の検索結果

2015年03月16日 (月曜日)

「その言葉、単価でXX万円」、名誉毀損裁判と言論・人権を考える(1)武富士裁判から13年

裁判を提起することによって言論や行動を抑圧する「戦術」が、いつの時代から始まったのかを正確に線引きすることはできない。

たとえば1990年代に、携帯電話の基地局設置を阻止するために座り込みを行った住民に対して、電話会社が工事妨害で裁判所に仮処分を申し立てる事件が起きた。が、これが裁判の悪用に該当するかどうかは厳密には分からない。

言論抑圧という観点から裁判の在り方が本格的に検証させるようになったのは、今世紀に入ってからである。司法制度改革による賠償金の高額化の流れの中で、負の側面として、「戦術」としての裁判が浮上してきたのである。

◇武富士裁判

有名な例としては、サラ金の武富士がフリージャーナリストらに対して起こした武富士裁判がある。この裁判では、ロス疑惑事件の三浦和義被告や薬害エイズ裁判の安部英被告を無罪にした弘中惇一郎弁護士が、武富士の代理人を務めたことも話題になった。

その後、ジャーナリストの西岡研介氏が著した『マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(講談社)に対して、JR総連とJR東日本労組が、総計50件の裁判を起こす事件が発生する。

私自身も読売新聞社から、わずか1年半の間に3件(請求額は約8000万円)の裁判を起こされたことがある。この裁判では、言論の自由を守るという観点から、多く出版関係者や弁護士の支援を得た。

さらに直近では、作曲家の穂口雄右氏がレコード会社31社から、2億3000万円の損害賠償を求められる裁判を提起された。

もちろんこれら一連の裁判の原告は、裁判提起の目的が言論抑圧にあるとは言っていないが、結果として、裁判によって被告側の言論や行動が萎縮させられたことは否定できない。

最近になって言論抑圧につながる裁判に新しい傾向が現れてきた。それは裁判を起こす相手が報道関係者や有名人ではなく、一般市民にまで広がってきたことである。名誉毀損裁判は、裁判を提起した側が、圧倒的に有利な法理になっているので、弁護士にとっても収入源になりやすい事情がある。客観的にみると、それが名誉毀損裁判が多発する要因とも考え得る。

◇金銭請求方法に疑問

2013年4月5日、ある一通の訴状が東京地裁に提出された。原告は、山崎貴子さん(仮名)という著書もあり、雑誌にも写真入りで登場するなど比較的著名な女性である。訴えられたのは、小川紅子(仮名)さん、小川五郎(仮名)さんという夫婦である。請求額は、約3200万円。

わたしが最初この裁判に注目したのは、山崎貴子さんの代理人が弘中淳一郎弁護士らになっていたからである。実際にこの裁判を担当しているのは弘中絵里弁護士であるが、訴状に名を連ねている弘中淳一郎弁護士は、かつて武富士裁判で武富士の代理人を務めて、フリージャーナリストの間で批判の的になった。『無罪請負人』と題する本を出版するなど、「人権派」の弁護士としても知られている。

その弘中弁護士の事務所が、武富士裁判から10年が過ぎて、名誉毀損裁判の原告代理人としてどのような弁護活動をするのかを知りたいと思ったのである。

事件の概要は、血縁関係にはないが遠い親戚関係にあった山崎さんと小川紅子さんがウェブサイトでコメントやメールのやりとりをしているうちに、感情のもつれから、山崎さんが名誉毀損を理由に突然、小川さん夫婦を提訴したというものである。

◇慣用句を連用した訴状

訴状を読んだ限りでは、わたしは訴えられた夫婦が山崎さんの社会的評価をおとしめたような印象を受けた。ただ、訴状の表現が大げさで苦笑を禁じ得ないタッチになっていた。

たとえば「被告らの攻撃の執拗さと悪質さは常軌を逸するもので・・・」とか、「被告らの攻撃によって原告が蒙った精神的苦痛は甚大」とか、大上段に構えた表現が使われている。

事実を冷静沈着に「翻訳」した文章ではなく、言葉だけが一人歩きしている作文の印象を受けた。

その後、わたしは準備書面で展開された小川さん側の反論を読み、裁判の進行を見守っていた。原告と被告の双方にも、取材を申し入れた。

これに対して被告の小川夫婦は取材に応じ、原告の山崎さんは取材に応じなかった。(厳密には、弘中絵里弁護士から、現時点では取材を受けない旨の連絡があった。)そのため、どちらの言い分に理があるのか、判断できないまま、裁判の推移を見守るようになったのである。

◇「その表現、単価XX万円」

実は、わたしがこの裁判で最も興味を引かれたのは、事件の経緯でも双方の主張でもなかった。原告の金銭請求の方法に際立った特徴があることだった。

詳細については後述するが、端的に言えば、問題とする表現を、「名誉毀損」、「名誉感情侵害」、「プライバシー権侵害」、それに「肖像権侵害」に分類した上で、それぞれに単価を付け、その総数を基に損害賠償額を計算していたことである。こんな請求方法はこれまで見たことがなかった。

通常は、一括して500万円を請求したり、1000万円を請求してくるが、この裁判では、「単価×件数」で損害賠償額を割り出していたのである。

その結果、該当する記事などが417件にもなり、請求額が約3200万円に膨らんだのである。さらに訴状によると、原告は同じ方法で、紅子さんの同じブログの後半部分についても、請求額を算出すると述べている。そうすると最終的に請求額は、5000万円を超えるかも知れない。

小川さん夫婦のブログが、山崎さんの名誉を毀損しているか否かの問題以前に、こうした請求方法で高額の賠償金を請求することの倫理面を検証したいと思った。従って当初、わたしは名誉毀損裁判の在り方をテーマに取材をはじめたのである。

◇リーガルハラスメント

ところがその後、小川夫婦から次回期日を伝えられないまま月日が流れた。そこでわたしはこの裁判を担当している東京地裁の民事49部に裁判の進捗を問いあわせてみた。その結果、口頭弁論が中断していることが分かった。理由は教えてもらえなかった。わたしは和解の協議に入っているのではないかと、勝手に想像していた。

この裁判のことを思い出したのは、2015年の1月だった。一度取材したことがある小川五郎さんから、裁判が結審した旨を電話で告げられた。その時、小川さんは、裁判が公平ではないと不満を述べられた。代理人弁護士を依頼せずに小川さん夫婦が自分たちで書面を作成して、出廷していた本人訴訟であることも関係したのか、裁判所が公平に裁判をしなかったと言われたのである。

詳しく話を聞いてみると、妻の紅子さんが体調を崩して入院したのを受け、裁判期日の変更を申し立てたにもかかわらず、裁判所の書記官は結果を通知しなかった。次回期日を確実に知らせないまま予定通り口頭弁論を開き、裁判を結審してしまったという。そのために小川さん側が提出済みだった分厚い準備書面も証拠も受理されていない扱いにされてしまった。

小川五郎さんによると、裁判官は第3回の口頭弁論で早々と結審を言い渡したという。そこで小川さんは、反訴すると伝え、その後、裁判官忌避を申し立てて、裁判を継続させたのである。

このような実態を、小川さんは、本人訴訟であるがゆえに受けた「リーガルハラスメント」だと話している。

確かに小川さんの準備書面が体をなしていないのであれば、結審もやむを得ないかも知れない。しかし、訴状で原告が主張している事実に対して、認否を明らかにして、詳細に事情を説明している。さらに裁判所は、原告と被告の本人尋問すらも提案していない。少なくとも高額の金額を請求された側である小川夫婦の言い分は十分に聞くべきだろう。

奇妙なかたちで結審したので、小川夫婦は弁論の再開を1月27日と2月2日の2回申し立てたが、認められなかった。そこで、知人に紹介された弁護士に依頼して3月6日に3度目の弁論再開を申し立てた。

