ABC部数改ざんの恐るべき手口の全容、PC上で過去の読者を現在の読者として再登録して部数を水増し(1)
ABC部数は、俗にいう新聞の公称部数のことである。ただ、日本ABC協会は、ABC部数が公称であることを否定している。同協会のウェブサイトは、ABC部数について次のように説明している。
新聞や雑誌の広告料金は、部数によって決まります。ABC協会は、第三者として、部数を監査(公査)し認定しています。この認定された部数がABC部数です。対して、公称部数(自称部数)とは、ABC協会に参加していない発行社が自社発表しているもので、数倍から10倍以上の部数を自称している場合があります。合理的な広告活動を行うため、発行社の自称ではない、第三者が確認した信頼出来るデータであるABC部数をご利用ください。
この引用を読む限り、ABC部数は実配部数を反映している説明している。と、言うのも対比の論法を採用して、「ABC協会に参加していない発行社が自社発表している」部数は、「数倍から10倍以上の部数を自称している」場合があると述べることで、ABC協会に参加している新聞社の部数、すなわちABC部数は実配部数を反映していると仄めかしているからだ。
しかし、実際にはABC部数は残紙を含んでいるわけだから、実配部数を反映していない。しかも、その残紙量は尋常ではない。
ABC協会が定期的に部数の監査(公査)を実施しているにもかかわらず、なぜABC部数が実配部数を反映しないのか、その原因を探ってみよう。
結論を先に言えば、新聞社と販売店が徹底した残紙の隠蔽工作を行っているからにほかならない。しかし、この点に踏み込む前に、ABC協会の運営体制にふれておこう。
新聞社の埋もれた内部資料が物語る「押し紙」政策の実態、「紙は絶対に切ってはならぬ」
8月6日付のMEDIA KOKUSYOに掲載した記事(「新聞社の裏金づくりを示す内部資料を公開、補助金の一部を裏口座に預金、少なくとも2億円をプール」)の続編である。
この記事は、新聞社の裏金づくりの手口を、B社が行った内部調査のレポートに基づいて解説したものである。1980年代の資料であるから、秘密にする性質のものではない。事件は時効である。新聞社の販売局の実態、あるいは日本の新聞ジャーナリズムの裏側を知るための歴史に残る重要資料である。
実はこのレポートの中に、たまたま「押し紙」政策についての記述がある。日本新聞協会は、「押し紙」の存在を全面否定しているが、この内部資料では、販売局の当事者が「押し紙」の実態を報告している。
どのような形で「押し紙」が発生するのか、当事者である販売局員が報告しているのである。次の記述である。なお、あらかじめ用語を説明しておこう。
読売の部数減とまらず、5月から6月で6万8000部、昨年11月から72万部減、東京新聞と神奈川新聞の2社分に相当
日本ABC協会が公表した新聞発行部数の6月データで、読売新聞が5月から6月にかけて、6万8394部を減らしていることが分かった。6月の実数は927万9755部だった。
これにより昨年11月の1000万7440部から、7か月で72万7685万部を減らしたことになる。
読売新聞のここ数カ月の部数の変遷は次の通りである。
2013年10月 9,882,625
2013年11月 10,007,440
2013年12月 9,767,721
2014年1月 9,825,985
2014年2月 9,738,889
2014年3月 9,690,937
2014年4月 9,485,286
2014年5月 9,348,149
2014年6月 9,279,755
72万7685万部という数字がいかに大きかを、読者は想像できるだろうか? ABC部数の5月データによると、東京新聞の発行部数は、52万2252部で、神奈川新聞は、20万3483部である。つまり首都圏の有力紙、東京新聞と神奈川新聞が消えたに等しい。
今後、原発の再稼働に反対する運動や、解釈改憲に反対する運動が広がるにつれて、さらに読者離れを招く可能性が高い。
安倍首相は「押し紙」問題を把握している 新聞ジャーナリズム衰退の背景に構造的な問題
国会答弁で安部首相(当時、官房長官)が「押し紙」(偽装部数)問題に言及した時の議事録が公正取引委員会のサイトに掲載されていることが分かった。2006年3月24日、第164回国会の参議院予算委員会における末松信介議員(自由民主党)の質問に対する答弁である。
