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2015年09月09日 (水曜日)

日本は米国憲法を持つ国になったのか、改めて法的安定性を問う

◆吉竹幸則(フリージャーナリスト・元朝日新聞記者)

安倍政権の本質が、丸見えになればなるほど、安保法制を何としてでも今国会で成立させてしまおうと、躍起になっている。憲法の「法的安定性」の議論は、最近下火になっているが、この国の主権者は誰なのか。それだけ考えても、安倍政権は憲法の法的安定性を守るつもりがないことは明らかだ。

しかし、それ以上に安保法制が成立したなら、日本の自衛隊は、国民の意思と関係なく、米国の軍事戦略に組み込まれ世界で活動する軍隊となる。つまり、日本から憲法9条の指し示す「法的安定性」を失い、実質、米国憲法を持つ国になる。安保法制強行採決を目前とするこの時期だからこそ、安倍首相が憲法の「法的安定性を維持する」と言うなら、安保法制を廃案にすることを改めて求める。

◇第3次アーミテージ・ナイ・レポートが原点に

日本は、安保法制が成立したなら、9条をかなぐり捨て、米国憲法を持つ国になる……。それが明確に分かる議論が国会でされていた。しかし、既成メディアは当日、何故かまともに報道しなかったから、世間にほとんど知られていない。そこでここで改めて紹介しておきたい。

議論とは、8月19日の安保特別委員会での山本太郎参院議員の質問だ。山本議員が自らのHPで紹介している。詳しくはそのサイトhttps://www.taro-yamamoto.jp/national-diet/5047を読んでいただいた方がいいだろう。ここでは、その1部だけを紹介する。

本欄の読者の中にも、「第3次アーミテージ・ナイ・レポート」(2012年8月公表)について、記憶がある方がおられるかも知れない。アーミテージ氏とナイ氏は、米国の対日・極東政策を策定して来たオバマ政権の外交・軍事ブレーンだ。

山本氏は、自衛隊に米軍との共同作戦行動を強く求めるだけにとどまらず、日本国内政策にもあからさまに口を挟む内容のこのレポートを12項目の提言に要約。そのパネルを示し、「今回の憲法違反の閣議決定から憲法違反の安保法制まで、ほとんど全てアメリカ側のリクエストによるものだ。今回の安保法案は、このレポートの完コピだ」と政府を追及したのだ。

山本氏はまずレポートの「提言1 原発再稼働」「3 TPP交渉参加」「8  国家機密の保全」「12 日本防衛産業の技術輸出」を挙げ、すでに安倍政権で実行されていることを指摘。その上で、残る8項目のうち「4 日韓歴史問題の直視」を除く7項目について、安保法制の内容とそっくりであることを追及した。

山本氏がパネルで紹介した6項目は、次の通りだ。

「2 シーレーン保護」「5 インド、オーストラリア、フィリピン、台湾等との連携」「6 日本の領域を超えた情報・監視・偵察活動、平時、緊張、危機、戦時の米軍と自衛隊の全面協力」「7 日本単独で掃海艇をホルムズ海峡に派遣、米国との共同による南シナ海における監視活動」「9 国連平和維持活動(PKO)の法的権限の範囲拡大」「11 共同訓練、兵器の共同開発」

ちなみにレポートで何が書かれているのか。山本氏も質問で使った海上自衛隊幹部学校のHPhttp://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-033.htmlで紹介されているので、参照して戴きたい。

山本氏ならずとも、この7項目が安保法制に盛り込まれたものの丸写しであることはすぐ分かる。

山本氏は、「そっくりそのままですよ。こういうのを完コピって言うんですよ」と追及したが、誰が見ても、今回の安保法制はアーミテージレポートの「完コピ」であることは一目瞭然。中谷防衛相の答弁は以下の通り、何とも苦しい。

「平和安全法制は、あくまでも我が国の主体的な取り組みとして国民の命と平和な暮らしを守るというために作ったわけで…、ナイ・レポート等の報告書を念頭に作成したものではない。しかし、レポートで指摘をされた点と、結果として重なっている部分もあるが、あくまでも我が国の主体的な取組として検討、研究をして作ったものです」

◇米軍と河野統合幕僚長

さらに2日には、共産党が自衛隊の河野統合幕僚長が昨年12月の総選挙直後に訪米した時の秘密文書を入手。オディエルノ陸軍参謀総長と会談の際、安保法制制定について「来年夏までには終了する」との見通しを伝えたと暴露した。

この二つの事実を重ね合わせるなら、安倍政権の本質が改めてよく見える。安倍氏は、2012年12月の首相就任直後から、すでに公表されていたアーミテージレポートの実現を政権目標にしていたのは間違いないだろう。安倍氏が政権獲得に当たっては、米国の陰に陽の後押しがあったのかも知れない。

もちろんレポートにある政策を実現するには、集団的自衛権を否定している9条が障害になる。安倍氏は「米国から押し付けられた憲法を排し、自主憲法制定を目指す」とし、「美しい国を作る」とナショナリズムを煽った。

レポートで1点だけ安倍政権が「完コピ」していないのが、4項目目の「日韓歴史問題の直視」だ。靖国参拝・歴史問題発言で中国・韓国の反発を買って嫌中・嫌韓気運を盛り上げ、ナショナリズムを高めた方が、安保法制制定に有利で
結局、米国のためになると踏んだのだろう。

案の定、日本の戦後の歴史をまともに勉強もしていないネット右翼の若者がこの言葉に踊り、「押し付け憲法改正」と9条改正を政治日程に乗せることまでには成功した。昨年12月の「アベノミクスを問う」とした解散も、実際は経済運営でボロが出ないうちに国会で自民党議席をさらに伸ばし、レポートで米国から求められている政策の実現に万全を期すことだったのも、もはや誰の目にも明らかだ。

安倍氏の具体的指示があったか否かは、今のところ定かでない。しかし、河野幕僚長の訪米時の発言も、制服組トップが勝手に米側に伝えられる事ではない。当然、政権から何らかのサインが出ていたと見る方が自然だ。

ただ、「今年夏までに米国に約束した安保法制を制定するとなると、9条が障害になり、政治的日程を考えても到底無理。国民の抵抗も強い以上。憲法解釈変更の閣議決定」でしのぐという奇策を繰り出した…。こう安倍政権の軌跡を見て行くと、内閣にとって「聖域」であるべき解散権すら、米国のために行使したことがよく分かる。

◇岸信介と安倍晋三と米国

安倍氏自身が「尊敬してやまない」と公言するのが、祖父の故岸信介・元首相だ。右翼の大物との深い親交でも知られ、戦前の軍国主義復活を考えているようなタカ派発言を繰り返し、復古派のナショナリストと目されていたのが岸氏だが、私にはどうしても安倍氏と岸氏が重なって見えるのだ。

岸氏は開戦時の東條英機内閣の閣僚であったことから極東軍事裁判でA級戦犯被疑者とされ、3年余り拘留された。その後、米ソ冷戦の激化で世界情勢が一変すると、不起訴になり、政界に復帰している。

その後は右翼の大物の後ろ盾を得て、「日本再建同盟」を設立、「自主憲法」「自主軍備」を唱えた。しかし一方で、米国中央情報局(CIA)から多額の工作資金を受け取り、政治を操って来たのではないかとの疑惑がささやかれて来た。最近になって公開された米側秘密文書なども通じ、次第にその輪郭も明らかになって来ている。

確かに米国は、戦後数年間は日本軍国主義の復活を恐れ9条制定にも関与、武装解除政策を進めた。しかし、冷戦の緊迫で「9条はプレゼントし過ぎだった」と気付いた米国は、その後一貫して日本の再軍備、米国と作戦行動を共にする自衛隊の強化を押し付けて来ている。CIA資金を受け取っていたとするなら、岸氏は米国が求める日本の再軍備政策を進めるための代理人…との見方が浮上する所以でもある。

もちろん、岸氏や米国の思い通りに日本がならなかったのは、「もう戦争はこりごり」との日本の世論であり、「軍事より経済優先」との自社両党の微妙なバランスで出来上がっていた55年体制でもあった。

その意味では、安倍政権は、55年体制の決定的破滅を意味する民主党政権崩壊の間隙をついて出来上がった鬼っ子とも言える。安倍氏は祖父同様、自らナショナリストぶることで、このどさくさに紛れ、祖父もなし得なかった米国との約束を孫としてこの際、果たそうとの気概に燃えているのかも知れない。

◇高齢化社会が徴兵制を導く

そこで憲法の「法的安定性」に関する礒崎陽輔首相補佐官の発言を、改めて精査してみたい。

礒崎氏は7月の大分市内の講演で、安保法制について、「(憲法解釈と)法的安定性は関係ない。国を守るために必要な措置かどうかは気にしないといけない。政府の憲法解釈だから、時代が変われば必要に応じて変わる」と語っている。

中国の海洋膨張政策や北朝鮮の核開発で東アジア情勢は、岸氏の時代よりさらに緊張感を増しつつあるのは、私も否定しない。米国の外交・軍事力も、低下している。

礒崎氏には、安倍氏のように岸氏との肉親感情はないだろう。今の東アジア情勢を考えれば、今は憲法9条・集団的自衛権否定に拘束されている場合ではない。米国の要求もある以上、米国の軍事力が低下している分、日本の自衛隊が補完して対抗する以外に、米国も日本を守ってくれないとの思いがあるのだろう。

しかし、極東の緊張・中国・北朝鮮の軍事力脅威は、自衛隊が米軍の補完勢力となることだけで解決するものではない。あまりに安易・短絡的。むしろ極東で軍拡競争を助長するだけだから、もちろん私は、礒崎氏の考えに同調しない。ただ、もし安倍氏や礒崎氏がそう考えているとしても、姑息な解釈改憲で安保法制を拙速に成立させることではあるまい。

安倍氏は礒崎氏以上に「憲法9条は邪魔」と思っているのは間違いない。政権が代われば、法律だけでなく憲法解釈まで自由に変えられるとの前例を作ったのも、安倍氏だ。その安倍氏が「集団的自衛権を容認しても、戦争に巻き込まれることはない」「徴兵制の導入は政権が代わっても、絶対にない」と、口先で答弁されても、「信用せよ」と言われても無理だ。

集団的自衛権を容認するなら、自衛隊が海外で武力行使や後方支援する機会は確実に増える。海外に敵を作れば、日本本土も標的になる。戦争に巻き込まれる危険が確実に増える。

当然自衛隊員の戦死者も出る。誰も死にたくはない。隊員の志願者が減れば、給料を増やして募集するしかない。しかし、この国では高齢化はますます進み財政はひっ迫、軍事費のこれ以上の増大は許容範囲を超える。結局、徴兵制に移行するしか道はない。

安倍氏は、誰にでも透けて見える内実・本音を隠し、説得力を持たないまま無理やり集団的自衛権容認で、日本は安全になるかのように言い張る。だから、国会論議は深まらないし、憲法の「法的安定性」が維持されるとは、誰も思っていない。

◇日本国憲法の理念とは何か?

