1. 新聞紙面の批評

新聞紙面の批評に関連する記事

2021年05月03日 (月曜日)

「報道不信の根源を探る」(『マスコミ市民』)を読む、新聞の衰退は記者の職能に問題があるからとする視点の根源的な誤まり

新聞ジャーナリズムが機能しない原因を記者個人の職能不足に矮小化した議論があとを絶たない。新聞社の収益構造の中に、客観的に存在するメディアコントロールの温床を探し当てるのではなく、記者個人を自己変革することで、問題は解決するという安易な論考が後を絶たない。その大半は大学の研究者である。

『マスコミ市民』(5月号)は、「報道不信の根源を探る」と題するインタビューを掲載している。記者の職能不足を指摘した内容だ。インタビューに答えているのは、法政大学の上西充子教授である。リードの部分は、次のようになっている。

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2015年02月06日 (金曜日)

イスラム国問題を逆手に取って進む軍事大国化、朝日に追いつけない読売、新聞記者はシリアを取材してはいけないのか?

イスラム国が2人の日本人を処刑した事件を逆手に取って、安倍内閣による軍事大国化の動き、それに伴う治安の強化や学校教育に対する締め付けがエスカレートしている。

中国や韓国との領有権問題を利用して、反中・反韓意識を煽り立て、それを追い風として解釈改憲の閣議決定を強行したり、特定秘密保護法を成立させたのと同じ方法が、イスラム国問題を背景に進行している。

新聞・テレビの報道で、こうした動きを確認することが出来る。以下、主要な記事の一部をピックアップしてみよう。

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2014年09月30日 (火曜日)

読売新聞に見る旧日本軍に関する記述の変化、過去に吉田清治氏も登場

新聞の編集方針は、時代によってころころと変化するようだ。このところ話題になっている強制連行(従軍慰安婦を含む)など旧日本軍の戦争犯罪を、読売新聞がどのように扱っていたかを調べてみた。

1985年9月27日の朝刊「顔」の欄(冒頭写真)には、吉田清治氏が登場している。改めていうまでもなく、吉田氏は、朝日の「誤報」問題の発端となった人である。吉田氏は、旧日本軍が従軍慰安婦を強制連行した旨の証言をしたが、第3者証言の不在を理由に、証言はウソだったと決めつけられてしまった人物である。

その吉田氏を読売新聞も、かつては肯定的に取り上げている。次のようなタッチである。

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2014年04月08日 (火曜日)

新聞を読む事と知力の発達は関係あるのか? 我田引水の『新聞協会報』の記事、背景に新聞に対する軽減税率適用の問題

『新聞協会報』(2014年1月14日)は、新聞を読むことが子供の知力の発達を促すとする観点から、新聞の優位性をPRする記事を掲載した。タイトルは、

新聞読む子供、正答率高く

学力テスト 文部省分析 閲読習慣と相関関係

と、なっている。この記事によると、「新聞をよく読む児童・生徒ほど全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で正答率が高かった」ことが「文部科学省の分析で明らかになった」という。記事の冒頭には、次のような記述がある。

文科省が公表したクロス集計結果によると、小6国語Aでは、新聞を「ほぼ毎日」読んでいると答えた生徒の正答率は69.4%、「週に1?3回」は67.0%、「月に1?3回」は63.1%、「読まない」は59.3%だった。新聞を頻繁に読む生徒ほど、正答率が高かった。

 中3国語Aでも「ほぼ毎日」が80.3%、「週に1?3回」80.0%、「月に1?3回」77.6%、「読まない」75.4%だった。

 算数、数学でも同じ傾向だった。小6算数Bでは、「ほぼ毎日」読む児童は「読まない」児童より、正答率が9.7ポイント高かった。中3数学Bでも8.8ポイント高い。文科省初等中等教育局の八田和嗣学力調査室長は「新聞などで培った言語力は、問題文の理解に役立つだろう」と話す。