次のリンク先(末尾に近い位置にある「□国務大臣(安倍晋三君)」の箇所)である。
ただいま委員が御指摘になった前段の部分なんですが、例えば、いわゆる販売店は、実態としては、一か月間無料で配るので取りあえず見てもらいたいとか、三年、四年購読するということをしていただければ一か月、二か月無料にするということを実態としてやっているのも間違いのない事実でありまして、私の秘書のところにもある新聞社が一か月間、二か月間ただで取ってもらいたいと、こういうことを言ってきたわけでありまして、私の秘書が取るわけのない新聞社が言ってきたわけでありまして、当然断ったそうであるわけでありますが。
また、いわゆる押し紙も禁止されているのに、いわゆる押し紙的な行為が横行しているのではないかと言う人もいるわけでありまして、実態としてはそういうところもしっかりとちゃんとこれ見ていく必要もあるんだろうと、こう思うわけでありまして、
この議事録を読めば、安部首相はいうまでもなく、自民党議員が新聞社の弱点がどこにあるかを把握していることが推測できる。政府は警察庁や公取委と連携して、新聞社が公称部数を偽って広告料金を騙して取っている問題を刑事事件にすることもできる。
しかし、実際は放置している。なぜ、放置するのだろうか?新聞社が「メディアへの権力の介入は許さない!」と騒ぐからではない。
メディアの決定的な弱点を握った上で、政府広告をどんどん出稿してやれば、新聞ジャーナリズムを骨抜きにできるからだ。骨抜きにした上で、巨大部数を利用した世論誘導に利用できるからだ。
日本の新聞ジャーナリズムが機能不全に陥っている最大の原因は、記者の職能が劣っているからではない。偽装部数という構造的な問題があるのだ。この点をタブー視して新聞を批判してもまったく問題の解決にはならない。
【連載】新聞の偽装部数 内容証明を使った新聞代金請求の実態
新聞販売店が偽装部数の卸代金の支払いを拒否した場合、新聞社はどのような方法でそれを請求するのだろうか。昔は整理屋と呼ばれる「ならず者」に集金させた新聞社もあったようだが、今は弁護士が登場する。
毎日新聞・蛍池販売所と豊中販売所を経営していた高屋肇さんは、2007年6月に退職した。その際、6月分の新聞代金、約739万円の支払をペンディングにした。偽装部数の中身が「押し紙」だったことが、支払を拒否した原因である。
ちなみに6月の部数内訳は次の通りだった。
≪蛍池≫
搬入部数:2320部
実配部数: 695部
≪豊中≫
搬入部数:1780部
実配部数: 453部
繰り返しになるが、支払額は、約739万円。これは補助金を差し引いた額 の可能性が高い。
支払拒否に対して毎日新聞は、弁護士に問題の処理を依頼したようだ。8月6日、高屋さんは、高木茂太市弁護士ら4人の連名による内容証明を受けた。(会員以外も途中まで読めます)
【連載】新聞の偽装部数 偽装部数の存在を立証する毎日・堤野社員の捺印文書
毎日新聞社の偽装部数については、数々の裁判の中でその存在が明らかになっている。しかも、販売店側が和解勝訴した例もある。毎日新聞箕面販売所(大阪府)のケースを紹介しよう。
次に示すのは、2000年?2005年(各1月)の部数内訳である。(会員以外の方も途中まで読めます)
【連載】新聞の偽装部数 YC久留米文化センター前事件と「押し紙」の定義
今世紀に入って、YC(読売新聞販売店)でも、大規模な偽装部数が発覚している。その実態を紹介する前に、再度、新聞社が主張してきた狭義の「押し紙」と、日常の中で使われている広義の「押し紙」の違いを説明しておこう。新聞社がいかにこの問題を歪曲しているかを理解するために不可欠な部分であるからだ。
■広義の「押し紙」
新聞販売店で過剰になっている新聞(ただし若干の予備紙は除く)を指して「押し紙」と呼んでいる。週刊誌やネットの記事で使われている「押し紙」という言葉は、広義の過剰部数を意味している。?? たとえば、新聞の搬入部数が3000部で、実際に配達している実配部数が2000部とすれば、差異の1000部が「押し紙」である。?? 「A販売店の裏庭には『押し紙』が積み上げられている」と言う表現は、「A販売店には過剰な新聞」が放置されているという意味である。