しかし、安倍氏は礒崎氏と違い、少なくとも国会答弁で「法的安定性に十分留意した」と答えている。なら、憲法の前文・条文に照らし、安倍氏の守るべき憲法の求める「法的安定性」とは何か。国是の原点に戻り、きちんと論議することから始めなければならない。

まず、憲法前文だ。

日本国民は」「われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうに」、「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚する」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」。

「主権が国民に存することを宣言し」、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」。「われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」--である。

9条では、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」--と、している。

「戦争」と、「武力による威嚇又は武力の行使」を、「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄」したのがこの国の憲法である。「恒久の平和の念願」、「人間相互の関係を支配する崇高な理想の自覚」、「平和を愛する諸国民の公正と信義への信頼」を時代が変わろうとも国民の変わらぬ「決意」として、国際社会の中で「われらの安全と生存を保持」を委ねる外交政策を貫くことが、憲法の「法的安定性」を守ることなのである。

なら、憲法改正することなく、自国が攻撃されていないのに武力行使を発動できる「集団的自衛権」は憲法違反。「政府の憲法解釈だから、時代が変われば必要に応じて変わる」では、「法的安定性」を満たしていないことになる。

「平和を愛する諸国民の公正と信義への信頼」は、中国や北朝鮮、中東の紛争地域の人たちへも、「平等、均等」に向けるのが、憲法の要請である。こちらが敵視すれば、相手も快く思わない。誤解、憎しみの連鎖が多くの戦争を生みだしたのも、世界史からの教訓でもある。

◇米国憲法における法的安定性

次に記すのは、米国憲法の前文だ。

「われら合衆国人民は、より完全な結合(Union)を形成し、正義を樹立し、国内の静穏を確保し、共同体の防衛に備え、一般的福祉を促進し、我らと我らの子孫に自由の恵沢を確保する目的をもって、アメリカ合衆国のため、ここにこの憲法を制定し確立する」

米国憲法は「共同体の防衛」と言う言葉を使い、「武力の行使」を否定していない。「自由と民主主義」が米国の国是、「正義」であり、そのためには武力行使を辞さないというのが、米国憲法の「法的安定性」と言うべきだろう。米国憲法の「正義」は、大きな大戦で負けたことのないという自信と資源・技術力も含め、強大な経済力に裏付けられている。

「自由と民主主義」は、私も共鳴するところが多いし、米国が第2次大戦後の世界で「一定の役割」を果たしたことも否定しない。しかし、「9・11同時多発テロ」に象徴されるように、すべての世界の人々から「信頼」を集めたとまでは言えない。その中で米国自身、自国の多くの若者の命を戦場で散らせてきた。

もともと資源も国力でも大幅に差がある日本と米国だ。憲法が「国民の代表者」・権力者に求める「法的安定性」、つまり国是、「国家の基本戦略・政策」は、違っていて当然なのだ。

◇日本は米国憲法を持つ国になるのか?

もともと戦後長く、日本の為政者は米国との国力の違いを「深く自覚」していた。その結果、55年体制の中て、親米の与党とブレーキ役の野党がそれぞれの役割分担を果たして来た。だからこそ、過度に軍事国家に傾斜することなく、今の日本の経済的繁栄と若者も戦場に行かず、平和な暮らしを享受することを両立出来た。

もちろん、礒崎氏が言うように「時代が変われば必要に応じて変わる」政策はある。しかし、「政府の憲法解釈」「法的安定性」までを変えるのでは、憲法の「法的安定性」を基礎とする立憲国家ではない。

百歩譲っても、「主権が国民に存することを宣言」したのが、憲法前文だ。もし、「時代が変わり、必要に応じて」、「法的安定性」にかかわる政策変更が必要だとするなら、事情を積極的に主権者である国民に情報公開して、憲法改正手続きを踏むのも、憲法前文の「法的安定性」からの要請である。

もし、多くの憲法学者も「違憲」と断ずる集団的自衛権容認を前提とする安保法制が成立したとしても、それを政策として執行すれば、憲法の「法的安定性」を損ね、国会答弁に反する。つまり、日本は米国憲法を持つ国となる。

もちろん、こっそり解釈改憲による安保法制成立の時期まで、自衛隊制服組が訪米、米当局者に約束して来るのは論外である。

何故、こうした重要な二つの国会質疑を、「知る権利」を持つ国民に向けて大きく報道しないのか。最近の既成メディアの姿勢に対しても、私が疑問を持つのも、その点にある。

◇海部首相の極密策を止めた外務省の大罪

米国の政策が常に正しく、追従するのが日本の生きる道なのか。決してそうではない。その事例として想い出すのは、私が政治記者・海部氏の首相番をしていた1990年に起きた湾岸戦争の時だ。イラクがクウェートに侵攻、米軍をはじめとした多国籍軍が対抗した。

この戦争を境に米国は、あきらめかけていた自衛隊の海外派遣要求を格段に強めた。しかし、首相番として政権を間近に見ていた私の実感からすると、「血を流さない日本に批判が高まった。日本は何をすべきか、真剣に考える時がこの時から始まった」などと、安倍氏に近い政治評論家がしたり顔で今、語っていることとは相当の開きがある。

イラク・フセイン政権には、「ならず者」とのイメージがある。しかし、そもそもクウェート侵攻は、米国の後押しもあってイランと戦争を始めたにもかかわらず、米国から買った多額の武器調達費が払えず困り果てていた。その穴埋めにと原油の値上げを画策したが、同一歩調を取らないクウェートに怒りを募らせたのが、そもそもの発端だ。

時の海部首相も、何もしなかった訳ではない。実は、米国の軍事行動が始まる前、和平のために極秘に日航機をチャーターして中東を訪問する計画を極秘で立てていた。しかし、止めたのは、日本の外務省だった。

もともと非キリスト教国の日本。中東で嫌われる存在ではない。当時はバブルで使い道に困るほどの多額の税収が入っていた。イラクに対し資金援助をし、日本の仲介で和平を成立させることも、全く荒唐無稽な話ではなかったのだ。

だが、当時の米国は、軍需産業を強力な支援者とする共和党・ブッシュ政権。冷戦時代に有り余っていた武器を使い、イラクを叩き潰したいのが本音。欧米の持つ石油利権に日本が一枚加わるのを避けたいとの思惑もあったはずだ。

戦後成し得なかった日本の軍事国家化への千載一遇のチャンスと見たのだろう。各国に抜け駆け交渉しないよう釘を刺し、日本にはひたすら自衛隊の派遣のみを強力に求めた。対米追従体質が染み込んでいるのが、日本の外務省だ。その意向を汲んで、制空権を米国が握っているにも拘わらず、「民間機は撃ち落とされる心配がある」との理由で、海部首相の中東歴訪を幻にしてしまったのだ。

◇「美しい国」を米国に売り渡す愚策

しかし、米国のこの時の軍事介入が、いかに失敗だったかは、今となっては明らかだ。イラクと対立していたイランは対抗馬がなくなり、ますます中東で強大な存在になり、不安定化が進んだ。原油もむしろ暴騰。日本のバブル崩壊の引き金にもなった。

イラク軍をクウェートから追い出した後も、米軍がサウジに駐留したことで、もともと親米だったはずのアルカイダのビン・ラーディンを敵に回した。その結果、9.11同時多発テロの原因になるとともに、報復としての米国のイラク、アフガン攻撃も泥沼化。イスラム国まで生みだし、多くの米軍戦士の命も散った

もし米国の言いなりに日本が多国籍軍に参加し、自衛隊が中東に出て行っていたとしても、何ら世界の平和に貢献しなかったことは、この経過からも明らかだ。むしろ、海部首相の和平がどんな形であれ、少しでも功を奏していれば、世界から「さすが憲法9条を持つ国は違う」と、今では評価されていたはずだ。

今も昔もこの国を軍事大国にしたい人は、政界にも巷にも一定程度いる。しかし、この通り、米国の強力な軍事力をもってすら、この有様と言うしかない。日本と米国は憲法も異なれば、その「法的安定性」、つまり外交政策は違って当然なのだ。少なくとも日本は、靖国参拝や歴史認識問題で中韓を刺激し、こっそり対米追従の安保法制を成立させ、軍事的緊張をさらに高めることではあるまい。

当面の極東情勢からは、米国の軍事力関与は欠かせず、必要悪だと私も思う。しかし、日本の役割、立ち位置は違う。安倍氏が本当に憲法の「法的安定性」を維持するというなら、なぜ、安保法制よりも、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」平和外交、歴史認識でも共有の道を模索し、極東融和に一歩踏み出せないのか。

