◆吉竹幸則(フリージャーナリスト・元朝日新聞記者)
この秋から掲載を始めさせて戴いたこの欄。あっという間に10回を数え、新しい年を迎えようとしている。既成メディアや司法の劣化にも触れた。私はこの国がまともなブレーキ役を失いつつあるのではないかと思っているからだ。その結果が、「壊れたこの国の姿」である。
民意はどうあれ、年末選挙で自民は圧倒的多数の議席を得た。この国は来年、どんな軌跡を描こうとしているのか。改めて志しを持つ強力なブレーキ役の出現を期待する年の瀬である。
◆「壁耳」による取材
突然だが、政治記者の伝統的な取材手法に「壁耳」というのがあるのをご存知だろうか。何のことはない。壁に耳を当て、部屋の中でどんな話が交わされているか、盗み聞きする、あれである。壁耳は昔から政治記者に許されてきた取材手法である。
盗聴器などハイテク機材を使うのはご法度。それなのに、何故、壁耳が許されているのか。読者はきっと不思議に思われるはずだ。理由は、壁耳なら記者が聞き耳を立てて取材しているのが、周りで見ていて、一目瞭然だからだ。
政治家や官僚には公式の記者会見などでは話せない本音がある。しかし、何とか記者に知らせ、記事にしてもらいたいこともある。そんな時には、記者が壁耳していることを承知で、部屋の外にも聞こえるくらいの大声で話す。記者はそれを聞いて、記事にする。
だから、本当に記者に内緒で話したいことがあれば、壁耳している記者に、「今日は、壁耳は駄目」と、その場から排除する。注意されない限り、壁に耳を当てて漏れてくる話を聞き、記事にすることは、半ば慣習的に公認されていると言う訳である。 壁耳している記者に会話を聞かせた政治家や官僚は、その内容が漏れて記事になり、万一、世間で物議をかもしても、素知らぬ顔。「そんな話をした覚えはない。記者が勝手に書いたか、聞き間違ったのでは」と、すっとぼけられる。政治報道とは、記者と政治家・官僚とのそんなゲーム感覚で成り立っているとも言えるのだ。
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