注意深く記事を読むと、新聞をPRするために、不自然な論理をこじつけた記事であることがわかる。このような記事を掲載した背景には、新聞に対する軽減税率適用の是非をめぐる議論が、今後、高まることが予測される中で、新聞協会が新聞の優位性をPRする戦略にでた事情があるようだ。

が、新聞協会が情報源とした文科省実施の調査は、科学的な視点を欠いている。情報源となる調査そのものが非科学的なので、記事もずさんなものになっている。それでもあえて記事掲載に踏み切った背景に、新聞協会のあせりがかいま見える。

まず、学力向上と新聞を読む行為の関係を調べるためには、その前提として調査対象を同程度の学力の児童・生徒に限定しなければならない。その上で新聞を読むグループと読まないグループに分けて、一定の期間を経た後に学力テストを実施して、成績を分析しなければならない。

さらに同程度の学力グループを対象として、たとえば新聞を読んだグループと夏目漱石の小説を読んだグループに分けて、一定の期間を経た後に成績の変化を分析しなければならない。

教育問題の専門家にアドバイスを求めれば、他にもたくさん基本的な留意点の誤りがあるかも知れない。

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2014年04月04日 (金曜日)

1966年の袴田事件にみる読売記事を検証する、逮捕まえから実名報道「従業員『袴田』逮捕へ」 警察情報が裏目に

袴田巌氏が殺人で逮捕された事件の新聞報道を検証してみると、記者クラブや「サツまわり」を通じて、警察から得た話をもとに記事を書くことが、いかに危険であるかが浮かびあがってくる。事件が起きた1966年の新聞には、警察情報をうのみにして、袴田氏を犯人と決めつけた記事が並んでいる。

袴田氏が殺人で逮捕された事件は、静岡県清水市で起きた。6月30日の未明に味噌製造業を営む一家4人が殺害され、9月になって従業員の袴田巌氏が逮捕された。これが袴田冤罪事件の発端である。

◇皮切りは、「血染めの手ぬぐい押収」

一家殺害の5日後にあたる7月4日には、匿名とはいえ早くも袴田氏を容疑者とする記事が新聞に掲載された。『読売新聞』は、

「清水の殺人放火 有力な容疑者 血染めの手ぬぐい押収」

と、いう見出しで事件を報じた。また、『毎日新聞』は、

「清水の殺人放火 従業員『H』浮かぶ 血染めのシャツを発見」

と、報じた。

2つの記事は内容も見出しもそっくりだ。警察のリーク情報をもとに記事を書いたことが類似の要因にほかならない。

当時、警察がいかにしてマスコミを利用したかは、弁護士の秋山賢三氏が「精神障害者の獄中処遇?袴田巌氏の事例」(『精神神経学雑誌』2001年9月)の中で、次のように指摘している。「その事実(黒薮注:警察が自白を強要した事実)ができると、警察所長とか次席検事が大々的に記者会見して、『本日、袴田巌は自白いたしました』ということで、翌日の新聞やテレビ」で大きく報道された。

ちなみに秋山弁護士は、「精神障害者」として袴田氏を位置づけているが、これは死刑が確定した後、同氏が精神に異常をきたした事実を根拠としている。従って精神障害と犯罪の関係に言及したものではない。

参考までに、警察所長や次席検事に操られて、新聞はどのような記事を掲載したのだろうか。『読売新聞』の記事を検証してみよう。

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2013年09月25日 (水曜日)

読売掲載の北岡伸一「安全保障議論・戦前と現代、同一視は不毛」を批判する?

