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読売の「押し紙」裁判、原告が準備書面を公開(全文を掲載)、「押し紙」の定義、残紙と渡邉恒雄の関係にも言及

YC大門駅前の元店主が読売新聞大阪本社に対して起こした「押し紙」裁判(大阪地裁)の審理が、12月17日、コロナウィルスの感染拡大をうけて、ウエブ会議のかたちで行われた。原告は準備書面(1)を提出(PDFで全文公開)した。次回期日は、3月16日に決まった。

準備書面の中で原告は、「押し紙」の定義を明らかにすると同時に、読売新聞に残紙が存在する背景を、渡邉恒雄会長による過去の発言などを引用しながら歴史的に分析している。

◆新聞の「注文部数」をめぐる原告の主張

改めて言うまでもなく、「押し紙」裁判では、審理の大前提として「押し紙」の定義を明確にする必要がある。一般的に「押し紙」とは、新聞社が販売店に対して買い取りを強制した新聞と解されてきた。筆者の古い著書においても、そのような説明をしている。従ってこの定義を採用すると、新聞販売店が折込媒体の水増しを目的として、自主的に注文した部数は「押し紙」に該当しない。「積み紙」という解釈になる。

しかし、独禁法の新聞特殊指定でいう厳密な「押し紙」行為とは、次の2点である。

①販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。

②販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。

実は、この定義には抜け穴がある。注文部数の定義があいまいなのだ。

一般に商取引においては、商店の側が卸問屋に対して、注文部数を決めて発注書を発行する。これはあたりまえの慣行で、全ての商取引に共通している。新聞の商取引も例外ではない。形式的には販売店が新聞社に対して新聞の注文部数を決め、それを伝票に記入する。

ところが販売店は発注の際に実配部数だけではなく、残紙部数を含めた部数を伝票に記入する。「押し紙」が独禁法に抵触するから、「押し紙」を隠すためにそのような慣行になっているのだ。しかし、形式的にはこれが新聞の注文部数ということになる。

従って、実際には「押し紙」が存在していても、新聞特殊指定の①②をすり抜けてしまう。新聞社は、「押し紙」行為はしていないと強弁することも一応はできる。実際、読売新聞社は「押し紙」をしたことは一度もないと主張してきた。

この点を前提として、原告準備書面(1)は、新聞特殊指定でいう注文部数の定義が別に存在していることを、歴史的に証明している。それは独禁法の中で、新聞が一般指定ではなく、特殊指定に分類されている事実とも整合している。特殊指定であるから別の定義があるのだ。

1964年に公正取引委員会は「新聞業界における特定の不公正な取引方法」を交付した。その中で日本新聞協会が定めた「注文部数」の解釈基準が引用されている。以下、引用してみよう。

①「注文部数」とは、新聞販売業者が新聞社に注文する部数であって新聞購読部数(有代)に地区新聞公正取引協議会で定めた予備紙等(有代)を加えたものをいう。
(黒薮注:当時の予備紙率は2%である)

①を前提として、次の行為を禁止している。

②新聞社は新聞販売業者に対し、「注文部数」を超えて新聞を供給してはならない。

③新聞販売業者は、新聞社に対し、「注文部数」を超えて新聞を注文しないものとする。

つまり新聞特殊指定でいう「注文部数」とは、一般の商取引でいう「注文部数」とは定義が異なり、新聞の実配部数に予備紙を加えた部数を意味する。従って、「実配部数+予備紙」を超えた部数は、「押し紙」ということになる。このようにして、公取委は種類のいかんを問わず全ての残紙を排除する方向性を打ち出しているのである。

ちなみに公正取引委員会が新聞特殊指定でいう「注文部数」の定義を根拠に新聞社を指導した例としては、1997年の北國新聞がある。その際、公取委は、北國新聞とは別の新聞社でも同様の「押し紙」行為があることに苦言を呈している。

◆渡邉恒雄と残紙問題

また、原告準備書面(1)は、読売で残紙が発生している理由として、1991年に渡邉恒雄社長(当時)が打ち出した「販売第一主義」をあげている。同準備書面は、渡邉氏の次の発言を引用している。

「戦いはこれからである。再来年(94年)11月の創刊百二十周年までには是非とも1千万部の大台を達成して、読売新聞のイメージをさらに高め、広告の増収に貢献、経営体質を不動のものにしたい。現在、本社の全国部数は約980万部だが、今後2年余で30万部の増紙をしたい。1千万部を達成といっても、少し手を抜けば990万部になる。一度1000万部を達成したら、2度と1000万部を切らぬようにするためには、押し紙、積み紙、無代紙を完全に排除したうえで、1000万部以上を確保しておかなければならない。それにはどうしても30万部の増紙が必要だ。戦いは容易ではない。皆さんの指導力、経営力に頼るほかない」

渡邉氏は、「押し紙、積み紙、無代紙を完全に排除したうえで、1000万部以上を確保しておかなければならない。」と述べており、押し紙、積み紙、無代紙(新聞特殊指定の定義では、すべて「押し紙」)の存在を認めているのである。

原告は準備書面(1)全文

 

