の検索結果

2015年02月24日 (火曜日)

京都新聞の「押し紙」裁判が和解解決、販売店の実質勝訴も、店主は裁判所に対する不信感

 京都新聞社の販売店が、配達部数を超える新聞の仕入れを強制されたとして起こしていた裁判が、1月に和解していたことが分かった。京都新聞社側が店主に和解金、300万円を支払った。

裁判を起こしていた店主は、1988年から2店舗を経営していたが、過剰な新聞部数(「押し紙」)の卸代金を負担できなくなり2011年に自主廃業に追い込まれた。買い取りを強いられていた新聞部数は、廃業前には搬入される新聞の2割を超えていた。

たとえば同年の1月の場合、販売店への新聞の搬入部数は約6000部だったが、このうちの約1550部が過剰になっていた。これらの新聞は、包装を解かないまま、トラックで回収されていた。

「押し紙」とは、新聞社が新聞販売店に搬入する新聞のうち過剰になっているものを意味する。たとえば2000部を配達している販売店に、3000部を搬入すれば、差異の1000部が「押し紙」である。「押し紙」に対しても、新聞社は卸代金を請求する。

それゆえに「押し売り」のニュアンスで「押し紙」と言う。

日本の新聞業界には、「押し紙」が慣行化しており、水面下の社会問題になってきた。現在も解決には至っていない。

新聞社は「押し紙」で、販売収入を増やすだけではなくて、新聞の公称部数をかさ上げすることで、紙面広告の価格を押し上げる。そのために広告主企業からも批判の声があがっている。環境問題の観点から、紙資源のムダとの批判もある。

裁判を終えた販売店主は、和解金300万円に納得しておらず、「こんなことになるのであれば、現役の時に裁判を起こしておくべきだった」と裁判所に対する不信感を露わにしている。

一方、京都新聞社は、「(和解は)裁判所からの提案で、この件については、何も申し上げることはございません」と、話している。

2015年02月23日 (月曜日)

あやうくなってきた対等に裁判を受ける権利、1億円の名誉毀損裁判で被告は、着手金だけで800万円、日弁連の重い責任

教育や医療、福祉サービスなど人間としての基本的権利は、本来、憲法で保障されているはずだ。貧乏だから学校で学べないとか、病院や介護施設に入所できないといった実態があってはならない。が、新自由主義=構造改革を導入した結果、これらの最低条件すらも奪い去られようとしている。

裁判を受ける権利についても、すでに経済力の差が判決を決めかねない状態になっている。正義と金が結合しはじめている。かつて日弁連は、弁護士報酬を定めていた。たとえば、一般法律相談料の場合は、「30分ごとに5000円以上2万5000円以下」だった。

ところが、小泉内閣が押し進めた司法制度改革の結果、2004年4月から弁護士報酬が自由化された。その結果、勝率の高い弁護士事務所が設定する弁護士報酬が高騰している。

次に示すのは、「人権派」「無罪請負人」として有名な法律事務所ヒロナカ(弘中 惇一郎弁護士)のウエブサイトに掲載されている費用体系である。

1. 一般民事訴訟
   着手金:(1)原告の代理人となる場合 係争金額の5%
       (2)被告の代理人となる場合 係争金額の8%

    ただし、着手金の最低金額を30万円とする。
  成功報酬:(1)原告の代理人となる場合 獲得金額の10%
       (2)被告の代理人となる場合 防御金額の7%

    を基準とする。
   
   なお、事件がきわめて難解な場合には50%の範囲での増額、訴訟物価格が高額な場合(1億円を超える場合)、及び簡易な場合には50%の範囲で減額があることとし、これについては、協議の上決定する。

  ただし、報道名誉毀損事件 原告側については
  着手金:実費以外なし
  成功報酬:実費を加えて獲得金額の50%とすることもある。

さらに、日当は、「片道2時間以上の地方へ出張の場合 1日5~10万円」で、相談料は、1時間3万円である。尋常な額といえるだろうか?。詳細は、次の通りである。

 ■法律事務所ヒロナカの弁護士費用

 ■(旧)日本弁護士連合会報酬等基準

◇日弁連の政治団体から政治献金

わたしが興味を惹かれたのは、報道関連の名誉毀損事件では原告側の着手金が「実費以外なし」で、成功報酬が「実費を加えて獲得金額の50%とすることもある」と記されていることである。つまり名誉毀損裁判を起こしやすい環境を準備しているのだ。

高額の名誉毀損裁判が増えている背景ではないだろうか?

また、被告の弁護を引き受ける時の着手金については、「被告の代理人となる場合 係争金額の8%」と明記されている。この基準にそくして、たとえば1億円の名誉毀損裁判を起こされた被告の場合を想定してみると、着手金だけで800万円にもなる。これでは被告は、勝訴しても多大な損害を被る。

このところSLAPP(高額の恫喝訴訟)が増えている背景に、新自由主義=構造改革の中で行われた司法制度改革があるようだ。政治家と日弁連の責任は重い。

なお、日弁連の政治団体・日本弁護士政治連盟から、国会議員に政治献金が支出されている。2013年度は次の通りである。

◇献金先の議員と政党

藤田幸久(民主):5万円
北神圭朗(民主):5万円
世耕弘成(自民):10万円

溝手顕正(自民):5万円
衛藤晟一(自民):5万円
川上義博(民主):5万円

小川勝也(民主):10万円
鈴木寛(民主):10万円
米山隆一 (維新):10万円

林芳正(自民):10万円
いそざき陽輔(自民):5万円
松野信夫(民主):10万円

岡崎トミ子(民主):10万円
吉田はるみ(民主):5万円
大河原雅子(民主):10万円

島村宜伸(自民):10万円
古川俊治(自民):10万円
水野けんいち(みんな):10万円

谷ひろゆき(民主):5万円
山本一太(自民):10万円
辻泰弘(民主):10万円

宇田こうせい(減税日本):10万円
愛知治郎(自民):10万円
森まさこ(自民):10万円

公明党東京都本部:10万円
公明党埼玉県本部:10万円
公明党大阪府本部:5万円
公明党京都府本部:5万円
公明党神奈川県本部:10万円
公明党愛知県本部:10万
公明党香川県本部:5万円円

政治資金収支報告書PDF

2015年02月21日 (土曜日)

『秘密保護法』(集英社新書)、 言論を弾圧するための「ざる法」③

 なぜ、特定秘密保護法がジャーナリズム活動やブログによる情報発信、それに住民運動などを骨抜きにしてしまう危険性を秘めているのだろうか。第3章の執筆者・林克明氏は、同法の22条を柱に据えて説明している。22条は、この法律が海外からも、「平成の治安維持法」と評価されていることに配慮して、次のように述べている。

(第1項)この法律の適用にあたっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。

この条文を受けて、下記の第2項で、「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については」例外にすると「言い訳」している。

(第2項)出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。

が、問題は「出版又は報道の業務に従事する者」の定義である。フリーランスのジャーナリストや編集者、カメラマンは、「出版又は報道の業務に従事する者」に含まれるのか?。あるいはブロガーは、これに該当するのか?。さらには住民運動の機関紙を制作する者はどうなのか?

