1. 【連載】新聞の偽装部数 YC久留米文化センター前事件と「押し紙」の定義

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2013年03月14日 (木曜日)

【連載】新聞の偽装部数 YC久留米文化センター前事件と「押し紙」の定義

今世紀に入って、YC(読売新聞販売店)でも、大規模な偽装部数が発覚している。その実態を紹介する前に、再度、新聞社が主張してきた狭義の「押し紙」と、日常の中で使われている広義の「押し紙」の違いを説明しておこう。新聞社がいかにこの問題を歪曲しているかを理解するために不可欠な部分であるからだ。

■広義の「押し紙」

新聞販売店で過剰になっている新聞(ただし若干の予備紙は除く)を指して「押し紙」と呼んでいる。週刊誌やネットの記事で使われている「押し紙」という言葉は、広義の過剰部数を意味している。 ? たとえば、新聞の搬入部数が3000部で、実際に配達している実配部数が2000部とすれば、差異の1000部が「押し紙」である。 ? 「A販売店の裏庭には『押し紙』が積み上げられている」と言う表現は、「A販売店には過剰な新聞」が放置されているという意味である。

■新聞社の「押し紙」

これに対して新聞社にとって、「押し紙」とは新聞社が販売店に強制的に買い取らせた新聞だけを意味する。従って、強制的に新聞を買い取らせたという証拠がない新聞は、たとえ店舗に余っていても、「押し紙」ではない。極めて次元の低い揚げ足取りの典型といえよう。

■偽装部数の目的

新聞社が偽装部数を設定してまで、ABC部数のかさ上げを図るのは、改めて言うまでもなく、紙面広告の媒体価値を上げる目的があるからだ。もちろん、偽装部数により販売収入を増やそうという意図もあるが、偽装部数の規模にスライドして、販売店に補助金を支払うので、偽装部数がそのまま販売収入になるわけではない。

◇YC久留米文化センター前の事件

2008年3月1日、江崎法務室長ら3人の読売新聞(渡邊恒雄会長)の会社員がYC久留米文化センター前にいきなり押しかけ、平山春男店主を前に改廃通告を読み上げた後、同店主を解任した。その理由のひとつは、平山氏が「積み紙」をしていた(厳密には部数の虚偽報告)というものだった。

平山氏は、前年の秋に偽装部数の買い取りを断った経緯があった。YC久留米文化センター前店における2007年11月時点における搬入部数と偽装部数は次の通りだった。

≪YC久留米文化センター前≫

搬入部数:2010部

偽装部数: 997部

ほぼ同じ時期、他のYCも偽装部数の買い取りを断っている。次の2店である。

≪YC大牟田明治≫

搬入部数:約2400部

?偽装部数: 約920部

≪YC大牟田中央≫

搬入部数:約2520部

?偽装部数: 約997部

◇「押し紙」は1部もない?

なお、これら3店のデータは、読売VS新潮社の裁判(読売が新潮社に対して5500万円のお金を要求)で、「押し紙」の証拠として、新潮社側が裁判所に提出した。しかし、読売の宮本友丘副社長(当時は専務)は、次のように「押し紙」の存在を否定した。ただし、ここで宮本氏が意味しているのは、我田引水の狭義「押し紙」である。(赤字の箇所はわたしの解説である。)

喜田村洋一弁護士:この裁判では、読売新聞の押し紙が全国的に見ると30パーセントから40パーセントあるんだという週刊新潮の記事が問題になっております。この点は陳述書でも書いていただいていることですけれども、大切なことですのでもう1度お尋ねいたしますけれども、読売新聞社にとって不要な新聞を販売店に強要するという意味での押し紙政策があるのかどうか、この点について裁判所に御説明ください。

???? 「30パーセントから40パーセント」の「押し紙」とは広義の「押し紙」のことである。しかし、次に示す宮本専務がいう「押し紙」とは新聞社の定義、すなわち押し売りの証拠がある新聞を指している。従って、宮本氏の立場からすれば、確かに「押し紙」は1部も存在しないという論法になる。

宮本専務:読売新聞の販売局、あと読売新聞社として押し紙をしたことは1回もございません。

喜田村:それは、昔からそういう状況が続いているというふうにお聞きしてよろしいですか。? ? 宮本:はい。

喜田村:新聞の注文の仕方について改めて確認をさせていただきますけれども、販売店が自分のお店に何部配達してほしいのか、搬入してほしいのかということを読売新聞社に注文するわけですね。

宮本:はい。?? (略)

?喜田村:被告の側では、押し紙というものがあるんだということの御主張なんですけれども、なぜその押し紙が出てくるのかということについて、読売新聞社が販売店に対してノルマを課すと。そうすると販売店はノルマを達成しないと改廃されてしまうと。そうすると販売店のほうでは読者がいない紙であっても注文をして、結局これが押し紙になっていくんだと、こんなような御主張になっているんですけれども、読売新聞社においてそのようなノルマの押しつけ、あるいはノルマが未達成だということによってお店が改廃されるということはあるんでしょうか。

宮本:今まで1件もございません。

典型的な詭弁といえよう。しかし、裁判官にそれを見破るだけの力量がなかったようだ。(この裁判官は、『新聞社』、『メディアと権力』といった名著も裏付けがないとして全面否定した。)

なお、上記、「喜田村弁護士」とは、自由人権協会代表理事で、薬害エイズ事件で安部英被告を、ロス疑惑事件で三浦和義被告を無罪にした辣腕弁護士である。しかし、同時にここ数年で少なくとも3件の懲戒請求を申し立てられている。(黒薮哲哉申立、浅野健一申立、愛知県のMさん申立) 。また、(株)リージャーの役員も務めている。