【資料】

■訴状

■「押し紙」一覧

真村訴訟福岡高裁判決

■読売新聞に関する全記事

千葉県の広報紙『ちば県民だより』、21万部水増しの疑惑、必要な予備部数は9000部、背景に新聞社のビジネスモデル

千葉県が税金で制作して、新聞折り込みで配布する広報紙『ちば県民だより』が、大幅に水増しされている疑惑が浮上した。

筆者ら取材チームが調査したところ、『ちば県民だより』の発行総数は、187万部(2020年6月時点)だった。このうち新聞折り込みで配布することを前提に、広告代理店が新聞販売店に卸している部数は、177万9000部(2020年6月)だった。

ところが千葉県下における新聞の総発行部数は、約156万8369部である。約21万部が過剰になっている。配布されずに廃棄されていることを意味する。

新聞発行部数の内訳は次の通りである。

朝日:375,531(20年4月、ABC部数)
産経:77,239(20年4月、ABC部数)
東京:52,001(20年4月、ABC部数)
日経:121,808(20年4月、ABC部数月)
毎日:109,305(20年4月、ABC部数月)
読売:687,353(20年4月、ABC部数月)
千葉:145,150(19年1月)■出典
合計:1,568,369部

■出典:千葉県のABC部数

 

朝日、産経、東京、日経、毎日、読売の部数は、日本ABC協会が公表している公式部数である。千葉日報は、日本ABC協会の会員社ではないので、発行部数は不明だが、日経新聞の記事の中で引用されている部数を採用した。

新聞の発行部数が公表された時期と、『ちば県民だより』の折込部数調査の定点観測時点には、若干のタイムラグがあるが、新聞の発行部数は顕著な低落傾向が続いており、ここで表示した新聞発行部数が、『ちば県民だより』の折込作業の時点で増えていることはありえない。

◆◆◆
次に示すのは、千葉県が公表した『ちば県民だより』についての情報である。

1.発行している広報紙名称…ちば県民だより
2.総発行部数…187万部(2020年6月時点。予備含む)
3.ポスティングについて…ポスティングは行っておりません。
4.新聞折込枚数…約177万9千部(2020年6月号。予備含む)
5.広告代理店…株式会社キョウエイアドインターナショナル
6.印刷会社…株式会社リフコム

◆◆◆
千葉県は、水増し分は「予備部数」という見方をしているが、適切な予備部数は、新聞業界の伝統的な内部ルールによると、搬入部数の2%とされてきた。現在、このルールは廃止されているが、新聞社の自己都合でそれを行った経緯があり、社会通念からすると予備部数は2%である。自動折込機が高性能になっているので、折込媒体の破損はほとんど発生しないからだ。

その2%を基準にすると、『ちば県民だより』の適切な予備部数は、9350部ということになる。22万部もの予備部数は必要がない。

また、新聞業界には、新聞社が販売店に対して不要な部数を押し売りする「押し紙」行為が慣行化しているので、『ちば県民だより』の水増し率はさらに高い可能性が濃厚だ。

販売店に搬入される新聞のうち、少なくとも2割から3割が「押し紙」だと言われている。場合によっては、4割にも5割になるケースもある。(写真参考)

広報紙の水増しと廃棄は、全国の自治体で問題になっている。この問題の原因は、新聞社が採用してきたビジネスモデルにある。「押し紙」により販売店が被る損害を、折込媒体の水増しで相殺するビジネスモデルが温床になっている。

 

自治体における広報紙の水増し問題に関する全記事(埼玉県、滋賀県、流山市、船橋市・・・)

 

■取材チーム:メディア黒書に対する妨害があったのを機に、複数の読者から取材協力の申し出があり、取材チームを結成した。全国の主要な自治体の広報紙を調査している。平行して情報提供も行っている。

2021年01月04日 (月曜日)

楽天モバイルは回答せず、「電磁波からいのちを守る全国ネット」の公開質問状

昨年(2020)年の12月3日、「電磁波からいのちを守る全国ネット」は、楽天モバイルに対して、4項目からなる公開質問状を送付した。しかし、1ヶ月が経過した今年の1月4日の時点で、楽天からはなんの回答もない。回答期限は12月18日だったので、その後、「全国ネット」は回答を催促したがやはり回答はなかった。

4項目の質問は次の通りである。

1、マイクロ波に非熱作用がないと考える根拠はなにか?

2、アメリカの国立環境衛生科学研究所のNTP(米国国家毒性プログラム)の最終報告について、貴社はどのような見解を持っているのか。

3、貴社の基地局周辺で健康被害が発生した場合、どのように対処する計画なのか。

4、基地局の設置が原因で、不動産の価値が下落した場合、どのような補償を考えているのか。

◆◆
昨年の秋ごろから、楽天モバイルの基地局設置計画に対して住民が計画の撤回を求めるケースが相次いでいる。「全国ネット」は、住民から支援要請があれば、チラシのひな形を提供するなど支援活動を続けてきた。その甲斐があって、大半のケースで問題は解決しているが、東京都目黒区本町のケースのように解決に至っていない例もある。

目黒区本町のケースは、化学物質過敏症の患者が集うサロン「はなちやんカフェ」の近くに携帯基地局が設置された例である。電磁波の影響で、「はなちゃんカフェ」は運営そのものが難しくなっている。