この裁判の背景には、「リーガルハラスメント」がある。そこでわたしは、裁判進行の足跡を検証すると同時に、訴えられた小川さん側の言い分を明らかにすることにした。釈明の機会が十分にないまま、判決を受けるのは公平ではないからだ。もちろん原告が取材に応じるというのであれば、原告側の言い分も紹介することを厭わない。(続)

2015年03月13日 (金曜日)

ビジネスの国際化に歯止めがかからない、アンゴラでビジネスフォーラム2015を開催、丸紅など37企業が参加

ビジネスの国際化がとまらない。世界の隅々にまで、日本企業の進出がはじまっている。『アンゴラ・プレス』などの報道によると、同国の首都ルアンダで3月9日から11日までの日程で、「アンゴラ・ジャパン・ビジネスフォーラム2015」が開催された。

日本から丸紅など、37社が参加した。日本側はエネルギーと水に関する投資に関心を寄せているという。

主催は駐日のアンゴラ大使館であるが、経団連や東京商工会議所などが協賛・協力している。

ちなみに時期を同じくして日本では、12日、安倍晋三首相がキューバのカブリサス閣僚評議会副議長と会談し、米国・キューバ間の国交正常化が楽観視されるなか、日本とキューバの経済交流の強化について意見を交換している。

◇国際化=生活レベルの向上ではない

アンゴラは1975年にポルトガルからの独立を経て、泥沼の内戦を体験した国である。米ソの冷戦時代、代理戦争の舞台になった国で、91年までにキューバもアンゴラ政府の要請を受けて約30万人の派兵を行った。

投資という観点からすると、アンゴラもキューバもほとんど対象外の地域だった。ところが米国・キューバの関係改善に象徴されるように、ビジネスの舞台が世界中に拡大し始めている。

第2次安倍内閣が発足してから後、安倍首相が財界の関係者を同伴して世界各国を訪問しているが、これはビジネスの舞台に国境がなくなり、国が積極的に企業の多国籍化を援助していることの現れにほかならない。

海外派兵の体制づくりも、こうした観点からみるべきだろう。

しかし、問題は日本企業が多国籍化することが、日本国民の生活レベルの向上につながるわけではない点である。と、いうのも海外で現地生産して、海外で商品を販売し、あるいはサービスを提供し、利益をタックスヘイブンの国に預金すれば、日本国民にはほとんどメリットがないからだ。

多国籍企業は繁栄するが、国民は貧しいという矛盾が生じる。

さらに企業の海外進出で国内産業が空洞化するので、どうしても日本を海外から投資しやすい国にしなければならない。出来れば「世界一ビジネスがしやすい国」にする必要がある。

そこで安倍内閣が進めているのが、雇用形態の規制を緩和して、非正規社員を増やし、賃金を抑えたり、解雇を容易にするための法整備である。賃金を「発展途上国」なみに抑えなければ、国際競争には勝てない。

さらに司法制度改革を断行して、国際法務に詳しい弁護士を多量に養成するなどの「改革」を行ってきた。

日本に投資を呼び込むために、日本国民を奴隷化しようとしているのだ。そのための具体的な政策が構造改革=新自由主義の導入である。

国際的なルールも十分に整備しないうちに、「先進国」と呼ばれる国々が、世界市場の獲得競争に乗り出している。中国もラテンアメリカやアフリカで影響力を強めている。こうした時代に、「経済封鎖」などは、かえって競争の足かせになるのだ。

今後、国際化の流れはますます顕著になるだろう。しかし、それが必ずしも大多数の人々の幸福につながるわけではない。バラ色の夢をみていると、大変なことになる。

2015年03月12日 (木曜日)

青色LEDが加齢黄斑変性症や糖尿病性網膜など失明の原因に、否定できなくなってきた電磁波の危険

日本のマスコミが報道を控える傾向があるテーマのひとつに電磁波問題がある。

電磁波とは、ごく単純にいえば「電波」のことである。電波が磁気と磁場を伴っているなどの理由で、電磁波という言葉で電波を形容しているが、「電磁波=電波」と考えても許容範囲である。

電磁波は単に携帯電話やテレビの通信に使われるだけではなく、医療現場でも使われている。あまり意識されていないが、レントゲンのX線や放射線治療のガンマ線も広義の電磁波である。(日本では、電磁波と放射線がエネルギーの違いにより、別々に分類されているが、欧米では、厳密に区別されていない。)

さらに光も電磁波である。電磁波の分類に可視光線と呼ばれる領域があるが、これに該当する。可視光線の利用の典型例は、LEDである。

電磁波は日常生活の利便性を高めるために、広範囲に利用されているが、利権がからんでいるために、そのリスクがマスコミで報じられる機会は極めて少ない。

こうした状況の下で『東京新聞』(2月16日付け)が、青色LEDの危険性を大きく報じている。青色LEDとは、商業施設や倉庫などでよく使われている白っぽい照明である。外見から旧来の蛍光灯と区別することは難しい。

最近では、マンションの共有スペースに青色LED(蛍光物質で白にみえる)を使う動きも活発化している。電気料金を節約するのが目的だ。

◇新世代公害

同紙は、LEDによる人体影響を調べた岐阜薬科大学・原英彰副学長らの実験を紹介している。原教授らは、「マウスの網膜に培養した細胞に、さまざまな色のLEDの強い光を24時間あて、細胞が受ける影響を調べた。その結果、青色光と白色光では、過半数の細胞が死滅し」たという。

最も悪影響があったのは、青色LEDだった。「また細胞周辺に生じた活性酸素の量を測定したところ、青色光でとくに増えていた」という。

青色LEDが原因となる病気としては、加齢黄斑変性症や糖尿病性網膜症などがある。いずれも失明の原因になる。

電磁波は新世代の公害である。目に見えない上に、人体影響の現れ方がゆるやかであったり、他の病気と混同されて、なかなか「公害」として認識されない。

電磁波のリスクが広く指摘されるようになったのは、1980年代に入ってからだった。米国で配電線と小児白血病の関係が取りざたされるようになり、安全性の問題が無視できなくなってきたのだ。以後、研究が活発になる。

携帯電話に使われるマイクロ波と呼ばれる電磁波も、当初は人体影響がないと考えられていた。しかし、現在では、極めて弱いマイクロ波でも、人体影響があることが分かっている。

事実、2011年になってWHOの外郭団体である世界癌研究機関は、マイクロ波に発癌のリスクがある可能性を認定している。

電磁波問題の第一人者である荻野晃也博士は、『携帯電話基地局の真実』の中で電磁波問題の本質を次のように述べている。

「原爆の被爆者・被曝者などの研究から、『電離放射線が特に発ガンの危険性が高い』と思われてきていたのです。ところが、最近の研究の進展で『電磁波全体が危険な可能性』があり、『共通した遺伝的毒性を示す』と考えられるようになってきたのが、現在の「電磁波問題」の本質だといってよいでしょう」

ちなみにパソコンやスマートフォンにも青色LEDが使われている。

20年後、あるいは30年後の電磁波による人体影響がどのようなものであるのか、まだ、だれも知らない。

2015年03月11日 (水曜日)

文部科学省が「大学の世界展開力強化事業」の中間評価を発表、進む大学の淘汰と少数精鋭の人材育成

文部科学省は、3月10日に、「大学の世界展開力強化事業」(平成24年度採択分)の14のプロジェクトについて、中間評価結果を決定した。このプロジェクトは、

「国際的に活躍できるグローバル人材の育成と大学教育のグローバル展開力の強化を目指し、高等教育の質の保証を図りながら、日本人学生の海外留学と外国人学生の戦略的受入を行うアジア・米国・欧州等の大学との国際教育連携の取組を支援することを目的」