森雅子・内閣府特例大臣(当時)は、フリーランスも「出版又は報道の業務に従事する者」に含まれると、国会答弁している。しかし、フリーランスに対する露骨な差別は、昔から存在していた。

本書で林氏は、豊富な具体例を紹介している。

たとえば鉄道事故を取材していたフリージャーナリストが、ある事故について警察に問い合わせたところ、「自称記者には対処しません」と言われた。それまでは取材に応じていたが、ある日を境に拒否されるようになったという。警察に足を運び、原因を探ったところ、TWITTERで警察を批判したことが原因らしいことが分かった。

つまり「出版又は報道の業務に従事する者」であるかどうかを判断するのは、特定秘密保護法を手に入れた警察の側なのだ。

◇われらが「島」

さらに第22条2項には、別の重大問題もある。取材活動を正当と認めるための条件が付されている点である。しかもその条件は、恣意的な拡大解釈を可能にするものである。次の箇所だ。

 専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限り(取材活動は正当)

改めて言うまでもなく、取材活動に公益性があり、法令を遵守し、不当な取材方法ではないと判断するのは、特定秘密保護法を運用する側である。たとえば、外務省による中東への渡航中止勧告を無視して、現地に入り、特定秘密情報に指定されている問題を暴けば、第22条による「特別救済」は対象外になる。

第22条は、どうにでも解釈できる「ざる法」の典型にほかならない。

もちろんジャーナリズムの代表的な手法である潜入取材などはできなくなる。真実を知ることができない状況は、長い目でみれば、国益を損なう。日本を脱出する人が増えるのは確実だ。その結果、われらが「島」はますます欧米から取り残され、孤立することになる。

2015年02月20日 (金曜日)

『秘密保護法』(集英社新書)、共謀罪・盗聴法との関係②

『秘密保護法』の第2章は、足立昌勝・関東大学名誉教授の執筆である。足立氏は、秘密保護法に連動して共謀罪と盗聴法が果たす負の役割についても、認識する必要性を訴えている。
共謀罪について足立氏は、次のように言う。

人が殺人をしようとした場合、計画から始まり、準備し、実行し、結果を発生させます。計画を除いたそれらは、予備・未遂・即遂という犯罪にあたりますが、それぞれは個別の犯罪というより一連の動きであり、一つのものとしてとらえたうえで判断を下すというのが常識的な解釈でした。

ところが共謀罪が適用されると、「犯罪の実行行為がなくても2人以上で話し合うなどすると処罰される」ことになる。

たとえば原発による土壌汚染についてのデータが特定秘密に指定されたと仮定する。しかし、土壌汚染は住民の生命に直接かかわる問題なので、データの入手が必要と判断したジャーナリストAが、雑誌の編集者Bにこのデータを入手する方法について相談を持ちかけたとする。

この時点で、2人の会話が警察に傍受されていれば、共謀の証拠となり、2人に対して「共謀罪」が適用されてしまう。傍受(盗聴)を警察が合法的に実行するためには、盗聴を合法化する法律が必要になる。特定秘密保護法と共謀罪、それに盗聴法が整合性をもった3点セットになっているゆえんである。

さらに次のような事情もある。
周知のように特定秘密保護法を運用するためには、公務員など情報を管理する立場の人々が、管理者としての適正があるか否かを「審査」しなければならない。たとえば防衛省にスパイが潜り込んでいれば、防衛秘密が外部へもれかねないからだ。

そこで情報管理を担当する人々の「適正検査」が行われる。これを担当するのは、公安警察だと言われている。

具体的にどのような方法で「適正検査」を実施するのか?。結論を先に言えば、それは身元調査である。監視カメラなどを使った個人情報の収集、スパイを使った聞き込み、さらには盗聴である。実際、特定秘密保護法と連動して、盗聴法も改悪され、その運用範囲が大幅に広がっている。

◇野中広務氏の「転身」

盗聴法が最初に成立したのは、1999年である。この年、小渕内閣の下で、日本の軍事大国化につながる重要法案が矢継ぎ早に成立した。前年に再販制度という新聞社の既得権を政治家に守ってもらった新聞・テレビは何の抵抗もしなかった。

成立した法案は、周辺事態法、盗聴法、国旗・国家法、改正住民基本台帳法である。後にこれらの法律は、特定秘密保護法の運用と連動してくる。

さらに後年、テロ特措法(2001年)と有事関連3法(「武力攻撃事態法」「自衛隊法改正」「安全保障会議設置法改正」2003年)が成立している。これらの延長戦上に特定秘密保護法があるのだ。

辺見庸氏は、『私たちはどのような時代に生きているか』の中で、野中氏が官房長官だった1999年の通常国会を指して、次のように述べている。

1999年の諸問題は、もちろん、ここに至る長いプロセスがあって、突然に降ってわいてきたわけではないのですから、結果だけを論じることはできないのです。ともあれ、僕としては99年問題の重大性を最大限強調したい。年表で言えば、ここはいちばん太いゴチックにしておかないとまずい。

当時の小渕内閣の官房長官は、現在、憲法9条の重要性を訴えている野中広務氏である。

わたしは、考え方を変えるのが悪いと言っているのではない。大きな影響力を持つ人物でありながら、それまで自分が指揮した政策のどこが誤っていたのかを公にしていないから問題なのだ。

野中氏の「転身」を受け入れる側も、寛大すぎるのではないか?周辺事態法、盗聴法、国旗・国家法、改正住民基本台帳法といった法律が、すべて特定秘密保護法に連動している事実を見据えるとき、野中氏の責任は重い。

2015年02月19日 (木曜日)

『秘密保護法』(集英社新書)、逮捕理由が知らされない特定秘密保護法下の暗黒裁判①

『特定秘密保護法』(集英社新書、宇都宮健児、堀敏明、足立昌勝、林克明著)の第1章(堀敏明弁護士の執筆)に、特定秘密保護法を根拠に逮捕された場合の裁判についての記述がある。

