1. 秘密保護法、集団的自衛権のあまりに危険な実態、ジョセフ・ナイ元米国防次官補の語る日米軍事戦略

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2014年12月16日 (火曜日)

秘密保護法、集団的自衛権のあまりに危険な実態、ジョセフ・ナイ元米国防次官補の語る日米軍事戦略

◆吉竹幸則(フリージャーナリスト・元朝日新聞記者)

安倍政権の進める安保政策に、民主も維新も本格論争を避け、まともな争点にならないまま、総選挙で自民が圧勝。そのどさくさに紛れ、特定秘密保護法が施行され、集団的自衛権容認の実質改憲に基づく国内法の整備が今後、急速に進んで行く。

しかし、その先にこの国はどんな姿に変貌するのか。それを垣間見れる極めて興味深い記事が選挙中に朝日新聞に掲載されていた。記事を読み解けば、実は集団的自衛権とその運用を覆い隠すための秘密保護法がいかに危険か。改めてその実態が、私にはくっきり浮かび上がって見える。

◇朝日に掲載されたナイ・米元国防次官補のインタビュー

記事とは、朝日の12月8日付け朝刊。その日の朝日デジタルに発言内容の詳細も掲載されているジョセフ・ナイ元米国国防次官補(現ハーバード大学教授)のインタビューだ。

ナイ氏は知日家であるとともに、率直な発言をすることでも知られている。クリントン政権下では冷戦後の日米同盟の在り方を考える「ナイ・イニシアチブ」を策定。現在、ケリー国務次官に助言する米外交政策委員会のメンバーでもある。オバマ民主党政権で日米軍事同盟の運用を決める上で、最も影響力のある重要人物の一人だ。

だからこそ、彼の語る言葉の一言一句は、米国だけでなく米と蜜月関係にある安倍政権の今後の軍事戦略の方向性を知る上で、見逃せない。

朝日本紙と朝日デジタルの掲載内容と合わせて読むと、ナイ氏は、朝日のインタビューに答え、4点にわたり重要なことを語っている。記事を読んでいない方のために、もう一度再録して見よう。

◇辺野古移設に慎重なナイ氏の真意

1点目は、米軍が使用する普天間飛行場の辺野古移転について、「沖縄の人たちが辺野古への移設を支持しないなら、我々は再考しなければならない」と、沖縄の人たちの民意も考え、慎重な立場を表明している。

米国内の軍事関係者の間でも最近、辺野古移転について異論が出ていることはすでに一部ではささやかれていた。ナイ氏の発言はそれを裏付けるものである。

しかし、それは沖縄の人たちの悲しい戦争体験や、戦後、米国の軍事基地が集中し、その犠牲にされて来たとの思いからの沖縄世論を配慮してのものと言えないことが、次の2点目の発言からよく分かる。

ナイ氏は、辺野古移設にこだわらない理由についてこう述べている。

「中国の弾道ミサイル能力向上に伴い、固定化された基地のぜい弱性を考える必要性が出て来た。卵を一つのかごに入れておけば(すべて割れる)リスクが増す」

つまり、米国としては万一、中国との全面戦争になった時には、在日米軍基地の7割を沖縄に集中させていることが、軍事戦略上のリスクと分析。その点から辺野古への移転が、中国の脅威に対する米軍強化にとって、必ずしもプラスにならないことを認識し始めているのだ。

次に3点目だ。

「日本のナショナリズムです。日本がいわゆる『普通の国』になっていくにつれて、日本の米軍基地が減って日本の基地が増えていくはずです。日本列島のより多くの米軍基地が日本の基地となり、米国と日本の部隊が一緒に配置されるかも知れません」

これを踏まえナイ氏は4点目として、将来の在日米軍の姿を次のように語っている。

「固定化された米軍の基地を置くより、(巡回して)異なる場所にいる方が日本のナショナリズムの観点からも問題が少ないし、中国が弾道ミサイルを使おうとしても、より難しくなります」

◇狙いは日本列島全体の米軍基地化

朝日のナイ氏に対する記事は、ここまでだ。インタビューした記者には、せっかくナイ氏が話をしてくれたことに対し、これ以上踏み込んで書くことへの遠慮があったのかも知れない。

しかし、ナイ氏の発言をもう一つ踏み込んで解釈すれば、何故、安倍政権が集団的自衛権の容認を急ぎ、秘密保護法を整備したかの真意も透けて見える。このインタビューから読み取れることを、私なりに解釈してみたい。