■はなちゃんカフェ

楽天をはじめとする電話会社が総務省の電波防護指針を守って基地局を操業していることは事実だが、規制値そのものが欧米に比べると異常にゆるやかで、実質的には規制になっていない。

たとえば欧州機構が定めているマイクロ波の勧告値は、0.1μW/c㎡ であるのに対して、日本の総務省が定めている規制値は1000 μW/c㎡である。天地の差がある。なぜ、これだけ大きな差があるのか、その理由も明らかになっている。

マイクロ波に遺伝子毒性があることを前提にして欧州機構が勧告値を決めたのに対して、日本の総務省は、マイクロ波には遺伝子毒性がないという前提で規制値を決めたからである。従って、総務省の見解が誤っていれば、日本国民は将来的に計り知れない被害を受ける可能性が高い。癌や神経系の病気が、激増すると予測される。

公開質問状の無回答は、住民が電磁波による被害を受けた場合も、楽天は責任を負わないという表明である可能性が高い。

2020年12月31日 (木曜日)

同時代を認識する困難、新聞・テレビの誤った歴史観

現代社会に生きている人々は、恐らくひとりの例外もなく、江戸時代が露骨な階級社会であった事実に異論を唱えないだろう。しかし、タイムマシンに乗り、200年前の世界へタイムスリップして、江戸の住民たちに対して、

「あなたはいま自分が残忍な階級社会に生きているという認識を持っていますか?」

と尋ねたら、だれも不可解な表情を浮かべるだろう。

だれ一人として、自分たちが武士に支配された理不尽な階級社会に生きているという認識は持っていないだろう。そのような意識が広範囲に存在すれば、江戸の社会制度は崩壊へ向かう。治安が維持できなくなる。

◆◆
人間の意識や感覚は、動物に共通した生理反応による脳の分泌物ではなく、その時代の経済制度に連動したプロパガンダを基盤として形成される。広義の社会教育の結果にほかならない。意識の形成には、唯物論が主張する「存在が意識を決定」する原理が働く。

我々が江戸時代の階級制度の非人間性を認識できるのは、現代社会で養われた知識と意識をフィルターとして、歴史を再検証するからにほかならない。現代に比べて、江戸時代は理不尽な社会という評価になる。

江戸時代の人々は、武士や天皇を尊ぶべきだという社会通念を持っていた。そんな思想が支配的だった。

それに加えて、社会科学も未発達の時代であったから、自分たちが階級社会に生きている人間であるという認識もなかったはずだ。感覚の鋭い人が、漠然と不平等な社会の実態を感じることはあっても、それを社会科学の視点から認識することはできなかった。階級社会から生まれる価値観を空気のように受け入れていたと推測される。

◆◆
実は、同じ原理が現代社会でも働いている。現代に生きている人々の大半は、自分たちが労働力の搾取を前提とした階級社会に生きているという認識を持っていない。江戸時代の階級社会についてはその非人間的な本質を認識できても、現代社会が封建制度の没落に代わって生まれた別のタイプの階級社会であることには気づいていないはずだ。

その結果、自分たちは自由主義の幸福な時代に生きていると勘違いしている。

しかし、これから先の100年後、あるいは200年後に生まれてくる未来の人々は、歴史を学ぶときに、20世紀から21世紀にかけて存在した時代を、公然とした搾取が横行していた階級社会として認識するはずだ。そしてこう呟くだろ。

「自分はあんな不幸な時代に生まれなくてよかった」

◆◆
同時代をタイムリーに認識する作業は容易でない。人間の意識の根源が社会そのものの中にあり、しかも、公権力のよる洗脳や世論誘導の影響で、時代に迎合した意識が形成されるからだ。

その結果、外国人の技能研修生を使って新聞を配達させ、莫大な利益をあげる仕組みを構築しても、それがいかに非人間的な行為なのかに気づかない。外国人の救済だと勘違いする。【続きはウエブマガジン】

2020年12月29日 (火曜日)

横浜副流煙裁判、反スラップ裁判、弁護士懲戒請求も必要

横浜副流煙裁判の被告・藤井将登さんが、来年早々に反スラップ裁判を起こす。原告には将登さんのほかに、妻の敦子さんも加わる。敦子さんが原告になるのは前訴の中で、非禁煙者であるにもかかわらず喫煙者として誹謗中傷されたからだ。

この事件は、将登さんが同じマンションの2階に住むAさん一家から、将登さんの副流煙が原因で、受動喫煙症に罹患したとして、4500万円の損害賠償を請求されたものである。しかし、第一審の横浜地裁も第二審の東京地裁も、Aさんらの請求を棄却した。第1審は、作田医師の医師法20条違反も認定した。

そこで藤井さん夫妻が反スラップ裁判を起こすことになった。しかし、この裁判は、Aさんらに対する反訴でも、Aさんの代理人・山田義雄弁護士親子に対する反訴ではない。Aさんら3人の診断書を作成した作田学・日本禁煙学会理事長を被告とした損害賠償裁判である。訴外者に対する反スラップ裁判なのだ。【続きはウェブマガジン】