9月22日付け読売新聞は、国際大学の学長で、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の座長を務める北岡伸一氏が、「戦前と現代、同一視は不毛」と題する評論を掲載している。

わたしはこの論文を読んだとき、やはり学者の大半は、現場に足を運び事実を検証した上で、みずからの主張を展開する姿勢が完全に欠落していると思った。これは我田引水の評論である。この程度の論考でよく国際大学の学長が務まるものだと驚いている。

北岡氏は、日本の軍事大国化を危惧する人々は、日本が太平洋戦争へと突き進んでいった時代に現在を重複させて自衛力の強化に不安を感じているとした上で、当時と現在の状況が5つの点で異なっていると論じている。それゆえに集団的自衛権の行使を可能にすることは、危惧するには値しないというのである。

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2013年09月09日 (月曜日)

オリンピック報道に見る「スタンピード現象」 武田恆利会長が東京都知事に補助金27億円を請求していた

スタンピード(Stampede)現象という言葉を御存じだろうか? ウエブサイト「Klugクルーク」の用語説明は、スタンピード現象を次にように定義している。

もともとの意味は、牛の群れなどが、銃声などのきっかけでどっと一方向に逃げ出すこと。転じて、相場の世界では、参加者が群集心理として一つの方向に一気に流れていく現象を指す。

この言葉を頻繁に使って日本のマスメディアの体質を批判していたのは、元共同通信記者で故人の斉藤茂男氏だった。あるテーマをひとつのメディアが追い始めると、他のメディアも、これに乗り遅れまいとして、羊の群れのように同じ方向へ突進していく。このような状況は、昔から変わらない。

9月8日に東京オリンピックの招致が決定すると、テレビも新聞も一斉にオリンピック報道へ走りはじめた。テレビはどのチャンネルもオリンピック一色である。8日の午後には、インターネット上に早くもJALやコカコーラなどのオリンピック便乗広告やCMが登場している。

しかし、オリンピック招致に疑問を呈する声も、インターネット上では広がっている。今後、利権をむさぼり、ぼろもうけに走る土建屋と広告代理店に対する不信感を表明したもの。多額の税金がオリンピックの準備に投入されることへの疑問を呈したもの。さまざまなオリンピック批判の視点があるが、マスコミ報道にはこれらの視点がほとんど不在になっている。その筆頭はNHKである。

参考までに、ウエブサイトに掲載された元毎日新聞・運動部記者の大野晃氏の論評を紹介しよう。実に冷静で客観的な分析である。

(参考記事:五輪を利した安倍首相の暴走許すまじ)  

オリンピックの是非は別として、オリンピックを批判する観点に立ったマスメディアが皆無という実態は異常だ。たったの1社もない。これが典型的なスタンピード現象である。逆説的に見れば、現在のオリンピック報道を注意深く観察してみると、日本のマスメディアの本質、あるいはマスメディアによる世論誘導のノウハウが見えてくる。

なぜスタンピード現象を起こすのだろうか? 答えは簡単で、祝賀ムードに水を差すと、視聴率が減ったり、新聞の販売部数が減るからだ。ジャーナリズム活動を「お金儲け」の方法としか考えていないからだ。

◇武田恆利会長が都知事に27億円の補助金を請求  

東京都は、今回の招致活動にどの程度の金額を支出したのだろうか?実は、わたしは今年に入ってから、この問題を調査している。調査が完了していないので、記事化は控えていたが、入手した資料の一部を紹介しておこう。

次に示すのは、招致委員会の武田恆利氏が東京都知事に対して請求した補助金の明細である。

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2013年04月22日 (月曜日)

反TPPで大学教員が870筆の署名、日刊紙は記者会見に参加するも一切報道せず

東京大学の醍醐聡名誉教授が『ジャーナリスト』(日本ジャーナリスト会議発行)の4月号に、「反TPPで870余名の大学教員が結集」と題する報告を掲載している。重要な内容なので、紹介しよう。

3月15日に安部首相がTPP交渉参加を表明したのに対抗して大学教員17名が、「TPP参加交渉から即時脱退を求める大学教員の会」を発足させ、署名活動を開始した。最初は100名の賛同者を集めることを目標としていたが、またまたく間に870筆が集まった。このうちの約400筆には、メッセージが添えられていた。

4月10日、記者会見を開き、印刷した署名とメッセージを報道各社に配布した。次に引用するのが、メッセージの一部である。

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2013年02月21日 (木曜日)

新聞ジャーナリズム批判、「記者無能論」の視点が延々と40年間

冒頭に次のようなクイズを設定する。

問題:新聞ジャーナリズムが厳しい批判を受け、新聞批判の本が次々と出版されているが、メディア業界の動向を伝えてきた雑誌『創』に以下の記事(座談会)が掲載されたのは何年度か?