周知のように特定秘密保護法の秘密情報は、次に示す19の行政機関の長によって指定される。

①国家安全保障会議 ②内閣官房 ③内閣府 ④国家公安委員会 ⑤金融庁 ⑥総務省⑦消防庁 ⑧法務省 ⑨公安審査委員会 ⑩公安調査庁 ⑪外務省 ⑫財務省 ⑬厚生労働省⑭経済産業省 ⑮資源エネルギー庁 ⑯海上保安庁 ⑰原子力規制委員会 ⑱防衛省 ⑲警察庁

もともとこの法律は、軍事大国化の下で、必然的に不可欠になる米軍と自衛隊の共同作戦の際に生じる秘密事項を保持する法的根拠を得るために打ち出された。しかし、いざ蓋をあけてみると、秘密指定の権限をもつ行政機関が19省庁に広がり、しかも、拡大解釈で国に不都合な情報のほとんどが秘密指定できるようになっている。たとえば、原発に関する情報・・・・

しかも、何が特定秘密情報に指定されているのかは公表されない。秘密である。と、なれば当然、特定秘密保護法の容疑で逮捕された場合、問題となるのは、警察に拘束された者に対して、どのような特定秘密情報が原因で逮捕されたかを伝えられないことだ。かくて逮捕状を示された瞬間、

「えっ、どうしてわたしが」

と、自問することになる。

通常の刑事裁判のプロセスについて堀弁護士は、次のように述べている。

「刑事裁判の出発的は、検察官作成の起訴状です(刑事訴訟法256条)。起訴状には、被告人の氏名など被告人を特定する事項、公訴事実(検察官が起訴した犯罪事実)、罪名だけを書くことになっています。また、公訴事実については『できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない』として、検察官にその証明すべき犯罪事実を明示し、被告人に十分な防御活動ができるよう争点の明確化を求めています。」

ところが特定秘密保護法を根拠とした裁判では、検察がどのような公訴事実を問題にしているのかを、逮捕された本人はもとより、弁護士も、第3者も知ることができない。一方、裁判官は、次のような対処を求められる。

「インカメラ審理(裁判官だけが証拠を閲覧できる)の導入も検討されているようですが、この方法では、裁判官が特定秘密に該当すると判断した場合には、その情報が被告人や弁護人に開示されることはありません」

◇事実の共通認識を避ける愚法

さて、公訴事実が被告人と弁護士に知らされない状況の下で、裁判は成立するのだろうか?たしかに形式だけの裁判であれば可能だ。

しかし、刑事裁判の究極目的が真実の検証と「罪の償い」にあるとすれば、その目的からは完全に逸脱してしまう。思考の原点は、事実の確認と認識であるから、問題となっている事実の中身が不明では、問題解決への道は一歩も進まない。

普通、空想の世界と現実の世界には、ギャップがある。それを埋め合わせるのが、事実の検証作業なのだ。

日本には、こうした思考プロセスを無視した現象がいたるところにある。

たとえば、ある新聞社の実配部数(実際に配達している部数)が400万部しかないのに、800万部あるという誤った認識を前提に、新聞業界のありかをいくら議論しても、なんの解決にもならない。時間の無駄である。肺に癌ができている客観的事実があるのに、肺炎という誤った前提で治療を続けても、効果はあがらない。医療費の浪費である。

事実が何であるかを、さまざな角度から検証し、コミュニケーションをはかり、事実の共通認識を獲得しなければ、議論は一歩も進まない。特定秘密保護法を根拠にした裁判では、そのプロセスを完全に無視するわけだから、軍事裁判、でっち上げ裁判と同じである。

わたしは事実の共通認識を経ずに執筆した判決文がどのようなものになるのか、暗い好奇心を抱いている。おそらく論理が破たんした支離滅裂なものになるのではないか。第一、特定秘密情報を知っている検察官と、知らない被告の主張の整合性、あるいは議論の噛み合いを、判決文でどう表現するのだろか。不可能だ。議論の土俵そのものが最初から公平ではない。

また、訴因となった特定秘密情報が何であるかを判決の中には、明記できないわけだから、第3者が読めば、意味不明瞭になる可能性が高い。このような裁判が、憲法で保障された裁判を受ける権利に反していることは論を待たない。

2015年02月17日 (火曜日)

「身体の細胞は微弱な電気で動く」、電磁波に毒性がある理由、特定秘密保護法と基地局とスパイ活動

携帯電話やスマートフォン、それにワイヤレスPCの普及が進むにつれて、無線通信に使われる電磁波の危険性が指摘されるようになった。しかし、なぜ電磁波が危険なのかを知らない人が大半を占める。

多くの人々が理解していないこの問いに反応するかのように、『THE BIG ISSUE  JAPAN 142』号で、北里研究所病院の宮田幹生名誉教授が次のように明快な答えを述べている。

 身体の細胞は電気で、しかもごく微弱なもので動いているんですね。だから、電磁波が身体に影響しないわけがないんです。

 電磁波は身体を酸化させるんですね。ですから酸化防止装置の少ない精子は、電磁波により死んでしまうことがわかっています。また、神経を変性させ、認知症、筋萎縮性測索硬化症などになるとの報告もあります。

身体の細胞が微弱な電気で制御されていることを知っていれば、電磁波が人体に影響を及ぼす原理は、小学生でも理解できる。

確かに人体には外界からの刺激に対して防御作用が備わっているが、それにもかかわらず、たとえば携帯電話の基地局の近くに住んでいる人が、1日24時間、365日、電磁波(マイクロ波)に被曝した場合、1年後、あるいは5年後、さらには10年後といった長期被曝の後に、防御の限界に達し、何らかの障害を背負うことになりかねない。

事実、携帯基地局の周辺で癌の発生率が高いことは、海外で行われた複数の疫学調査で明らかになっている。次に示すのは、ブラジルのミナス・メソディスト大学が行った疫学調査の例である。すでにMEDIA KOKUSYOで紹介したが、再録しておこう。

結論を先に言えば、基地局から半径500メートルの円周内で、癌のリスクが高くなることが分かった。1万人あたりの癌による死亡数と、基地局からの距離は、次のようになっている。明らかな関連が観察できる。

距離 100mまで:43.42人
距離 200 mまで:40.22 人
距離 300 mまで:37.12 人
距離 400 mまで:35.80 人
距離 500 mまで:34.76 人
距離 600 mまで:33.83 人
距離 700 mまで:33.80 人
距離 800 mまで:33.49 人
距離 900 mまで:33.21人
距離 1000mまで: 32.78人
全市        :32.12 人

 参考: 携帯基地局から200メートル以内、発癌リスクが極めて高い、ブラジルの調査でも判明、日本では秘密保護法の施行で情報ブロックも

◇若年性アルツハイマーの予備軍?