安倍首相に改めて問う。世論調査を見ても、主権者の国民は、安保法制に反対している。その中で強行裁決で成立させ、この「美しき国」を米国に売り渡す気ですか…と。
この原稿に関しては、私が以前に書いた以下の3つの原稿も合わせてお読みいただければ幸いです。

「見えぬ安倍首相の真意」http://jcjfreelance.blog.fc2.com/

「安保法制の狙いは自衛隊と米軍の一体化、在日米軍再編計画に迎合した安倍政権」http://www.kokusyo.jp/yoshitake/7657/

「秘密保護法、集団的自衛権のあまりに危険な実態、ジョセフ・ナイ元米国防次官補の語る日米軍事戦略」http://www.kokusyo.jp/yoshitake/6903/

 

≪筆者紹介≫ 吉竹幸則(よしたけ・ゆきのり)
フリージャーナリスト。元朝日新聞記者。名古屋本社社会部で、警察、司法、調査報道などを担当。東京本社政治部で、首相番、自民党サブキャップ、遊軍、内政キャップを歴任。無駄な公共事業・長良川河口堰のウソを暴く報道を朝日から止められ、記者の職を剥奪され、名古屋本社広報室長を経て、ブラ勤に至る。記者の「報道実現権」を主張、朝日相手の不当差別訴訟は、戦前同様の報道規制に道を開く裁判所のデッチ上げ判決で敗訴に至る。その経過を描き、国民の「知る権利」の危機を訴える「報道弾圧」(東京図書出版)著者。特定秘密保護法違憲訴訟原告。

2015年09月08日 (火曜日)

共産党が指摘した自衛隊内部文書「統幕長訪米時の(ママ)おける会談の結果概要について」をネット公開、日米両軍の合体に向けた計画の存在を暴露

【サマリー】日米両軍の合体に向けた計画が着々と進んでいる。 共産党の仁比聡平議員はそれを裏付ける自衛隊の内部文書を国会で暴露した。タイトルは「統幕長訪米時の(ママ)おける会談の結果概要について」。「黒書」はこの文書を入手し、公開に踏み切った。

  この内部文書は、会話形式のもので、たとえばワーク国防副長官は河野統幕長に対して、「ガイドラインの見直し作業は進展しており、私だけでなくヘーゲル長官や我々の政治チームも10月の中間報告には満足している。現在は4月の作業完了を期待している」などと述べている。
日米両軍の合体に向けた計画が着々と進んでいることが、共産党の仁比聡平議員が暴露した自衛隊の内部文書によって明らかになった。「黒書」はこの文書を入手した。

特定秘密保護法に指定されている文書の可能性もあるが、同法の第22条1項は、「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」と謳い、第2項は「法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務(報道の仕事)による行為とするものとする」と述べているので、公開に踏み切った。

内部文書は、「統幕長訪米時の(ママ)おける会談の結果概要について」と題されたもので、おもに米国の軍関係者と日本の河野克俊統幕長の間の会話形式で構成されている。全体は22ページ。最初のページは目次である。

■出典:目次PDF

◇「予定通りに進んでいるか?」

2ページには、オディエルノ陸軍参謀総長と河野統幕長の会話が収録されている。

オディエルノ陸軍参謀総長:現在、ガイドラインや安保法制について取り組んでいると思うが予定通りに進んでいるか? 何か問題はあるか?

河野統幕長:与党の勝利により来年夏までには終了するものと考えている。

■出典:2ページPDF

◇「中間報告には満足している」

9ページには、ワーク国防副長官と河野統幕長の会話が記録されている。

ワーク国防副長官:ガイドラインの見直し作業は進展しており、私だけでなくヘーゲル長官や我々の政治チームも10月の中間報告には満足している。現在は4月の作業完了を期待している。

河野統幕長:我々も集団的自衛権行使に関する閣議決定がなされたことから、改訂されたガイドラインには期待している。(略)

ワーク国防副長官:今回の勝利について安倍首相にお祝い申し上げる。これは我々にとっての助けになるだけでなく、安保法制の検討中である日本にとっても良いことであると認識している。

■出典:9 ページPDF

◇「方針の変更はないとの認識である」

さらに20ページには、ダンフォード海兵隊司令官と河野統幕長の会話が記録されている。辺野古に関する意見交換では、それぞれ次のように述べている。

河野統幕長:沖縄県知事選挙時にはリバティーポリシーの実施、地域情勢に配慮して頂き感謝する。結果として普天間移設反対派の知事が就任したが、辺野古への移設問題は政治レベルの議論であるので方針の変更はないとの認識である。安倍政権は強力に推進するであろう。

ダンフォード海兵隊司令官:沖縄には3回勤務をしているので地元の状況についてはよく認識している。この様な問題には忍耐力が必要であり状況が好転するまで待つことも必要である。しかしながら、安倍総理は移設を現行計画どおり実施し、沖縄の基地負担を減じる努力をしていくと理解している。

河野統幕長:衆院選挙においては安倍政権与党が圧勝した。安倍首相のリーダーシップによりこのような問題も進展していくものと認識している。

■出典:20ページPDF

これらの会話から、われわれの知らないところで日米両軍の合体に向けた計画が着々と進んでいることが読みとれる。メディアによる世論誘導が露骨になっているとはいえ、自民党を選択してきた国民の側にも大きな責任がある。

2015年09月07日 (月曜日)

都市部は「電磁波地獄」、東京練馬区の住民らが携帯電話基地局の点在状況を示す地図を作成、約2キロ×2キロの範囲に約60基

【サマリー】練馬区で基地局の設置に反対する住民らが、基地局の設置状況をビジュアルに示す地図を作成した。それによると約2キロ×2キロの範囲に、少なくとも58基もの基地局が設置されていることが分かった。本当に新しい基地局が必要なのかを検証するための資料になりそうだ。

 最近の基地局問題の特徴として、基地局の設置場所を提供する地権者がトラブルに巻き込まれていることである。地権者になることは、賃料収入を得られる反面、健康被害に対する損害賠償裁判の被告にされた場合、たとえ勝訴しても大きなリスクを背負うことになる。

携帯電話の基地局を撤去させる運動に取り組んでいる東京練馬区中村1丁目の住民たちが、自分たちが生活する地域にどの程度の基地局が設置されているのかを調査した。地図上に赤点で示したのが、基地局が設定されている地点である。想像以上に多数の基地局が点在していることがわかる。

約2キロ×2キロの範囲に、少なくとも58基もの基地局が設置されている。

この調査の発端は、2013年1月に練馬区中村1一丁目にあるマンション、ベルファース練馬の屋上にNTTドコモが基地局を設置しようとしたことである。しかし、住民の間から反対の声があがり係争になった。

住民側はベルファース練馬の屋上に、本当に新しい基地局を設置しなければ、通話ができないのかを調査する一端として、地域全体における基地局の設置状況を調査したのである。

ちなみにNTTドコモは、住民運動の反対を押し切って、問題になっている基地局の稼働を2014年5月に開始した。

◇鍵を握る地権者

基地局の設置をめぐる電話会社と住民のトラブルは全国で絶えない。最近の係争の特徴としては、電話会社に基地局の設置場所を貸し付ける地権者が係争に巻き込まれるケースが増えていることである。

地権者のなかには、基地局から発せられるマイクロ波が周辺住民に人体影響を及ぼすリスクがあることを認識していない者も多い。電話会社が正確にリスクについて説明しなければ、地権者は将来的にみずからに降りかかってくる可能性がある人的被害に対する賠償問題などを考慮せずに、賃料ほしさに電話局の要望に応じてしまう。

たとえマイクロ波のリスクについて知っていても、将来的に健康問題が浮上した場合は、電話会社が責任を取ってくれると安易に考えてしまうようだ。しかし、健康被害を賠償させる裁判では、被告に電話会社だけではなくて、地権者を加えるか否かを決める権限をもっているのは原告になる住民側である。電話会社ではない。

たとえ裁判に勝ったとしても、裁判費用だけでも莫大な額になる上に企業のイメージが地に墜ちる。つまり公害がからんでいる係争に地権者としてかかわることは、極めてリスクが大きいのだ。

もちろん個々のケースにはそれぞれの特徴があり、基地局問題をひとまとめにして語ることはできないが、わたしが取材してきた限りでは、最近は地権者の判断により基地局が撤去されたり、基地局の設置計画が中止になったケースが増えている。

◇解決した世田谷区奥沢のケース

東京都世田谷区奥沢のケースを紹介しよう。
2014年4月NTTドコモは住民に対して、世田谷区奥沢2丁目11番13号にあるマンションの屋上に基地局を設置する計画を通知した。これに対して反対運動が起こった。結論を先に言えば、この計画はスムーズに中止になったのであるが、その鍵を握ったのが地権者だった。

基地局が設置される低層マンションの隣に住む一児の母親が、マイクロ波により近隣住民が健康被害を受けるリスクを綴った手紙を地権者(アパレル・メーカーの社長)へ送ったところ、地権者は計画を断念した。

このメーカーのウエブサイトには、企業として環境保全を重視している旨が記されていた。環境保全と基地局は共存しえないという経営者の判断があったものと推測される。

ソフトバンクと住民との間で続いていた調布市柴崎のケースでも、今年の春に地権者の判断で計画が中止になった。(もっともこのケースでは、別の問題があるので、完全に解決したとはいえないが。これについては別の機会に報告する機会があるかも知れない。)

電話会社が地権者に対して、マイクロ波が人体に及ぼすリスクを十分に説明することが定着すれば、トラブル件数は激減するはずだ。各自治体は、電話会社に説明責任を徹底させるべく、条例などで厳しく規制すべきではないだろうか。

2015年09月04日 (金曜日)

「仕掛け人」の世代交代、小沢一郎氏から橋下徹氏へ、野党再編の茶番劇20年の中身とは?