■新聞社の「押し紙」
これに対して新聞社にとって、「押し紙」とは新聞社が販売店に強制的に買い取らせた新聞だけを意味する。従って、強制的に新聞を買い取らせたという証拠がない新聞は、たとえ店舗に余っていても、「押し紙」ではない。極めて次元の低い揚げ足取りの典型といえよう。
■偽装部数の目的
新聞社が偽装部数を設定してまで、ABC部数のかさ上げを図るのは、改めて言うまでもなく、紙面広告の媒体価値を上げる目的があるからだ。もちろん、偽装部数により販売収入を増やそうという意図もあるが、偽装部数の規模にスライドして、販売店に補助金を支払うので、偽装部数がそのまま販売収入になるわけではない。
◇YC久留米文化センター前の事件
2008年3月1日、江崎法務室長ら3人の読売新聞(渡邊恒雄会長)の会社員がYC久留米文化センター前にいきなり押しかけ、平山春男店主を前に改廃通告を読み上げた後、同店主を解任した。その理由のひとつは、平山氏が「積み紙」をしていた(厳密には部数の虚偽報告)というものだった。
【連載】新聞の偽装部数 産経新聞の「押し紙」裁判 4割、5割が偽装部数だったが現在は正常
産経新聞・四条畷販売所の「押し紙」裁判が進行していた同じ時期に、産経新聞の他の店主も「押し紙」裁判を起こしている。
高橋直樹さんの例を取り上げてみよう。高橋さんは、1995年6月に産経新聞・岡町西(大阪府)の経営を始めた。前店主との間で交わされた引継書によると、高橋さんが受け継いだ実配部数は673部(朝刊)だった。しかし、開業初日から産経新聞は1050部を搬入してきた。
差異の377部が「偽装部数」である。率にすると、36%である。
その後、高橋さんは、1997年から岡町東店の経営にも乗り出した。高橋さんが前店主から受け継いだ実配部数は、2064部(朝刊)だった。ところが1年後には3733部に、2年後には4271部になっていた。2年間で1000部以上も搬入部数が増えたのである。
新聞拡張団を動員して、景品やら商品券を洪水のようにばら撒いて、新聞の購読を強引に迫る戦略を取るだけの経済力がない産経の販売店が、2年間で1000部を拡販するのは難しい。
高橋さん経営の2店における「搬入部数」「実配部数」「押し紙」(偽装部数)を比較したのが次の表である。
(産経新聞・岡町東店、岡町西店における部数内訳=ここをクリック)
偽装部数の割合は、1999年が42%、2000年が40%、2001年が42%だった。
【連載】新聞の偽装部数 「押し紙」の洪水に流された男 月間27トンの新聞紙と格闘
1980年代に繰り広げられた国会を舞台として新聞販売問題の追及が終わったのち、新たに深刻な偽装部数問題が浮上してくるのは、今世紀に入ってからである。1990年代に全国で破棄された新聞や折込広告の量は、おそらく天文学的な数字になる。「押し紙」専門の古紙回収業が一大産業として成立した事実がそれを如実に証拠ずけている。
これだけ異常な実態になっていながら、政府が新聞社の保護をやめなかったのは、彼らを政府の広報部として活用する価値があるとみなした結果だと思われる。「チンチンをする犬」でいる限り、新聞社は敵視する性質のものではなかった。と、言うもの現代の政治は、世論誘導なくして政策実現は難しいからだ。むしろメディアを自分たちの権力構造に引き込みたいというのが本音ではないか。
今世紀に入ったころ、わたしは栃木県の販売店(中央紙)で働いている青年から内部告発を受けた。自分の店では、毎朝、4000部の新聞が搬入されるが、そのうちの偽装部数2000部を捨てているというのだ。もちろんこの2000部にセットになっている折込チラシも、広告主に秘密で破棄している。
最初、事情を聞いたとき、わたしは話に誇張があるように感じた。取材もしなかった。4000部のうち2000部を破棄するような神経は、普通の人間ではもちえないと思ったのだ。カリスマ的な人物から洗脳でもされない限りは、ありえないと思った。
ところがその後、わたしの所へ、「うちの店では偽装部数の比率が4割に達している」とか、「5割に達している」といった情報が次々と入ってきた。このうち産経新聞四条畷販売所の今西龍二さんは、産経本社を相手に提訴に踏み切った。