と、したものである。

この事業を推進しているのは、文部科学省の下に設置された「大学の世界展開力強化事業プログラム委員会」である。委員は、2014年7月の時点で、14人。この中には、電気メーカーや経団連の関係者も名を連ねている。

大学に対して参加を募り、審査を経て参加が認められると、1プロジェクトにつき年間6千万円(5年)の補助金が支給される。

今回、中間評価の対象になったのは、2012年に参加が認められた15の大学による14のプロジェクトである。詳細は次の通り。

 中間評価PDF

この年に参加を申し込んだ大学は、62校、71プロジェクト。採用されたのが15校14プロジェクトであるから、大半の大学は審査の段階で門前払いされたことになる。

審査に合格して実際に補助金を受け、プロジェクトに着手したのは、東京大学、早稲田大学、慶応大学といった超エリート校ばかりである。

◆進む多国籍企業化

改めていうまでもなく、大学の段階から国家予算を投入して少数精鋭の「国際人」を養成するプロジェクトは、構造改革=新自由主義の政策に連動して進んでいる企業の多国籍化に対応するための教育政策である。

事実、各大学が提案したプロジェクトのほどんどすべてが、ビジネスに結びつく内容である。その背景には、疑いなく多国籍企業のための人材養成という意図がある。外国語の取得にしても、おそらくビジネス目的の域をでない。

内閣府が3月3日付けで公表した『平成26年度企業行動に関するアンケート調査結果(対象は上場企業)』によると、海外で現地生産を行う企業の割合は、平成25年度実績で71.6%と過去最高に達している。

こうした状況の下で、企業に代って、国が率先して人材の養成に乗り出しているのである。国際化そのものは、歓迎すべきことだが問題は、プロジェクトに参加できる大学が、超エリート校だけに絞られていることである。

かつて日本企業は入社後に人材を育成していたが、現在は、その役割を国が選ぶ大学が代行しているのだ。ここには構想改革=新自由主義の教育政策、あるいは教育目標の特徴が顕著に表れている。

企業サイドからすれば、人材育成の経費を節約して即戦力を得るわけだから、国際競争力を高めることができる。政府サイドからすれば、大半の大学を切り捨てることで、財政支出を抑えることができる。ただし、産業の頭脳になる超エリート校に対してだけは、重点的に補助金を支給する。

2006年、第1次安倍内閣の下で教育基本法が改定され、教育の目的として「職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養う」という文言が新たに加わった。これを口実として、大学で企業の人材育成が行われるようになったのである。

ちなみに「大学の世界展開力強化事業」が始まったのは、2011年、鳩山政権下で一時的に停滞していた構造改革=新自由主義の導入を再発進させた菅政権の時代である。以後、グローバリゼーションと連動しながら、急進的な構造改革=新自由主義があらゆる分野で導入されていく。

2015年03月10日 (火曜日)

経済同友会が人材育成に重点を置いた高等教育の改革を提言、目的に合致しない学校は補助金カットで切り捨て

歴代内閣の政策の方向性は、経済同友会や経団連が発表する提言を色濃く反映する傾向がある。それは教育に関する政策にまで及んでいる。国境なき競争の時代に突入した状況の下で、人材の育成が多国籍企業の将来を左右する鍵になるからだ。

2月27日、経済同友会は、『「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」に対する意見~新たな高等教育機関には高い質を求める~』と、題する提言を発表した。

◇目的に合致しない学校は廃校へ

経済同友会が要望する教育制度の改革とは、具体的にどのようなものなのだろうか。結論を先に言えば、高等教育を通じて、企業にとって即戦力になるエリートを育成し、その目的を達成できない学校については、補助金をカットすることで、廃校に追い込むというドラスチックなものである。

こうした提言が打ち出された背景には、「社会教育の機会が減少している」にもかかわらず、「専門技能を要する職種への求人倍率が高まっている」ことがある。それゆえに「学術的な一般教養を中心とする教育よりも、専門的な実務技能の習得が意味を持っている」からだという。

つまり大学や専門学校など、高等教育の場を、企業のための人材づくりの場に変えてしまえという提言である。

その具体的な方法は、既に述べたように目標の成果度合いに応じた補助金の分配である。そこでは、次に示すように成果があがらない教育機関の切り捨てが前提になっている。

「また、退出メカニズムの関連では、まず成果と関連する指標(就職状況や資格取得状況など)の詳細な公開を義務付け、さらにはその成果に応じた補助金の支出を実施する。さらには、成果に連動した廃止基準と廃止方法を明確化することによって新陳代謝を促し、質の高い高等教育機関を後押しする仕組みを組み込むべきである。また、それと同時に、廃止する学校に所属する学生を保護する制度の整備が不可欠である」

経済同友会の提言は、構造改革=新自由主義の政策から派生する副次的な「改革」のひとつである。広義の構造改革に属する。

企業のために即戦力になる少数のエリートを育成する一方で、その目的に合致しない教育機関を切り捨てる。それは国の財政支出を抑え、「小さな政府」を作る構造改革=新自由主義の方向性とも完全に合致している。

しかし、そもそも企業に貢献する人材を育成することが教育本来の目的なのだろうか。もしそうであれば、学校の自治権が崩壊しかねない。経済活動に直接貢献しない分野は、切り捨てられることになる。

教育の本来の目的は、文化的な遺産を後世へ継承することである。

 ■経済同友会の提言全文PDF

2015年03月09日 (月曜日)

「新聞の崩壊」政治献金だけではなかった、2014年衆院選で、岸田外務大臣ら議員131人が推薦を受けて当選

昨年の12月に行われた衆院選で、新聞業界が特定の候補者を推薦し、このうち131人が当選していたことが分かった。

日本新聞販売協会(日販協)の会報『日販協月報』(1月号)によると、同協会は「新聞購読料への軽減税率適用に尽力する候補者を政党の枠を超えて推薦」し、軽減税率の適用に「強い味方となる131人の国会議員が誕生た」という。

日販協は軽減税率を適用させる運動を、日本新聞協会と協力して進めており、選挙結果を報じた『日販協月報』には、日本新聞協会の白石興二郎会長(読売・社長)も、軽減税率について述べた念頭書簡を掲載している。軽減税率について白石会長は、次のように言う。

「与党税制協議会は、軽減税率制度を17年度から導入することで合意し、今後、対象品目、区分経理など具体的な課題の検討が始まります。新聞協会は引き続き、再引き上げと同時に軽減税率を新聞に適用するよう求めていく所存です。会員各社のご協力をお願いします」

また、同紙で同じ新聞協会の黒澤幸・販売委員会委員長(読売・販売局長)も、軽減税率について次のように述べている。

「新聞協会や日本新聞販売協会は、新聞への軽減税率の適用に向けさまざまな活動を展開してきました。中央協としても新聞公正競争規約の順守徹底を通じて、公正販売の実現に向けた取り組みを進めていくことが重要です」

◇選挙推薦も政治献金も

選挙で当選した131人の議員の大半は自民党と公明党である。このうち次の議員は、新聞業界から政治献金を受け取っている。

丹羽雄哉(自民):60万円[3月22日]

菅義偉(自民):6万円[9月20日]

中山泰秀(自民):6万円[10月7日]

とよた真由子(自民):6万円[10月20日]

高市早苗:80万円[6月4日][11月21日]

そのほかに、町村信孝、額賀福志郎、小宮山泰子、中谷真一、石原伸晃、小池百合子、太田昭宏、平沢勝栄、二階俊博、岸田文雄、などの各議員が日販協から推薦を受けた。

国会では、「政治と金」の問題が取りざたされているが、新聞業界の場合は、政治献金の提供だけではすまない。選挙時の議員推薦までしているのである。
これではジャーナリズムの役割を果たすことはできない。