【サマリー】野党再編の仕掛け人が、小沢一郎氏から橋下徹氏に交代しようとしている。これまで野党再編の場に常に登場してきたのが小沢氏である。小沢氏は自民党政治に不満を持つ人々の受け皿になりながら、政策の中身は自民党と基本的に変わらない構造改革=新自由主義の路線を支持してきた人物である。

  安倍政権が危機に立たされるなか、同じような役割を担って登場してきたのが橋下徹氏である。しかし、橋下新党は、自民党に不満を持つ有権者の受け皿となっても、中身は基本的に同じだ。結局、自民党延命装置として機能する可能性が高い。

メディアで伝えられているように維新の党が分裂する公算が強くなった。同党から離れた橋下徹・大阪市長と松井一郎・大阪府知事が中心になって年内に新党を立ち上げる見込みだ。

橋下氏がこの時期に「再編」に打ってでたのは、単に現在の政情に反応したというだけではなくて、新党結成が来年にずれ込むと、政党助成金の取り分がなくなる事情があるからだと思われる。政党助成金は12月末日の時点における議員数に応じて、次年度に交付される。秋口から冬にかけて、毎年、政界再編の現象がみられるゆえんにほかならない。

さて、政界再編というキーワードで連想するのは、小沢一郎氏である。小沢氏はもともとは自民党に所属していたが、1993年に構造改革=新自由主義を叫んで、果敢に自民党を飛び出し政界再編に着手した。

小沢氏は新進党を皮切りとして、なんらかの形で常に野党再編に加わり、民主党政権の時代には、総理に就任する手前まで階段を上り詰めた。93年ごろに小沢氏が目指していた日本の未来像は、たとえばみずからの著書『日本改造計画』(講談社)の冒頭で語られている「自己責任論」などに見ることができる。

皮肉なことに小沢氏が提唱した構造改革=新自由主義は、小泉政権の手で急進的に実行された。が、小泉政治がもたらした非正規社員の増加や医療・福祉の切り捨て、それに貧困層の急増は、国民の自民党離れを引き起こして、民主党・鳩山政権を誕生させる。

鳩山首相は、自民党政治で生じた社会的不公平を是正したり、軍事大国化に歯止めをかけようと試みたが、思想的なひ弱さが原因したのか、米国の圧力に屈した。改革はできなかった。

後継者の菅首相は再び構造改革=新自由主義へ軌道を修正し、野田首相を経て、自民党・安倍首相にバトンを返した。

こんなふうに1993年からの日本の政治的軌跡を検証してみると、ひとつのあるパターンが定着していることに気づく。それはこうである。

①自民党政治に対する国民の不満が高まる。

②政界、あるいは政党の再編を目指す人物がしゃしゃり出てきて、自民党のニセの「対抗勢力」を結集する。この対抗勢力は、さすがに看板には「自民党」とは明記していないが、基本的な路線は、自民党そのもの、構造改革=新自由主義の推進派路線である。

③しかし、メディアが両者を対抗勢力として描き出すために、自民党政治に不満がある有権者の大半が、「対抗勢力」に投票する。が、もともと政策に大きな違いがなく、自民党政治の不満の受け皿の役割を果たしているわけだから、政治が変わるはずがない。変わらないのが当たり前だ。そこで再び、「やはり自民党の方がまし」ということになり、自民党政治が復活する。

日本はこのようなパターンを繰り返してきた。

◇再び政界再編の茶番劇が

そしていまかつての小沢氏の「役割」を代行する人物が現れた。橋下徹その人である。橋下氏は大阪市政の実態を見る限り、生粋の新自由主義者である。「小さな政府」の提唱者である。自民党よりも右寄りで、安倍内閣との連携が噂されるゆえんにほかならない。

橋下氏が担っている役割は、かつて小沢一郎氏が担っていた役割にほかならない。「仕掛け人」の世代交代が実現することになる。

ちなみに、現在、維新の党と民主党の連携もメディアの話題になっているが、すでに述べたように、維新の党はいうまでもなく、民主党も構造改革=新自由主義の推進政党である。つまり安倍政権が崩壊し、彼らが政権を取っても、政治はほとんど変わらない。

野党が政界の再編を行うのであれば、これまで政界再編において排除してきた共産党と社民党を再編の中心軸にしなければ、本当の対立構造にはならない。こんな単純なことをメディアが報じないために、日本は没落の一途をたどっている。

2015年09月03日 (木曜日)

自分史の書き方と添削

「自分史の書き方と添削」は、書き方の技術を理解して、実際に作品を執筆し、それを担当のライターが添削・リライトして単行本を完成させるプログラムです。

このプログラムの大きな特徴は、実際に作品を制作しながら、自分史をはじめ広義の記録文学の書き方を学べることです。世の中には身のまわりの出来事から歴史的な事件まで、記録することで闇に光をあて、記憶に残さなければならないことが溢れています。その作業に挑戦することは、意義深い試みといえるでしょう。

■4つの留意点

自分史を書くためには、次の4点に留意する必要があります。

①合理的で無駄のない年表の作成
②正しい取材
③テーマの選択
④構成の選択

自分史執筆の前段として、年表づくりは欠かせませんが、いくら詳細な年表を作成しても、それがそのまま自分史の態をなすわけではありません。自分史はテーマに沿って、詳しく書き込む部分と省略する部分、あるいは筆を抑制して簡潔に語る部分を書き分ける必要があります。

情報を詰め込みすぎると、焦点が定まらず、全体として何がいいたいのか輪郭がぼやけます。省略も大切な要素なのです。プロとアマの違いは、このあたりに集約されていると言っても過言ではありません。

当然、そのための技術とコツを掴むことが、質の高い単行本を書きあげる条件になります。本プログラムでは、実際に作品を制作しながら、その方法を習得していただきます。

■プログラムの進行
 原則として月に1度の割合で、担当者が2時間程度の個別アドバイスを行います。それと平行して担当者が、Eメールで原稿(ワード)ファイルを受け取り、添削・リライトを行い返信します。このプロセスを繰り返して1章ずつ作品を仕上げていきます。

■受講料
 受講料は月額1万円です。終了までの期間は設けていませんが、1年ぐらいを想定することをお勧めします。たとえば1年で200枚(原稿用紙換算)の原稿を仕上げた場合、受講料の目安は12万円です。

 かりに原稿用紙200枚からなる単行本をライターに代筆してもらった場合、少なくとも60万円程度の原稿料がかかります。また、リライトの場合は、30万円程度の料金になります。こうした事情を考慮すると、本プログラムは極めて安価でメリットが大きいといえます。

■講師
講師は原則として主宰者の黒薮が担当しますが、別のライターが担当することもあります。ただし、講師は単行本執筆の実績がある人に限定しています。

■主宰者の経歴
黒薮哲哉
1959年兵庫県生まれ。ジャーナリスト、フリーランス・ライター。MEDIA KOKUSYOの主宰者。

 1993年、「海外進出」で第7回ノンフィクション朝日ジャーナル大賞・「旅・異文化テーマ賞」を受賞。1997年、「ある新聞奨学生の死」で第3回週刊金曜日ルポ大賞「報告文学賞」を受賞 。『新聞ジャーナリズムの正義を問う』(リム出版新社)で、JLNAブロンズ賞受賞。取材分野は、メディア、電磁波公害、ラテンアメリカの社会変革、教育問題など。代筆した単行本は、約70冊。

《著書》
1977年 『ぼくは負けない』(民衆社)
1982年 『はばたけ青春』(民衆社)
1995年 『バイクに乗ったコロンブス』(現代企画室)
1997年 『新聞ジャーナリズムの正義を問う』(リム出版新社)
1998年 『経営の暴走』(リム出版新社)
2003年 『新聞社の欺瞞商法」(リム出版新社)
2006年 『新聞があぶない』(花伝社)
2007年 『崩壊する新聞』(花伝社)
2009年 『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)
2010年 『あぶない!あなたのそばの携帯基地局』(花伝社)
2012年 『新聞の危機と偽装部数』(花伝社)
2014年 『ルポ 電磁波に苦しむ人々』(花伝社)

※共著は多数。

■連絡先

電話:048-464-1413
Eメール:xxmwg240@ybb.ne.jp

お気軽にご連絡ください。

■代筆とリライト

代筆とリライトについては、次のサイトを参考にしてください。

http://www.kokusyo.jp/edit/

 

■完成原稿の出版 

完成した原稿を書籍か冊子にする場合は、編集プロダクションをご紹介します。極めて社会性の高い作品については、企画出版の相談にものります。

 

 

2015年09月03日 (木曜日)

懸念される安保関連法と特定秘密保護法の「複合汚染」、核兵器の運搬を支援物資の運搬と偽ることも可能に

【サマリー】安保関連法と特定秘密保護法は、相乗効果によりとんでもない事態を招きかねない。たとえば自衛隊から戦死者が出た場合、戦死者に関する情報を特定秘密に指定してしまえば、だれがどのような状況で戦死したのか、誰も知ることができない。核兵器を運搬しても、それに関する作業を特定秘密に指定しておけば、「支援物資を運んだ」で通用してしまう。

  特定秘密保護法は広義の安保関連法である。特定秘密保護法を廃止に追い込めば、ジャーナリズム活動により戦争の実態を伝え、安保関連法も廃止に追い込むことができるが、同法への関心は薄れはじめているようだ。

 今、日本では安保関連法の「複合汚染」が始まろうとしている。

複合汚染という現象がある。これは公害に即していえば、単一の因子では、さして深刻な人体影響を及ぼさないが、複数の要因が重なると相乗効果によって重大な人体影響を出現させるメカニズムを意味する。

たとえば子宮けい癌の原因はヒト・パピロマ・ウィルスによる感染であるが、それだけでは癌を発症するリスクは高くならないが、これに環境因子が加わったときに、発症率が高くなる現象は、よく知られている複合汚染の具体例である。

