1. 特定秘密保護法違憲訴訟の最終意見陳述、自衛隊の内部情報の「暴露」を裁判所はどう判断するのか?寺澤有氏のケースを例に裁判長の見解を求める

特定秘密保護法に関連する記事

2015年08月24日 (月曜日)

特定秘密保護法違憲訴訟の最終意見陳述、自衛隊の内部情報の「暴露」を裁判所はどう判断するのか?寺澤有氏のケースを例に裁判長の見解を求める

【サマリー】2014年3月にフリーランスの出版関係者43名が提訴した特定秘密保護法違憲訴訟が、8月21日に結審した。結審に先立って黒薮が最終意見陳述を行った。

その中で、ジャーナリストが自衛隊の内部情報を暴露した場合、起訴されるのか、それともジャーナリズム活動として認められるのかを、寺澤有氏による「暴露」の具体例を示して、裁判長の見解を求めている。

 また、俗に言う「イスラム国」で殺害された湯川遥菜氏が代表を務める民間軍事会社の活動実態が報じられない背景に、特定秘密保護法とメディアの萎縮がある可能性を指摘している。民間軍事会社に関する情報は、戦争の民営化を考える上で極めて重要なはずだが情報が乏しい。プライベートな立場とはいえ、紛争地帯で射撃演習をするのは、ただならぬことである。

2014年3月にフリーランスの出版関係者43名が提訴した特定秘密保護法違憲訴訟が、8月21日に結審した。判決は、11月18日に言い渡される。結審を前に原告側から黒薮が最終意見陳述を行った。

最終意見陳述は、世界で唯一の被爆国である日本で、戦後70年の時期に特定秘密保護法を理由に、核兵器を秘密裏に運搬できる体制が整いつつあることを指摘したのち、裁判の中で明らかになった特定秘密保護法の欠陥について、裁判所に見解を明示することなどを求める内容になっている。

たとえば裁判の中で原告のひとり寺澤有氏は、安保関連法制が成立していない状況下にもかかわらず、戦場での死傷者の発生を想定して、自衛隊が「隊員家族連絡カード」を隊員に配布していたことを暴露したのだが、この内部情報が特定秘密に指定されていた場合、寺澤氏は起訴されるのかどうかを明確にするように求めている。

また、俗に言う「イスラム国」に殺害された湯川遥菜氏が代表を務めていた民間軍事会社に関する情報がほとんど存在しない背景に、特定秘密保護法の存在とメディアの萎縮がある可能性を指摘した。シリアで行方を絶っているジャーナリストの安田純平氏に関するニュースが、海外では報じられ、日本ではほとんど報じられない背景にも、同じ事情があるものと推測される。

なお、民間軍事会社とは、正規軍の軍事戦略をサポートする民営の会社で、活動がエスカレートすれば、紛争地帯で現地住民を傭兵として募集するなどの業務を行う場合もある。と、言うのも外国の軍隊は、地形などに関する知識が乏しい上に環境に順応しにくい事情があるので、ゲリラ戦に適さないからだ。

外国の軍隊はゲリラ戦になると、現地の軍隊には太刀打ちできないというのが米軍がベトナム戦争で学んだ教訓だった。そのために紛争地帯を「ホームグランド」とする同盟国軍隊や現地の傭兵を主力とする戦術が、1980年代の中米紛争などで浮上してきた。

その意味で湯川氏の民間軍事会社が計画していた戦略を明らかにする必要がある。民間軍事会社の代表が他国で射撃演習を行った事実は重い。ちなみに湯川氏の株式会社には、自民党の茨城県議も関わっていた。

■湯川遥菜氏のフェイスブックにある射撃演習の動画

■田母神俊雄氏と湯川氏のツーショット

最終意見陳述書の全文は次の通りである。

最終意見陳述書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1945年の夏、マンハッタン計画が産み落としたばかりの人類最初の原子爆弾が広島と長崎の空でさく裂しました。この年に原爆で亡くなった人は約21万人。その9年後には、第5福竜丸がビキニ環礁における水爆実験で被爆し、さらに今世紀に入ってからは、福島県で大規模な原発事故が起きました。このように核の惨事を繰り返し体験したのは世界の中で日本だけです。