欧米では電磁波が人体に及ぼす影響は、常識として定着し、未成年に対して使用制限などの措置を取っている国(フランス、イギリスなど)もあるが、日本は実質的に規制がない。日本と欧米の違いは、携帯電話に使われるマイクロ波の規制値を比較すると、そのことが一目瞭然だ。

日本:1000μW/m2

EU:0.1μW/m2(提言値) 室内は、0.01W/m2

日本の規制値は、EUよりも1万倍も緩い。規制にはなっていない。しかも、幼児までが携帯電話やスマートフォンを使っている。あるいはオモチャにしている。幼児の「ヘビーユーザー」の中から、若くして癌、白血病、アルツハイマー、パーキンソン病などを発症する者が多発する可能性が高い。

余談になるが、最近、LED照明の危険性も指摘されはじめている。

参考:危険が指摘され始めたLED照明(ブルーライト)による人体影響、理学博士・渡邉建氏インタビュー① 

参考:危険が指摘され始めたLED照明(ブルーライト)による人体影響、理学博士・渡邉建氏インタビュー② 

◇特定秘密保護法と携帯基地局

政府は、なぜ、携帯基地局の設置を規制しないのだろうか。
最近、私はある仮説を検討している。日本から携帯電話の「圏外」をなくすことで、国家が国民ひとりひとりの位置情報を把握しようという意図があるのではないだろうか。周知のように、携帯電話を所持していれば位置情報を把握することができる。

基地局の設置を規制しない背景には、日本の軍事大国化に伴うスパイ網の構築という課題がある。

安倍内閣は、「愚民政策」を背景に特定秘密保護法を筆頭に軍事立法の整備を進めているが、公安警察が個人情報、特に左翼関係者の位置情報を把握するためには、日本から「圏外」をなくす必要がある。そこで補助金を支給してまで、僻地に携帯基地局を設置しているのではないだろうか?

こうした推測が正しければ、携帯基地局に関する情報は、すでに特定秘密情報に指定されている可能性が高い。

2015年02月16日 (月曜日)

だれが後藤健二氏をイスラム国へ送り込んだのか、調査の前に立ちはだかる特定秘密保護法の壁

イスラム国報道でメディアの自主規制が露骨になっている。それが高じて、タブーになった領域もある。その典型例は、後藤健二氏と湯川遥菜氏をめぐる事件の背景である。真実は何か?

両氏が巻き込まれたテロ行為に対する批判と追悼とは別に、どのような経緯で事件に巻き込まれたのか、事実を明らかにしなければならないが、多くのメディアがこの作業に尻込みしている。

その背景に最高罰・禁固10年の特定秘密保護法の存在があるのではないか?同法は、基本的には軍事立法であるから、軍事に関連する情報の大半は特定秘密に指定されている可能性が高い。したがって日本政府が「人道支援」を行った紛争地帯で起きた誘拐・殺人事件を検証すると、日本政府や有志連合との接点が浮上してくる可能性がある。

まして湯川氏の場合は、(株)民間軍事会社の設立者である。単なる戦争マニアではない。同社の顧問には、自民党の元茨城県議が就任しているありさまだ。湯川氏と元航空幕僚長・田母神俊雄氏の懇意な関係を示す写真も多数存在する。

 参考:湯川氏と田母神氏の写真

ちなみに安部内閣は、昨年の4月に閣議決定により、武器輸出を原則禁止から、条件付きで認めることを取り決めた。こうした軍事大国化の流れの中で、民間企業が海外の紛争地帯で、戦争ビジネスを展開できる温床ができあがったのである。

したがって湯川氏に関する真実に迫ると、特定秘密保護法に抵触する可能性が出てくる。メディアが報道を自粛して、湯川氏を単なるテロの被害者としてしか報じないゆえんではないか。

◇米軍も不可能な救出を後藤氏ができるのか?

後藤氏についても、優れた戦場ジャーナリストという報道に終始している感がある。しかし、湯川氏を救出するためのスケジュールに不自然な点があることが、一部のブログで指摘されている。次のブログである。

■後藤健二の疑惑 - マスコミが正確に報道しない湯川遥菜との関係

わたしはこのブログの内容を全面的に肯定するわけではないが、少なくとも次の箇所は、調査する必要があると考えている。

昨夜(1/20)のテレビ報道を見ていると、後藤健二は、湯川遥菜が8月にシリアでイスラム国に拘束された件について、自身が責任を感じており、イスラム国に潜入して身柄を救出する準備を進め、10月下旬にそれを実行している。

10月22日にトルコに向かい、23日にトルコのコーディネーターに電話をかけ、24日に国境の町で接触し、25日に国境を越えてイスラム国の首都であるラッカに向かっている。帰国予定は10月29日だった。29日に帰国ということは、28日にイスタンブールから飛行機に乗らなくてはいけない。

テレビ報道でのトルコのコーディネーターの証言だと、27日になっても帰らなかった場合、家族を含めた5件の連絡先に電話を入れてくれと後藤健二に頼まれ、本人の携帯電話を直に渡されたと言っていた。ここから察知できることは、後藤健二による湯川遥菜救出の行動がきわめて短期の計画だったということだ。25日に国境を越えてシリアに潜入し、27日には再び国境を超えてトルコに戻っていなくてはいけない。

2泊3日の行程。つまり、後藤健二は何も事前に情報のないままイスラム国(ラッカ)に入ったのではなくて、イスラム国側のコーディネーターの手引きに従い、イスラム国側との打ち合わせに従って、本人の主観からすれば、湯川遥菜の身柄を引き取りに行ったのだ。現地で時間をかけて捜索するのではなく、調整した約束どおりに素早く身柄を引き取って戻ってくる予定だったのだ。

2泊3日の予定でイスラム国に入ったとすれば、「イスラム国側のコーディネーターの手引きに従い、イスラム国側との打ち合わせに従って、本人の主観からすれば、湯川遥菜の身柄を引き取りに行った」可能性が高い。

日本政府が当時、イスラム国とどのような折衝をしていたのかは、外務省所管の独立行政法人「JICA」に勤務する後藤氏の妻に、イスラム国から身代金の要求があったことなどを除いて、ほとんど公表されていないが、このあたりの事情に関する情報も特定秘密に指定されている可能性がある。

湯川氏の居場所があらかじめ分かっていたから、あるいは湯川氏のもとに案内してもらう事前約束があったから、2箔3日の予定になったのではないか。まったく未知の土地で、米軍ですら探し出せない「捕虜」を1日で救出するのは不可能だ。