8月30日に東京・永田町の国会議事堂周辺を12万の人々が取り囲んだ事実に象徴されるように、今、日本では安保関連法案の危険性を感じている人々が増え続けている。ところがこうした世論の動きとは裏腹に、2014年の12月から施行された特定秘密保護法の危険性については、むしろ認識が薄れ始めているようだ。この法律についても、かつては疑問を呈する声が広がり、法案が成立した夜には、人波とプラカードが国会を取り囲んでいたのだが。

特定秘密保護法と安保関連法は、個々部別のものなのだろうか。意外に認識されていないようだが、特定秘密保護法も広義の安保関連法のひとつである。しかも、両者を同時に運用することによって、ドラスチックな「複合汚染」を生むことになる。

たとえば、自衛隊の派兵先を特定秘密に指定すれば、日本軍が地球上のどの地域で銃撃を繰り返しているのかというような情報は、海外のメディアにアクセスできる者をのぞいて知ることができない。核兵器を自衛隊が運搬しても、この「作戦」を特定秘密に指定しておけば、誰が、誰に、何の目的で、何を運搬したのか、だれも知ることができない。

核兵器ではなく、たとえば救援物資を運搬していることにしておけば、それで通用するのだ。

海外の戦地で自衛隊員が銃弾に倒れても、戦死者に関する情報を特定秘密に指定しておけば、戦争被害の実態はベールに包まれたままになる。

かりに特定秘密保護法がなければ、ジャーナリズムの力で戦争の事実を伝えることで、世論を喚起し、戦争を中止へ追い込むことができるかも知れないが、この法律によりジャーナリズム活動そのものが著しい制限を受けるわけだから、大半の国民は、海外で自衛隊が何をしているのかすら知ることができなくなる。

◇自衛隊から死者が出ても秘密に

もともと特定秘密保護法は、武力行使を前提とした日米共同作戦を遂行する上で、両軍の軍事秘密を守るための法的根拠を担保するために、米国側から発案された法律である。しかし、その適用範囲が日米の軍事秘密の枠を超え、恐らくは原発をはじめ、ほとんどあらゆる分野にまで及んでしまったというのが実情だ。

が、この法律の元来の運用目的は、戦争に関する情報を隠蔽することにある。と、すれば特定秘密保護法も安保関連法のひとつとして位置づけるべきではないだろうか。両者を切り離して報じるのは誤っている。

安保関連法案は、残念ながら成立する勢いだが、まず特定秘密保護法を廃止に追い込んで、ジャーナリズムを正常に機能させることが、海外派兵を止めるための重要な作業ではないだろうか。

海外へ進出した多国籍企業を「政変」や「革命」から守るために、自衛隊員が血を流すのは道理がない。他国民の民族自決権を踏みにじること自体が蛮行にほかならない。

2015年09月02日 (水曜日)

海外派兵の新スタイルとは?旧日本軍の侵略・占領スタイルとは何が異なり、何が問題なのか

【サマリー】30日の安保関連法案に反対する東京集会の場に、右翼の街宣車が「出征兵士を送る歌」を流しながらやってきた。しかし、法案が成立した後に本当に、徴兵制が敷かれるのだろうか。答えは、NOである。

想定されているのは、米軍と同様に世界の紛争地帯へピンポイントで兵力を投入する体制である。投入される兵士は、ジャーナリスト寺澤有氏の取材で判明した「隊員家族連絡カード」などを参照に選任される可能性が高い。

実際に想定されいる海外派兵のスタイルとは何か?右翼が考えている旧日本軍のスタイルとは何が異なるのか?海外派兵の実態を客観視する。

30日の安保関連法案に反対する東京集会の場に、右翼の街宣車が軍歌を流しながらやってきた。流していた軍歌を、帰宅後に調べてみると、当時の陸軍省が選定した「出征兵士を送る歌」(冒頭のYoutube)だった。

軍歌を流しながら大通りを走る街宣車は、場違いな印象をかもしだしたが、逆説的に考えてみれば、これは安保関連法案に反対する世論にずいぶん貢献したことになる。と、いうのも安保関連法案が成立すれば、集会参加者の目の前で展開しているのと同じ光景がさらに規模を拡大して展開されることを印象づけたからだ。

ただ、安保関連法案が成立すれば、本当に「出征兵士を送る歌」に象徴されるような光景が、東京の銀座で、あるいは新宿の都庁前あたりで展開されるのだろうか。答えは、NOである。右翼の人達が考えているようなことにはならない。

安倍首相や右翼が理想として描いている日本の未来像に旧日本軍の像が重なっているとしても、日本の政治を舞台裏から牛耳っているのは彼らではないからだ。舞台裏にいるのは経済界の面々の米国政府の面々にほかならない。両者の想定には多少のギャップがある。

こんなことを書くと、「お前は安保関連法案に賛成しているのか?」と言われそうだが、政治の構図はやはり客観的に見なければならない。

安保関連法案の発端になっているのは、復古的な右翼思想ではなく、第1次安部内閣の時代にリチャード・アーミテージとジョセフ・ナイが作成した『日米同盟』と題するレポート「2007年度版」である。この中で両氏は、次の事柄を提唱している。

◇5つの提唱事項

1.日本は、もっとも効果的な意思決定を可能にするように、国家安全保障の制度と官僚機構をひきつづき強化すべきである。現代の挑戦が日本に求めているのは、外交・安全保障政策を、とりわけ危機の時期にあたって、国内調整と機密情報・情報の安全性を維持しながら、迅速、機敏かつ柔軟に運営する能力を持つことである。

2.憲法について現在日本でおこなわれている議論は、地域および地球規模の安全保障問題への日本の関心の増大を反映するものであり、心強い動きである。この議論は、われわれの統合された能力を制限する、同盟協力にたいする現存の制約を認識している。この議論の結果が純粋に日本国民によって解決されるべき問題であることを、われわれは2000年当時と同様に認識しているが、米国は、われわれの共有する安全保障利益が影響を受けるかもしれない分野でより大きな自由をもった同盟パートナーを歓迎するだろう。

3.一定の条件下で日本軍の海外配備の道を開く法律(それぞれの場合に特別措置法が必要とされる現行制度とは反対に)について現在進められている討論も、励まされる動きである。米国は、情勢がそれを必要とする場合に、短い予告期間で部隊を配備できる、より大きな柔軟性をもった安全保障パートナーの存在を願っている。

4.CIAが公表した数字によると、日本は、国防支出総額で世界の上位5位にランクされているが、国防予算の対GDP比では世界134位である。われわれは、日本の国防支出の正しい額について特定の見解を持っていないが、日本の防衛省と自衛隊が現代化と改革を追求するにあたって十分な資源を与えられることがきわめて重要だと考えている。日本の財政状況を考えれば資源が限られているのは確かだが、日本の増大しつつある地域的・地球的な責任は、新しい能力およびそれに与えられるべき支援を必要としている。

5.自ら課した制約をめぐる日本での議論は、国連安保理常任理事国入りへの日本の願望と表裏一体である。常任理事国となれば、日本は、時には武力行使を含む決定を他国に順守させる責任を持った意思決定機関に加わることになる。ありうる対応のすべての分野に貢献することなく意思決定に参加するというその不平等性は、日本が常任理事国となろうとする際に対処すべき問題である。米国は、ひきつづき積極的にこの目標を支援すべきである。

■出典:特定秘密保護法、2007年の第1次安倍内閣の時代、すでにアーミテージ文書で米側が秘密保護の強化を提言

◇隊員家族連絡カードの存在

米軍の方針は、旧日本軍とは根本的に異なっている。みずからの権益が侵されるリスクがある地域に、ピンポイントで軍隊を投入して、「政変」を鎮圧して、傀儡(かいらい)政権をつくった後に引き上げる戦略が主流を占める。

この場合、1980年代の中米紛争に見られたように、直接介入を避けて、現地の軍事組織(傭兵を含む)を指揮する軍幹部だけを派遣することもある。

歴史的にみても前世紀の戦争にみられたように、侵略から占領、植民地支配というプロセスは取らない。取りたくても取れない。それだけ世論が強くなっているからだ。歴史が前へ進んでいるからだ。

日本政府が構築しようとしているのは、米国と協同作戦を展開できる体制である。念頭にあるのは、米軍に同化した軍の構築である。とのために特定秘密保護法もつくったのである。

しかし、徴兵制はまったく想定していない。国民の反戦意識を刺激することを警戒する以前の問題として、徴兵制で若者を集めて、軍事訓練を強いたところで、戦力にはならないからだ。かえって足手まといになる。

投入されるのは、十分に軍事訓練を積んで戦闘能力がある人員である。

それを裏付けるひとつの証拠として、自衛隊内で隊員に配布され、記入が命じられた隊員家族連絡カードの存在がある。これはジャーナリストの寺澤有氏の取材で判明したもので、9月1日付けの「The Japan Times」が詳しく紹介している。

それによるとこのカードには、隊員が隊員家族のEメールから、携帯電話番号、さらには隊員本人の健康状態まで、事細かに個人情報を書き込むことになっている。使用目的は、戦地で死亡したときの対処に役立てるのと、誰を戦地へ送り込むかを審査する時の参考とするためであるとの見方がある。

つまり戦う能力、メンタルな面をも含めた戦闘能力がある者が選ばれて戦地へ投入されることになるのだ。

しかし、徴兵された若者ではなく、自衛隊員を戦地に投入するから海外派兵が許されるというものではない。米軍の戦闘員が帰還後に肉体的にも精神的にもさまざまな障害を訴え、米国内で大きな社会問題になっているのは周知の事実である。

こうした実態があるから、米国は日本に「世界の警察」の役割分担を求めてきたのである。

◇中国の脅威は嘘

安倍首相は、中国の脅威を誇張して流布することで、国民の恐怖心をあおり、防衛体制の強化を訴えているが、おかしなことに、中国は日本の最大の貿易相手国である。企業にとっては、新市場でもある。その中国と交戦して最も損害を被るのは財界である。