1、2点目から分かることは、ナイ氏をはじめ米国の軍事当局者は、沖縄の米軍基地を、万一、米中全面戦争が起きた時、対中国攻撃の最前線基地として位置付けていることだ。

米中全面戦争と言うことは、最悪の場合、核戦争を意味する。米国としては当然、それを想定して軍事戦略を練っている。米国本土を標的とする核兵器を積まれた中国の大型ミサイルを叩くために、「いざ開戦」となれば沖縄の基地から核兵器を積んだ爆撃機が飛び立つ想定になっているのだ。

3、4点目でナイ氏が言うのは、その重要な基地が沖縄に集まっているなら、「中国の弾道ミサイル技術の能力向上」で、米国が中国の核基地を攻撃する前に、中国から沖縄に集中的な先制攻撃を受ける。

その結果、重要拠点の沖縄基地は無力化されたなら、中国から米本土への核攻撃を自由に許すことになるのではないか、との懸念である。米の軍事専門家がこう発言する以上、沖縄に中国攻撃に備えた核兵器が隠されていると見るのも、当然の結論かとも思う。

次にナイ氏は、「日本のナショナリズム」の高まりに言及。日本国内の米軍基地は少なくなり、自衛隊基地にとって代わられると予測する。しかし、それは米国が危機感を抱く事態ではない。もともと米国自身がその方向性を日
本に仕向けて来たものでもあるからだ。

何故なら、米国は2001年9月11日の同時多発テロ以来、頭に血が登り、対タリバンのためにアフガニスタン攻撃を仕掛け、2003年にはイラク戦争も始めた。しかし、ことごとく成功せず泥沼化。米国は多くの若者の命を戦場で散らせ、多額の軍事費負担で消耗して来た。

特にブッシュ・共和党政権の軍事優先政策の反省から生まれたオバマ政権としては、極東に多くの兵力も多額の軍事費も投入する余力や大義名分も失くしている。日本の自衛隊に極東の軍事力の肩代わりを要求してきていることから、安倍政権が「ナショナリズム」を高揚させ、日本の自衛隊が国内基地を拡充し、米軍と提携していく政策は、米国にとって願ったり、かなったりなのだ。

そこにナイ氏の思惑が透けて見える。「米国と日本の部隊が一緒に配置され」、米軍基地が自衛隊基地と一体化すれば、中国有事の際には、全国に散らばっている自衛隊基地から、核兵器を積んだ米軍の爆撃機が中国本土に攻撃に出られると見るのだ。

つまり、「固定化した」沖縄基地より日本本土に散らばる自衛隊基地を、在日米軍が(巡回した方が)、沖縄の基地軽減に繋がるとともに「中国が弾頭ミサイルを使おうとしても、より難しくなる」と見るのだ。

しかし、それは今の米本土防衛任務を担う沖縄基地の役割を日本列島に点在する自衛隊基地全体に広げて引き受けさせることを意味する。

◇米国本土を守る盾にされる日本の国土と国民の命

前述の通り、ナイ氏は民主党の極東戦略の最も有力なブレインだ。以前から米国はこの線に沿って極東軍事の将来の方向性を定め、日本にもそれに沿う防衛戦略を立てるよう求めて来たのも間違いないだろう。集団的自衛権容認の閣議決定後、順調に日米協議が始まったことからも、ナイ氏の描く構想に沿い米国の思惑通り、事態は進行していると見ていいだろう。

安倍首相は、靖国参拝や歴史認識で中国や韓国の国民感情を害し、反発を強めた。それをテコに何も知らない若者も煽って日本の「ナショナリズム」を高め、国民の間に集団的自衛権容認の機運を醸成した。それが何故か。ナイ氏の話と重ね合わせると、安倍首相の真意も透けて見える。

安倍首相の唱えてきた「ナショナリズム」は、一般的に定義される本来の「ナショナリズム」とは、少し趣が違うのだろう。米国の要求に沿い、「自衛隊基地と米国基地との一体化」のためには、集団的自衛権の容認が不可欠だ。そのために必要以上に中国や韓国、北朝鮮を敵視し、その脅威を強調したかったに違いない。

総選挙での自民圧勝を受け、いよいよ集団的自衛権容認と日米協議に基づき、国内法の整備が急ピッチで進む。その最後の目標は、ナイ氏の思惑通り自衛隊と米軍の部隊と基地の一体化だ。

米中本格戦争に突入すれば、日本本土の自衛隊基地から核を積んだ米国の爆撃機が中国に向かい、自衛隊機がその護衛を引き受ける日米共同作戦も十分想定出来る。そうなれば、米国本土の前に、まず中国から日本本土に容赦のないミサイル核攻撃始まる。日本列島の国土と国民の命は、米国本土の盾にされ、広島、長崎をはるかに超える被害が出て、間違いなく日本全体が焦土化する。