わたしは後藤氏が誰かから依頼されて、湯川氏を引取りに行った可能性が高いと考えている。単独の行動ではない。誰が後藤氏を、イスラム国へ送り込んだのかを解明する必要がある。しかし、その前に安倍内閣が昨年末に施行した特定秘密保護法の壁が立ちはだかっている。情報開示を求めると、逮捕されかねない。

2015年02月13日 (金曜日)

外務省からパスポートを没収されたカメラマンが外国特派員協会で会見、没収事件と特定秘密保護法の接点が浮上

昔、小学校の教員に、「学習塾に自分の生徒を奪われて屈辱を感じませんか」と尋ねたことがある。教員は、「特に感じません」と答えた。

外務省にパスポートを取り上げられ、シリア取材を中止せざるを得なくなったカメラマン・杉本祐一氏が、外国特派員協会で、この事件についての記者会見を開いたことを知ったとき、わたしはかつて教員が呟いた「特に(屈辱を)感じません」という言葉を思い出した。

このところ民主主義の運命にかかわるような重大事件についての記者会見に限って、日本の新聞・テレビが牛耳る記者クラブではなくて、外国特派員協会で行われるようになった。それが慣行化した。これは、「日本の新聞・テレビはダメ」という共通認識がすっかり定着した証にほかならない。

最近の例をあげると、イスラム国で殺された後藤健二氏の母親・石堂順子氏の会見。最高裁事務総局の腐敗を内部告発した元裁判官・瀬木比呂志氏の会見。原発フィクサーからスラップを仕掛けられた社会新報編集部の田中稔氏・・・

重大問題は、外国特派員協会が記者会見を主催するという奇妙な現象が、すでに定着している。

当然、「日本の新聞人とテレビ人は、第1級のニュースソースを海外のメディアにさらわれて屈辱を感じないのか?」という素朴な疑問が湧いてくる。全員ではないにしろ、新聞・テレビで働いている人は、ジャーナリストではなく、ニュース価値を判断できない情報処理係である可能性が高い。

◇特定秘密保護法第22条のトリック

幼稚園でルールを守る。学校で校則を守る。会社で社則を守る。国の法律を守る。こうした生活歴の積み重ねが築いた秩序の中で、「おかみ」に反旗を翻してシリアを取材している朝日新聞の記者を、読売新聞が暗に批判する記事を掲載した。また、カメラマン・杉本祐一氏が外務省により、パスポートを没収される異常な事件が起きた。

なぜこれらの事件が重いのだろうか。それは既に施行されている特定秘密保護法の下で、2人のジャーナリストが最初の逮捕者になる可能性があるからだ。

メディア関係者には、見過ごせない事件なのだ。

周知のように特定秘密保護法は、極めて広範囲の人々を適用対象にしている。秘密を「管理」する側だけではなくて、秘密を引き出そうとする人々、すなわち新聞記者やジャーナリストも、取り締りのターゲットになっている。

たしかに秘密保護法の第22条は、次のように出版や報道の仕事に従事している人々の活動は、適用対象外にしているが、別の問題がある。まず、第22条を精読してほしい。

出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。

この条文を安易に読み流すと、一見、特定秘密保護法の下でも、言論の自由は保障されているかのような印象を受けるが、赤字の部分に注意してほしい。

カメラマンの杉本氏がパスポートの提出を拒否してシリアへ渡り、取材活動を展開し、たとえば民間軍事会社の実態を暴露したとする。仮にこの民間軍事会社の業務内容が特定秘密に指定されていたら、杉本氏は、「法令違反又は著しく不当な方法」で取材を断行したことを理由に逮捕されることになる。

刑罰は最高で懲役10年。

朝日記者も、外務省の意に反して「著しく不当な方法」で取材したとみなされ、逮捕されかねない。

つまりいくら第22条があっても、取材者の行動を無理やりに「法令違反又は著しく不当な方法」として理由づけてしまえば、特定秘密保護法で言論を取り締まることができる仕組みになっているのだ。

と、なればメディア関係者は今後、原発や企業に潜入して取材するなどの手法を使えなくなる。取材先にいきなり押しかけて、マイクを向けるのもNG。

今回、杉本氏がパスポートを没収された事件は、極めて高いニュース価値を有している。それゆえに外国特派員協会が記者会見の会場になったようだ。

日本の新聞・テレビはいまや、その存在価値すらも問われている。

記者会見の内容については、次のリンクへ。杉本氏は提訴する構えだ。

  「欧米ではパスポートをもつのは市民の権利」 外国人記者が「旅券返納」に驚き

2015年02月12日 (木曜日)

白鵬の審判団批判とスポーツの政治利用、大衆をターゲットにしたメディアによる世論誘導

メディアを利用した洗脳は、編集長に洗脳しようという意図がなくても、大規模に進行することがある。

たとえば、新聞や雑誌、あるいはウエブサイトのスポーツ報道で「頑張れ、ニッポン!」を繰り返していると、国民全体が知らない間に愛国心に染まっていく。テニス・プレーヤーの錦織圭の活躍を繰り返し報道していると、日本人の「優位性」を感じる層が増えていく。

スポーツの政治利用は古くから行われてきた。その中心的な役割を担っているのが、メディアであるが、記事を執筆・編集する側は、自分たちのスポーツ報道が国民にどのような負の影響を及ぼしているのかを自覚していないことが多い。

去る1月25日に、横綱・白鵬が33回目の優勝を果たした。その翌、記者会見の場で白鵬は、稀勢の里との対戦をふり返り、審判団を批判した。それが波紋を広げた。審判団批判はふさわしくないという趣旨の記事が次々と掲載されたのだ。白鵬をとがめる故大鵬婦人のコメントまで紹介された。

直接に白鵬をバッシングしていなくても、記事の行間から、「審判団批判は許さぬ」と言わんばかりのトーンが伝わってくる。

この「事件」に関する記事を検索するとおびただしい数になる。「事件」から2週間が過ぎても、スポーツ紙はいまだに白鵬批判を続けている。

当初は、朝日、読売、毎日、産経といった中央紙もこの「事件」を取り上げていた。次に示すのは、そのほんの一部である。いずれも電子版で、記事のタイトルと日付を抜書きしてみた。

「唐突」だった横綱白鵬の審判部批判なぜ…言葉の影響力再認識してほしい(産経新聞 2月7日)

宮城野部屋が稽古再開 審判部批判発言の白鵬は姿見せず(デイリースポーツ 2月6日)