   ■推薦を受けて当選した議員一覧PDF

 

2015年03月06日 (金曜日)

安倍首相の応援団と化した日本のマスコミ、『ZAITEN』が首相とメシ食う人々を紹介

『財界展望』(2015年4月)に、「安倍首相とメシを食うモラル無きマスコミ人たち」と題する記事が掲載されている。この記事の中に、安倍首相と会食したメディア関係者の一覧表(2013年1月から2015年2月)がある。

この一覧表を見る限り、リベラル派のイメージがある東京新聞や朝日新聞の関係者までが、安倍首相と会食していることが分かった。読売新聞の渡辺恒雄氏が安倍首相と頻繁に会食している話は周知となっているが、『財界展望』の記事によると、主要な新聞の多くが、首相と特別な関係にあるようだ。

渡辺氏ら「常連」とは別の会食者のうち、個人的に気になる社と人物をピックアップしてみた。

朝日新聞:木村伊量社長
共同通信:石川聡社長
日経新聞:喜多恒雄社長

テレビ朝日:早河洋社長
毎日新聞:朝比奈豊社長
時事通信:西沢豊社長

東京新聞:長谷川幸洋論説副主幹
共同通信:福山正喜社長
中国・九州の地方紙代表者ら

内閣記者会加盟各社キャップ
女性記者複数人
NHKインターナショナル:諸星衛特別主幹
NHK島田敏男解説委員

◇首相の意に添った報道

権力を監視するジャーナリストが首相と会食する友達になれば、ジャーナリズムは成立しない。こんな常識的なことが分かっていないのは、入社時の社内教育以前に、大学のジャーナリズムの授業で、ジャーナリズムの原理を教えていないことが原因ではなないだろうか?

取材目的で会食するのであれば、ある程度は容認されるが、会食したメディアの報道を検証する限り、自民党政権と正面から対峙するスタンスは見られない。つまり会食することにより、首相の意に添った報道になっているのが問題なのだ。特に構造改革=新自由主義の「援護」は見過ごせない。

新自由主義による矛盾の蓄積と、軍事大国化の下で、報道しなければならないテーマは山積みになっているが、ほとんどのメディアがその役割を放棄している。

例外的に優れた報道が行われたとしても、それは記者個人の努力の結晶であって、メディア企業としてのスタンスの現れではない。

2015年03月05日 (木曜日)

広告代理店による折込広告の水増し事件、大阪地検が不起訴を決定、新聞業界に配慮か?

大阪地検は、貴金属などのリサイクル販売とレンタル事業を展開しているA商店(大阪府心斎橋)が、広告代理店・アルファトレンドに対して、2013年11月に提起した告訴を受けて調査していたが、3月になって不起訴の決定を出した。

この事件は、A商店が2008年6月から翌年の3月までの間に、アルファトレンドを窓口として発注した折込広告(新聞折込)259万4000枚のうち、65万枚が配布されていなかったことが分かったのが発端。

配布されていなかった65万枚のうち、少なくとも42万枚は印刷すらされていなかった。

これに怒ったA商店は、民事裁判で損害賠償を求め、2013年6月にアルファトレンドが請求額の全額と弁護士料を支払うことで和解が成立した。支払額は、約274万円。

しかし、A商店は、新聞の折込広告を悪用した騙しの手口が広がっていることに鑑みて、アルファトレンドを大阪府警に告訴した。刑法第246条(詐欺)に該当すると考え、被告訴人に対する処罰を求めたのである。

大阪地検が、この事件を不起訴にしたプロセスは不明。事件を知る一部の市民からは、検察審査会への申し立てを検討する声があがっている。

■折込広告の注文枚数と不正枚数を示す表

◇背景に「押し紙」問題

改めて言うまでもなく、この事件の背景には、新聞社の「押し紙」問題がある。「押し紙」を含んだ新聞の公称部数を基準に、広告代理店がクライアントに折込広告の発注枚数を提案するために、「押し紙」分の折込広告が余ってしまうのだ。

このような裏事情を広告代理店は把握しているので、過剰になる折込広告の一部については、印刷すらしないことがある。

「押し紙」問題は、新聞業界の枠を超えて、経済界全体に影響を及ぼしている。

ちなみにA商店は、折込広告を使ったPR戦略 に失敗して、店舗数を大幅に縮小した。

2015年03月04日 (水曜日)

小沢一郎検審の架空検審疑惑を追及する「市民」を東京地裁が強制退去させる、質問の答えは「秘密」

小沢一郎検審(東京第5検察審査会、2010年9月14日に起訴相当議決)が架空であった疑惑を調査してきた志岐武彦氏(『最高裁の罠』の著者)と石川克子氏(市民オンブズマンいばらき)が、2月27日に、東京地裁の中にある東京検察審査会の事務所から、警備員により強制的に退去させられていたことが分かった。

志岐氏からの告発を受けて、わたしが聞き取ったところ、次のことが分かった。

まず、志岐氏が東京検察審査会を訪問した目的は、以前、同氏が情報公開請求により開示を受けた検察審査員名簿に不可解な点が発見されたので、それについて質問することだった。

一方、石川氏は、情報公開請求の手続きを踏んで入手できることになった検察審査会のハンドブックとリーフレットの配布先一覧の開示を受けるためだった。

◇杉崎課長が志岐氏の同伴を拒否

両氏が検察審査会の事務所に到着したのは、午後1時30分ごろ。最初に石川氏の件について対応を求めた。石川氏と志岐氏は協同で調査をしてきたこともあって、石川名義で情報開示請求をしていたが、実質的には、両人による開示請求であった。

そこで石川氏は、電話で事前に検察審査会の杉崎課長に志岐氏の同席予定を伝えていた。その際、志岐氏の同伴は認めないと言われたので、その理由を書面で提出するように申し入れた。以前は、同席が認められたからだ。

ところが27日の面談時に、杉崎課長は志岐氏の同伴を断ったうえに、石川氏が要求していた理由書も準備していなかった。このために志岐氏の同席をめぐって、両者の間に問答が続いたのである。結局、結論には至らず、第2の議題に入った。

◇質問の答えは秘密に

第2の議題は、志岐氏が以前に情報公開請求して入手していた検察審査員名簿に不可解な点が発見されたので、それについての質問をすることだった。その内容は、複雑なので省略するが、以前、『週刊ポスト』で報じられた疑惑である。次の記事を参考にしてほしい。

■週刊ポスト2013年4月5日号記事 

志岐氏は、27日の面談にそなえて、事前に検察審査会に質問状を持参していた。

しかし、検察審査会の杉崎課長は志岐氏の質問には一切答えず、質問状も受け取らず、押し問答の末に警備員(隊)を呼んだのである。

■志岐氏の質問状

この時の様子を志岐氏は、ブログ「一市民が斬る」で次のように述べている。
 警備員が部屋に入ってくる。

市民  :(警備員の長に向かって)「地裁総務課長さんを呼んで下さい」
警備長 :「強要するようなことがあれば出て行っていただきます」
市民  :「呼んで下さいと言ったのは強要ではありませんよ」
警備長 :「話しは済んでいるから、お帰り下さい」
市民  :「話しは済んでないですよ。」
警備長 :「構外退去を命じます。」

 2人の周りを数人の警備員が取り囲んだ。
私はここで騒げば拘束されると思った。警備員が私達二人を押した。石川氏が「触らないでください」というと一端離れるが、また押してくる。廊下まで押し出された。

  廊下に出るとさらに多くの警備員が取り囲んだ。10人ぐらいいただろうか。3階の廊下を警備員に押されながら進んだ。

  一般用のエレベーターまで来たので「このエレベーターに乗らないのか」と聞いたが、さらに先に進めという。廊下の突き当りの左に、通常使われないエレベーターがあった。やっと理解した。人目につかない通路から退去させるのだ。

