1. 三宅雪子元衆議院の支援者「告訴」騒動にみるTwitterの社会病理

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2018年09月14日 (金曜日)

三宅雪子元衆議院の支援者「告訴」騒動にみるTwitterの社会病理

(本稿は、『紙の爆弾』(9月号)に掲載したルポ、「三宅雪子元衆議院の支援者「告訴」騒動にみるTwitterの社会病理」をウエブサイト用に修正したものである。)

 

「心理作戦」という戦法がある。相手に精神的なゆさぶりをかけて、自分に有利な状況を作る戦術のことである。たとえば仮病で同情を惹く。暴力団員を装って交渉を優位に進める。その中でも最近、とりわけ増えているのが、裁判提起など法的措置をほのめかして、相手を恫喝する手口である。それは著名人についても例外ではない。

2017年5月10日、1件の「告知」がインターネット上のツイッターに投稿された。

「本日、以下のアカウントに対して名誉毀損で告訴状を提出致しました。@gachktmama0113,@torch2012,@nanachan77,@makimakiia,@him_beereほか二名 私の名前を出してのツイート、家族知人、仕事先への接触を固くお断りします」

これを投稿したのは、元衆院議員の三宅雪子である。刑事告訴が事実であるにしろ、単なる「心理作戦」であるにしろ、告知に自分のアカウントがあった5人は動揺した。

三宅のツイッターのフォロワーは、約5万8000人。ツィートの拡散が繰り返されると少なくとも15万人ぐらいの人の目に「告知」が知れるだろう。

 

◆刑事告訴は事実なのか?

5人のうちのひとり主婦の新垣里美が当時の心境を打ち明ける。

「電話が鳴るたびに、警察からの連絡ではないかと緊張しました。取り調べを受けるときにそなえて、資料を準備し、説明の順序も頭の中で整理していました。たまらない心理状態でした。告知を受けた5人の中には、緊張で体調がおかしくなった人もいます」

が、警察からも検察からも連絡はなかった。2018年8月で、「告知」から15カ月になるが、告訴の真相を知る手がかりはない。新垣が続ける。

「果たして三宅さんは本当にわたしたちを警察に刑事告訴したのか、単なる脅しだったのか、今でもわかりません。」

筆者は三宅に対して、5人を告訴した理由をツイッターのDMで問い合わせた。すると夫の会社に対する嫌がらせが原因で、証拠もあるという趣旨の返信があった。しかし、「捜査中」なので取材には応じられない旨も伝えてきた。

結局、DMによる取材は受け入れられないとして、DMの公表も断ってきた。DMで筆者に伝えた内容も公式の回答ではないと言っている。

そこで7月13日、筆者は通常のメールで公開質問状を送ったが、これにも返答はなかった。筆者が質問したのは、5人に対する①告訴は事実なのか、②告訴先の捜査機関はどこか、③告訴の容疑は何か、という三点だった。

なぜ、三宅はツイッターで5人に対する刑事告訴を公表したのか?本人からは明確な回答はない。そこで筆者は、それを推測するために取材で集めた資料を再読・整理した。その結果、三宅と支援者の間にさまざまなトラブルが発生していたことが分かった。5人に対する刑事告訴は、三宅サイトからの対抗措置ではないかと疑い始めたのである。

最初に紹介するトラブルは、会社社長・山川博之が巻き込まれた例である。新垣らは、後に山川に同情を寄せるようになる。そのことを三宅はどう感じたのだろうか?

◆三宅雪子を支える会

2012年12月4日、衆院選が公示された。この日、千葉県船橋市の三宅事務所には、100人を超える三宅の支援者が顔を揃えた。その多くはツイッターでの呼びかけに応じて集まってきたボランティアの人々だった。小沢一郎の熱心な支援者でもある。三宅は2009年の衆院選では群馬4区から立候補して初当選していたが、今回は千葉4区から立候補したのである。対立候補は、首相の野田佳彦だった。

山川は公約を反故にして消費税を導入した野田を落選させたいという気持ちで、野田の対立候補だった三宅を支援することにしたのである。しかし、三宅の人間性はよく知らなかった。選挙期間中にも、三宅と言葉を交わしたことはなかった。