今西さんに裁判資料を見せてもらったところ、確かに92年から02年の10年間における搬入部数は約5000部で、実配部数は2000部?3000部だった。常識を超える異常な数値だった。
今西さんは、販売店経営をはじめたころ、注文していない新聞がどんどん送られてくるのに戸惑ったという。
「店舗の中もわたしの寝室も、そこら中が新聞だらけになってしまい、たまりかねて産経本社に部数を減らすように電話すると、『小屋を建てろ』と言われました」
安部公房の『砂の女』には、押し寄せてくる砂と戦う男が描かれているが、今西さんは、次々と搬入される新聞の山と格闘するようになったのである。断っても断っても紙の洪水が押しよせてくる。寝室も、店舗も、台所も新聞だらけになってしまったのである。
そして、ブリキ張りの「押し紙」小屋を建築して、ようやく一息ついたのだ。
今西さんから入手した「押し紙」回収業者・ウエダの伝票は、四条畷販売所から回収した偽装部数の量を示している。たとえば2001年8月の場合、回収回数が9回で、総計27トンを回収している。
【連載】新聞の偽装部数 国会で新聞社の販売政策が追及された6年間
1980年から85年までの間に、共産党、公明党、社会党の3党が計16回にわたって新聞販売に関する「闇」を国会で追及している。これらの質問では、「押し紙」問題は言うまでもなく、景品や恫喝による新聞拡販問題、補助金問題、販売店に対する差別問題などがクローズアップされた。
国会質問を組織した沢田治氏の『新聞幻想論』によると、国会の記者席は常に満員だったが、『潮』を除いて、質問内容を記事化したメディアはなかったという。(政党機関紙は別)。沢田氏は、次のように述べている。
新聞販売問題についての国会質問について奇妙なことに気付いた。6年間という長期にわたっているにもかかわらず、あれほど新聞のスキャンダル報道に熱心な、週刊誌はもちろん総合雑誌も、そしてマスコミ関係の雑誌も、私の知るかぎり一切話題にしていない。これはどういうことなのか。新聞業界紙には国会質問のたびに克明に派手に載せられていたことを考えれば、週刊誌、総合雑誌、それに新聞学者、研究者が知らない筈はない。
80年代前半の国会質問とは何だったのか?。この問題を考えるとき、日本の新聞人や新聞研究者の体質が輪郭を鮮明にしてくる。
国会で批判された事柄に対して、新聞関係者は一言の謝罪もしなかった。もちろん、販売政策を変更することもなかった。平然と同じことを続行したのである。こうした事実から、80年代前半の国会質問とは何だったのかという疑問が生まれてくるのである。
わたしはこれほど国会を馬鹿にした例を他に知らない。
【連載】新聞の偽装部数 国会で大問題になった1980年代の読売「北田資料」
新聞の偽装部数の規模はどのように変化してきたのだろうか。日本ではじめて比較的まとまったデータが公になったのは、1982年3月8日のことだった。この日、共産党の瀬崎博儀議員が、衆議院予算委員会で「押し紙」問題を取り上げたのだ。
瀬崎議員が暴露したのは、北田資料と呼ばれる読売新聞鶴舞直売所(奈良県)における新聞の商取引の記録である。この記録は、同店の残紙(広義の「押し紙」、あるいは偽装部数)の実態を示すものだった。
瀬崎議員は、国会質問の中で鶴舞直売所における偽装部数の実態について次のように述べている。
これで見てわかりますように、(昭和)51年の1月、本社送り部数791、実際に配っている部数556、残紙235、残紙率29・7%、52年1月送り部数910に増えます。実配数629、残紙数281、残紙率30.9%に上がります。53年1月本社送り部数1030、実配数614、残紙416、残紙率は40・4%になります。(略)平均して大体3割から4割残っていくわけなんです。
【連載】新聞の偽装部数 販売店の強制改廃の典型的な手口??虚偽報告という法的主張のデタラメ
販売局員のAは、店舗に入ると、2階の事務所へ向かって、
「おはようございます」
と、声をかけた。店主のBさんが階段を下りてくるとA担当は、
「Bさん、玄関先に積み上げてある新聞は何ですか?」
と、尋ねた。
「はあ?」
「これまでわたしに対しては、残紙があることを隠していたのですか?しかも、1000部ぐらいあるじゃないですか?嘘の報告をしていたということですか?こんなことが世間様に知れたら、わが社の新聞ジャーナリズムの信用が地に落ちるではないですか。」