◇検察審査会側の言い分

一方、わたしは検察審査会側の言い分も明らかにするために、電話取材を試みた。しかし、「質問にはいっさい答えません」との一点張りだった。コミュニケーションそのものが成立しなかった。

一方、検察審査会がある東京地裁は、今回の件に関して、事実関係を把握しているとした上で、両者の押し問答が1時間半にも及んだので、東京地方裁判所の所長の権限で業務に支障があると判断し、退去命令を出したと話している。

厳密に言えば、今回の件は、警務課長が所長の代理として退去命令を発令したとのことだった。

検察審査会に関する疑惑に関しては、「質問にはいっさい答えません」で処理されることが許されるなら、検察審査会はブラックボックスになってしまう。問題の本質は、検察審査会が情報開示請求者に対して、真摯に対応しなかったことにある。

ちなみに志岐氏の質問が特定秘密保護法に抵触している可能性もある。だから検察審査会は、一切答えなかったのでは。何でもこじつけで秘密にできる時代である。その秘密の中身は一切口外できない。

2015年03月03日 (火曜日)

ソニーなどレコード会社31社が仕掛けた2億3000万円の高額裁判に和解勝利した作曲家・穂口雄右氏へのロングインタビュー(下)

作曲家・穂口雄右氏へのインタビューの(下)。後半では、巨大企業・ソニーを頂点とした日本のレコード業界の問題点をえぐり出してもらった。海外から冷静に日本を見ている穂口氏の視点が興味深い。穂口氏の陳述書も全文公開。

 

◇異例の「0円和解」の背景

―――和解内容についてどのように考えますか?

穂口 : ご承知のとおり、損害賠償額が高額の著作権侵害訴訟で原告が損害賠償請求を放棄することは極めて異例です。しかもこの「0円和解」は原告側からの提示です。こちらとしては121ファイルが結果として侵害の可能性があったのであるなら、その121ファイル分については和解金を支払う和解案を提示していました。しかし原告側は121と言う数字の掲載を嫌がり(金額を明記すると侵害がほとんどなかった印象が残ることを嫌ったようです)。これが、最終的に和解条項としては極めて異例な、数字も金額も一切記載されない和解となった理由です。

また、原告らは秘密条項の掲載を強く求めていましたが、これについては私が断固反対した結果、裁判長の調停により、法的拘束力のない紳士協定としての第5条で合意しました。

いずれにしても、数字が一切ない不透明な和解条項は不満ですが、秘密条項なしを勝ち取ったことで、堂々と裁判資料を公開できるので、準備が整いしだい、原告側担当者の陳述書も含めて一切の裁判資料を公開する予定です。(一部はすでに公開済みです)

なお、私は判決を希望したのですが、上級審に進むほど、裁判が必ずしも正義に味方するものではないとの、弁護団および識者の意見に従いました。

―――勝因はなんですか?

穂口:もっとも大きな勝因は、やはりTUBEFIREが「著作権保護システム」を備えていたことです。そして原告はTUBEFIREが備えていた「著作権保護システム」の存在を知らずに提訴しました。TUBEFIREの「著作権保護システム」は著作権法に則って構築していたので、これが正常に機能していれば著作権侵害にはなりません。事実、原告は証拠ファイルを121しか提出できませんでした。当初は侵害数は10000ファイルを超えると主張していたのにです。

また、その約10000のエクセルリストも間違いや重複が多く、裁判所の心証開示ではこのエクセルリストは証拠として採用できないと開示されています。またそれに伴う原告担当者の陳述書もコピーペーストが散見されるなど、虚偽の陳述書の可能性を疑わせるものでした。この点も裁判所として重視している印象で、和解が不成立の場合には原告担当者の証人喚問の可能性を開示していました。

当方が「著作権保護システム」のプログラムのすべてを裁判所に提出したことも大きかったと考えられます。専門家がプログラムを検証すれば、TUBEFIREが著作権保護に大きな労力と費用を費やしていた事実が一目瞭然です。原告らは何を血迷ったか「プログラムは後から作った可能性が疑われる」などと証拠もなしに反論していましたが、膨大なプログラムを後から作れるはずもなく、この原告の反論にも裁判官は呆れたものと推察しています。

◇米国ではスラップは禁止

―――ミュージックゲート裁判は2億3000万円の高額訴訟だったわけですが、スラップについてどのように考えますか?

穂口 : スラップの存在は今回の提訴を受けた後に、知人から教えてもらってはじめて知りました。そして、なるほどそう言うことなのかと思いました。そして確かに、私の会社のような零細会社が、メジャーレコード会社31社から2億3000万円の高額訴訟を起こされたら、大概はひとたまりもないだろうと思いました。

ご承知のとおり裁判は、訴えられて反論しないでいると原告の主張で判決が確定してしまいます。

そして、普通、素人では裁判書類の作成は難しいので、一定期間に適切な弁護士を選任する必要があります。ところが今回のようなケースでは業界関係の31社が束になっているので、弁護士選びも難しくなります。なぜなら利益相反の規定により、31社に関係している弁護士は私からの依頼を受けることが出来ないからです。

今考えてみるとこれも原告の作戦に含まれていた印象です。つまり音楽や著作権に詳しい弁護士の多くが、何らかの形で原告ら31社と関係があると考えられるからです。今回私は幸いにして、知人からシリウス総合法律事務所の坂井眞先生をご紹介頂いて見事に反論をすることが出来ましたが、ご紹介がなければかなり危ない綱渡り状態でした。

それにしても、いきなりの2億3000万円は、大概のことでは驚かない私も驚きました。

まったく確固たる証拠もなく、しかも予告もなくこれだけの金額を請求されたら、それだけで大概の人は震え上がるでしょう。大会社が小さな会社や個人を潰そうとするにはもってこいの方法だと思いました。その後、このようなスラップ訴訟は、アメリカではすでに禁止されている行為であることを教えて頂き、原告のレコード会社よりも、原告の代理人であるTMIの升本弁護士のいい加減さと杜撰(ずさん)さと卑劣さに腹が立っています。

―――訴状を受け取って何を感じましたか?

穂口:最初は、何かの間違いではないかと思いました。しかし、31社がまとまるにはそれなりに理由があるはずなので、TUBEFIREのシステムに何か問題があって「著作権保護システム」が機能していない可能性も否定できないので、弊社の担当者には直ぐにサービスを止めて、原告の訴状を検証するとともに、プログラムを再検証するように指示しました。

そして検証の結果、原告の訴状および証拠リストに多くの間違いがあることを発見し、それからは原告の間違いをただす方針で裁判にのぞみました。

なにしろ、訴状を受け取ってから1ヶ月後にはほとんどの間違いを発見していたので、あとは原告の間違いを裁判所で指摘する時を楽しみにしながら、自分達の証拠の間違いに気付かずに強弁を繰り返す原告代理人の準備書面などを、ピエロを見る気分で楽しんでいました。そして、裁判のスタートから2年3ヶ月が経過した時点で原告訴状の間違いを裁判所に提出したところ、たちまちの攻守逆転で、そこからはあたかも当方が原告になった気分でした。

◇ソニーをめぐる問題

―――理想的な著作権の運用方法について、どのように考えますか?

穂口 : 私が問題にしているのは2点です。一つは「音楽の大口使用者」が「著作権者」を兼ねている問題、もうひとつは「著作権」と「著作隣接権」が著作権法の中に混在しているため、著作権問題に多くの誤解や混乱が発生している問題です。

(参照:著作隣接権とは?)

