1. 都市部は「電磁波地獄」、東京練馬区の住民らが携帯電話基地局の点在状況を示す地図を作成、約2キロ×2キロの範囲に約60基

携帯電話の基地局問題に関連する記事

2015年09月07日 (月曜日)

都市部は「電磁波地獄」、東京練馬区の住民らが携帯電話基地局の点在状況を示す地図を作成、約2キロ×2キロの範囲に約60基

【サマリー】練馬区で基地局の設置に反対する住民らが、基地局の設置状況をビジュアルに示す地図を作成した。それによると約2キロ×2キロの範囲に、少なくとも58基もの基地局が設置されていることが分かった。本当に新しい基地局が必要なのかを検証するための資料になりそうだ。

 最近の基地局問題の特徴として、基地局の設置場所を提供する地権者がトラブルに巻き込まれていることである。地権者になることは、賃料収入を得られる反面、健康被害に対する損害賠償裁判の被告にされた場合、たとえ勝訴しても大きなリスクを背負うことになる。

携帯電話の基地局を撤去させる運動に取り組んでいる東京練馬区中村1丁目の住民たちが、自分たちが生活する地域にどの程度の基地局が設置されているのかを調査した。地図上に赤点で示したのが、基地局が設定されている地点である。想像以上に多数の基地局が点在していることがわかる。

約2キロ×2キロの範囲に、少なくとも58基もの基地局が設置されている。

この調査の発端は、2013年1月に練馬区中村1一丁目にあるマンション、ベルファース練馬の屋上にNTTドコモが基地局を設置しようとしたことである。しかし、住民の間から反対の声があがり係争になった。

住民側はベルファース練馬の屋上に、本当に新しい基地局を設置しなければ、通話ができないのかを調査する一端として、地域全体における基地局の設置状況を調査したのである。

ちなみにNTTドコモは、住民運動の反対を押し切って、問題になっている基地局の稼働を2014年5月に開始した。

◇鍵を握る地権者

基地局の設置をめぐる電話会社と住民のトラブルは全国で絶えない。最近の係争の特徴としては、電話会社に基地局の設置場所を貸し付ける地権者が係争に巻き込まれるケースが増えていることである。

地権者のなかには、基地局から発せられるマイクロ波が周辺住民に人体影響を及ぼすリスクがあることを認識していない者も多い。電話会社が正確にリスクについて説明しなければ、地権者は将来的にみずからに降りかかってくる可能性がある人的被害に対する賠償問題などを考慮せずに、賃料ほしさに電話局の要望に応じてしまう。

たとえマイクロ波のリスクについて知っていても、将来的に健康問題が浮上した場合は、電話会社が責任を取ってくれると安易に考えてしまうようだ。しかし、健康被害を賠償させる裁判では、被告に電話会社だけではなくて、地権者を加えるか否かを決める権限をもっているのは原告になる住民側である。電話会社ではない。

たとえ裁判に勝ったとしても、裁判費用だけでも莫大な額になる上に企業のイメージが地に墜ちる。つまり公害がからんでいる係争に地権者としてかかわることは、極めてリスクが大きいのだ。

もちろん個々のケースにはそれぞれの特徴があり、基地局問題をひとまとめにして語ることはできないが、わたしが取材してきた限りでは、最近は地権者の判断により基地局が撤去されたり、基地局の設置計画が中止になったケースが増えている。

◇解決した世田谷区奥沢のケース

東京都世田谷区奥沢のケースを紹介しよう。
2014年4月NTTドコモは住民に対して、世田谷区奥沢2丁目11番13号にあるマンションの屋上に基地局を設置する計画を通知した。これに対して反対運動が起こった。結論を先に言えば、この計画はスムーズに中止になったのであるが、その鍵を握ったのが地権者だった。

基地局が設置される低層マンションの隣に住む一児の母親が、マイクロ波により近隣住民が健康被害を受けるリスクを綴った手紙を地権者(アパレル・メーカーの社長)へ送ったところ、地権者は計画を断念した。

このメーカーのウエブサイトには、企業として環境保全を重視している旨が記されていた。環境保全と基地局は共存しえないという経営者の判断があったものと推測される。

ソフトバンクと住民との間で続いていた調布市柴崎のケースでも、今年の春に地権者の判断で計画が中止になった。(もっともこのケースでは、別の問題があるので、完全に解決したとはいえないが。これについては別の機会に報告する機会があるかも知れない。)

電話会社が地権者に対して、マイクロ波が人体に及ぼすリスクを十分に説明することが定着すれば、トラブル件数は激減するはずだ。各自治体は、電話会社に説明責任を徹底させるべく、条例などで厳しく規制すべきではないだろうか。