埼玉県秩父市で選挙公報の廃棄、2万6000世帯の地域で1万部水増し疑惑、問われる新聞協会の「教育の中に新聞を運動」(NIE)、過去に秩父市立大田中学校を指定校に

2019年4月7日に投票が行われた埼玉県議会選挙の選挙公報(新聞折り込みで配布)が、一部の地域で水増しされ、廃棄されていた疑惑が浮上した。

筆者ら取材チームが埼玉県秩父市における選挙公報の卸部数と、ABC部数(新聞の発行部数)を調査したところ、選挙公報の卸部数がABC部数を約1万部上回っていた。

詳細は次の通りである。

選挙公報の卸部数:24,000部(2019年4月)
ABC部数:14,969部(2020年4月)

※埼玉新聞は除く
※世帯数:26,408世帯 (12月1日)

選挙公報の卸部数とABC部数の確認時期に1年のタイムラグがあるが、1年間で新聞の部数が1万部も減少することはありえず、水増しの疑惑がぬぐい切れない。

また、このABC部数には埼玉新聞の部数は含まれていないが、埼玉新聞の発行部数は埼玉県全域でも11万部程度なので、入間市における新聞の普及率もそれに準じたものでしかない。ほとんど普及していない。

選挙公報の新聞折り込みを仲介した広告代理店は、「新聞販売店からの申告部数にそって卸部数を決めた」と話している。

◆背景に新聞社の「押し紙」政策

折込媒体の水増し行為の背景には、新聞社による「押し紙」政策がある。「押し紙」で販売店が被る損害を、折込媒体の水増し手数料などで相殺する新聞のビジネスモデルが、このような水増し行為を生む温床になっている。責任は、ビジネスモデルを構築した新聞社にある。しかし、新聞社は依然として、「押し紙」の存在を認めていない。認めるとビジネスモデルが崩壊するからだ。

◆秩父市立大田中学校でNIE

なお、•秩父市の大田中学校は、2007年度に日本新聞協会のNIE(教育の中に新聞を運動)の実践指定校になった。かりに当時から同じことが行われていたとすれば、NIEそのものが問われる。

参考記事

「公正取引委員会を電話取材、「押し紙」を取り締まらない理由」

2020年12月23日 (水曜日)

楽天モバイル「広報部」、電磁波の安全性に関する質問に対するAIのような回答

読むたびにうんざりするのが企業の広報部が発行する文書である。企業が関係する事件を取材して記事化するとき、批判対象となる企業のコメントを求めるのがメディアの慣行になっており、それはそれで一応は理にかなっているので、わたしも批判対象になる企業の広報部を取材する。

すると、「質問を文書で提出してほしい」という決まり文句が返ってくる。そこで質問を送付する段取りとなる。

わたしは電磁波問題を取材している関係で、電話会社の広報部に質問することが多い。さすがに質問そのものを無視されることはあまりないが、回答を読むたびに、AIが作成した作文ではないかと違和感を感じる。担当者が自分の言葉で綴った回答は皆無に等しい。

文章に個性がなく、質問を巧みに潜り抜けるだけの短い文章が定番になっている。国会での官僚による答弁と類似している。何かを主張したいという熱意などは伝わってこない。いかに質問をかわすかしか念頭にない作文なのだ。

たとえば次に引用するのは、楽天モバイルの回答である。わたしの質問と解説も併せて紹介しよう。

【質問】御社は、基地局を設置するかしないかは、管理組合の判断にゆだねると説明されています。電磁波の影響を直接受ける可能性がある住民個人の権利については、どのようにお考えでしょうか。

この質問は分譲マンションの屋上に通信基地局を設置した場合、直接的に電磁波の影響を受ける基地局直近の住民が、設置に異議を唱えたときに、楽天が取る対処方法について尋ねたものである。楽天は次のように回答した。

【回答】個別案件の設置経緯については公表しておりません。いずれの基地局も弊社ネットワークを快適にご利用いただくために最適な立地を検証の上、基地局建設にご協力いただける場所にて設置を進めております。【続きはウエブサイト】

静岡県の広報紙『県民だより』、4万部水増し、各地で発覚する広報紙の「折り込み詐欺」

静岡県が県民の税金で制作して、新聞折込のかたちで配布している広報紙『県民だより』が、約4万部水増しされていることが分かった。

『県民だより』は月刊の定期刊行物で、静岡県は1回に付き約106万部を印刷している。

このうち新聞折込に割り当てられる枚数は、静岡県によると979,350部(2020年4月)である。これに対して、静岡県下における新聞の発行部数は、939,858部(2020年4月)である。

『県民だより』の卸部数が、新聞発行部数よりも、約4万部過剰になっている。

たとえ新聞販売店に「押し紙」が1部たりとも存在しなくても、約4万部が「水増し状態」になっている。かりに「押し紙」が存在すれば、「水増し部数」は、4万部の比ではない。3割の「押し紙」があれば、約32万部が新聞に折り込まれずに廃棄されていることになる。1割の「押し紙」でも、約13万部が「水増し」状態になる。

筆者ら取材チームの調査によると、多くの道府県で広報紙の水増しが発覚している。水増しの温床に、新聞社の「押し紙」政策があることはいうまでもない。

2020年12月21日 (月曜日)