「音楽の大口使用者」には、テレビ局やレコード会社がありますが、中でも大手テレビ局が子会社に音楽出版社を設立して膨大な音楽著作権を保有していることは大問題です。つまり公共の電波を使って放送する力を悪用して音楽著作を集める行為は、著作権料を50%割引で使っていることと同義でもあり、また電波を持たない一般の音楽出版社の営業を妨害する行為であると言えます。不正競争防止法に抵触する行為であると言っても過言ではないでしょう。

しかしながら、一般の音楽出版社としては、電波に逆らうと自社の業績に悪影響がおよぶことを恐れて泣き寝入りをしている状態です。したがって、表面上は電波関係とそれ以外の音楽出版が仲良くしているように見えますが、実際にはテレビ関係の音楽出版社の存在で一般の音楽出版社の業績を大きく圧迫しています。

また、レコード会社の問題で言えば、一部の、はっきり言うとソニーが、大量の著作隣接権を集めて、その著作隣接権を盾に、インターネットを活用した新たなビジネスの妨害をしていることも大問題です。このソニーの妨害によって日本の音楽業界の改革が10年遅れ、音楽ファンが多くの不自由を強いられてる事実はすでに有名です。

私は著作隣接権の改正が必要だと考えています。具体的には、この著作隣接権は著作権とは別の法律に作り替えて、著作権よりは弱い権利に限定するべきです。具体的に特許に関する法律に準じる制度が良いと考えています。

つまり、期間を限定し、また一定の対価での第三者への提供を義務づける必要があります。また、国民が音楽を楽しむ機会を企業の論理で奪うことのないよう、いわゆる独占禁止法のような法律によって権利行使を制限する必要を感じています。

―――穂口さんは、自分の著作権を3年間、自分で管理されたと聞きましたが?

穂口:はい、3年間の著作権自己管理の経験では、自己管理とすることで使用者に混乱が発生することを体験しました。将来的な自己管理の方法論を模索するとしても、現状では一般の方の著作権に関する認識や知識は限定的なので、現段階での自己管理は時期尚早であったと考えています。

また私は、著作権の自己管理に当たって、自前のデータベースシステムを用意して、インターネットサーバーが自動的に許諾するなど、出来る限りシステマチックな許諾システムを構築しましたが、それでもなお、多岐に渡る音楽の使用希望形態に自動的に回答することは難しく、多くの人的対応が不可欠でした。したがって、著作権者にとっても、使用者にとっても、著作権についてはJASRACなどによる一元管理が望ましいと言う、極めて当たり前の結果となりました。

◇「日本の音楽環境が今のままで良いはずはありません」

―――この裁判を通じて、何を感じていますか?

穂口: この裁判でもっとも強く感じたことは、裁判制度を、私怨を晴らす目的に悪用した可能性です。訴えられた私の会社名は株式会社ミュージックゲートです。そこで、当然のごとくmusicgate.comと言うドメイン名を取得しています。また、musicgate.co.jp、musicgate.jpと言うドメイン名も同時に取得しています。

私の考えでは、どうやらこのドメイン名の取得競争に破れたソニーがその恨みを晴らす目的で今回の訴訟を仕掛けたと断定的に考えています。

それと言うのも、遡ること17年前、私が1998年にミュージックゲートを設立してmusicgate.comのホームページを公開していたところ、1999年から2000年にかけて、このmusicgate.comへのソニーからのアクセスが異常に多くありました。ちなみに、当時私の会社はいち早く社内に独自サーバーを設置して運用していましたので、いわゆるインターネットプロバイダーがアクセスの詳細を把握できるように、リアルタイムでアクセス解析が可能でした。

そして、ソニーからの異常なアクセスがあってから数ヶ月後に、ソニーを中心としたインターネット音楽配信関連会社である「レーベルゲート」がスタートしました。そして数年後には「レーベルゲート」を運営母体とするインターネット音楽配信サービスの「Mora」がスタートしています。

おそらく、ソニーとしては当初は「ミュージックゲート」の名称でサービスをスタートしたかったのでしょう。たしかに「レーベルゲート」と「ミュージックゲート」では後者の印象が勝っています。しかしながらご承知のとおり、ドメイン取得は早い者勝ちの世界です。ソニーは私に一足お先にmusicgate.comを取得されたことで、相当な痛手があったと言っても過言ではないでしょう。そして、その後、現在にいたってもソニーが主導する音楽配信は、そのプログラムの不便さと基本戦略の間違いによって一向に発展の気配もありません。

そして、「レーベルゲート」をはじめとする、ソニーの音楽配信の直接の担当者が現ソニーミュージックレーベルズ社長であり原告の1人である村松俊亮氏だったと聞いています。

つまり、この裁判は問題の解決が目的でなく、ミュージックゲートを困らせることが主目的であったと考えることが自然です。なぜなら、レコード会社31社ともあろうものが、あきれるほど粗雑な証拠しか提出できず、結果としてTUBEFIREの閉鎖以外の成果を得られなかったり、著作権裁判の常識では考えられない結果で和解するなど、あまりにも不自然な状況が積み重なっているからです。

ちなみに、ご承知のとおり、携帯電話はすでにスマートフォンの時代に進化し、従来型携帯端末(いわゆるガラケー)の利用者は少数派になろうとしています。したがって、従来型携帯端末に利便性を提供していたTUBEFIREの役割はすでに終了していることから、裁判がなかったとしてもTUBEFIREは自社の判断で閉鎖となった可能性が高いと言えます。

つまりこの裁判は、原告にとっても、もともと裁判自体が不要であったと断言することが出来ます。今ではTUBEFIREを使わなくても、携帯端末(スマートフォン)でYouTubeを簡便かつ公然と視聴すること出来るばかりでなく、設定によってはオフラインでも視聴出来るように進化しています。そしてこれも当然ですが、YouTubeをスマートフォンで視聴しても著作権者から訴えられることもありません。

私はこの裁判を、ソニーグループが繰り返している一連の戦略ミスおよび経営ミスの一つと考えています。証拠資料を検証すると、ソニーグループがこの裁判の音頭をとっていて、他のレコード会社はソニーグループに付き合ったと考えて間違いない状況を散見することが出来ます。例えば、ソニーグループが賠償請求対象ファイルとして約1600ファイルをリストしているのに比較して、例えばユニバーサルは僅かに7ファイル。両者の規模を考えると、この両者の曲数の差は、裁判に対する温度差とする以外に説明がつきません。

◇レコード界の冬の時代に

穂口:次に印象深いことは、この裁判の3年数ヶ月の期間で、原告レコード会社の数が31社から24社に減少したことです。これも時代の流れだと感慨深く感じるとともに、音楽業界のこの惨状を改善するために何らかの行動を起こす必要があるとも感じています。

私は、おそらく行動を起こすでしょう。そして、レコード会社各社の認識の間違い、取り分けソニーの妨害によって世界から大きく遅れた日本の音楽環境を微力ながら改革したいと考えています。そしてそのことは、一部のレコード会社にとっては朗報となるでしょう。また、一部のレコード会社にとっては痛手となるかも知れません。

いずれにしても、ほとんどの国民の皆様が感じていらっしゃるとおり、日本の音楽環境が今のままで良いはずはありません。卓越したボーカリストはその力量に見合った評価を得なければなりません。音楽産業には錬磨した技量を持つミュージシャンを支援する責任があります。そしてなによりも、国民の皆様に多様な音楽をお届けする機会やシステムの発展を、自社の利益や既得権益を超えて提供する責務があると感じています。

原告の皆様には、音楽業界の衰退を招いた自らの所業を反省して頂きたく、現在の経営体制では困難であろうことも理解しながら、今後は利益のみに偏らない事業運営を目指すよう強く要望致します。

■穂口雄右氏の陳述書全文

2015年03月02日 (月曜日)