もちろん、後日、三宅とのトラブルに巻き込まれるとは夢にも思わなかった。
そんなこともあって三宅が落選すると、支援活動からも身を引いた。

ところが、2013年の参議院選挙の公示が近づくと、山川は三宅事務所から連絡を受けた。参院選に出馬するので選挙を支援してほしいというのだった。山川は承知して、街宣車を運転するなど、選挙運動を手伝った。

この選挙でも三宅は落選した。しかし、その後、10名ほどのボランティアで

「三宅雪子を支える会」が結成されたので、山川も引き続き応援することにした。こうして三宅との親交を深め、三宅の母が亡くなったときには、葬儀記録のカメラマンを務めるなど、熱心な支持者となったのだ。

 

◆支持者をストーカーよばわり

このころまでは、山川は三宅との関係もよかった。しかし、一方で三宅に対し不可解なものを感じていた。三宅はツイッターに熱中していて、投稿数が尋常ではなかった。そのうえツィートの内容にも首をかしげたくなるものが時々あった。山川は、これでは支援者が離れてしまうのではないかと危惧した。

実際、山川自身も三宅を支援する気持ちが急激に失っていった。そして2014年の暮れには、「三宅雪子を支える会」からも脱退した。山川と前後して会を脱退したメンバーも数人いた。

三宅がツイッターで山川を批判しはじめたのは、15年になってからだった。たとえば次のツィートは、8月20日のものである。

「(アカウントは略)葬儀でqmei99(山川のアカウント)が私の家族に興味を持ち立ち入ってきたのがストーカー行為の始まり。他人の家に土足で入ってはいけないんです。何回も何回もやめてくれと言いました」

最初は匿名だったが、qmei99をみればそれが「山川」のアカウントであることを知る人は多かった。そのうちに三宅は、「山川」という実名を名指しにしてツィートを投稿するようになった。そのため小沢支持者の間で、「山川」の知名度が一気に高まったのである。もちろん山川自身も三宅に対してツイッターで「反撃」している。不穏当な投稿もあった。

三宅から刑事告訴の告知を受けた新垣ら5人が、ネット上で山川の存在を知ったのは両者の「炎上」始まってからだった。5人は山川に同情して、山川に肩入れしたツィートを投稿するようになる。5人とも熱心な三宅支持者だったが、支援からも遠ざかった。三宅に対する認識を改めたのだ。

◆勤務先に送付された怪文書

山川がトラブルに巻き込まれた2015年、三宅を柱としたもうひとつの「炎上」がネット上で同時進行していた。会社員・長谷川洋一が巻き込まれた事件である。この事件にも、新垣ら5人が巻き込まれており、三宅に悪感情を抱かせる一因になったかも知れない。刑事告発の根底にある第2のトラブルかも知れない。

東京地裁に保管されている長谷川が三宅に対して起こした裁判の記録によると、長谷川は2012年の衆院選で、ボランティアとして三宅の選挙運動に参加した。長谷川はその後も、三宅の支援団体「支えあう社会を実現する会」の代表を務めるなど、熱心に三宅を支援した。

ところが、その長谷川も前出の山川と同様に三宅と決別することになる。長谷川の陳述書によると、長谷川は三宅と山川の「炎上」を円満に解決するために、生活の党の仲介を求めるなど、山川を救援する行動を取った。それが原因だったのかどうかは不明だが、三宅は長谷川のツイッターをブロックしてしまった。

三宅に対する支援活動は、2013年の参院選で三宅が落選した後、終了していたが、これにより長谷川は、三宅のツイートさえ見られなくなったのだ。そこで三宅と決別したのである。

しかし、それで長谷川が平穏な生活を取り戻したわけではない。事件は新たな展開をみせる。インターネット上の火花だけではすまなくなったのだ。
長谷川の勤務先であるKKM株式会社(仮名)に、三宅の支援者である乾信二という男性から、一通の怪文書が送付されたのである。

◆「非通知でお電話してくださいませんか?」

この怪文書は、長谷川ら複数の者が「徒党を組んで毎日欠かさず」三宅を誹謗中傷していると述べていた。

長谷川については、

「元々は三宅雪子氏の熱烈な支援者でありました」、

「今年のある時期を以て、長谷川氏は態度を豹変させ、三宅雪子氏を攻撃する人物に変身してしまいました。その原因については、部外者の私には分かれかねます」、

「長谷川氏のようなチンピラまがいの社員が在籍することは、■(文字不明)に残念でなりません」

などと述べている。さらに乾は、KKM株式会社が長谷川本人を事情聴取することや、長谷川を懲戒することを要求している。

この事件を調べる中で筆者は、ある人物から貴重な情報を入手した。北海道に在住する衣笠毅である。衣笠は、一貫した小沢支持者で70才を超えたいまも、その信念にゆるぎはない。衣笠は年金の中から、三宅に個人献金をしていた。と、言うのも、ツイッター上の「炎上」を見ていて三宅の方がむしろバッシングされていると感じたからだ。