大相撲「白鵬騒動」 外国人は劣等感を背負う運命?(週刊朝日2月4日)

バラエティー番組で謝罪 白鵬を増長させた相撲協会の“腐敗”(日刊ゲンダイ 2月2日)

白鵬、TVナマ謝罪から一夜明け審判部批判の質問にはだんまり(サンケイスポーツ 2月2日)

白鵬の審判批判問題は幕引き 相撲協会、責任追及せず(朝日新聞 2月1日)

白鵬「おわびしたい」=審判部批判で謝罪(時事通信 1月31日)

<大相撲>白鵬スマステで謝罪「迷惑、心配をかけおわび」(毎日新聞 1月31日)

<大相撲>ご法度の審判批判 「優等生」白鵬の胸の内は?(毎日新聞 1月31日)

謝罪は親方のみ 審判批判の白鵬はなぜ自ら頭を下げないのか(日刊ゲンダイ 1月29日)

審判部批判の白鵬、TV番組で「おわびしたい」(読売新聞2015年02月01日)

 北の湖理事長、親方を直接注意…白鵬の批判問題(読売新聞2015年01月30日)

◇「期待される人間像」

審判団の判定には絶対服従。これは、突き詰めれば、目上の人の言葉には服従するのがあたりまえという思想にほかならない。儒教の影響があるのかも知れないが、極めて前近代的な考え方である。

実は、このような意識は、学校教育の中でかなり巧みに植えつけられてきた。その典型例は、1960年代に中央教育審議会が打ち出した「期待される人間像」にみる教育観である。

誰に「期待される人間」になるように教育するのかは明記していないが、結論を先に言えば、企業や目上の人である。文句を言わない「イエスマン」になって、会社のために働く人間を作ることが教育の目的という観点に立って、学校教育が行われてきたのである。

それが高度経済成長期の「猛烈社員」を生み出した。

◇大衆がターゲット

白鵬による審判団批判についての記事に見られる思想は、軍事大国化を進める日本政府と財界にとっては歓迎すべきものである。上官の命令に服従しなければ、戦争は出来ないからだ。

たとえば直立不動で整列した戦闘員を前に、司令官が、

「石場ッ!貴様が先陣を切って敵の陣地に突進せんか」

と、命じる。この時、戦闘員が命令に服従しなければ、作戦は進行しない。

また、企業の中でも、ブレインに属する人々は別として、作業に従事する圧倒的多数の人々は、上司の命令に服従することが求められる。

その意味では、「目上の人に対する批判=悪」の考えが、脳に刻まれることは、日本の上層にいる人々にとっては、きわめて歓迎すべきことだ。

スポーツは大衆の娯楽だ。分かりやすい。しかも、視聴者が多い。それゆえに白鵬の審判団批判は、政治利用されやすい側面を持っている。

2015年02月11日 (水曜日)

2・16秘密保護法違憲訴訟報告会&講演「辺野古最新情報」の案内

フリーランス表現者43人が提起した秘密保護法違憲訴訟の原告団は、2月16日(月)の午後6時30分より、東京都文京区「文京区民センター2A」で、『2・16秘密保護法違憲訴訟報告会&講演「辺野古最新情報」』を開く。詳細は次の通り。

日時:2015年2月16日(月)午後6時開場(6時30分開始 8時30分終了)

場所:文京区民センター2A(東京都文京区本郷4―15−14)

アクセス:交通:東京メトロ「後楽園駅」「4b」「6」出口 徒歩5分
都営地下鉄 春日駅「A2」出口 徒歩0分 JR水道橋東口 徒歩10分

入場料:無料

○第一部 秘密保護法違憲訴訟報告会

(東京原告団、横浜原告団を中心に、静岡訴訟、広島訴訟の現状報告)

○第二部 講演「緊迫する辺野古最新情報」

(森住卓 東京訴訟原告・フォトジャーナリスト)

■原告団ブログ「秘密保護法、違憲確認・差し止め請求訴訟」

2015年02月10日 (火曜日)

「シリアにおける邦人へのテロ行為に対する非難決議」、国際関係の中での憲法9条という認識の欠落 、唯一の例外は山本太郎議員

衆議院の議員数は475人 。 参議院は242人。「シリアにおける邦人へのテロ行為に対する非難決議」が、山本太郎議員を除く、716名の議員による賛成で可決された。決議日は、衆議院が2月5日で参議院が6日である。

非難決議の内容は、次のようなものである。

今般、シリアにおいて、ISILにより二名の邦人に対し非道、卑劣極まりないテロ行為が行われた。本院は、この許しがたい暴挙を、断固非難する。また、御家族の御心痛を思えば言葉もなく、誠に無念、痛恨の極みであり、深い同情の念を表明する。

このようなテロ行為は、いかなる理由や目的によっても正当化されるものではない。我が国及び我が国国民はテロリズムを断固として非難するとともに、決してテロを許さない姿勢を今後も堅持することを本院はここに表明する。

我が国は、中東・アフリカ諸国に対する人道支援を拡充することにより国際社会の平和に寄与するとともに、国連安保理決議に基づいて、テロの脅威に直面する国際社会との連携と取組を一層強化するよう、政府に要請する。

さらに、政府に対し、国内はもとより、海外の在留邦人の安全確保に万全の対策を講ずるよう要請する。

最後に、本院は、我が国国民を代表し、本件事案への対応に際し、ヨルダンを始めとする関係各国、国際機関及び関係者によって示された強い連帯と、解放に向けてなされた協力に対し、深い感謝の意を表明する。

右決議する

◇山本議員の主張

少数意見が多数意見よりもはるかに説得力がある場合がある。山本議員は、非難決議の何を問題にしたのだろうか。山本議員のウエブサイトによると、以下の3点について、考慮する必要性を感じたという。

①今回の事件の検証。イラク戦争の総括を含む。

  発覚から、犯行映像が出るまでの間、政府の指示は的確であったか?拘束から殺害まで、関係機関が、どの様なルートに繋ぎ、危機管理の最高責任者がどんな判断をしたのか。人質の存在を知りながら総選挙まで行った経緯、人質の生命が危険な状態に置かれる事を鑑みることなく行われた中東訪問と、演説内容などなど。人質の救出のために何がベストの方法であったのかも、検証が必要です。

さらに山本議員は、イスラム国を生んだ背景の検証を、有志連合によるイラク侵攻(2003年3月20日)にまでさかのぼって検証する必要性を訴えている。周知のように、米国を中心とした有志連合はフセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っているという口実で、イラクに対する軍事作戦を開始した。

が、フセイン政権が崩壊した後、大量破壊兵器が存在した事実がないことが判明している。その前に、フセインは処刑された。

イスラム国は、戦後、イラクの混乱の中から台頭してきた勢力である。これは有志連合による軍事作戦では、紛争を解決できなかったことを意味している。混乱は現在も持続しているのである。

②特定の国名の明記を避けた関係各国への謝辞。

この決議文では具体名が上がっているのは、ヨルダンですが、直接の空爆に踏み込んでいる国でもあります。現在、武力攻撃を行っている国に対して、謝辞を述べる事は、リスクがあると考えます。

それも国民の信託を受けた国会議員の決議文にそれが記される事は、有志連合と一体になって、「屈しない」「許さない」と言う話にとらえられないでしょうか?

