1. 外務省からパスポートを没収されたカメラマンが外国特派員協会で会見、没収事件と特定秘密保護法の接点が浮上

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2015年02月13日 (金曜日)

外務省からパスポートを没収されたカメラマンが外国特派員協会で会見、没収事件と特定秘密保護法の接点が浮上

昔、小学校の教員に、「学習塾に自分の生徒を奪われて屈辱を感じませんか」と尋ねたことがある。教員は、「特に感じません」と答えた。

外務省にパスポートを取り上げられ、シリア取材を中止せざるを得なくなったカメラマン・杉本祐一氏が、外国特派員協会で、この事件についての記者会見を開いたことを知ったとき、わたしはかつて教員が呟いた「特に(屈辱を)感じません」という言葉を思い出した。

このところ民主主義の運命にかかわるような重大事件についての記者会見に限って、日本の新聞・テレビが牛耳る記者クラブではなくて、外国特派員協会で行われるようになった。それが慣行化した。これは、「日本の新聞・テレビはダメ」という共通認識がすっかり定着した証にほかならない。

最近の例をあげると、イスラム国で殺された後藤健二氏の母親・石堂順子氏の会見。最高裁事務総局の腐敗を内部告発した元裁判官・瀬木比呂志氏の会見。原発フィクサーからスラップを仕掛けられた社会新報編集部の田中稔氏・・・

重大問題は、外国特派員協会が記者会見を主催するという奇妙な現象が、すでに定着している。

当然、「日本の新聞人とテレビ人は、第1級のニュースソースを海外のメディアにさらわれて屈辱を感じないのか?」という素朴な疑問が湧いてくる。全員ではないにしろ、新聞・テレビで働いている人は、ジャーナリストではなく、ニュース価値を判断できない情報処理係である可能性が高い。

◇特定秘密保護法第22条のトリック

幼稚園でルールを守る。学校で校則を守る。会社で社則を守る。国の法律を守る。こうした生活歴の積み重ねが築いた秩序の中で、「おかみ」に反旗を翻してシリアを取材している朝日新聞の記者を、読売新聞が暗に批判する記事を掲載した。また、カメラマン・杉本祐一氏が外務省により、パスポートを没収される異常な事件が起きた。

なぜこれらの事件が重いのだろうか。それは既に施行されている特定秘密保護法の下で、2人のジャーナリストが最初の逮捕者になる可能性があるからだ。

メディア関係者には、見過ごせない事件なのだ。

周知のように特定秘密保護法は、極めて広範囲の人々を適用対象にしている。秘密を「管理」する側だけではなくて、秘密を引き出そうとする人々、すなわち新聞記者やジャーナリストも、取り締りのターゲットになっている。

たしかに秘密保護法の第22条は、次のように出版や報道の仕事に従事している人々の活動は、適用対象外にしているが、別の問題がある。まず、第22条を精読してほしい。

出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。

この条文を安易に読み流すと、一見、特定秘密保護法の下でも、言論の自由は保障されているかのような印象を受けるが、赤字の部分に注意してほしい。

カメラマンの杉本氏がパスポートの提出を拒否してシリアへ渡り、取材活動を展開し、たとえば民間軍事会社の実態を暴露したとする。仮にこの民間軍事会社の業務内容が特定秘密に指定されていたら、杉本氏は、「法令違反又は著しく不当な方法」で取材を断行したことを理由に逮捕されることになる。

刑罰は最高で懲役10年。

朝日記者も、外務省の意に反して「著しく不当な方法」で取材したとみなされ、逮捕されかねない。

つまりいくら第22条があっても、取材者の行動を無理やりに「法令違反又は著しく不当な方法」として理由づけてしまえば、特定秘密保護法で言論を取り締まることができる仕組みになっているのだ。

と、なればメディア関係者は今後、原発や企業に潜入して取材するなどの手法を使えなくなる。取材先にいきなり押しかけて、マイクを向けるのもNG。

今回、杉本氏がパスポートを没収された事件は、極めて高いニュース価値を有している。それゆえに外国特派員協会が記者会見の会場になったようだ。

日本の新聞・テレビはいまや、その存在価値すらも問われている。

記者会見の内容については、次のリンクへ。杉本氏は提訴する構えだ。

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