その衣笠の所へ、三宅からツイッターのDMが届いた。

「お願いがあります。KKM株式会社に偽名、非通知でお電話してくださいませんか?近く、長谷川氏、謝罪に追い込めそうです。もう会社は、把握しています。番号、03-■■33-0■2■(代)総務ヤギ(仮名)さん。ただ、長谷川洋一マネージャーの嫌がらせをやめさせて欲しいというだけ」

もちろん衣笠は電話しなかった。衣笠も三宅から距離を置き始めた。すると三宅は、ツイッターで衣笠の実名を暴露して罵倒するようになった。次のような調子だ。

「衣笠さんに、精神的にレイプされたんですよ。何回も何回も、名前呼び捨て、事実未婚(ママ)のデマ。精神的にレイプされたんです。何の弁明もさせてもらえなかった」

◆2件の起訴猶予

実は、ここに登場した山川、長谷川、それに衣笠の3人の男性は、いずれも三宅に対して堪忍袋の緒が切れて、法的措置を取っている。このうち山川と衣笠は、刑事告訴に踏みきり、いずれも起訴猶予を勝ち取っている。「猶予」であるから、起訴すれば、三宅が有罪になる可能性が高い。

山川は、刑事告訴に加えて民事訴訟も起こしている。三宅が山川に対して民事訴訟を起こしたのに対抗した提訴である。

一方、長谷川は、三宅と彼女の支援者である乾に対して民事裁判を起こした。勤務先に怪文書を送付されたり、ツイッターで名誉を毀損されたというのが、長谷川の主張である。三宅は、法律がらみのさまざまなトラブルに巻き込まれたのである。しかも、三宅を提訴したり告訴したのは、熱心な元支援者だった。

長谷川が起こした裁判が始まってまもなく新垣里美らは、乾から相談を受けた。乾は、裁判の経験がなく激しく動揺していた。新垣は、乾が気の毒になった。そこで対策に乗りだした。

新垣は数人の仲間を誘って、長谷川に乾と和解するように説得しはじめた。その結果、乾が長谷川に30万円の解決金を支払うことなどで、両社間の和解が成立した。こうして乾は裁判の舞台から降りて、三宅とも決別したのだ。アカウントも閉じた。三宅は、熱心な支援者をまたひとり失ったのである。

◆ツイッターの社会病理

2017年5月10日に、三宅からネット上で刑事告訴を「告知」された5人は、三宅の「敵」である山川に加勢したり、乾を救済するために、やはり三宅の「敵」である長谷川と接触したメンバーなのである。

こうした新垣らの「支援活動」に対抗して、三宅も5人を刑事告訴し、ツイッターで告知したという推測は、一応、成り立つ。

ただ、その刑事告訴そのものが事実かどうかは分からない。告訴から15カ月が過ぎても、捜査機関から新垣らに連絡がないという異常事態が続いている。

双方のツィートの名誉毀損性をどう評価するかは、多様な見方があり単純に白黒を付けるわけにはいかないが、筆者が問題にしているのは、むしろ「議論」がネットの枠を超えて、事件にエスカレートしている事実である。怪文書の送付から非通知の偽電話の工作依頼まで尋常ではない行動に出ていることだ。

5人は、今後も捜査機関からの呼び出しに備えなければならない。それは残忍な心理的拷問にほかならない。仮に三宅による刑事告訴が虚偽であれば、元国会議員による前代未聞の恫喝事件になるが、その答えが出る日は見通せない。

キーボードを弾くだけで頭に閃いた言葉が文字になり、不特定多数の人々にあっという間に発信されてしまう。それがどんな展開になるのかを想像できない。感情の先行。熟慮の欠落。言葉のハンマーが繰り返し振り下ろされ、人間関係を破壊していく。これがネット社会が生み出した闇と社会病理ではないだろうか。