これは新聞社が販売店をつぶすときに使う典型的ないいがかりである。「玄関先に積み上げてある新聞」とは、念を押すまでもなく、偽装部数(広義の「押し紙」)のことである。
既に説明したように、新聞社は、過剰になっている新聞を2つの種類に分けて定義している。「押し紙」と「積み紙」である。
「押し紙」:新聞社が販売店に強制的に買い取らせた新聞。従って、強制的に新聞を買い取らせたという証拠がない新聞は、たとえ店舗に余っていても、「押し紙」ではない。
「積み紙」:新聞販売店が折込チラシの受注枚数を増やすことを目論んで、自主的に購入した過剰な新聞を意味する。折込チラシの受注枚数は、新聞の搬入部数に準じる原則があるので、「積み紙」が発生する温床があるのだ。
「押し紙」と「積み紙」を総称して、偽装部数という。
新聞社が販売店をつぶしたいときには、販売店が「積み紙」をしていたことを理由として持ち出してくる場合が多い。偽装部数の中身が「積み紙」であることを法的に立証すれば、販売店の強制改廃を正当化できるからだ。
新聞社の弁護士が偽装部数の中身を「積み紙」と主張する根拠にはどのようなものがあるのだろうか。順を追って説明しよう。
まず、主張の大前提として彼らは、「押し紙」裁判になると、必ず「押し紙」と「積み紙」を明確に定義してくる。通常、言葉の定義というものは、実際の社会の中で、その言葉がどのようなニュアンスで使われているかが大前提になるはずだが、彼らは、辞書や特定の団体が机上で決めた言葉の定義を採用する傾向がある。従って、実社会から乖離していることが多い。
言葉の定義を我田引水に解釈した上で、偽装部数の中身が「積み紙」であるという主張を展開する。このような戦略は日本の司法界では極めて有効に作用する。
【連載】新聞の偽装部数 カメラが撮影した折込チラシ破棄の現場、段ボールに詰めてトラックで収集場へ
新聞販売店は、実配部数の卸代金はいうまでもなく、偽装部数で生じる卸代金をも新聞社に納金する。そうすると偽装部数が増えれば増えるほど、卸代金の負担もかさむ。
偽装部数の比率が全体の10%前後であればまだしも、40%、あるいは50%にもなった場合、大きな負担が店主の肩にのしかかる。改めて言うまでもなく、偽装部数は読者がいないので購読料を生まない。そこで卸代金はすべて販売店の自己負担になる。
そこで採用されている対策が2つある。 まず第1は、「連載の第3回」で言及したように、補助金の投入である。販売店は新聞社から支給された補助金を偽装部数の買い取り資金として転用するのだ。
しかし、読者は次のような疑問を呈するかも知れない。新聞社は補助金を支給して販売店に偽装部数を買い取らせる代わりに、偽装部数をなくす方が合理的ではないかと?無駄がないのではと?
当然の疑問である。が、補助金を廃止して偽装部数をなくせば、新聞の公称部数も減じて、紙面広告の媒体価値が低下する。それゆえに偽装部数を販売店へ送り込み、それによって生じる販売店の損害を補助金でサポートする制度を採用しているのだ。
つまりここには新聞社と販売店の共犯関係がある。
たとえば、毎日新聞豊中販売所における2007年1月の搬入部数は1790部だった。一方、実配部数は450部。差異の1340部が偽装部数だった。
毎日新聞社からの請求額は、総部数に対する約397万円である。しかし、毎日新聞社は46万円の補助金を支給した。この補助金により販売店の負担が46万円軽減されたが、それでも約351万円の赤字になる。
◆折込チラシの水増し
そこで登場するのが、折込チラシの水増しである。全店で折込チラシの水増しが行われているとは限らないが、わたしが取材した限り、かなりの店が折込チラシの水増しを行っている。同情的に見れば、偽装部数で生じる損害を相殺するための措置である。
既に述べたように、折込チラシは原則として、偽装部数に準じる。次の例に注目してほしい。
実配部数: 2000部
偽装部数: 1000部
折込チラシ:3000枚
この場合、1000枚分の折込チラシが水増し状態になっている。この1000枚で発生する不正な収益は、偽装部数による損害を相殺するために使われる。もちろんこのような行為は刑法上の詐欺にあたる。
次に紹介するYOUTUBEの画像は、住民が折込詐欺の現場を撮影したものである。