戦後70年の夏、被爆国であるわが国にとって極めてセンシティブな核兵器を秘密裡に運ぶ自衛隊の作業にお墨付きを与える法体系が、第189回国会で構築されようとしています。

安全保障関連法案を審議する8月5日の参議院特別委員会で、中谷元・防衛大臣は、「核兵器の運搬も法文上は排除していない」と答弁しました。つまり核兵器に関する情報を特定秘密に指定すれば、国民の視線をかいくぐって核兵器の運搬作業が自由にできる事態が生まれようとしているのです。そして、かりに秘密の運搬作業をメディアが暴露すれば、処罰の対象になる可能性があります。

 確かに特定秘密保護法の22条1項は、国民の知る権利に配慮して取材や報道の自由に「十分に配慮しなければならない」と規定していますが、厳密にはこれにも条件が付いています。
つまり、「著しく不当な方法」によって情報収集が行われたと判断された場合には違法行為であるとみなされます。しかし、一体だれが何を基準に情報収集の正当性、あるいは不当性を判断するのでしょうか。かりに政府や裁判所がそれを判断するのであれば、それ自体がジャーナリズムの独立性を著しく侵害することになります。

わたしたち原告43名が本件裁判を提起したのは、特定秘密保護法により、フリーランスの出版関係者が取材と表現活動に支障を受け、憲法で保障された国民の知る権利がドブに捨て去られる危険性を訴えるためです。

提訴から1年半、わたしたち原告団はジャーナリストが受ける被害や官庁による情報隠しの実態を具体的に提示してきました。

たとえば、この裁判の本人尋問に立った寺澤有氏は、尋問の中で自衛隊が死傷者の発生を想定して、隊員家族連絡カードという書式を隊員に配布し、記入を求めていた事実を暴露しました。このような自衛隊内部の情報が特定秘密に指定されていた場合、寺澤氏は起訴されるのか、それとも特定秘密保護法の下においても、ジャーナリズム活動として認められ、起訴の対象にならないのかを判決文に明記していただくように希望します。

また、同じく本人尋問に立った林克明氏は、俗にいう「イスラム国」に関する情報が特定秘密に指定されている高い可能性を、実際に情報公開請求を行って、対応を観察することで明らかにしました。

周知のように後藤健二氏に関する情報は開示されませんでした。当然、湯川遥菜氏が代表を務めていた(株)民間軍事会社のシリア国内における活動実態に関する情報も特定秘密保護法の下に置かれていると想定されます。

他国で民間軍事会社の幹部が何をしていたのかを明らかにする作業は、戦争の民営化に警鐘を鳴らすためのジャーナリズム活動であるにもかかわらず、特定秘密保護法により取材が禁止されていたり、自粛を招いている可能性があるとすれば、それは由々しき問題です。

本来、海外における軍事作戦など、他民族の人命にかかわる極めて公益性が高い問題は、法解釈とはまったく別の場で議論されなければならないはずです。そのための情報を提供するのが第4の権力ともいわれるジャーナリズムの役割にほかなりません。

ちなみに、現在、ジャーナリストの安田純平氏が、シリアで行方を絶っています。このニュースを、米国の『ニューヨークタイムス』や『ワシントンポスト』、さらにメキシコの『ラ・ホルナダ』紙など、海外のメディアは報じていますが、日本のメディアは萎縮しているのか、ほとんど報じていません。かりに安田氏が生還されて、シリアにおける軍事作戦に関する情報を公開された場合、安田氏の活動が「著しく不当な」取材方法とみなされ、処罰の対象になるのか、わたしは強い関心を抱いています。
こんなふうに特定秘密保護法は多くの問題を孕んでいます。

裁判官には、人や国策などを裁くただならぬ特権が付与されています。一般の人々が絶対に持ちえない最大級の特権を有しておられます。それだけに軍事大国化が国策として浮上している状況下でも、政治判断で判決を下すことは許されません。司法の独立性を尊重していただきたいと思います。

この裁判に、毎回、100名近い傍聴人が駆けつけた事実は、特別な権限を有した裁判官に政治判断を排した公正な判決を望む声の反映にほかなりません。裁判所に於かれましては、法的安定性を重視して判決を下すようにお願いして、わたしの意見陳述とします。(黒薮哲哉)【了】