中東地域で現在、武力による直接攻撃を行っている有志連合国とは一定の距離を置かなければ、日本国内がテロの標的にされる可能性が高まる、と考えました。

改めて言うまでもなくヨルダンは、米国の同盟国である。パイロットが殺害された後、ヨルダンがイスラム国に対して連日、「鉄の雨」を降らせていることは周知の事実である。しかも、それを非難する報道は皆無に等しい。メディアにより、イスラム国がテロ集団というイメージが広がっているからだ。

③英訳文を同時に用意する事

 総理の発言や発信が、英訳のされ方によって、考えていたよりも強い表現になってしまう、という事を私たちは何度も経験したのが、今回の事件だったのではないでしょうか。

 日本の国会議員が揃って出す決議の内容を意訳されてしまわない様に、一言一句、こちらの意図通りの翻訳で、決議内容を英訳する必要性を提案しました。

◇国際社会の中での憲法9条

私は、この非難決議の内容は、憲法9条を持つ国の議員が採択したとは思えないほど杜撰(ずさん)で形式的なものだと感じている。武力行使で紛争が解決しないことは、イラク侵攻でも、アフガニスタン侵攻でも明らかになっている。

と、なれば憲法9条を持つ日本が、外交でイスラム国問題を解決するイニシアティブを取らなくてはならない。9条を持つ日本は、国際社会の中で、そういう役割を担っているはずだ。

ところが驚くべきことに、

国連安保理決議に基づいて、テロの脅威に直面する国際社会との連携と取組を一層強化するよう、政府に要請する

と、述べているのである。これは、有志連合によるイスラム国に対する空爆を支持しますと述べているに等しい。が、客観的にみれば、「処刑」も自爆テロ(特攻隊)も、空爆も等しく重大な戦争犯罪である。

「国会議員らが烏合の衆(うごうのしゅう)になった」という声をあちこちで聞くようになったが、そのダメぶりは、非難決議に賛成する議員が716人で、修正を求めた議員が1人という結果に如実に現れた。

護憲を主張している議員も、国際関係の中での9条の役割に気づいていないのではないだろうか。

2015年02月09日 (月曜日)

読売の渡辺恒雄会長が安倍首相と会食を重ねる、言論界に重大な負の影響

時事通信の「首相動静」によると、2月5日に読売新聞グループの主筆で会長、新聞文化賞受賞者の渡辺恒雄氏が、安倍晋三首相と会食した。会食場所は、東京・飯田橋のホテル・グランドパレスにある日本料理店「千代田」である。

安倍首相が同ホテルに到着したのは、午後6時41分。会食を終えて私邸へ向かったのは、8時35分であるから、約2時間にわたって会話を交わしたことになる。何が話し合われたのかは分からない。

渡辺・安倍の両氏が会食を繰り返してきたことは、これまでもたびたび報じられてきた。たとえば2014年12月30日付けの『しんぶん赤旗』によると、それまでの会食回数は8回にも及んでいる。

取材目的の会食であれば、頭から批判するわけにもいかないが、渡辺氏がルポタージュを書くための取材を進めているという話は聞いたことがない。

ちなみに『しんぶん赤旗』によると、渡辺氏のほかにも読売関係者は、安倍首相と会食を重ねている。

白石興二社長:2回
論説主幹:7回
政治部長:1回

何が目的で政治家と広義のジャーナリストが会食を重ねているのか、目的は定かではないが、最近の新聞業界の動きを見ると、会食を通じた情交関係が有形無形のかたちで、新聞紙面や新聞人の言動に影響を及ぼしているのではないかと勘ぐりたくなる。

◇朝日記者のシリア取材

たとえば読売の紙面が以前にもまして政府よりになっている点である。実例として引くのは、MEDIA KOKUSYOで既報した次の記事である。

■朝日の複数記者、外務省が退避要請のシリア入国(読売新聞 2015年01月31日 13時33分)

 【特集 邦人人質】
 
 イスラム過激派組織「イスラム国」とみられるグループによる日本人人質事件で、外務省が退避するよう求めているシリア国内に、朝日新聞の複数の記者が入っていたことが31日分かった。

 同省は21日、日本新聞協会などに対し、シリアへの渡航を見合わせるよう強く求めていたが、朝日のイスタンブール支局長はツイッターで、26日に同国北部のアレッポに入り、現地で取材した様子を発信していた。

この報道がなぜおかしいのだろうか? それは、政府の方針から独立して取材活動をすることが常識になっている新聞記者の「抜け駆け」に、恐らくはデスクがニュース価値を感じて記事掲載に踏み切っているからだ。「あたりまえの事をなぜ記事に」という滑稽感があるのだ。

朝日記者の行動を問題視する「優等生」的な視点があるデスクでなければ、このような記事を掲載しようという発想そのものが起こりえない。

ちなみになぜ朝日記者の行動が正しいのかは単純だ。だれかが紛争地帯の内部に入らなければ、そこで本当に何が起こっているのかが分からないからだ。事実を把握しなければ、政府すらも方針を立てようがない。それを禁止するのは、事実を正確に確認しないまま政策を決める愚行に等しい。

安倍内閣がやっているのは、その愚行にほかならない。

余談になるがTBSの報道特集によると、イスラム国に詳しいヨルダンの評論家は、人質事件に対する日本政府の対応を酷評している。安倍首相は決定的な3つの過ちを犯したという。

①人質事件への対応が大幅に遅れた。

②中東訪問で、「テロ対策」に言及した。

③対策本部をトルコではなく、ヨルダンに設置した。

◇利害関係の構図

さらに一連の会食と並行して、新聞に対する消費税軽減税率の問題が政治の重要なテーマになっている事実も見過ごすことができない。会食の場で、渡辺氏と安倍首相が消費税の軽減税率について話したかどうかは不明だが、かりに新聞業界のこの要望を政府が受け入れた場合、国民の多くは、「会食効果」と推測するだろう。

結果、新聞ジャーナリズムは、ますます信頼を失うことになる。しかも、負の影響は読売一社に限定されない。他の新聞社はいうまでもなく、書籍出版の業界にもおよびかねない。

と、言うのも出版社も、新聞社と同様に軽減税率の恩恵を受けるからだ。逆説的に言えば、こうした利害関係の構図が、マスコミ業界全体に安倍首相と渡辺氏の会食を厳しく批判しない空気を生み出しているのである。

政府によるメディアコントロールと軽減税率の問題は、密室の中で同時進行しているのである。

2015年02月06日 (金曜日)

イスラム国問題を逆手に取って進む軍事大国化、朝日に追いつけない読売、新聞記者はシリアを取材してはいけないのか?

