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2020年12月14日 (月曜日)

野村武範裁判長が執筆した判決文にみる論理の破綻、「押し紙」は認定するが賠償は認めない、産経新聞「押し紙」裁判の解説、判決全文を公開

筆者は、産経新聞「押し紙」裁判の判決(東京地裁、野村武範裁判長)を入手した。本稿では、判決内容を紹介しよう。また、判決文の全文を公開する。

既報したように、この裁判で東京地裁の野村裁判長は、「押し紙」による損害賠償を求めた原告(元販売店主)の請求を棄却した。筆者がこの判決を読んだ限りでは、野村裁判長が原告を敗訴させることを最初から決めていたことを伺わせる内容になっている。判決文の論理に極端な破綻がみうけられるからだ。

この倫理の破綻を捉えるためには、あらかじめ文書類における達意とは何かを理解しておかなければならない。それは単純な原理だ。

◆◆
改めていうまでもなく、判決文で最も重要なのは、誤解なく意味を伝達することである。判決全体を構成するセンテンスのひとつひとつに文法上の誤りや論理の論理の破綻がないことは言うまでもなく、同時に判決全体を通じて論理の破綻がないことも要求される。

この点を前提として判決を解説してみよう。この判決は、ある一時期においては産経による「押し紙」行為があったが、それによって生じた損害を賠償する必要はないという矛盾した論理構成になっている。

①文脈にみる論理の破綻

「押し紙」行為は独禁法違反なので、加害者は被害者に対する賠償責任を負わなければならない。ところがこの判決文ではそうはなっていない。たとえば、次の一文である。読者は、どこに論理の破綻(ごまかし)があるかに注意をはらいながら読んでほしい。

平成28年1月から5月までの期間に関しては、被告(産経)による減紙要求の拒絶がいわゆる押し紙に当たり得るとしても、原告が実際に被った負担は極めて限定的であり、原被告間で営業所の引継ぎに関する協議をする中で原告が顧客名簿の開示に応じないなどの対応をしていたとの交渉経緯があったことに照らすと、この間の本件各契約を無効とするまでの違法性があるとはいえない。

まず、この箇所で野村裁判長は、産経新聞が「押し紙」により元店主に損害を与えた事実を認定している。ところが、それを免責する理由として、「原被告間で営業所の引継ぎに関する協議をする中で、原告が顧客名簿の開示に応じないなどの対応をしていたとの交渉経緯があったこと」と述べて、賠償責任を帳消にしているのだ。

しかし、産経新聞が「押し紙」による損害を与えた事実(独禁法違反)と、それを免責する理由との間には何の整合性もない。整合性のない2つの事実を、野村裁判長は無理矢理に結びつけているのである。その結果、論理が破綻して、冷静に読めば、訳が分からない記述になっているのだ。

判決文を精読しない読者は、この箇所に注意を払うことなく、なんとなく納得してしまう危険性がある。ひとつひとつの言葉を正確に読み解いてみると、論理が破綻していることが判明する。

②判決文全体の論理の破綻
野村裁判長は、原告の元店主が訴えていた「押し紙」の被害を3期に分類して検証している。

・第1期 開業時(平成24年の開業時)
・第2期 開業から(~平成25年10月)
・第3期 廃業前(平成28年1月~7月)

野村裁判長は、全時期を通じて、原告の販売店に残紙があったことは認めている。残紙の量は、次の通りである。

■原告販売店における残紙の推移

しかし、第1期と第2期については、原告の元店主が、残紙を断ったことを示す証拠がないことを理由に、産経の賠償責任を免責した。伝統的な「押し紙」の判例に沿った判断を下したのである。

これに対して第3期については、明確に「押し紙」行為を認定している。たとえば次の記述である。

 原告の代理人弁護士は、平成28年1月15日付け書面において、被告の代理人弁護士に対し、被告が取引開始当初の960部から600部程度までの減紙に応じた際及び155部の減紙の申入れに応じた際には、このような開示(註:読者名簿の開示など)や説明は求められていないことから、前期イ(註:読者名簿の開示など)のような条件を付することなく減紙要求に応じることを求めた。しかし、被告(註:産経新聞)は減紙に応じなかった。(乙7号)