新聞業界から政界へ373万円の政治献金、菅義秀首相に10万円、山谷えりこ議員に30万円、消費税の軽減税率適用に対する「謝礼」の疑い

2020年11月に公表された2019年度の政治資金収支報告書で、日本新聞販売協会の政治連盟を通じて、新聞業界から政界へ373万円の政治献金が行われていることが分かった。内訳は、セミナー代として述べ24人に283万円が、寄附金として18人に90万円が割り当てられている。

このうちセミナー代の支払い先は、次の通りである。この中には、菅義秀首相への10万円の献金も含まれている。また、高市早苗議員に対して20万円が、山谷えりこ議員に対して30万円が贈られている。内訳は次の通りである。

北村経夫 80,000
上田いさむ 80,000
かんの弘一(東京都議)50,000
中川雅治 80,000
高市早苗 200,000
清和政策研究会 400,000
斉藤鉄夫 60,000
清和政策研究会 160,000
清和政策研究会 100,000
北村経夫  80,000
中川雅治 80,000
岡下昌平 60,000
中山泰秀 60,000
大口よしのり 100,000
菅義偉  100,000
中川雅治 100,000
新藤義孝 100,000
中根かずゆき 60,000
西田まこと 100,000
斉藤鉄夫 140,000
石原伸晃 60,000
柴山昌彦 200,000
山谷えりこ 300,000
中川雅治 80,000

献金の目的は、新聞に対する軽減税率の適用や再販制度の維持など、政界が新聞社経営に多大な便宜を図っていることに対する謝礼の可能性が高い。

■裏付け資料

■「押し紙」に関する全記事

2020年12月19日 (土曜日)

多発する通信基地局の設置をめぐるトラブル、認識されはじめた5Gによる人体への影響、懸念される遺伝子毒性

電話会社が広範囲に通信基地局の設置を進めている状況の下で、電話会社と住民との間のトラブルが多発している。メディア黒書へも、この1週間だけで5件の相談があった。5Gの普及がはじまる前は、相談件数は月に数件だったが、このところ急増している。大半の係争は、楽天モバイルを相手にしたものである。

基地局の設置をめぐるトラブルが増えている現象を、肯定的に捉えれば、無線通信で使われる電磁波による人体影響が多くの人々に認識されはじめた証である。かつては電磁波の危険性とえば、変電所近辺や高圧電線の下の住宅に住む人々に癌や小児白血病が相対的に多いという疫学調査の結果を、一部の層が知っていた程度だったが、ここにきて5Gに使われる電磁波(マイクロ波とミリ波)による毒性について知る人が増えてきた。

これは裁判を起こしてでも解決しなければならない深刻な問題にほかならない。「予防原則」を理由にすれば訴訟の提起は可能だ。危険物に対する説明義務違反にも問えるのではないか。

◆電話会社の手口
住民たちの話から、電話会社による基地局設置の手口が明らかになってきた。次のような共通点がある。個々のケースで例外はあるものの、多くの住民が次のようにトラブルの実態を報告している。

基地局設置に際して電話会社は、設置場所から半径30メートル範囲内の住宅を対象に、基地局設置を告知するチラシを投函して、基地局設置計画を前へ進める。半径30メートルを超える位置関係にある住宅には、何の告知もしない。もちろん住民説明会も開かない。

住民から苦情が出ると、電話会社の担当者が苦情を申し立てた住民の自宅を訪問して、基地局設置を認めるように説得する。

説得の際に電話会社の担当者が持参するのが、総務省が作成したリーフレットである。そこには無線通信で使う電磁波には人体影響がないことが記されている。さらに担当者は、次のように説明する。

「総務省の電波防護指針(規制値)を遵守して操業しますから、絶対に安全です」

しかし、総務省の電波防護指針は実質的には規制になっていない。そのことは海外で採用されている規制値と総務省の規制値を比較すれば、明らかである。たとえば次のように。

日本の総務省:1000 μW/c㎡ (マイクロワット・パー・ 平方センチメートル)

欧州評議会:0.1μW/c㎡、(勧告値)

日本の総務省は、規制値を欧州評議会の勧告値に比べて1万倍も緩やかに設定している。米国と並んで世界で最もゆるやかな規制にしている。しかも、総務省が安全性の根拠としているのは、1990年以前に行われた電磁波に関する研究データで、それ以降の研究データは考慮されていない。検証したことはあるが、規制値を更新することはなかった。

ところがマイクロ波に遺伝子毒性があることは、世界の常識となっている。現在では、原発のガンマ線から家電の低周波電磁波まで、電磁波の仲間には、種類のいかんを問わず遺伝子毒性があると考える説が有力になっている。

事実、WHOの外郭機関である国際がん研究機構(IARC)は、2011年にマイクロ波に発がん性がある可能性を認定した。さらに現在、発がんリスクのランク付けの引き上げを検討している。

