1. 書評・出版物の紹介

書評・出版物の紹介に関連する記事

2018年11月24日 (土曜日)

【書評】ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』、カリフォルニアに移動する1930年代の農民キャラバン

1933年から、米国中部のオクラホマ州やテキサス州をトルネードと呼ばれる猛烈な砂嵐が繰り返し襲来した。農地は砂漠と化し、農民たちはトラックに家財道具を積み込み、新天地を求めてカリフォルニアへ移動しはじめた。現在のホンジュラス問題とよく似た状況が米国でも起こっていたのだ。

しかし、新天地に到着してみると、そこには農園での過酷な労働が待っていた。『怒りの葡萄』は、歴史的な事件をベースにしたジョン・スタインベックの代表作である。

続きを読む »

2018年07月31日 (火曜日)

【書評】『敗れざる者たち』、元オリオンズ榎本喜八の悲劇、あふれる「異端者」への敬意

プロスポーツの選手は、肉体の衰えにともない、老年に達する前に第2の人生に踏み出すことを強いられる。栄光の舞台を降りた後、彼らはどのような人生を体験したのだろうか。

『敗れざる者たち』は、6人のスポーツ選手に焦点をあてた6編の中編ノンフィクションを収録している。ボクシングの世界で卓越した才能に恵まれながら、優しさゆえに世界王者になれなかったカシアス内藤、東京五輪のマラソンで3位に入賞し、メキシコ五輪で金メダルを期待されながら自ら命を絶った円谷幸吉・・・・。

6編の中でとりわけ印象深いのは、プロ野球の元オリオンズ・E選手の悲劇を描いた『さらば 宝石』だ。Eは、引退後はさっぱり表舞台に現れなかったが、現役時代には長島茂雄にほとんど劣らない成績を残している。

【安打数】
長島:2471本
E:2314本

【打率】
長島:0.305
E:0.298

続きを読む »

2018年06月23日 (土曜日)

ラテンアメリカの社会変革運動から日本のカウンター(反差別)運動を見る

『山は果てしなき緑の草原ではなく』は、軍事独裁政権を倒した1979年のニカラグア革命に至る運動の渦中にいたFSLN(サンディニスタ民族解放戦線)の戦士による手記である。世界を変えるとはどういうことなのかという重いテーマが伝わってくる。しばき隊の面々の生き方とは、根本から異なった人々が描かれている。キューバのカサ・デ・ラス・アメリカス賞受賞作。

 

■ニカラグア革命36周年、『山は果てしなき緑の草原ではなく』の再読(2015年9月18日のバックナンバー)。

【サマリー】 『山は果てしなき緑の草原ではなく』は、ニカラグアのFSLN(サンディニスタ民族解放戦線)に加わった戦士が著した記録文学である。大学生だった著者は、当時、ソモサ独裁政権に対峙していたFSLNに加わり、軍事訓練を受けるためにFSLNが拠点としているニカラグア北部の山岳地帯へ入る。そこで著者を待っていたのは、都会とは異質の過酷な生活だった。

続きを読む »

2018年03月19日 (月曜日)

【書評】『SEALDsの真実』と『しばき隊の真実』、広義の左翼勢力の劣化の背景に何があるのか?

これら2冊の書籍は、それぞれ独立したタイトルを付しているが、両方とも広義に左翼と呼ばれている勢力の劣化を扱っている。『SEALDsの真実』では、SEALDsの化けの皮を剥ぎ、『しばき隊の真実』では、しばき隊の実態とそれを支える「知識層」に対する疑問符を投げかける。わたし自身が日ごろから感じていたことを、ほぼそのまま代弁している。

福島の原発事故の後、金曜日の夕方になるとどこからともなく国会周辺に人々が集まってきて、大きな群衆となり、安倍政権に対して「NO」の声を表明する運動が広がった。原発、安保、特定秘密保護法、共謀罪など、時期によりその中心テーマは変化したが、市民が意思を統一して、自分たちの主張を表明するようになったのである。こうした中から台頭してきたのが、SEALDsだった。メディアは、SEALDsを新しいかたちの学生運動として賞賛した。新しい市民運動の広告塔になったのだ。

しかし、水面下では彼らに対して批判の声を上げる人々もいた。たとえば辺見庸氏である。

◇SEALDs、しばき隊、共産党

「だまっていればすっかりつけあがって、いったいどこの世界に、不当逮捕されたデモ参加者にたいし『帰れ!』コールをくりかえし浴びせ、警察に感謝するなどという反戦運動があるのだ」「国会前のアホどもよ、ファシズムの変種よ、新種のファシストどもよ、安倍晋三閣下がとてもよろこんでおおられるぞ」(辺見氏のブログ、削除済み)

続きを読む »

2018年03月06日 (火曜日)

【書評】しばき隊の本質を見抜けない「知識人」の劣化、かつての同和問題と同じ分断工作の構図、『ヘイトと暴力の連鎖』など鹿砦社取材班の4冊

 

