1. 裁判所が役割を完全に放棄、民事調停を受理拒否、丸森町の楽天基地局の設置をめぐる事件で

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2024年01月09日 (火曜日)

裁判所が役割を完全に放棄、民事調停を受理拒否、丸森町の楽天基地局の設置をめぐる事件で

携帯電話基地の設置をめぐる町長と住民のトラブルで、宮城県の簡易裁判所が前代未聞の暴挙に走った。発端は、今年の6月である。筆者のもとに、宮城県丸森町のAさん(男性)から、自宅の直近10数メートルの地点に楽天モバイルと丸森町が、町有地に基地局を設置したので相談に乗ってほしいと連絡があった。

基地局からは、高周波のマイクロ波が途切れることなく放射され、近隣住民に健康上の被害を及ぼすリスクがある。とりわけマイクロ波の遺伝子毒性が指摘されていて、たとえばIARC(国際がん研究機構)は、2011年にマイクロ波に発がん性がある可能性を認定している。

ドイツやブラジルで実施された基地局と発がんの関係を調べる疫学調査によると、基地局周辺では癌の発症率が相対的に高い(3倍程度)ことが判明している。

Aさんは、町当局や弁護士に相談するなど孤軍奮闘していたが、結局、有効な解決策はみつからなかった。そこで裁判所に民事調停を申し立て、メディアで事件を公にする決心をしたのだ。民事調停の「相手方」は、楽天モバイルの矢澤俊介社長か丸森町の保科郷雄町長ということになる。

そこでAさんは、より身近な人物である保科郷雄町長を「相手方」として、10月2日に民事調停申立書を大河原簡易裁判所(管轄は仙台地裁)に提出した。

通常、民事調停申立書が提出されると裁判所は調停の日程を決めて、「申立人」と「相手方」の双方へ通知する。ところがいつまでたっても、Aさんのもとには通知が届かない。

10月30日になってAさんのもとに、大河原簡易裁判所の山本久美子書記官から、照合書と題する書面が届いた。そこには3つの問い合わせ事項が記されていた。

1. 本件はいかなる法的根拠に基づく請求なのか
2.(基地局)を設置したのは楽天なのに、何故、土地を賃借した自治体(首町個人)を相手方とするのか。
3. 相手方について、住所は役場住所を記しておきながら、相手方を自治体ではなく自治体の首長個人としている理由

「1」の質問はともかくとして、「2」「3」の質問は、司法関係者とは思えないばかげた質問である。会社を提訴する場合に、社長名を明記するのと同じ原理である。

「1」についてAさんは、日本政府も署名しているリオ宣言などで明記されている予防原則に基づいた民事調停であると回答した。

【予防原則】予防原則(よぼうげんそく)とは、化学物質や遺伝子組換えなどの新技術などに対して、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。1990年頃から欧米を中心に取り入れられてきた概念であるが、「疑わしいものはすべて禁止」といった極論に理解される場合もあり、行政機関などはこの言葉の使用に慎重である。(ウィキペディア)

Aさんが大河原簡易裁判所に回答してからひと月になる11月29日、Aさんの宅に「事件終了通知」と題する書面が届いた。山本久美子書記官名で「頭書の事件は、令和5年11月29日、調停しないものとして、終了しました」と記されていた。印紙も返還された。

民事調停や訴訟を受理しない場合、通常は不備がある箇所を書記官が指摘したうえで、受理する方向で指導する。しかし、Aさんのケースでは、そのプロセスが踏まれていない。調停のテーマが裁判所が毛嫌いしているタブーであるから、却下したとしか思えない。

◎却下された申立書の全文

12月末に筆者は、電話で山本書記官に却下の理由を問い合わせた。しかし、自分で回答する代わりに、仙台地裁の総務担当者に問い合わせるように指示してきた。そこでわたしは、仙台地裁の総務に問い合わせた。総務の回答は、「お答えできない」とのことだった。しかし、繰り返し回答を求めると、大河原簡易裁判所の山本書記官に問い合わせるように指示した。

筆者からの2度目の問い合わせを受けて、山本書記官も「回答しない」と繰り返した。

「上司の指示か?」
「裁判官はだれだ?」
「自分の意思で、却下を決めたのか?」

山本書記官は、当事者以外には回答できないと答えた。そして一方的に電話を切った。その後、Aさんが山本書記官に電話で問い合わせたところ、民事調停法13条を根拠にした却下であることが分かった。

【民事調停法】調停委員会は、事件が性質上調停をするのに適当でないと認めるとき、又は当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときは、調停をしないものとして、事件を終了させることができる。

しかし、具体的に何を根拠として調停委員会がAさんの調停申立を却下したのかは分からない。裁判所が司法の役割を完全に放棄したとしか言いようがない 。