、筆者に対して著作権裁判を提起してから21日で11年になる。この裁判は、喜田村弁護士が作成した「江崎」名義の催告書を江崎氏が筆者に送付したことが発端だ。その内容が怪文書めいていたので、すぐにメディア黒書で全面公表したところ、削除を求めて提訴した事件である。
裁判の中で、江崎・喜田村の両氏は、催告書が江崎氏の著作物であるから、筆者(黒薮)に公表権はないと主張(著作権違反)した。ところが催告書の本当の執筆者は江崎氏ではなく、喜田村弁護士であった高い可能性が判明。江崎氏の著作物を筆者(黒薮)が公開したという提訴の論拠がまったくの嘘だったことが判明したのだ。当然、江崎氏らは門前払いのかたちで敗訴した。
抵抗する香港とフランス、抵抗しない日本
「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」はあっけなく幕切れとなった。河村名古屋市長がクレームを付け、津田大介監督が謝罪し、知事が中止を宣言して終了した。後世の歴史家は、2019年の夏をふりかえって、この事件を言論の自由の分岐点になった事件として位置付けるかも知れない。
公権力の外圧を跳ね返していれば、それが逆に言論の自由を拡大する方向性を生んでいただろう。しかし、ほとんど抵抗もせずすんなりと中止を受け入れたのだから、今後、言論はますます規制される。公権力が介入するまでもなく、だれかが匿名で脅迫電話を1本すれば、それで口封じが成立する構図が生まれたのだ。
菅官房長官がいうように、「テロリストと交渉してはいない」。
一番悪いのは河村市長と大村知事だが、津田監督にも重大な責任がある。沈没しかけた船から、船長が最初に逃げ出したことになる。【続きはウェブマガジン】
国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」、津田監督は中止に対し抵抗したのか?
国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」が愛知県知事の手で中止に追い込まれた。独裁政権の国が、こうした処置を講じることは、チリのピノチェト政権下の時代に見るようにめずらしくはないが、先進資本主義国といわれる国で、このような措置が講じられるのは極めてまれだ。
特定秘密保護法が成立した2013年あたりから、将来的に日本も言論表現の自由が著しく制限されるのではないかとする見方が増えていたが、いよいよそれが現実味を帯びてきた。
国際芸術祭の「表現の不自由展・その後」で、最初にクレームを付けたのは、河村たかし名古屋市長だった。当然、河村氏がどこまで芸術を理解したうえで、こうした行為に及んだかということが問題になる。
もちろん芸術の概念は固定したものではないが、河村市長は根本的なことがよく分かっていないのではないかというのが、わたしの見方だ。「芸術とは何か」という問題について、故岡本太郎が著書『自分の中に毒を持て』の中で、示唆に富むエピソードを紹介している。大事な指摘なので、引用しておこう。
Twitter社の恐るべき見解、国家公務員についての言及は禁止、じわじわと言論規制、黒薮のTwitterがロックされた問題
筆者(黒薮)のTwitterがロックされている問題について、その後の経緯を簡単に報告しておこう。ロックされる原因となったのは、次のツィートである。
【バックナンバー】三宅雪子元衆議院の支援者「告訴」騒動にみるTwitterの社会病理 | MEDIA KOKUSYO https://t.co/3mj9hR2EOO
誰かがロックを申し立て、Twitter社がそれを認めたという流れになるだろう。このツィートを削除すれば、ロックは解除される。が、ここには簡単に見過ごせない問題が何点かある。それが解決しない限り、筆者はみずからツィートを削除して、ロックを解除するプロセスに従うつもりはない。
■黒薮のTwitter(更新不能ですが、筆者以外は閲覧できます)
何が問題なのか?
メディア黒書へのアクセスが不能に、アクセス解析がダウン、原因は不明
昨日(10月31日)の夜、推定で2時間程度、メディア黒書へのアクセスが出来なくなった。筆者がアクセス不能に気づいたのは、21時5分ごろだった。回復したのは、22時15分ごろ。従って少なくとも1時間ばかりアクセスが不能になったことになる。
他のPCからのアクセス状況を知るためにTwitterやFacebookで調査の協力を告知したところ、何人かの人々から「アクセスできない」という回答があった。「アクセスできる」という回答も1件あった。
「押し紙」の撲滅運動、「NO残紙キャンペーン」のバーナーを貼っている「保守速報」へのアクセスが出来なくなっていることを、31日付けのメディア黒書で、報じていたこともあって、同じ攻撃がメディア黒書への向けられた可能性もある。単なるシステム上の不具合の可能性もある。
現在、メディア黒書の記事は読める状態だが、管理画面のアクセス解析がダウンした状態になっている。
保守速報など右派系サイトにDDoS攻撃、アクセスが不可能に、物理的な言論弾圧が広がる危険な兆候
保守速報など、右派系のウエブサイトへのアクセスが不能になっていることを、読者はご存じだろうか。
10月25日ごろから、「保守速報」「ShareNewsJapan」「もえるあじあ」「アノニマスポスト」などのサイトにつながりにくい状態が続いています。さらに27日17時時点で「netgeek」も閲覧できなくなっているのを確認。原因は不明ですが、何者かによるDoS攻撃(またはDDoS攻撃)ではないかとみられています。■出典
実際、保守速報の次のURLにアクセルしても、繋がらない。(10月31日の時点)読者も下記のURLをクリックして、実際に確認してほしい。言論弾圧の実態を実感できるだろう。
筆者は、右派的な考え方には同調しない立場で、たとえば天皇制にも反対だが、言論の自由という観点から、この事件を重大視している。言論を物理的に弾圧する事件が実際に起こってしまったことにむなしさを感じる。日本の未来に暗雲が立ちこめているイメージが脳裏に広がった。
誰がこうした言論妨害を断行したのかは断定できないが、恥ずべき行為である。しかも、弾圧の対象が複数のメディアに及んでいる。
2018年09月27日 (木曜日)
『新潮45』の休刊問題、圧力でメディアをつぶす誤り、言論統制への布石
新潮社は25日、『新潮45』の休刊を発表した。実質的には廃刊との見方も出ている。LGBTに関する差別的表現で、激しいバッシングを受けたことが背景にある。
この事件は、2つの側面を孕んでいる。杉田水脈氏が執筆した記事そのものをどう評価するのかという問題と、バッシングによって休刊に追い込まれたことをどう考えるのかという点である。
まず、杉田氏の記事についてだが、明らかに偏見に満ちたもので、筆者には到底受け入れがたい。つまらない記事だと思う。
一方、バッシングによって『新潮45』が休刊に追い込まれたことは、憂慮すべき事態だというのが筆者の受けとめ方だ。一部のネットウジは、鬼の首を取ったように喜んでいるが、圧力でメディアを消滅させる行為は、最終的にはブーメランのように自分に跳ね返ってくる。言論統制への道を開きかねない。