また、アメリカの国立環境衛生科学研究所のNTP(米国国家毒性プログラム)の最終報告(2018年)は、マイクロ波と癌の関係は明白と結論づけた。

そのマイクロ波に、基地局周辺の住民は24時間・365日さらされる。たとえ微弱な電磁波であろうが、それが長い歳月に渡って蓄積した場合、どのような人体影響が現れるのか、まだ明確には分かっていない。これまでドイツやイスラエル、それにブラジルで行われた大がかりな疫学調査では、癌との関係が指摘されているが、それだけではすまない可能性が高い。

住民が電話会社に対して5Gで使われる電磁波のリスクを指摘すると、「予定している基地局は5Gではなく、4Gです」と説明する。しかし、近い将来に5Gへ切り替えますとは説明しない。

◆新築のマイホームがだいなしに
基地局設置のトラブルは、だれにでも降りかかってくる可能性がある。新築した家の隣の土地に、基地局が設置されてしまえば、せっかく手に入れたマイホームで、延々と電磁波を浴び続けることになる。電話会社のビジネスの背後で、このような悲劇が起きているのである。

 

■「押し紙」に関する全記事

2020年12月18日 (金曜日)

福岡高裁で和解が成立、佐賀新聞の「押し紙」裁判、弁護団が声明を発表(全文を掲載)

佐賀新聞と元販売店主の間で争われていた「押し紙」裁判の控訴審で、和解が成立した。和解内容は公表されていない。

この裁判は、佐賀新聞の吉野ヶ里販売店の元店主・寺崎昭博さんが「押し紙」により損害を受けたとして、2016年に8186万円の損害賠償を求めたものである。第1審は、寺崎さんが勝訴した。佐賀地裁は、佐賀新聞社による「押し紙」が独禁法に違反すると認定し、同社に対して約1066万円の支払いを命じた。

これに対して原告・被告の双方が控訴した。第1審における寺崎さん側の請求額が高額だったことに加えて、控訴審では佐賀新聞社が和解を希望したことから推測すると、和解金額は高額になったと推測される。

寺崎さんの弁護団は、15日、「福岡高等判所第1民事部の矢尾渉裁判長のもとで、無事、和解により解決しましたのでご報告とお礼を申し上げます」と、和解を高く評価する声明文を発表した。全文は次の通りである。

■佐賀新聞押し紙訴訟 福岡高裁和解のご報告

 

【参考資料】

■訴状

■第1審・判決文の全文

■1審原告控訴理由書

■佐賀新聞「押し紙」裁判に関する全記事

 

■「押し紙」に関する全記事

2020年12月16日 (水曜日)

朝霞市がKDDI基地局の土地賃借料を360円(月額)とした根拠、時系列ノート㉘

埼玉県朝霞市の(市立)城山公園の敷地内に、KDDIが通信基地局を設置した問題の続報である。筆者は、この通信基地局が占める土地の賃借料が年間4300円(月々に約360円)であることを問題視してきた。基地局の賃借料の相場が、年間で60万円から90万円程度であるからだ。

賃借料を年間4300円に設定した根拠を朝霞市に問い合わせたところ、「朝霞市道路占用料徴収条例」に基づいていることが分かった。同条例によると、確かに道路の電柱の場合は、道路の賃借料が年間で4300円である。朝霞市はこれに準じたようだ。

しかし、公園は道路ではないうえに、通信基地局はビジネスの道具であり、電柱とは根本的に性質が異なる。朝霞市は基地局と電柱を同一視して、KDDIに便宜を図ったようだ。

以下、この事件をめぐる朝霞市・KDDI・黒薮のメールの交信記録である。

 

【11月17日】

黒薮様

KDDIエンジニアリング(株)
藤田です。

周辺にお住まいの方への対応として連絡させていただいております。

『本日中にお知らせください』とありますが、認識が異なるということをお知らせいたします。
6月22日から4ヶ月半で25回ほどメールでのやり取りをさせていただいております。

よろしくお願いいたします。

■裏付け資料

 

【11月18日】
藤田様

「認識が異なる」とのことですが、具体的に説明してください。
これまの貴殿の回答には、舌足らずな印象を受けています。具体的に説明すべきではないでしょうか。それにわたしから要求した資料(たとえば、基地局から放射される電磁波の到着範囲を示すマップ)なども提出されていません。

わたしは質疑応答を形骸化してすませることはしません。
回答期限も24時間にさせていただきます。

黒薮

■裏付け資料

 

【11月24日】

藤田様

11月18日付けメールの回答がないので、同メールを再送します。

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藤田様

「認識が異なる」とのことですが、具体的に説明してください。
これまの貴殿の回答には、舌足らずな印象を受けています。具体的に説明すべきではないでしょうか。それにわたしから要求した資料(たとえば、基地局から放射される電磁波の到着範囲を示すマップ)なども提出されていません。

わたしは質疑応答を形骸化してすませることはしません。
回答期限も24時間にさせていただきます。

黒薮

■裏付け資料

【11月27日】

黒薮 哲哉 様

令和2年11月6日付けでご質問いただきました内容につきまして、次のとおり回答させていただきます。

「今年中に、基地局を撤去すること。」

【回答】
 都市公園における携帯基地局の設置につきましては、工作物の新築工事として公園管理者の許可を得る必要があり、KDDI基地局については占用の許可を与えるための審査基準を満たしていることから許可を行ったものであり、撤去の予定はございません。