イスラム国が2人の日本人を処刑した事件を逆手に取って、安倍内閣による軍事大国化の動き、それに伴う治安の強化や学校教育に対する締め付けがエスカレートしている。

中国や韓国との領有権問題を利用して、反中・反韓意識を煽り立て、それを追い風として解釈改憲の閣議決定を強行したり、特定秘密保護法を成立させたのと同じ方法が、イスラム国問題を背景に進行している。

新聞・テレビの報道で、こうした動きを確認することが出来る。以下、主要な記事の一部をピックアップしてみよう。

■「国内にイスラム国支持者」=山谷国家公安委員長が答弁(時事通信 2月4日(水)20時35分配信)
 
 山谷えり子国家公安委員長は4日の衆院予算委員会で、過激組織「イスラム国」が後藤健二さんらを殺害したとみられる事件に関し、「(イスラム国)関係者と連絡を取っていると称する者や、インターネット上で支持を表明する者が国内に所在している」と述べ、警察庁で関連情報の収集・分析を進めていることを明らかにした。平沢勝栄氏(自民)への答弁。

■安倍首相、9条改正に意欲=空爆後方支援否定も「合憲」―参院予算委(時事通信 2月3日(火)16時6分配信)
 
 安倍晋三首相は3日午後の参院予算委員会で、戦争放棄をうたった憲法9条について「わが党(自民党)は既に9条改正案を示している。なぜ改正するのか。国民の生命と財産を守る任務を全うするためだ」と述べ、「国防軍」創設などを盛り込んだ自民党改憲草案の実現に意欲を示した。次世代の党の和田政宗氏への答弁。

  首相は、有志連合による過激組織「イスラム国」への空爆作戦に関し、仮に自衛隊が後方支援を行ったとしても、海外での武力行使を禁じた憲法9条には抵触しないとの認識を示した。

■朝日の複数記者、外務省が退避要請のシリア入国(読売新聞 2015年01月31日 13時33分)

 【特集 邦人人質】
 
 イスラム過激派組織「イスラム国」とみられるグループによる日本人人質事件で、外務省が退避するよう求めているシリア国内に、朝日新聞の複数の記者が入っていたことが31日分かった。

 同省は21日、日本新聞協会などに対し、シリアへの渡航を見合わせるよう強く求めていたが、朝日のイスタンブール支局長はツイッターで、26日に同国北部のアレッポに入り、現地で取材した様子を発信していた。

■警察庁、「国際テロ対策推進本部」を設置(TBS系・JNN) 2月5日5時28分配信)

 イスラム国による日本人殺害事件で、イスラム国が「今後も日本人を標的にする」と表明していることを受け、警察庁は4日、「国際テロ対策推進本部」を設置しました。

  警察庁は警備局長を本部長とする「国際テロ対策推進本部」を設置、今回「イスラム国」が日本人を殺害した上、「今後も日本人を標的にする」と表明していることを受け、この事件を検証し、今後のテロ対策を見直すということです。

■女性教諭、授業で児童に湯川さん遺体画像見せる(読売新聞 2月5日19時48分配信)
 
 名古屋市教育委員会は5日、同市立小学校の授業で、女性教諭がイスラム過激派組織「イスラム国」に殺害されたとみられる日本人人質の遺体の画像などを児童に見せていたと発表した。

  市教委は「不適切な指導だった」として謝罪した。教諭は「情報のあり方を考えさせ、生命の大切さについても目を向けてほしかった。画像を見せたことは浅はかだった」と話しているという。

◇教育統制の背景

改めて言うまでもなく、軍事大国化を進めるプロセスで、それに連動した政策が登場する。具体的には、たとえば日米共同作戦にともなう軍事上の秘密を非公開にするための特定秘密保護法である。軍事秘密が外部に漏れると、軍事作戦に支障をきたすから、この法律が制定されたのだ。

とはいえ特定秘密保護法の運用に際しては、指定対象になる秘密が、軍事に関するものを建前としながら、はるかにその領域を超えていることも事実である。それゆえに法律の拡大解釈による秘密指定により、ジャーナリズム活動が制限されたり、人権侵害が日常化することが懸念されているのである。

また、教育の統制も軍事大国化と連動する。それは戦前・戦中の愛国心を煽る教育がどのようなものであったのか、その歴史をふり返れば一目瞭然だ。

安倍首相が愛国心教育に熱心なことは周知となっている。第1次安倍内閣の時代に教育基本法を改正しただけではなく、「美しい国プロジェクト」と称する観念論教育にも着手した。こうした流れは、1960年代に中教審が打ち出した「(目上の人に)期待される人間像」の文脈に属する。

もっとも安倍内閣の教育政策は、戦争目的だけではなくて、少数エリートと従順な多数の労働者の育成という新自由主義下の生産体制に合致した人間像の形成という側面もあるが。

◇シリアを取材してはいけないのか?

上に引用した記事、「朝日の複数記者、外務省が退避要請のシリア入国」(読売)は、「期待される人間像」から一貫してきた日本の教育政策の中で、どのような人間が作られてきたのかを如実に物語っている。

政府が危険地帯に近づかないように邦人に対して退避要請を出すのは、立場上、当たり前のことである。ところが問題は、読売の記者が、それを素直に受け入れて、「抜け駆け」した朝日新聞の記者を暗に批判していることである。

われわれは幼児から、学校の先生の指示には素直に従うように教えられてきた。そこには目上の人の言葉に疑いを差し挟む余地がない。そういう生徒こそが学校の成績もよく、「お受験」を勝ち抜いて、大企業に就職していく。そしてマスコミ部門では、新聞記者やテレビのデレクターになっていく。

目上の人の指示に盲従する体質。それが読売の記事には、露骨に反映している。読売が紙面では、朝日に追いつけないゆえんではないだろうか?

※写真の出典=ウィキペディア