1. 『秘密保護法』(集英社新書)、 言論を弾圧するための「ざる法」③

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2015年02月21日 (土曜日)

『秘密保護法』(集英社新書)、 言論を弾圧するための「ざる法」③

 なぜ、特定秘密保護法がジャーナリズム活動やブログによる情報発信、それに住民運動などを骨抜きにしてしまう危険性を秘めているのだろうか。第3章の執筆者・林克明氏は、同法の22条を柱に据えて説明している。22条は、この法律が海外からも、「平成の治安維持法」と評価されていることに配慮して、次のように述べている。

(第1項)この法律の適用にあたっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。

この条文を受けて、下記の第2項で、「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については」例外にすると「言い訳」している。

(第2項)出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。

が、問題は「出版又は報道の業務に従事する者」の定義である。フリーランスのジャーナリストや編集者、カメラマンは、「出版又は報道の業務に従事する者」に含まれるのか?。あるいはブロガーは、これに該当するのか?。さらには住民運動の機関紙を制作する者はどうなのか?

森雅子・内閣府特例大臣(当時)は、フリーランスも「出版又は報道の業務に従事する者」に含まれると、国会答弁している。しかし、フリーランスに対する露骨な差別は、昔から存在していた。

本書で林氏は、豊富な具体例を紹介している。

たとえば鉄道事故を取材していたフリージャーナリストが、ある事故について警察に問い合わせたところ、「自称記者には対処しません」と言われた。それまでは取材に応じていたが、ある日を境に拒否されるようになったという。警察に足を運び、原因を探ったところ、TWITTERで警察を批判したことが原因らしいことが分かった。

つまり「出版又は報道の業務に従事する者」であるかどうかを判断するのは、特定秘密保護法を手に入れた警察の側なのだ。

◇われらが「島」

さらに第22条2項には、別の重大問題もある。取材活動を正当と認めるための条件が付されている点である。しかもその条件は、恣意的な拡大解釈を可能にするものである。次の箇所だ。

 専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限り(取材活動は正当)

改めて言うまでもなく、取材活動に公益性があり、法令を遵守し、不当な取材方法ではないと判断するのは、特定秘密保護法を運用する側である。たとえば、外務省による中東への渡航中止勧告を無視して、現地に入り、特定秘密情報に指定されている問題を暴けば、第22条による「特別救済」は対象外になる。

第22条は、どうにでも解釈できる「ざる法」の典型にほかならない。

もちろんジャーナリズムの代表的な手法である潜入取材などはできなくなる。真実を知ることができない状況は、長い目でみれば、国益を損なう。日本を脱出する人が増えるのは確実だ。その結果、われらが「島」はますます欧米から取り残され、孤立することになる。