「問題の公有地の賃借料を仮に月間6万円と想定したうえで、市長は、実際の賃料360円との差額を朝霞市に支払うこと。」

【回答】
携帯基地局の占用料の額については、朝霞市都市公園条例第12条第2項に定められております。

令和2年11月27日

問合せ  朝霞市都市建設部みどり公園課長  大塚 繁忠

■裏付け資料

【12月2日】
KDDIエンジニアリング・藤田様
朝霞市みどり公園課:大塚様
発信者:黒薮哲哉

城山公園内に設置された通信基地局について、KDDIから説明がないので、今後、貴殿ら両人に対して順次質問します。回答は質問メールの到着日を含めて3日以内にお願いします。KDDIからの説明が途中で打ち切られたので、このような措置を取らせていただきます。

【質問1】基地局を4Gから5Gへ切り替える時期を教えてください。

【質問2】通信基地局の設置場所の賃料を年間4300円に設定したプロセスをご説明ください。

【12月4日】

黒薮 哲哉 様

市への意見要望等でご質問いただきました内容につきましては、順次対応しているため、回答までにお時間をいただいております。
あらかじめご了承ください。

令和2年12月4日

問合せ  朝霞市都市建設部みどり公園課長  大塚 繁忠

【12月7日】
藤田様(KDDI)
大塚様(朝霞市)

朝霞市岡3丁目の黒薮哲哉です。引き続き質問項目を提示します。

【3】この基地局設置事業のKDDI側の担当部署と責任者を教えてください。

【4】この基地局設置事業に関して関係者が朝霞市の市庁舎以外の場所で面談したことはあるのか。

黒薮

 

【12月9日】

黒薮 哲哉 様

令和2年12月2日付けでご質問いただきました内容につきまして、次のとおり回答させていただきます。

「基地局を4Gから5Gへ切り替える時期を教えてください。」(黒薮注:質問1)
【回答】
 事業者へ確認をお願いします。

「通信基地局の設置場所の賃料を年間4300円に設定したプロセスをご説明ください。」
  (黒薮注:質問2)

【回答】
朝霞市内の都市公園における占用料については、「朝霞市都市公園条例」に定められており、占用料の額は「朝霞市道路占用料徴収条例」に規定する占用料の例により算定した額となります。

令和2年12月9日

問合せ  朝霞市都市建設部みどり公園課長  大塚 繁忠

 【12月9日】
黒薮様

KDDIエンジニアリング(株)
藤田です。

周辺にお住まいの方への対応として連絡させていただいております。
城山公園の基地局に関して頂いたお問合せについて回答させて頂きます。

5Gへ切り替える時期についてですが、先に回答させていただいた通り、
現時点での設置計画は未定であることから回答することはできません。

ご理解の程よろしくお願いいたします。

 

【12月10日】
朝霞市:大塚様
KDDI:藤田様

黒薮哲哉です。
引き続き次の問い合わせをします。

【5】朝霞市が所有する公園に設置されているKDDI基地局の数と場所を公開してください。

【6】城山公園内に設置されたKDDI基地局を4Gから5Gへ切り替える際、近隣住民にその旨を通知する予定はあるのか。

黒薮

 ■以上の裏付け資料

2020年12月14日 (月曜日)

野村武範裁判長が執筆した判決文にみる論理の破綻、「押し紙」は認定するが賠償は認めない、産経新聞「押し紙」裁判の解説、判決全文を公開

筆者は、産経新聞「押し紙」裁判の判決(東京地裁、野村武範裁判長)を入手した。本稿では、判決内容を紹介しよう。また、判決文の全文を公開する。

既報したように、この裁判で東京地裁の野村裁判長は、「押し紙」による損害賠償を求めた原告(元販売店主)の請求を棄却した。筆者がこの判決を読んだ限りでは、野村裁判長が原告を敗訴させることを最初から決めていたことを伺わせる内容になっている。判決文の論理に極端な破綻がみうけられるからだ。

この倫理の破綻を捉えるためには、あらかじめ文書類における達意とは何かを理解しておかなければならない。それは単純な原理だ。

◆◆
改めていうまでもなく、判決文で最も重要なのは、誤解なく意味を伝達することである。判決全体を構成するセンテンスのひとつひとつに文法上の誤りや論理の論理の破綻がないことは言うまでもなく、同時に判決全体を通じて論理の破綻がないことも要求される。

この点を前提として判決を解説してみよう。この判決は、ある一時期においては産経による「押し紙」行為があったが、それによって生じた損害を賠償する必要はないという矛盾した論理構成になっている。

①文脈にみる論理の破綻

「押し紙」行為は独禁法違反なので、加害者は被害者に対する賠償責任を負わなければならない。ところがこの判決文ではそうはなっていない。たとえば、次の一文である。読者は、どこに論理の破綻(ごまかし)があるかに注意をはらいながら読んでほしい。

平成28年1月から5月までの期間に関しては、被告(産経)による減紙要求の拒絶がいわゆる押し紙に当たり得るとしても、原告が実際に被った負担は極めて限定的であり、原被告間で営業所の引継ぎに関する協議をする中で原告が顧客名簿の開示に応じないなどの対応をしていたとの交渉経緯があったことに照らすと、この間の本件各契約を無効とするまでの違法性があるとはいえない。