事実、財界は米国型の日本軍を作ることには賛同しているが、安倍首相の極右的な動きは警戒しているようだ。靖国参拝にしても、しばしば苦言を呈している。米国が安倍首相の慰安婦発言などに不快感を示しているのも周知の事実である。

安保関連法案に反対する集会の場に、右翼の街宣車が登場したことは、財界にとっても迷惑行為だったに違いない。

安保関連法案が成立した後、地球のどの地域に対して派兵が行われるのか、短絡的な想定は避けるが、中国でないことは確実だ。あえていえば、中東やこれから市場獲得競争がはじまるアフリカあたりではないかという気がする。

2015年09月01日 (火曜日)

森裕子氏に対するジャーナリズムの視点からの回答書、志岐武彦氏が『最高裁の黒い闇』を出版、『財界にいがた』が書評

 【サマリー】 『財界にいがた』(9月号)が、志岐武彦氏の新刊書『最高裁の黒い闇』を紹介している。これは小沢一郎氏が検察審査会の議決で法廷に立たされた事件の舞台裏に、最高裁事務総局の策略があったことを、膨大な内部資料によって検証したものである。

従来、定説となってきた説、つまり検察が捏造報告書により検察審査員を誘導して起訴相当議決を下させたとする説を否定して、最高裁事務総局による謀略説を唱えたものである。

 その根拠となっているのが、情報公開請求によって入手した段ボール2箱分の資料である。小沢氏の起訴は、検察による謀略か、それとも最高裁による謀略か、この点を巡っては志岐氏との間に論争があり、元国会議員の森裕子氏は、志岐氏を名誉毀損で訴え、敗訴した。本書は、こうした挑発行為に対するジャーナリズムの視点からの回答書でもある。

『財界にいがた』(9月号)が、志岐武彦氏の新刊書『最高裁の黒い闇』を紹介している。同誌は志岐氏を取材して、繰り返し小沢一郎検審にかかっている疑惑を報じてきた。そんなこともあってこの事件の発端から結末までを詳しく記述した志岐氏の著書を紹介したようだ。書評は、次の通りである。

■ 『最高裁の黒い闇』の書評

小沢検審にかかっている疑惑とは、審査そのものが実施されていないのではないかというものである。実施せずに、検察審査会の上層機関である最高裁事務総局が、審査会を開いたことにして、みずから起訴相当議決を下して、小沢氏を起訴したのではないかという疑惑である。

まさかそんなことはあり得ないだろうという疑問を多くの人々が持つに違いないが、この本は、段ボール箱にして2箱分にもなる情報公開資料による裏付けに基づいて書かれている。わたしもこの事件を取材する中で、これらの内部資料を検証させてもらい、その中で小沢検審が「架空審査会」であったという確信を得た。

しかし、周知のように小沢氏が法廷に立たされた事件の舞台裏で何が行われたのかという問題に関しては、志岐氏が主張する最高裁事務総局による策略説と鋭く対立する別の説がある。それは検察が、小沢氏を誹謗中傷する内容の捏造報告書により小沢検審の審査員を誘導して、起訴相当議決を下させたとする説である。

◇元国会議員・森裕子氏による提訴

一般的には後者の説が正論として受け止められおり、そのために新説を提唱した志岐氏は、精神病院へ行けといった口汚い誹謗中傷を受けてきた。意見の対立が深まる中で、検察による誘導説を信じている森裕子氏が、志岐氏に対して言論活動の一部禁止とお金500万円を支払うよに求める裁判を起こす事態にもなった。

こうした状況の下で、わたしは検察による誘導説も検証してみた。が、志岐氏の主張が膨大な公文書による裏付けに基づいているのに対して、検察による誘導説を信じている論者の説は、有力な裏付け資料がなかった。

検察が捏造報告書を小沢検審へ提出した事実を根拠に、ごく単純に検察による誘導説を唱えているにすぎない。少なくともわたしはそんなふうに感じた。

あるいは検察による過去の不祥事をあげつらうことで、検察の悪質さを強調し、それを根拠に小沢検審でも悪事をはたらいたと結論づけているのだ。が、これは単なる推測であって、志岐氏が入手した公文書の前には、あまりにも説得力がない。

なかにはわたしが志岐氏の説を一方的に支持して、従来の検察による謀略説をメディア黒書で紹介しないのは、名誉毀損だと言って、提訴をほのめかしてきた男性もいる。この人物については、逆にこちらから恫喝で提訴する準備を進めているが、ジャーナリズムの基本はあくまで言論による論争であるというわたしの立場には変わりない。

そのなわけで志岐氏の新刊には、この問題を取材してきた『財界にいがた』やわたしの思いが込められている。一市民による調査報道だから信用するに値しない、などと考えてはいけない。志岐氏は、旭化成を退職するまでジャーナリズムとは無縁だったが、旭化成に在職中に養った恐ろしい情報収集力と分析力は、わたしの比ではない。だれもが脱帽するに違いない。

小沢検審に関する先入観を払拭して、本書を手にとっていただきたい。読者は、日本の司法を牛耳っているのは、検察ではなく、実は最高裁事務総局であることを知るだろう。また、検察誘導説が誤りであることも理解するだろう。

検察に不祥事が多いのは事実だが、個々の事件は切り離して考えなければならない場合もある。検察をひとまとめにして、「悪」と決めつける態度は改めなければならない。

2015年08月31日 (月曜日)

中央紙は安保関連法案に反対する12万人規模集会をどう報じたのか?

【サマリー】30日に安保関連法案に反対する集会が開かれ、主催者の発表で東京だけでも12万人が参加した。この大規模集会を中央紙はどう扱ったのだろうか。朝日、読売、毎日、産経を検証した。

  結論を先に言えば、4紙とも一応は大規模集会を報じているが、別の問題もある。海外派兵に対して、一貫して警鐘を鳴らしてこなかったことである。

安保関連法案に反対する全国規模の集会を中央紙はどう報じたのだろうか。

この集会は、「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」が主催して30日に行われたもので、東京集会の場合、主催者の発表で12万人、警察の発表で3万3000人が参加した。安保法制に反対する過去最大の集会である。事実、永田町から霞が関にかけての路上は人であふれかえっていた。

わたしは霞が関で行われた集会に参加した。灰色の空と小雨。日比谷公園の霞門のそばに停車した街宣車を中心に、弁護士会館前の大通りを挟んだ向かいの歩道や、日比谷公園の中にも人が押し掛けて混雑した祭りの場のようだった。人の波で容易に前に進めない。演説に呼応して拍手が起こるたびに、赤や青、それに黄などのおびただしいのぼりやプラカードが揺れ動く。

永田町へ通じる幹線道路も人々が往来して、あちらこちらに留まった街宣車の上で演説する人の声が聞こえていた。これだけ大規模な抗議行動をわたしはこれまで見たことがなかった。

◇朝日と毎日が大きく報道

さて31日付けの中央紙各紙は、この抗議行動をどう伝えたのだろうか。朝日、読売、毎日、産経の報道を検証してみよう。

【朝日】第1面で報道。2面の「時事刻々」でも取り上げている。さらに社会面でも大きく扱っている。

【読売】社会面で報じているが、2段扱い。ちなみにこの記事のタイトルは、「安保法案『反対』『賛成』デモ」「土日の国会周辺や新宿」と、なっており、安保法制に反対する動きが空前の規模で広がっている事実を伝えたものではない。これが読売が得意とする「客観報道」らしい。つまらない記事である。

【毎日】第1面と社会面で報道。安保法案賛成派の集会についても、社会面で3段扱の記事を掲載している。

【産経】社会面で報じている。

◇ピント外れな第1面トップ記事

中央4紙は、一応は30日の抗議活動を報じているが、朝日と毎日は大きく報じ、読売と産経は小さく報じた。

この抗議行動を第1面のトップ記事(右上段の記事)扱いにした社は1社もなかった。第1面のトップには、最も重要な事件と判断されたニュースが掲載されるが、中央4紙の編集幹部は、30日の抗議行動を大変な歴史の1ページとして受け止めなかったようだ。

参考までに、31日付け朝刊の第1面のトップ記事を紹介しておこう。

【朝日】「住宅耐震82% 鋭い伸び」「13年推計 高齢世帯に負担感」

【読売】「群大術後死 新たに12例」「計20例、専門医分析へ」

【毎日】「訪日客向け『民泊』拡大」「住宅の空室活用」

【産経】「スズキ、VWと提携解消へ」「仲裁採決定 株買い戻し4600億円」

ピントが外れているとしか言いようがない。新聞に対する軽減税率の適用除外が恐くて、報道を自粛しているのだろうか。

◇危険で過激な自民党

そもそも海外派兵がPRされ始めたのは、1990年代の初頭からである。そして小渕政権の下、1999年に新ガイドライン、住民基本台帳法、通信傍受法、それに国旗・国歌法などが矢継ぎ早に成立して、海外派兵への道を切り開き始めたのである。その時の自民党の幹事長が野中弘務氏である。

この時点で自民党が極めて危険な政党であること、いずれ日本が現在の状況に直面することは十分に予測できたはずなのに、マスコミはそれに警鐘を鳴らすどころが、2大政党制のレールに乗って進められていた軍事大国化を後押ししてきた。

大事な問題に限っては、報道が極端に遅れる。あまり大事ではない問題は早い。エネルギーを傾ける対象が間違っていることが多い。

新聞ジャーナリズムの評価は、特定の事件をどう報じたのかだけではなく、もっと長い期間における報道姿勢を見極めながら定めるべきだろう。

2015年08月28日 (金曜日)

現職大統領に対して「不逮捕特権」を奪う決定、三権分立の理想を示した中米グアテマラの最高裁判所

【サマリー】汚職事件に関与したとされる中米グアテマラの現職大統領に対して、同国の最高裁は、「不逮捕特権」を取り上げる決定を下した。グアテマラでは、世界に先駆けて三権分立のあるべき理想を実践している。