2月27日付けのメディア黒書で『カウンターと暴力の病理』を紹介した後、その前段にあたる図書にも目を通してみた。

実は、この本に先立って、「しばき隊」による内ゲバ事件をテーマとする3冊の本が、同じ鹿砦社から出版されている。出版順に次の3冊である。

『ヘイトと暴力の連鎖』(2016年7月)
『差別と暴力の正体』(2016年11月)
『人権と暴力の深層』(2017年5月)
『カウンターと暴力の病理』(2017年12月)

『カウンターと暴力の病理』については、すでに書評した。

シリーズものの本は、とかく斜め読みしたくなるものだが、それをさせない力をこれら4冊は秘めている。それは恐らく渾身の力で取材に取り組んだ成果ではないかと思う。この事件について訴えたいという取材班の思いが、力強いルポルタージュを生んだのだろう。たとえば 『人権と暴力の深層』の次のくだりである。怒りの感情が読みとれる。

(略)M君リンチ事件から目を背けながら、今なお「人権」「反差別」「リベラル」などと、耳障りの良い言葉を平然と口にするような恥知らすは枚挙に暇がない。こういう輩を〈偽善者〉という。(略)
 エル金(暴力事件の主犯)一人に全ての責任を押し付けてM君リンチ事件の「幕引き」を図っている、「リベラル」を自称するこの者たちは、決定的な敗戦の責任を何一つ取らなかった旧日本軍の指導者や、森友学園問題において籠池泰典一人に全ての責任を押し付けて疑惑から逃れた安倍晋三夫妻や松井一郎と何一つ変わらない。
 われわれ取材班は、このような醜悪な〈偽善者〉を看過しない。今後もこれらの者たちの責任を追及し続ける。〈偽善者〉に逃げ道はない。

続きを読む »

2018年02月27日 (火曜日)

【書評】『カウンターと暴力の病理』 ヘイトスピーチに反対するグループ内での内ゲバ事件とそれを隠蔽する知識人たち

本書は、在日の人々に対するヘイトスピーチなどに反対するグループ内で起きた大学院生リンチ事件を柱にすえたものである。しかし、事件の真相に迫るだけではなく、なぜかこの事件を隠蔽しようとする「知識人」やジャーナリストの事態もえぐり出している。筆者自身は、これらの人々を直接取材したわけではないので、名前の公表は現段階ではひかえるが、著名な人々の顔がずらりと並んでいる。

普段からえらそうな発言をしている人々が、差別の問題になるとたちまち無力になる現実を前に、日本のジャーナリズムとは何かという根本的な問題を突き付けられる。

事件が発生したのは2014年の暮れである。「カウンター」、あるいは「しばき隊」と称するグループのメンバーが、大学院生のBさんに暴言と暴力で襲いかかり、ひん死の重症を負わせたのだ。原因は金銭をめぐる組織内の問題だった。

これについては双方を取材してみる必要があるが、暴力による決着はゆるされるものではない。事実、暴行に加わった者は、刑事罰を課せられた。Bさんは現在、傷害に対する損害を請求する民事訴訟を起こしている。

本書には、「しばき隊」や「男組」といった前近代的なグループ名が出てくる。これらの言葉を聞いたとき、筆者は嫌悪感に駆られた。こうしたグループ名を自称する人々の持つ言葉に対する感性を疑ったのだ。そしてこんな古くさい感覚では、リンチ事件を起こしても不思議はないとまで思った。

本書には、リンチの場面の音声を録音したCDが付いている。その声から伝わってきたのは、社会運動家のイメージではなく、ヤクザのイメージだった。Bさんに、からみつくようなねばっこい説教が延々と続いているのである。

ちなみに現場に同席した1人は、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と桜井誠・前会長に対して損害賠償を求めた裁判の原告である。

【参考記事】ヘイトスピーチで在特会の敗訴確定 最高裁、上告退ける

続きを読む »

2018年02月13日 (火曜日)

『創』が新聞社特集、新聞社のプロパガンダのオンパレード、「押し紙」には言及せず、評論活動の意味に疑問符

評論の役割は、テーマとする対象に多様な角度から光を当て、状況を改善する方向性を示すことである。だから批判すべき点は、はっきりと批判しなければならない。このところ自分に向けられた批判言論を裁判所に泣きついて、押さえ込む出版関係者もいるが、批判すべき点は批判しなければ、評論の意味がない。

『創』が「新聞社の徹底研究」と題する特集を組んでいる。同誌はかなり以前から毎年、新聞社特集を組んでいる。筆者の本棚にも、10年以上前の新聞社特集、2005年4月号があるが、それ以前から新聞社特集は組まれていたように記憶している。しかし、いずれの特集号も日本の新聞ジャーナリズムの諸悪の根源である「押し紙」問題にはほとんど触れていない。さらにABC部数を実配部数と勘違いして、「ABC部数=実配部数」という間違った情報を前提として、新聞社経営の実態が論じられるなど、違和感を感じてきた。

続きを読む »