1. 【書評】ガルシア=マルケス『ママ・グランデの葬儀』、独裁者の死をめぐる民衆の心、悲しみからフェスタへへ

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2022年07月16日 (土曜日)

【書評】ガルシア=マルケス『ママ・グランデの葬儀』、独裁者の死をめぐる民衆の心、悲しみからフェスタへへ

『ママ・グランデの葬儀』は、コロンビアのノーベル文学賞作家、ガルシア=マルケスの短編小説である。わたしがこの本を読んだのは20年以上もまえで手元に書籍はなく、記憶を頼りに書評を書いているので、内容を誤解している可能性もあるが、おおむね次のような内容だった。

200歳になる村の長老格の老婆が他界する。この200歳という設定は、前世紀までラテンアメリカの政治を語る際のひとつのキーワーになっていた絶対に権力の座を降りない独裁者の比喩である。魔術的リズムと呼ばれる手法で、誇張法のひとつである。

この老婆の死は村を喪の空気に包む。大規模な葬儀が執り行われる。次々と人が集まってきて、葬列は大群衆に膨れ上がる。するとあちこちに屋台が現れる。人々の談笑がはじまる。すると長老を失った悲しみが薄れ、陽気な空気が流れはじめる。そして最後には、悲しみの葬列が独裁者の死を祝うフィエスタに変質する。民衆の歓喜が爆発する。

安倍晋三氏が暗殺されたあと、死を悼む声が全国に広がった。政党や思想にかかわりなく、人々が深い同情を示した。それに同調圧力が働き、このタイミングで安倍政治を批判することが不謹慎であるかのような空気が流れた。

しかし、安倍氏が乗せられた霊柩車を記念撮影する光景がネットに現れたあたりから空気が変わりはじめた。そして事件から1週間もすると安倍政治を公然と批判する声が広がっていった。岸田首相が国葬を宣言すると、安倍批判はさらに強くなった。

『ママ・グランデの葬儀』は、独裁者の死をめぐる人間の心の動きを描いている。

 

タイトル: 『ママ・グランデの葬儀』

著者:ガルシア=マルケス

版元:集英社