野村裁判長は、「押し紙」行為そのものは認定したのである。ところが既に述べたように、「原被告間で営業所の引継ぎに関する協議をする中で、原告が顧客名簿の開示に応じないなどの対応をしていたとの交渉経緯があったこと」を理由に、産経新聞の賠償責任を免責したのである。繰り返しになるが、「押し紙」行為の成立と、読者名簿の非開示など、元店主が説明に応じなかったことは論理上では何の関係もない。

このように判決文は、一方では「押し紙」を認定して、その一方では、いろいろと理由を設けて賠償を認めない方向性を定めるという矛盾した論理構成になっているのである。

◆◆
なお、以下は筆者の見解になるが、この裁判においては、「押し紙」の定義が間違っている。新聞社が販売店に対して買い取りを強制した部数が「押し紙」という前提になっているが、これは正確ではない。

「実配部数(実際に配達する部数)+予備紙」を超える部数は、理由のいかんを問わずすべて「押し紙」というのが、独禁法の新聞特殊指定に忠実な定義なのである。

元々、新聞業界には、搬入部数の2%を予備紙として認め、それを超える残紙は「押し紙」とする業界内のルールがあった。ところが新聞業界は、この「2%ルール」を廃止した。その結果、残紙はすべて予備紙という詭弁がまかり通ってきたのである。たとえ残紙があっても、それはすべて予備紙であって、「押し紙」ではないということになっていたのである。この解釈が、産経の「押し紙」裁判でも採用されている。

しかし、佐賀新聞の押し紙」裁判の判決(2020年)で佐賀地裁は、販売店経営に必要としない残紙は、予備紙とは言えないとする判断を下した。この判例の観点からすれば、産経「押し紙」裁判で確認された残紙は、すべて「押し紙」なのである。

◆◆
以上の点を確認した上で、野村裁判長が認定した第1期と第2期の残紙は、本当に予備紙だったのかを再検討してみる必要がある。

言うまでなく、予備紙とは、配達する新聞が破損した場合に備えて、販売店があらかじめ購入しておく予備部数である。しかし、原告の店主の店舗からは、古紙回収業者により大量の残紙が回収されていたわけだから、予備紙としての実態はなかったことになる。と、すればこれらの残紙は、「実配部数(実際に配達する部数)+予備紙」を超えた残紙、つまり「押し紙」なのである。

◆◆
なお、野村裁判長は、「折り込み詐欺」について、折込広告の取引に産経新聞は関与していないから、公序良俗には違反しないと判断している。筆者は、残紙による損害を折込広告で相殺するビジネスモデルそのものが公序良俗に違反すると考える。そのビジネスモデルを構築したのは、新聞社にほかならない。

このような取引の仕組みが公序良俗に違反するかどうかを「イエス」か、「ノウ」で問われれば、99%の人が、「イエス」と答えるだろう。

社会通念とはそのようなものなのである。

■判決文(全文)

 

 

2020年12月13日 (日曜日)

横浜副流煙裁判を支援する会のウェブサイトがスタート、裁判をジャーナリズムの土俵に乗せる

横浜副流煙裁判の元被告・藤井将登さんと妻の敦子さんを支援する会(代表・ 石岡淑道)のウエブサイトが完成した。次のURLでアクセスできる。

  https://atsukofujii.com/

事件は藤井さんの勝訴が確定したのを受けて次のステージへ進む。年明けにも、藤井さんは、作田学医師を被告とする損害賠償裁判を起こす。

【事件の概要】
この裁判は、藤井さんが自室の音楽室(密封された防音構造)で吸っていた1日に2,3本程度の煙草の副流煙が、2階に住むAさん一家の健康を害したとして、Aさん一家が4500万円を請求した事件である。Aさん一家は、藤井さんの副流煙によって「受動喫煙症」、化学物質過敏症、癌に罹患(りかん)したと主張した。

