1. 楽天の基地局設置をめぐる係争、懸念されるマイクロ波の遺伝子毒性、地主が反対住民に、「損害賠償請求の検討に入った」

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2021年09月23日 (木曜日)

楽天の基地局設置をめぐる係争、懸念されるマイクロ波の遺伝子毒性、地主が反対住民に、「損害賠償請求の検討に入った」

電話会社が空前の利益を上げている。NTTドコモ、ソフトバンク、KDDI3社の2020年度の売り上げは、合計でゆうに15兆円を超えた。5Gの普及という国策と連動して、無線通信ビジネスはいまや花形産業にのぼりつめた。

しかし、その影では、通信基地局の設置をめぐる電話会社と住民のトラブルが多発している。なかには自宅から退去せざるを得なくなった人もいる。

基地局設置をめぐるトラブルの背景には、基地局から放射されるマイクロ波による人体影響が、否定できなくなってきた事情がある。とりわけ遺伝子毒性が、否定できなくなってきたのである。それが問題を深刻にしている。

わたし自身、2005年に埼玉県朝霞市岡の自宅マンションの真上に、NTTドコモとKDDIが基地局を設置する計画を打診する体験を持ったことがある。しかも、設置個所はわたしの書斎の天井を隔てた真上だった。幸いに設置は阻止したが、それ以来、わたしはこの問題を取材してきた。

これは、ある日突然にだれにでも降りかかってくる問題なのである。

◆民家の直近に基地局

大阪府堺市中区のAさん夫妻は、9月初旬に楽天モバイルの社員の訪問を受けた。自宅の隣にある駐車場に基地局を設置する計画が浮上し、9月末から工事に着手するという説明だった。

マイクロ波による人体への影響について知っていたAさん夫妻は、楽天の計画を承諾できなかった。自分も含め近隣住民がマイクロ波に直撃される続けるリスクがあったからだ。楽天社員による訪問時の様子をAさん夫妻は次のように話す。

「まったく突然だったため、心の準備もなく楽天モバイル無線基地局パンフレットを受け取り対応しました。基地局の設置場所を見ますと、自宅前の駐車場の入り口で、自宅の敷地から15mほどの近距離でした」

その後、Aさん夫妻はたまたま駐車場を掃除している地主をみかけた。楽天モバイルから、土地の賃借料を得ることになる当人である。地主としては、ビジネスの幅を広げる機会である。地主は、基地局の設置に反対するAさんに、次のような趣旨の話をしたという。

「自分は楽天の三木谷さんの知り合いで、頼まれたので断れない」

「人体に影響がないのは総務省の資料で確認している」

「皆さんに役立つと思って設置を決めた」

わたしはAさん夫妻に、基地局の設置反対を呼び掛けるための署名用紙のひな型を提供した。Aさん夫妻はそれを使って、近隣から署名を集めはじめた。すると地主がAさんに電話で「あなたがしていることは営業妨害である。弁護士をたてて訴状を送る」と抗議したという。

さらにその後、書面でAさん夫妻の行為は、「営業妨害であると判断するに至り」、「貴殿に対する損害賠償請求の検討に入った」と通知してきた。

◆賃借料がほしい地主

わたしはAさんから楽天モバイルの担当者の名前と連絡先を聞き出して電話で事情を問い合わせた。対応したのは、女性の担当員だった。

黒薮:地権者の地主から、裁判を起こすと脅されたという連絡があったが 、これについては聞いていますか。

楽天:はい報告を受けております。

黒薮:裁判を起こすということですか。

楽天:弁護士を立てるとうことです。それも昨日のお話なんですが。

黒薮:弁護士を立てるということですね。

楽天:まあ、直接地主さんから聞いたわけではありませんが。 確認が必要です。

黒薮:裁判を起こすと言って恫喝すれば、スラップ訴訟ということになりますが、楽天さんとしてはどのように考えておられるのですか。

楽天:今朝、オーナーさんが(反対している住民に)そんな連絡を反対者に入れられたという報告があがってきたところなんです。もちろん誠意をもって両者に対応させていただくつもりですが、どのようにするかは社内で検討します。