「米国は日米安保条約で日本を守ってくれている。だから集団的自衛権を容認して自衛隊が米軍に協力するのは当然だ」との意見もよく聞く。私も厳しい国際情勢の中で、日米安保を今すぐ廃棄出来るとは思わない。

しかし、ナイ氏の発言通り、米国もしたたかな自国の国益に沿い、極東有事の際に、中国などの攻撃から米国本土を守るための基地提供を日本に求めているのが、今の日米安保の本質だ。

一方、日本も経済発展優先の国益に沿い、隣国とむやみに争わず、米国の過剰な軍事要求をかわすため盾にしたのが、米国が戦後プレゼントしてくれた憲法9条だ。しかし、安倍氏はこの盾を取り払い、自ら外堀を埋めたのが集団的自衛権の容認である。それが果たしてこの国の国益なのか。もう一度、この国の人々はナイ氏の言葉を読み解き、直面する事態の大きさを直視して欲しい。

◇人々は日米軍事戦略の実態を知らされなくていいのか

安倍政権が、集団的自衛権の容認とセットで進めたのが、秘密保護法だ。国民の「知る権利」が根こそぎ奪われる法律だ。私もフリージャーナリスト42人と東京地裁に違憲訴訟を起こしている。しかし、その判決すら待たず、選挙中に施行された。

この法律は、何が秘密か分からないまま、秘密に近づいただけで罰せられる極めて理不尽な内容だ。狡猾な官僚が、自分たちの天下りなど都合の悪い情報まで明確な基準もないまま、秘密にされるのではないかとの疑念もある。

でも、安倍政権が間違いなくこの法律で守ろうとする本丸は、この「防衛機密」、つまりナイ氏が対中国戦争で想定する日米軍事協力の細目である。

日本列島全体が米国本土の盾になり、国民の命も国土も消えてなくなりかねない危険な内容だ。これを知らされた上で、「ふだん米国に守ってもらっているのだから」と日本国民の総意で、この政策を選択するのなら、それはそれでやむを得ない。しかし、全容を国民に知らされないまま、事態が進行して行っていいのだろうか。

私が想い出すのは、1971年、日米で結ばれた沖縄返還協定で、「基地撤去に米国が沖縄の地権者に支払う土地現状復旧費用400万ドルを日本政府が肩代わりする」をされる密約を、西山太吉・元毎日新聞記者が掴んだことを発端とする外務省機密漏えい事件だ。

秘密保護法が施行されても、当初は国民の監視があり、政府もしばらくは拡大解釈は避け、慎重に運用するだろう。しかし、対中国の「防衛機密」は違う。沖縄密約をスクープした西山元記者は、司法権力により男女問題にすり替えられ、国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕、起訴され、一審では無罪になったものの、高裁で逆転判決。最高裁も有罪を確定させている。

背景には、西山氏のスクープした肩代わり密約の先に、非核三原則があるにも拘わらず、沖縄に核兵器を持ち込むことを政府が容認したとされる核密約があったからだとの説が有力だ。だからこそ、西山氏のスクープで核密約に焦点が当たることを恐れた政府が、男女問題にすり替えてでも西山氏を逮捕、記者生命を奪ったと考えられるのだ。

今度も、日米軍事行動の具体的な密約内容が明るみに出そうになれば、「報道の自由を守る」などは反故。他の問題はさておいても、政府は何としてでも理由をつけ、秘密を洩らした側も、報道しようとした記者も秘密保護法違反で逮捕し、社会からの隔離を図るに違いない。

自民圧勝の選挙結果を受け、安倍政権がナイ氏の構想に沿い、極めて危険な日米連携軍事行動にアクセルを踏み込もうとしているこの時期に、私は改めて問う。国民の命と財産に関わる極めて重大な政策・情報が、「防衛機密」との一言で、「国民に知らされなくていいのですか」「国民は知らなくていいのですか」、と…。

≪筆者紹介≫ 吉竹幸則(よしたけ・ゆきのり)
フリージャーナリスト。元朝日新聞記者。特定秘密保護法違憲訴訟原告。名古屋本社社会部で、警察、司法、調査報道などを担当。東京本社政治部で、首相番、自民党サブキャップ、遊軍、内政キャップを歴任。無駄な公共事業・長良川河口堰のウソを暴く報道を朝日から止められ、記者の職を剥奪され、名古屋本社広報室長を経て、ブラ勤に至る。記者の「報道実現権」を主張、朝日相手の不当差別訴訟は、戦前同様の報道規制に道を開く裁判所のデッチ上げ判決で敗訴に至る。その経過を描き、国民の「知る権利」の危機を訴える「報道弾圧」(東京図書出版) 著者。