ソニーなどレコード会社31社が仕掛けた2億3000万円の高額裁判に和解勝利した作曲家・穂口雄右氏へのロングインタビュー(上)

YouTube上の動画を携帯電話で視聴するためのサイトTUBEFIREが著作権を侵害しているとして、レコード会社など31社が、同サービスを運営するミュージックゲート社(穂口雄右代表)に約2億3千万円の損害賠償などを求めた裁判が昨年の12月17日、東京地裁で和解した。

被告・ミュジックゲート社の代表は、キャンディーズの大ヒット曲、「春一番」・「微笑がえし」などを手がけた著名な作曲家・穂口雄右氏である。

主な和解内容は、被告の権利侵害を認定する代りに、原告は損害賠償を請求しない、など。しかし、原告のレコード会社らが10,431個分のファイルが違法にダウンロードされたと主張したにもかかわらず、実際には121個しか確認できなかった上に、「ダウンロード」と「ファイル変換」を混同し、勘違いしていたことが判明、請求額は「0円」となった。前代未聞の滑稽(こっけい)な決着となった。

(参照:和解条項の全文PDF)

裁判を終えた被告の穂口氏に裁判の全容を詳しく語ってもらった。

―――裁判が終わってどのような気持ちですか。

穂口 : なにか、物足りないような寂しいような気持ちです。判決になっても一審でのこちらの勝利はほぼ確定しているような状況だったので、和解で終了したことをある種残念に感じています。

実は当方は、裁判がスタートしてからほどなくして原告の間違いのすべてを発見していました。したがって、根が楽天的な私の裁判中の気分は、原告には申し訳なくも完全に見下ろし状態で、原告の間違いを指摘するタイミングを見ながら裁判を楽しんでいました。
―――TUBEFIRE(チューブファイアー)とはどのようなサービスですか。

穂口:TUBEFIREはYouTubeで公開されている動画ファイルを、従来型携帯端末でも視聴できるようにブラウザ経由でファイル変換を提供するサービスです。ファイル変換技術に秀でた弊社スタッフの希望によりスタートしたサービスです。

YouTubeの提供しているファイル形式では従来型携帯端末での視聴はできません。そこでTUBEFIREではYouTubeの動画を従来型携帯端末でも視聴できるようにしたところに存在意義がありました。したがって、従来型携帯端末のシェアーが減少している現在ではTUBEFIREの存在意義は低下しています。

―――現在、TUBEFIREのサービスは中止されていますが、提訴される前の時期には、どの程度の利用がありましたか?

穂口:ピークでは月間200万アクセスを記録しています。
―――何を理由にレコード会社(音楽出版社を含む)31社から提訴されたのですか?
穂口 : アクセス数が膨大に膨らんだため、回線の負荷を軽減するための一時的キャッシュが不可欠になり、著作権法第47条の5のいわゆる「プロバイダー制限責任条項」に基づきキャッシュを生成したところ、原告はTUBEFIREが著作権法第47条の5に従って運用されていることを知らずに、このキャッシュの事実を頼りとして提訴しました。著作権法に違反しているというわけです。

(参照:著作権法第47条の5PDF)

そこで、当方が「著作権保護システム」を装備して運用していると反論したところ、原告らは「そんなことは信じられない」と反論してきたので、当方から「著作権保護システム」のすべてのプログラムを裁判所に提出しました。すると原告らは「著作権保護システム」への反論が出来なくなり、その後は、論点を微妙にずらして時間稼ぎを試みていた印象です。

◇提訴の根拠は著作権法第47条の5

―――裁判の争点を教えてください。
穂口: この裁判の重要な争点は次の通りです。

1、TUBEFIREによるキャッシュが著作権法第47条の5を適用するケースか否か。
(裁判所の心証開示では、今のところ該当しないと考えていると開示)

2、原告が提出した約10000ファイルを記載したエクセル表の信憑性。
(裁判所の心証開示では、証拠として採用できないと考えていると開示)

3、原告が提出したmp3データ121ファイルの証拠価値。
(裁判所の心証開示では、今のところ121の侵害はあったと考えていると開示)

4、TUBEFIREの「著作権保護システム」の有効性。
(裁判所の心証開示では、この点には触れていません)

5、YouTubeのhtmlソースを解析して、利用者がYouTubeから直接ダウンロード出来るように紹介する行為が著作権侵害に当たるか否か。
(裁判所の心証開示では、今のところ侵害には当たらないと考えていると開示)

特に約10000ファイルの侵害の根拠として原告が提出したエクセルリストは間違いも多く、また、原告らが提出した担当者の陳述書内容と食い違っていたため、裁判を継続すると担当者の証人尋問に及ぶ可能性が高く、原告らは、この証人尋問で陳述書通りの証言を行った場合に偽証罪を問われる可能性があることを恐れたものと推察できます。事実、裁判所は心証開示の場で、和解が不調に終った場合の証人尋問の可能性を明言していました。

◇裁判官が驚いて「これだけですか?」

―――レコード会社は穂口さんの著作権違反を立証するためにどのような証拠を提出しましたか?

穂口: 前記のとおり、原告が当初拠り所としたのは、外注によって調査したハッカー的行為によるエクセルリストだけでした。これは、ハッカー的なプログラムを用いてTUBEFIREにアクセスし、TUBEFIREの反応の違いからキャッシュの有る無しを判断し、この結果をエクセルに記載した表です。そして当方は、このリストが間違いだらけであることを提訴から約1ヶ月後には完全に把握していました。

そこで、当方が「原告が10000ファイル以上の違法ファイルをダウンロード出来たと主張するなら、その実ファイルを提出するように」と反論したところ、原告は法廷では「証拠はあるので提出する」と明言しておきながら、2ヶ月後に提出してきた実ファイルは121だけでした。これには裁判官も驚いて「これだけですか?」と原告に念を押すと、原告は「はい、これだけです」と証言しました。ここでほぼ勝負ありの山場でした。

その他にも原告らは、ミュージックゲートの他のサービスのページのコピーなどを持ち出し、なんとか心証を得ようともがいていましたが、そのどれもが当方の反論によって論破され、最後に当方からエクセルリストと関連の陳述書の間違い、矛盾を指摘されてしどろもどろになり、その後の原告らは防戦一方といった体たらくでした。

◇「ダウンロード」と「ファイル転換」の違い

―――この裁判を理解するためには、どうしてもファイルの「ダウンロード」と「ファイル変換」の違いを明確にする必要があるわけですが、両者の違いを説明していただけるでしょうか?

穂口:いわゆる「音楽著作物の違法ダウンロードサイト」とは、他人の著作物を、権利者の許可を得ないで、自ら送信可能化(ファイルをHDDなどに複製してネットで送信できるようにする行為)をして、公衆回線を通じて著作権保護を一切施さずに不特定多数にダウンロードさせるサービスです。またこの場合のダウンロードファイルは、そのほとんどが音楽ファイルですから、著作権保護システムを装備するとサービスそのものが成り立ちません。

一方、「ファイル変換サービス」は、ファイル形式を解析して別の形式のファイルに変換するサービスです。その中でもTUBEFIREはYouTubeがすでに送信可能化を完了し、公衆回線上でYouTubeからダウンロード可能なファイルが、すでに利用者によってダウンローされているファイルに限って、ファイル変換と変換後のファイルの取得を可能にするサービスです。ちなみに、著作権者が公開を禁止した動画はYouTubeから削除されYouTubeからのダウンロードは不可になります。

またYouTubeがストリーミング専用動画として公開しているファイルもTUBEFIRE でファイル変換を行うことは出来ません。そしてご承知の通り、YouTubeの人気動画は音楽動画だけではありません。したがって、原告が著作権を持つ動画をYouTubeから削除しても、YouTubeおよびTUBEFIREのサービスは充分に成立します。