まず、この箇所で野村裁判長は、産経新聞が「押し紙」により元店主に損害を与えた事実を認定している。ところが、それを免責する理由として、「原被告間で営業所の引継ぎに関する協議をする中で、原告が顧客名簿の開示に応じないなどの対応をしていたとの交渉経緯があったこと」と述べて、賠償責任を帳消にしているのだ。

しかし、産経新聞が「押し紙」による損害を与えた事実(独禁法違反)と、それを免責する理由との間には何の整合性もない。整合性のない2つの事実を、野村裁判長は無理矢理に結びつけているのである。その結果、論理が破綻して、冷静に読めば、訳が分からない記述になっているのだ。

判決文を精読しない読者は、この箇所に注意を払うことなく、なんとなく納得してしまう危険性がある。ひとつひとつの言葉を正確に読み解いてみると、論理が破綻していることが判明する。

②判決文全体の論理の破綻
野村裁判長は、原告の元店主が訴えていた「押し紙」の被害を3期に分類して検証している。

・第1期 開業時(平成24年の開業時)
・第2期 開業から(~平成25年10月)
・第3期 廃業前(平成28年1月~7月)

野村裁判長は、全時期を通じて、原告の販売店に残紙があったことは認めている。残紙の量は、次の通りである。

■原告販売店における残紙の推移

しかし、第1期と第2期については、原告の元店主が、残紙を断ったことを示す証拠がないことを理由に、産経の賠償責任を免責した。伝統的な「押し紙」の判例に沿った判断を下したのである。

これに対して第3期については、明確に「押し紙」行為を認定している。たとえば次の記述である。

 原告の代理人弁護士は、平成28年1月15日付け書面において、被告の代理人弁護士に対し、被告が取引開始当初の960部から600部程度までの減紙に応じた際及び155部の減紙の申入れに応じた際には、このような開示(註:読者名簿の開示など)や説明は求められていないことから、前期イ(註:読者名簿の開示など)のような条件を付することなく減紙要求に応じることを求めた。しかし、被告(註:産経新聞)は減紙に応じなかった。(乙7号)

野村裁判長は、「押し紙」行為そのものは認定したのである。ところが既に述べたように、「原被告間で営業所の引継ぎに関する協議をする中で、原告が顧客名簿の開示に応じないなどの対応をしていたとの交渉経緯があったこと」を理由に、産経新聞の賠償責任を免責したのである。繰り返しになるが、「押し紙」行為の成立と、読者名簿の非開示など、元店主が説明に応じなかったことは論理上では何の関係もない。

このように判決文は、一方では「押し紙」を認定して、その一方では、いろいろと理由を設けて賠償を認めない方向性を定めるという矛盾した論理構成になっているのである。

◆◆
なお、以下は筆者の見解になるが、この裁判においては、「押し紙」の定義が間違っている。新聞社が販売店に対して買い取りを強制した部数が「押し紙」という前提になっているが、これは正確ではない。

「実配部数(実際に配達する部数)+予備紙」を超える部数は、理由のいかんを問わずすべて「押し紙」というのが、独禁法の新聞特殊指定に忠実な定義なのである。

元々、新聞業界には、搬入部数の2%を予備紙として認め、それを超える残紙は「押し紙」とする業界内のルールがあった。ところが新聞業界は、この「2%ルール」を廃止した。その結果、残紙はすべて予備紙という詭弁がまかり通ってきたのである。たとえ残紙があっても、それはすべて予備紙であって、「押し紙」ではないということになっていたのである。この解釈が、産経の「押し紙」裁判でも採用されている。

しかし、佐賀新聞の押し紙」裁判の判決(2020年)で佐賀地裁は、販売店経営に必要としない残紙は、予備紙とは言えないとする判断を下した。この判例の観点からすれば、産経「押し紙」裁判で確認された残紙は、すべて「押し紙」なのである。

◆◆
以上の点を確認した上で、野村裁判長が認定した第1期と第2期の残紙は、本当に予備紙だったのかを再検討してみる必要がある。

言うまでなく、予備紙とは、配達する新聞が破損した場合に備えて、販売店があらかじめ購入しておく予備部数である。しかし、原告の店主の店舗からは、古紙回収業者により大量の残紙が回収されていたわけだから、予備紙としての実態はなかったことになる。と、すればこれらの残紙は、「実配部数(実際に配達する部数)+予備紙」を超えた残紙、つまり「押し紙」なのである。

◆◆
なお、野村裁判長は、「折り込み詐欺」について、折込広告の取引に産経新聞は関与していないから、公序良俗には違反しないと判断している。筆者は、残紙による損害を折込広告で相殺するビジネスモデルそのものが公序良俗に違反すると考える。そのビジネスモデルを構築したのは、新聞社にほかならない。

このような取引の仕組みが公序良俗に違反するかどうかを「イエス」か、「ノウ」で問われれば、99%の人が、「イエス」と答えるだろう。

社会通念とはそのようなものなのである。

■判決文(全文)