【1】最近は新聞マスコミ批判の本を出版するとかなりの部数が売れるといわれています。これはそれだけ、新聞に対する読者の批判が潜在している証拠ともいえるのではあるまいかと思うんです。

最近の新聞批判には、組織として新聞社機構のあり方や、ジャーナリズムとしての新聞の本質というものが現れているように思うんです。

現在の新聞は、題字をかくしてしまえば何新聞か一般には区別はなくなる。読者のほうも、紙面内容によって新聞を選ぶ人は全体の2割しかいないといわれている。

ぼくは、フリーライターの怨念ということでなく記者クラブは危険だと思っています。たとえば最近は、地方の警察へ事件の取材へ行っても、次長クラスは、記者クラブに話すからと、われわれには情報を与えない。逆にいえば、警察などは、記者クラブだけを相手にしていれば、・・・

【2】新聞が本来やってきたのは、インフォメーション。フォームにする、形にする。つまりデータをもとに意味付けをし、判断を付け加えて形にするのが新聞の役割だとされてきた。  ところが今は、データをどう判断するかが非常に弱くなっている。僕はそこが今の新聞の一番問題な点だと思います。

 新聞の一番の問題点は、上半身と下半身がこれまで切り離されていた。上半身でカッコいいことを言いながら、下半身では販売の問題も含めて無茶苦茶なことをやってきた。

? 例えば兜町のクラブの生態を観察している記者の話などを聞いてみると、我々が考えている以上に、感性が麻痺しているといった面はありそうですよ。実際、今度こういう株が売り出されるんですが、と誘いを受け、資金まで用意してもらい、買って儲けて、提灯記事も書く、という三位一体の記者活動をしている奴がいる、と証言する者がいる。

【3】国際社会に対して、日本はどう主張していくのか。新聞をいくら読んでもそういった視座や論点に皆目、お目にかかれません。この国のジャーナリズムはどうなっているのかと思います。

社会的な立場・身分として、今の記者は企業ジャーナリストであって、職業ジャーナリストになっていない。企業ジャーナリストとしてのマインドが、従順なジャーナリズム、政府と一体化するジャーナリズムを作ってしまったと思います。私はその事を問題視してきたのですが、突破口は見つけられませんでした。

 回答は次の通りである。

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2013年02月01日 (金曜日)

米ニーヨーク州議会による従軍慰安婦に関する決議、日本の主要メディアは報じず、安倍内閣への配慮か?

31日付けの「しんぶん赤旗」(電子版)が、ニューヨーク州議会の上院が29日、旧日本軍による従軍慰安婦問題を記憶にとどめるとする決議を全会一致で採択したニュースを報じている。おりしも日本の国会では、安倍首相が衆院本会議で平沼赳夫議員(日本維新の会)の質問に答弁するかたちで、憲法改正にふれ、「党派ごとに異なる 意見があるため、まずは多くの党派が主張している96条の改正に取り組む」と述べた。

第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

憲法96条は、憲法改正のための「手続き法」である。 憲法改正の発議には、議員総数の三分の二を超える賛成を必要とするが、それを緩和して一気に9条の改正に突き進もうという意図らしい。

国会での答弁に先だって安倍首相は、1993年の河野洋平官房長官談話を見直すことを明言している。河野談話とは、当時の河野官房長官が、従軍慰安婦の客観的な存在を認めた談話である。

日本のメディアは、ニューヨーク州議会による決議に関するニュースと安倍首相が改憲に言及したニュースをどのように報じているのだろうか。

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2012年10月29日 (月曜日)