1. 中央紙は安保関連法案に反対する12万人規模集会をどう報じたのか?

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2015年08月31日 (月曜日)

中央紙は安保関連法案に反対する12万人規模集会をどう報じたのか?

【サマリー】30日に安保関連法案に反対する集会が開かれ、主催者の発表で東京だけでも12万人が参加した。この大規模集会を中央紙はどう扱ったのだろうか。朝日、読売、毎日、産経を検証した。

  結論を先に言えば、4紙とも一応は大規模集会を報じているが、別の問題もある。海外派兵に対して、一貫して警鐘を鳴らしてこなかったことである。

安保関連法案に反対する全国規模の集会を中央紙はどう報じたのだろうか。

この集会は、「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」が主催して30日に行われたもので、東京集会の場合、主催者の発表で12万人、警察の発表で3万3000人が参加した。安保法制に反対する過去最大の集会である。事実、永田町から霞が関にかけての路上は人であふれかえっていた。

わたしは霞が関で行われた集会に参加した。灰色の空と小雨。日比谷公園の霞門のそばに停車した街宣車を中心に、弁護士会館前の大通りを挟んだ向かいの歩道や、日比谷公園の中にも人が押し掛けて混雑した祭りの場のようだった。人の波で容易に前に進めない。演説に呼応して拍手が起こるたびに、赤や青、それに黄などのおびただしいのぼりやプラカードが揺れ動く。

永田町へ通じる幹線道路も人々が往来して、あちらこちらに留まった街宣車の上で演説する人の声が聞こえていた。これだけ大規模な抗議行動をわたしはこれまで見たことがなかった。

◇朝日と毎日が大きく報道

さて31日付けの中央紙各紙は、この抗議行動をどう伝えたのだろうか。朝日、読売、毎日、産経の報道を検証してみよう。

【朝日】第1面で報道。2面の「時事刻々」でも取り上げている。さらに社会面でも大きく扱っている。

【読売】社会面で報じているが、2段扱い。ちなみにこの記事のタイトルは、「安保法案『反対』『賛成』デモ」「土日の国会周辺や新宿」と、なっており、安保法制に反対する動きが空前の規模で広がっている事実を伝えたものではない。これが読売が得意とする「客観報道」らしい。つまらない記事である。

【毎日】第1面と社会面で報道。安保法案賛成派の集会についても、社会面で3段扱の記事を掲載している。

【産経】社会面で報じている。

◇ピント外れな第1面トップ記事

中央4紙は、一応は30日の抗議活動を報じているが、朝日と毎日は大きく報じ、読売と産経は小さく報じた。

この抗議行動を第1面のトップ記事(右上段の記事)扱いにした社は1社もなかった。第1面のトップには、最も重要な事件と判断されたニュースが掲載されるが、中央4紙の編集幹部は、30日の抗議行動を大変な歴史の1ページとして受け止めなかったようだ。

参考までに、31日付け朝刊の第1面のトップ記事を紹介しておこう。

【朝日】「住宅耐震82% 鋭い伸び」「13年推計 高齢世帯に負担感」

【読売】「群大術後死 新たに12例」「計20例、専門医分析へ」

【毎日】「訪日客向け『民泊』拡大」「住宅の空室活用」

【産経】「スズキ、VWと提携解消へ」「仲裁採決定 株買い戻し4600億円」

ピントが外れているとしか言いようがない。新聞に対する軽減税率の適用除外が恐くて、報道を自粛しているのだろうか。

◇危険で過激な自民党

そもそも海外派兵がPRされ始めたのは、1990年代の初頭からである。そして小渕政権の下、1999年に新ガイドライン、住民基本台帳法、通信傍受法、それに国旗・国歌法などが矢継ぎ早に成立して、海外派兵への道を切り開き始めたのである。その時の自民党の幹事長が野中弘務氏である。

この時点で自民党が極めて危険な政党であること、いずれ日本が現在の状況に直面することは十分に予測できたはずなのに、マスコミはそれに警鐘を鳴らすどころが、2大政党制のレールに乗って進められていた軍事大国化を後押ししてきた。

大事な問題に限っては、報道が極端に遅れる。あまり大事ではない問題は早い。エネルギーを傾ける対象が間違っていることが多い。

新聞ジャーナリズムの評価は、特定の事件をどう報じたのかだけではなく、もっと長い期間における報道姿勢を見極めながら定めるべきだろう。