これに先立つ2013年には、軍政時代の元将軍であり大統領であったリオス・モントに対して禁固80年を言い渡した。また、今年の1月には1982年にスペイン大使館焼き討ち事件を指示した元警察のトップに対して禁固90年の判決を下している。

三権分立が正しく機能した時、社会正義はどう実現されるのか。グアテマラは世界に先駆けて、その模範を示している。

時事通信が26日付けで、「初の不逮捕特権剥奪か=グアテマラ大統領―汚職追及、政界頂点に迫る」と題する記事を掲載している。最高裁判所の決定により、オットー・ペレス=モリナ大統領が、大統領の不逮捕特権を奪われることになったというのである。原因は税関汚職事件である。

現職の大統領に対して裁判所がこうした判断を下すのは、世界的にみても極めてめずらしい。しかも、前世紀までは内戦などの影響で、民主主義の後進国と評価されてきた国で、このような変化が起きているのである。

グアテマラに激変の兆候が見えたのは、2013年5月、1980年代の初頭に大統領職にあったリオス・モント将軍に対して、「ジェノサイドと人道に対する罪」で禁固80年の判決を下した時である。

その後、2015年の1月になって、今度は1982年のスペイン大使館焼き討ち事件を命じた当時の警察トップに対して、禁固90年の判決を下した。これは、同国の先住民族と学生37人が、軍による暴力を世界にむけてアピールするために、スペイン大使館に駆け込んだところ、軍が大使館のドアと窓を釘付けにして放火し、館内にいた人々を皆殺しにした事件である。生存者は、大使会員を含めて2人。事件後、スペインはグアテマラとの国交を断絶した。

そして今回、2015年8月、現職大統領に対して最高裁判所が弾劾の決定を下したのである。実は、このオットー・ペレス=モリナ大統領は、前出のリオス・モント裁判の中で、1982年当時、直接、先住民の虐殺事件に関与したことが指摘されていた。

グアテマラでこのところ起こっている現象は、三権分立が正常に機能したときに、正義が実現されるという真理の証である。とはいえ、本音と建て前に支配された社会では、それはそう簡単なことではない。

日本の裁判所の実態をみればそれが理解できるだろう。新聞社をはじめ権力を持つ者に圧倒的に有利な判決を下してきたのが日本の裁判所である。が、地球の裏側では、三権分立の模範的な手本が示さるようになっているのだ。

◇だれがテロリストだったのか?

しかし、グアテマラはもともと民主主義の思想に敏感な国だった。同国の歴史には、1944年から1954年までのあいだ「グアテマラの春」と呼ばれた時代があった。この時期、2代の大統領がそれぞれ米国大統領ルーズベルトが提唱したニューデール政策(政府による市場への介入を基調とするリベラル右派の経済政策)を導入して民主化を進めた。左派の政権ではないが、ラテンアメリカの中でもいち早く民主的な制度の構築を進めていたのである。

ところが、このリベラル右派の政権は、1954に米国の多国籍企業UFC(ユナイテッド・フルーツ・コンパニー)とCIAの謀略により崩壊する。当時の政府が農地改革のプロセスで、UFCの土地に手をつけたとたんに、クーデターが起こったのだ。

その後、軍事政権が敷かれた。これに対抗して山岳地帯では、ゲリラ活動が始まり、1996年にグアテマラ民族革命連合(URNG)と間で和平が実現するまで内戦状態にあった。が、終戦後は、急激なスピードで民主化が進んでいる。

ちなみに日本の公安調査庁は、URNGをテロ集団と位置づけているが、取材不足もはなはだしい。取材をしていないのではないかと思う。参考までに、公安調査庁のウエブサイトにあるURNGの説明を紹介しておこう。間違いだらけである。

■公安調査庁のウエブサイト

内戦中、だれがグアテマラを「殺戮の荒野」に陥れ、だれが生命を奪われたのかを現地へ行って再取材すべきだろう。情報は客観的でなければいけない。

2015年08月27日 (木曜日)

共産・小池氏が指摘した防衛省の内部文書に対する情報公開請求、9月24日までの回答を防衛省が通知

【サマリー】 共産党の小池晃氏が暴露した防衛省の内部文書の情報公開を防衛省の中谷元防衛大臣に対して請求したところ、8月21日付けで受付が完了した旨を伝える通知が送られてきた。防衛省はこれを開示するか、それとも隠すか、同省の姿勢を観察する機会となった。

  小池氏が指摘した内部文書の例でも明らかなように、このところ法案が成立していないのに、成立を前提に行動を起こす「見切り発車」が増えている。その背景に官僚による政治の復活があるのでは?

8月11日に参議院安全保障特別委員会で共産党の小池晃氏が暴露した防衛省の内部文書「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制関連法案について」の情報公開を防衛庁の中谷元防衛大臣に対して請求したところ、8月21日付けで受付が完了した旨を伝える通知が送られてきた。

■防衛省からの通知PDF

同封されてきた通知によると、「開示・不開示の決定は原則として30日以内に行われて、書面で通知される」という。期限は9月24日である。

ちなみに請求者が具体的に特定している公文書の開示をするのに、なぜ、ひと月もの日数がかかるのかよく分からない。民間企業であれば、この程度の手続きであれば、半日もあれば十分だ。

ジャーナリズムはスピードが勝負だから、このような「牛歩」戦術をと取られると取材に支障が生じる。

とはいえ特定秘密保護法が施行されている状況の下で、防衛省の内部文書に対して情報公開請求を行う試みそのものは大きな意義がある。防衛省の姿勢を観察する恰好の機会になるからだ。

ちなみに、防衛省の黒江哲郎防衛政策局長は、この文書について「秘密にあたるものではないが、流出したことは遺憾だ」と述べており、情報開示を拒否する理由はない。

◇官僚主義の復活

法案が成立していない段階で、法案が成立することを前提に、自衛隊が活動していることは周知の事実である。たとえば、特定秘密保護法違憲訴訟の中でも、ジャーナリストの寺澤有氏が、自衛隊員の死傷を想定して自衛隊が隊員に隊員家族連絡カードの記入を求めていた事実を暴露した。

さらに自衛隊が米軍と協同で敵地への上陸演習を繰り返していることも周知の事実となっている。

こうした状況が生まれている背景には、官僚が再び日本の政治を動かす体制が復活してきた証ではないか。規制緩和や官僚主義の打破を求めて小沢一郎氏らがイニシアティブと取った構造改革だったが、結局、新自由主義と軍事大国化の国策を進める官僚に作り替えられただけに過ぎなかったようだ。

2015年08月25日 (火曜日)

「押し紙」70年⑧、日露戦争の時代から「押し紙」があった、読売・宮本友丘元専務は自社の「押し紙」を全面的に否定

【サマリー】日本新聞販売協会が編集した『新聞販売百年史』によると、日露戦争の当時から「責任紙」と呼ばれる「押し紙」が存在した。しかし、それは表向きは契約によって取り決められたノルマにあたるために、「押し紙」には該当しないという論理の根拠でもあった。

 問題は、こうしたゆがんだ論理が現在にまで受け継がれ、新聞販売店に配達されない新聞が多量に残っている事実があるにもかかわらず、「押し紙」とは見なされていないことだ。弁護士の中にも、自由人権協会代表理事の喜田村洋一弁護士のように読売には「押し紙」が存在しないという見解の者がいる。

「押し紙」の歴史をさかのぼると、実は日露戦争の時代に行き着く。少なくとも日露戦争のころには、すでに「押し紙」が慣行になっていたとする記述が新聞販売に関する文献の中にある。

先日、国会図書館で閲覧を申し込んだ資料が開示されるのを待つあいだ、新聞関係の便覧が収録された棚の前で書籍を物色した。すると『新聞販売百年史』という本が視線にとまった。発行元は、日販協(日本新聞販売協会)である。

日販協は全国の新聞販売店の同業組合である。現在は、政治連盟を作って政界工作を行うなど問題が多い組織だが、かつては「押し紙」問題にも果敢に取り組んでいた。当然のことだが、新聞販売に関する情報に関しては詳しい。

『新聞販売百年史』の「拡張紙、責任紙と積み紙、抱紙」と題する節(487ページ)に、「押し紙」に関する記述がある。もっとも「押し紙」という言葉の代わりに、「責任紙」という言葉を使っているが、文脈からすれば「押し紙」の意味である。以下、ポイントとなる部分を引用してみよう。

この恒例拡販、不定期の拡張を問わず、拡張の場合は、本社と売捌人との間に、責任部数の契約を行うのを常とした。たとえば、

1,何月何日現在の取扱部数を基本数と定め

1,其の基本数以上に増した部数を純増と称し

1,純増1部に付き金銭幾何の拡張料を交付する

1,従って若干の増紙部数を契約する。其の引受け部数に対して、同数若くは幾倍、または幾数の拡張紙を幾日間交付する。

1,増紙は2ヶ月または3ヶ月の縛りとする

 といった条項がとりきめられるのである。この場合の引受部数はすなわち「責任紙」であって、それを「縛り」と称し、2ヶ月~3ヶ月間は、引受数のものが売れても売れなくても、代金は売捌人として本社へ支払わねばならないのである。責任紙とは引受部数に対するある契約期間代金支払いの責任あることを意味する。

この責任紙の制度もまたいつごろから始まったか不明であるが、日露戦争後盛んに行われるようになった。しかしこれは売捌人としては可なり苦痛なものである。

■出典PDF

厳密に法的な観点からすれば、責任紙の部数を契約で取り決めているわけだから、「押し紙」には該当しないが、新聞販売店と新聞社が対等な立場にあったとは考えられず、この責任紙 を拒否すれば、販売店は経営を持続させてもらえない事情があったと推測される。その意味では、やはり責任紙は「押し紙」を意味すると考えるのが妥当だ。