黒薮:2点問題があると思います。基地局そのものを勝手に設置していいのかという問題ですね。それから先ほど言ったスラップ訴訟の問題です。

楽天:わたしはこの件について、先ほど聞いたところなので、これから検討に入るところです。

◆遺伝子毒性を考慮しない総務省の規制値

わたしは10年ほど前から、「電磁波からいのちを守る全国ネット」の運営委員として、基地局問題の相談に乗ってきた。昨年の秋ごろから、急激に相談の件数が増え始め、週に2件から3件の相談があった時期もある。「全国ネット」から、電話会社に対して繰り返し抗議の申し入れや質問状も送付している。

堺市中区のケースは、基地局をめぐるトラブルの悪質な事例のひとつである。地主がスラップめいた訴訟をほのめかしてきたからである。

電話会社の言い分は共通していて、総務省が定めた電波防護指針を守って基地局を操業するので、人体への影響はないというものである。しかし、総務省の電波防護指針は、数値そのものがマイクロ波による人体影響に関する最新の研究に基づいて設定されたものではない。

それは、次に示す電波防護指針の国際比較を見れば明らかだ。

日本:1000 μW/c㎡ (マイクロワット・パー・ 平方センチメートル)

国際非電離放射線防護委員会:900μW/c㎡

ブリュッセル:19.2μW/c㎡

パリ:6.6μW/c㎡

欧州評議会:0.1μW/c㎡、(勧告値)

総務省の電波防護指針は、国際非電離放射線防護委員会の基準値をも上回り、欧州評議会に比べると1万倍も緩やかな基準値に設定されている。なぜ、これほど著しい差があるのかは、マイクロ波の人体影響についての見解の違いが背景にある。

従来、マイクロ波の影響は、熱作用だけという考えが主流だった。人体が熱を吸収しても体に支障をきたさない範囲内であれば、使用が許容されるという論理に基づいて、総務省は規制値を決めたのである。1990年、約30年前のことである。

ところがその後、マイクロ波による人体影響の研究が進むにつれて熱作用だけではなく、他の要素(非熱作用)も考慮しなければ、将来、禍根を残すリスクが生じるとする学説が台頭してくる。その代表格が遺伝子毒性の指摘だった。すなわちマイクロ波には発がん性があるとする見解である。

原発のガンマ線やレントゲンのエックス線が遺伝子を損傷するリスクを孕んでいることは従来から周知の事実となってきたが、同じ放射線の仲間である電磁波にも、類似した遺伝子毒性があることが分かってきたのである。

こうした学説の発達に連動して、欧州では国とは別に地方自治体や公共団体が先陣を切って、独自の規制値を定める動きが始まった。公害の「予防原則」を採用するようになったのだ。

その具体的で、典型的な果実が、欧州評議会の0.1μW/c㎡という勧告値の設定なのである。日本の規制値よりも1万倍も厳しい。これは遺伝子毒性を考慮に入れた結果にほかならない。

欧州評議会は、現在、さらにこの勧告値を0.01に更新する方向で調整を進めている。微量のマイクロ波でも、人体への影響があるとする考えが勝を制したのである。

日本の総務省の電波防護指針は、最新の学術データに基づいたものではない。マイクロ波に遺伝子毒性はないという古い学説を前提とし、その後、規制値を更新することもなく現在に至っているのである。

電話会社にしてみれば、規制値が欧州評議会のように厳しいレベルになれば、自由なビジネス展開はできない。企業活動が著しく規制される。

実際、基地局問題が勃発すると電話会社は、「総務省の規制値を守ってやりますから絶対に大丈夫です」と太鼓判を押してきた。住民に健康被害が発生しても、国の責任として「逃亡」できる構図になっているからだ。