◇ほぼ完璧な著作権保護システム

―――TUBEFIREの著作権保護システムについて教えてください。

穂口 : TUBEFIRE の著作権保護システムの特徴は、YouTubeの動画公開情報と密接に連携して動作します。まずはじめに、TUBEFIREにファイル変換をリクエストするには、利用者がすでにYouTubeの動画IDを知っている必要があります。なぜならTUBEFIREを利用するにはYouTubeで公開されている動画IDにアクセスした上で、YouTubeのURL上に「fire」の文字を追加しなければならないからです。したがって、この段階でYouTubeから削除された動画は対象外になります。

次に、利用者が第一段階をクリアーしてTUBEFIREにファイル変換をリクエストすると、TUBEFIREの「著作権保護システム」が作動してYouTubeにアクセスし、変換リクエストをされた動画が実際にYouTubeに公開されているか否かを再度確認し、この時点でYouTubeから削除されていればTUBEFIREでのファイル変換は不許可となり終了します。

YouTubeでの公開が確認できた場合には「利用者が著作権侵害をしないことを誓約して」変換開始ボタンをクリックすると当該のYouTube動画IDに該当する動画のファイル変換がスタートします。変換には数10分から数時間かかるケースもあることから、ここで大概の利用者はTUBEFIREにメールアドレスを登録してTUBEFIREからの連絡を待ちます。

ファイル変換が完了するとTUBEFIREは利用者に自動メールを送信し、メールを受け取った利用者は再度TUBEFIREにアクセスして変換済みファイルを受け取るリクエストをします。TUBEFIREはここでもリクエストを受けた変換済みファイルの元となるYouTube動画がYouTubeで公開されているか否かを確認し、YouTubeから削除されていた場合にはTUBEFIREからのファイルの取得は不可となりTUBEFIREは終了します。

YouTubeでの公開が確認された場合には再度「利用者が著作権侵害をしないことを誓約して」ファイル受取りのボタンをクリックすることで、利用者はTUBEFIREから変換済みファイルを受け取ることが出来ます。

つまり、TUBEFIREを利用してYouTube動画を変換するためには、

1、予めYouTubeにアクセスして希望する動画のURLを確認取得する。

2、YouTubeのURLに「fire」の文字を追加してTUBEFIREにアクセスする。

3、TUBEFIREはYouTube動画の公開を確認しYouTubeで削除されていれば変換は不可。

4、3で可の場合利用者は「著作権侵害をしないことを誓約」、変換がスタート。

5、個々の利用者当てに固有のメールアドレスで変換完了を通知。

6、受取りリクエストを受けてTUBEFIREは再度YouTubeでの動画存在を確認。

7、当該動画がYouTubeから削除されていた場合にはリクエストを拒否して終了。

8、7で公開が確認された場合には再度「著作権侵害をしないことを誓約」を要求。

9.利用者が再度「著作権侵害をしないことを誓約」して受取りボタンをクリック。

以上のように、TUBEFIREはYouTubeと連動した何段階もの「著作権保護システム」を装備して運用していました。【続】

2015年02月28日 (土曜日)

米国とキューバ、第2回の国交回復会議がワシントンで始まる、争点は米国によるキューバの「テロ支援国家」認定の解除

 キューバの『プレンサ・ラティナー』紙(電子)の報道によると、米国とキューバの国交回復へ向けた2回目の会議が、ワシントンで現地時間の27日、午前9時から始まった。

これは1月22日にハバナで開かれた最初の会議に続くものである。

最大の争点は、米国がキューバに対して続けてきた「テロ支援国家」認定を解除するかどうかである。「テロ支援国家」認定が、50年にわたる経済封鎖の根拠になってきたからである。また、同じ理由で世界銀行(WB)などの金融機関から、融資が受けられない状態が続いてきたからだ。

しかし、米国は、国交回復交渉と「テロ支援国家」解除の問題は別とする立場を取っている。

二つ目の争点は、CISの金融部門が不在になっている問題をどう処理するのか、という点である。

【注】CIS (Cuban Interests Section、キューバの在外公館で1977年からワシントンに設置されている。一方、ハバナには米国の在外公館がある。将来は、それぞれキューバ大使館、米国大使館に生まれ変わる可能性が高い。)

さらに大使館を開いた場合に必要となる外交官の行動規則についても話し合われる見込み。

米国が国交正常化を進める方向へ歩み始めた背景には、1999年のベネズエラ革命を皮切りに、ラテンアメリカ諸国で次々と中道左派、あるいは左派の政権が誕生して、カストロ政権の孤立が解消し、南北アメリカの政治地図が塗り変わった事情がある。さらに中国などが、ラテンアメリカで経済的な影響力を強めている背景もありそうだ。

一方、米国の経済界もキューバに新市場を求めている。単にオバマ大統領の「善意」で国交回復へ動き始めたわけではない。

2015年02月27日 (金曜日)

特定秘密保護法に対する違憲訴訟、全国ですでに5件に、十分な審理を尽くさずに結審するケースも

昨年の12月に施行された特定秘密保護法の違憲無効確認と施行差止などを求める訴訟が、全国ですでに5件起きていることが分かった。舞台は、東京地裁、横浜地裁、静岡地裁、それに広島地裁である。

本サイトでも既報したように、特定秘密保護法は、もともと日本が軍事大国化する中で、米軍と自衛隊の共同作戦の際に生じる秘密事項を保持するための法的根拠を得る目的で浮上してきた。しかし、いざフタをあけてみると、秘密指定の権限をもつ行政機関が次に示す19省庁にも広がっていた。

(1)国家安全保障会議 (2)内閣官房 (3)内閣府 (4)国家公安委員会 (5)金融庁 (6)総務省(7)消防庁 (8)法務省 (9)公安審査委員会 (10)公安調査庁 (11)外務省 (12)財務省 (13)厚生労働省 (14)経済産業省 (15)資源エネルギー庁 (16)海上保安庁 (17)原子力規制委員会 (18)防衛省 (19)警察庁

◇口頭弁論を開かずに判決

最初に違憲訴訟が起こされたのは、静岡地裁だった。特定秘密保護法が国会で成立した2013年12月から2ヶ月後、2014年2月に藤森克美弁護士が1人で起こした訴訟である。

この訴訟では罪刑法定主義と弁護権の侵害が争点になっている。しかし、村野裕二判長が、早々と第2回口頭弁論で近々の結審をほのめかしたために、原告の藤森弁護士は、裁判官忌避を申し立てた。

※罪刑法定主義
どのような行為が犯罪とされ,いかなる刑罰が科せられるか,犯罪と刑罰の具体的内容が事前の立法によって規定されていなければならないという刑法上の原則。(出典:ブリタニカ国際大百科事典)

静岡地裁に続いて、東京地裁でも、2014年3月に違憲訴訟が提起された。原告は、フリーランスのジャーナリスト、カメラマン、映画監督、編集者など43名。この訴訟で原告は、同法が取材活動の自由を侵害する危険性を問題視している。

横浜地裁では、2014年7に市民運動に参加している人々が違憲訴訟を起こした。13人の原告は、この法律が市民運動を抑圧することなどを危惧している。

広島地裁でも、2014年12月、個人訴訟が提起された。原告の会社員は訴状で「秘密の妥当性などをチエックする独立した監視機関の設置が明示されておらず、官僚による情報操作が可能」と指摘している。

なお、『東京新聞』によると、既に棄却された個人による違憲訴訟が1件(横浜地裁)ある。この裁判では、口頭弁論を開かずに判決が下された。

特定秘密保護法を危険視する声が各方面から上がっているだけに、今後、違憲訴訟が増える可能性もある。