◇「押し紙をしたことは1回もございません」

日本新聞協会も、新聞社も「押し紙」は一部も存在しないという見解を取ってきた。明治時代の責任紙の論理がそのまま「押し紙」否定論の理論的主軸として受け継がれている。それゆえに配達されない新聞が新聞販売店に山積みになっていても、「あれは新聞社が押しつけた新聞ではない」という詭弁を弄することになるのだ。

参考までに、「押し紙」を否定する新聞経営者がどのように「押し紙」を否定するのか、具体例を紹介しよう。次の引用は、読売が『週刊新潮』とわたしに対して、名誉を毀損されたとして5500万円のお金を支払うように求めた「押し紙」裁判で、読売の宮本友丘専務(当時)が、読売の代理人である自由人権協会代表理事・喜田村洋一弁護士の質問に答えるかたちで証言した内容である。

喜田村:この裁判では、読売新聞の押し紙が全国的に見ると30パーセントから40パーセントあるんだという週刊新潮の記事が問題になっております。この点は陳述書でも書いていただいていることですけれども、大切なことですのでもう1度お尋ねいたしますけれども、読売新聞社にとって不要な新聞を販売店に強要するという意味での押し紙政策があるのかどうか、この点について裁判所にご説明ください。

宮本:読売新聞の販売局、あと読売新聞社として押し紙をしたことは1回もございません。

喜田村:それは、昔からそういう状況が続いているというふうにお聞きしてよろしいですか。

宮本:はい。

喜田村:新聞の注文の仕方について改めて確認をさせていただきますけれども、販売店が自分のお店に何部配達してほしいのか、搬入してほしいのかということを読売新聞社に注文するわけですね。

宮本:はい。

なお、喜田村弁護士は、YC久留米文化センター前店(福岡県)を廃業に追い込んだ裁判でも、読売の「押し紙」を否定している。YC広川の裁判でも、やはり「押し紙」の存在を否定した。

2015年08月24日 (月曜日)

特定秘密保護法違憲訴訟の最終意見陳述、自衛隊の内部情報の「暴露」を裁判所はどう判断するのか?寺澤有氏のケースを例に裁判長の見解を求める

【サマリー】2014年3月にフリーランスの出版関係者43名が提訴した特定秘密保護法違憲訴訟が、8月21日に結審した。結審に先立って黒薮が最終意見陳述を行った。

その中で、ジャーナリストが自衛隊の内部情報を暴露した場合、起訴されるのか、それともジャーナリズム活動として認められるのかを、寺澤有氏による「暴露」の具体例を示して、裁判長の見解を求めている。

 また、俗に言う「イスラム国」で殺害された湯川遥菜氏が代表を務める民間軍事会社の活動実態が報じられない背景に、特定秘密保護法とメディアの萎縮がある可能性を指摘している。民間軍事会社に関する情報は、戦争の民営化を考える上で極めて重要なはずだが情報が乏しい。プライベートな立場とはいえ、紛争地帯で射撃演習をするのは、ただならぬことである。

2014年3月にフリーランスの出版関係者43名が提訴した特定秘密保護法違憲訴訟が、8月21日に結審した。判決は、11月18日に言い渡される。結審を前に原告側から黒薮が最終意見陳述を行った。

最終意見陳述は、世界で唯一の被爆国である日本で、戦後70年の時期に特定秘密保護法を理由に、核兵器を秘密裏に運搬できる体制が整いつつあることを指摘したのち、裁判の中で明らかになった特定秘密保護法の欠陥について、裁判所に見解を明示することなどを求める内容になっている。

たとえば裁判の中で原告のひとり寺澤有氏は、安保関連法制が成立していない状況下にもかかわらず、戦場での死傷者の発生を想定して、自衛隊が「隊員家族連絡カード」を隊員に配布していたことを暴露したのだが、この内部情報が特定秘密に指定されていた場合、寺澤氏は起訴されるのかどうかを明確にするように求めている。

また、俗に言う「イスラム国」に殺害された湯川遥菜氏が代表を務めていた民間軍事会社に関する情報がほとんど存在しない背景に、特定秘密保護法の存在とメディアの萎縮がある可能性を指摘した。シリアで行方を絶っているジャーナリストの安田純平氏に関するニュースが、海外では報じられ、日本ではほとんど報じられない背景にも、同じ事情があるものと推測される。

なお、民間軍事会社とは、正規軍の軍事戦略をサポートする民営の会社で、活動がエスカレートすれば、紛争地帯で現地住民を傭兵として募集するなどの業務を行う場合もある。と、言うのも外国の軍隊は、地形などに関する知識が乏しい上に環境に順応しにくい事情があるので、ゲリラ戦に適さないからだ。

外国の軍隊はゲリラ戦になると、現地の軍隊には太刀打ちできないというのが米軍がベトナム戦争で学んだ教訓だった。そのために紛争地帯を「ホームグランド」とする同盟国軍隊や現地の傭兵を主力とする戦術が、1980年代の中米紛争などで浮上してきた。

その意味で湯川氏の民間軍事会社が計画していた戦略を明らかにする必要がある。民間軍事会社の代表が他国で射撃演習を行った事実は重い。ちなみに湯川氏の株式会社には、自民党の茨城県議も関わっていた。

■湯川遥菜氏のフェイスブックにある射撃演習の動画

■田母神俊雄氏と湯川氏のツーショット

最終意見陳述書の全文は次の通りである。

最終意見陳述書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1945年の夏、マンハッタン計画が産み落としたばかりの人類最初の原子爆弾が広島と長崎の空でさく裂しました。この年に原爆で亡くなった人は約21万人。その9年後には、第5福竜丸がビキニ環礁における水爆実験で被爆し、さらに今世紀に入ってからは、福島県で大規模な原発事故が起きました。このように核の惨事を繰り返し体験したのは世界の中で日本だけです。

戦後70年の夏、被爆国であるわが国にとって極めてセンシティブな核兵器を秘密裡に運ぶ自衛隊の作業にお墨付きを与える法体系が、第189回国会で構築されようとしています。

安全保障関連法案を審議する8月5日の参議院特別委員会で、中谷元・防衛大臣は、「核兵器の運搬も法文上は排除していない」と答弁しました。つまり核兵器に関する情報を特定秘密に指定すれば、国民の視線をかいくぐって核兵器の運搬作業が自由にできる事態が生まれようとしているのです。そして、かりに秘密の運搬作業をメディアが暴露すれば、処罰の対象になる可能性があります。

 確かに特定秘密保護法の22条1項は、国民の知る権利に配慮して取材や報道の自由に「十分に配慮しなければならない」と規定していますが、厳密にはこれにも条件が付いています。
つまり、「著しく不当な方法」によって情報収集が行われたと判断された場合には違法行為であるとみなされます。しかし、一体だれが何を基準に情報収集の正当性、あるいは不当性を判断するのでしょうか。かりに政府や裁判所がそれを判断するのであれば、それ自体がジャーナリズムの独立性を著しく侵害することになります。

わたしたち原告43名が本件裁判を提起したのは、特定秘密保護法により、フリーランスの出版関係者が取材と表現活動に支障を受け、憲法で保障された国民の知る権利がドブに捨て去られる危険性を訴えるためです。

提訴から1年半、わたしたち原告団はジャーナリストが受ける被害や官庁による情報隠しの実態を具体的に提示してきました。

たとえば、この裁判の本人尋問に立った寺澤有氏は、尋問の中で自衛隊が死傷者の発生を想定して、隊員家族連絡カードという書式を隊員に配布し、記入を求めていた事実を暴露しました。このような自衛隊内部の情報が特定秘密に指定されていた場合、寺澤氏は起訴されるのか、それとも特定秘密保護法の下においても、ジャーナリズム活動として認められ、起訴の対象にならないのかを判決文に明記していただくように希望します。

また、同じく本人尋問に立った林克明氏は、俗にいう「イスラム国」に関する情報が特定秘密に指定されている高い可能性を、実際に情報公開請求を行って、対応を観察することで明らかにしました。

周知のように後藤健二氏に関する情報は開示されませんでした。当然、湯川遥菜氏が代表を務めていた(株)民間軍事会社のシリア国内における活動実態に関する情報も特定秘密保護法の下に置かれていると想定されます。

他国で民間軍事会社の幹部が何をしていたのかを明らかにする作業は、戦争の民営化に警鐘を鳴らすためのジャーナリズム活動であるにもかかわらず、特定秘密保護法により取材が禁止されていたり、自粛を招いている可能性があるとすれば、それは由々しき問題です。

本来、海外における軍事作戦など、他民族の人命にかかわる極めて公益性が高い問題は、法解釈とはまったく別の場で議論されなければならないはずです。そのための情報を提供するのが第4の権力ともいわれるジャーナリズムの役割にほかなりません。

ちなみに、現在、ジャーナリストの安田純平氏が、シリアで行方を絶っています。このニュースを、米国の『ニューヨークタイムス』や『ワシントンポスト』、さらにメキシコの『ラ・ホルナダ』紙など、海外のメディアは報じていますが、日本のメディアは萎縮しているのか、ほとんど報じていません。かりに安田氏が生還されて、シリアにおける軍事作戦に関する情報を公開された場合、安田氏の活動が「著しく不当な」取材方法とみなされ、処罰の対象になるのか、わたしは強い関心を抱いています。
こんなふうに特定秘密保護法は多くの問題を孕んでいます。

裁判官には、人や国策などを裁くただならぬ特権が付与されています。一般の人々が絶対に持ちえない最大級の特権を有しておられます。それだけに軍事大国化が国策として浮上している状況下でも、政治判断で判決を下すことは許されません。司法の独立性を尊重していただきたいと思います。

この裁判に、毎回、100名近い傍聴人が駆けつけた事実は、特別な権限を有した裁判官に政治判断を排した公正な判決を望む声の反映にほかなりません。裁判所に於かれましては、法的安定性を重視して判決を下すようにお願いして、わたしの意見陳述とします。(黒薮哲哉)【了】