◆基地局周辺で癌が多発、ブラジルの疫学調査

マイクロ波による人体影響は、遺伝子毒性のほかに頭痛、めまい、吐き気、耳鳴りなど多種多様な症状も告されている。ただ、これらの症状はマイクロ波の影響下にない環境でも、少なからず現れるので、本当に電磁波による影響なのかどうかは慎重に検討する必要がある。疫学調査で繰り返し確認されている症状群れではあるが、短絡的に電磁波に結び付けてしまう姿勢には問題がある。 一定の割合でノイローゼの人がいるのも事実である。

これに対して遺伝子毒性に関しては、データを客観的に解析して、マイクロ波と癌の関係を検証した優れた疫学調査が複数ある。たとえば、次に紹介するのは、2011年にブラジルのミナス・メソディスト大学のドーテ教授らが実施した疫学調査である。

この調査は1996年から2006年まで、ベロオリゾンテ市において癌で死亡した7191人の居住地点と、直近の基地局の距離を調査・集計したものである。癌による死亡者と基地局に関する基礎データの出典は次の3点である。

1、市当局が管理している癌による死亡データ

2、国の電波局が保管している携帯基地局のデータ

3、国政調査のデータ

これらのデータを基に、癌で死亡した住民の住居と基地局の距離関係を調査・集計したのである。

対象となった癌死亡者は、既に述べたように7191人である。また、基地局の数は856基である。ちなみに基地局から発せられるマイクロ波の数値(電力密度)は、40.78μW/立法センチメートル~0.04μW/立法センチメートルである。(日本の総務省が定めている規制値は1000μW/立法センチメートル。)

結論を先に言えば、基地局に近い位置に住んでいた住民ほど癌の死亡率が高かった。また、基地局の設置数が多い地区ほど癌による死亡率が高った。下記のデータは、1万人あたりの癌による死亡数である。

 

基地局からの距離 100 mまで:43.42人
基地局からの距離 200 mまで:40.22人
基地局からの距離 300 mまで:37.12人
基地局からの距離 400 mまで:35.80人
基地局からの距離 500 mまで:34.76人
基地局からの距離 600 mまで:33.83人
基地局からの距離 700 mまで:33.80人
基地局からの距離 800 mまで:33.49人
基地局からの距離 900 mまで:33.21人
基地局からの距離 1000mまで:32.78人
全市            :32.12人

 

このデータから、基地局の直近ではマイクロ波の著しい人体影響があり、300メートル以内の範囲でも、かなり高いリスクがあることが分かる。

なお、住居の近くに複数の基地局がある場合は、最初に設置された基地局から、住民宅までの距離をデータとして採用している。 この種の疫学調査は、現在では実施が不可能だ。と、いうのも、基地局の数が増えすぎて、どの基地局からのマイクロ波が、発癌に影響したのかを見極める作業が困難になっているからだ。

[図1]は、基地局からの距離と癌による死亡者7191人を分類したものだ。図には含まれていないが、1000メートルより外側のエリアにおける死亡者数は147人である。

また、癌による死亡率(累積)が最も高かったのは、中央南区である。この地区には市全体の基地局の39.6%(2006年の時点)が集中していた。逆に最も低かったのはベレイロ区で、基地局の設置割合は全体の5.37%だった。

◆楽天モバイルは無回答

堺市中区で基地局設置をめぐるトラブルを起こした楽天モバイルと地主が、総務省の電波防護指針の中身を知っていたかどうかは不明だが、最も責任が重いのは、総務省にほかならない。

わたしは、楽天モバイルの広報部に対して、次のような質問状を送付した。

【質問状】大阪府堺市●●で起きている基地局問題について、質問させていただきます。

貴社が基地局の設置場所を提供するように交渉されている地権者から、設置に反対している近隣住民に対して、損害賠償裁判も含めて法的措置を取るとの意思表示があったことを確認しました。このような訴訟は、スラップに該当する可能性があります。この件について、貴社の見解を教えていただけないでしょうか。

楽天モバイルからの回答は、次の通りである。

【回答】お問い合わせいただいた件については、当社は見解を提供する立場にございません。

 

【掲載サイト】デジタル鹿砦社通信