その主張を宮田幹夫・北里大学名誉教授、日本禁煙学会・作田学理事長など多数の医師が全面的に支持して、Aさん一家を擁護するための意見書を次々と提出した。

建物の構造と副流煙の動きを立証するために、建築士なども裁判に加わった。提訴が2017年11月であるから、藤井さんは、3年にわたって法廷に立たされたのである。

作田医師ら、日本禁煙学会の関係者の主張に対して「極論ではないか?」、「疑似科学ではないか」、「禁煙ファシズム」といった批判が上がっていたが、原告側は主張を変えなかった。

◆◆
メディア黒書は、引き続きこの事件を取材していく。支援する会のウエブサイトにも記事を提供する。裁判をジャーナリズムの土俵に乗せていく。

 

■「押し紙」と「折り込み詐欺」に関する記事

2020年12月12日 (土曜日)

故意に「差別者」をつくる愚、表現の自由をめぐる部落解放同盟との論争

(本稿は、『紙の爆弾』(12月号)からの転載である。)

言論・表現にかかわる事件の行方は、文筆を仕事とする者にとっては職業の生死にかかわる。

菅義偉内閣が誕生してのち、言論と差別にかかわる2つの事件が浮上した。ひとつは首相が、日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した件である。もうひとつは、自民党の杉田水脈議員が、「女性はいくらでもウソをつける」と発言したとされる件である。杉田議員は「差別者」として、Change.org上で13万人から糾弾され、野党からは辞職要求を突きつけられた。後述するように、この事件はなぜか自民党サイドが報道機関にリークして、発覚させた経緯がある。

ここ数年、言論や表現に対する視線が厳しくなっている。国会で閣僚が言葉を滑らせて、野党から謝罪を要求される事件が続発し、もはや予定原稿なしに言葉を発することが議員生命を危うくしかねない状況が生まれている。国会ではヘイトスピーチ規制法が成立し、川崎市では、それに連動して差別的な表現に刑事罰を課す条例が全会一致で可決した。

こうした時代に、今度はルポライター・昼間たかし氏が『紙の爆弾』誌上で使った「士農工商ルポライター家業」という表現が、論争のリングに上がろうとしている。

部落解放同盟は、これまでも「士農工商」の後に職業をつけたレトリック(修飾方法)に対して繰り返し苦言を呈してきた。 たとえば筒井康隆氏による「士農工商SF屋」という表現である。阿久悠糾による「士農工商(注:広告)代理店」という表現である。さらに『差別用語を見直す』(江上茂著、花伝社)によると、芸能人、印刷屋、予備校生、アナウンサー、AB型、お笑い屋、百貨店、研究所、編集者などの例があるという。

部落解放同盟は、このレトリックが差別を助長するという考えに立って『紙の爆弾』に釈明を求めてきたのである。

■■

わたしは「士農工商」の後に職業を付けるレトリックは、筒井氏や電通のケースも含めて「差別を助長」する表現には当たらないと考えている。

昼間氏のケースで言えば、差別表現ではないことを説明する2つの論点がある。江戸時代や明治時代などの差別政策に対して、現在社会がどのような歴史的評価を定めているかという点と、昼間氏がどのような文脈の中で、このレトリックを使ったのかという点である。

まず前者についていれば、江戸幕府など過去の差別政策が誤りであったとする評価に異論を唱えるひとはまずいない。この認識はすでに実生活の中に定着している。部落差別が完全に解消していなのは事実だが、少なくとも過去の政策が誤りであったとする認識を覆す世論が形成される余地はない。それが歴史の流れである。

従って「士農工商」に職業を加えたレトリックを使って、差別の理不尽さを比喩的に表現しても、それによって差別を助長する世論が形成させることはない。この論理を覆すためには、部落解放同盟は、差別助長した具体例を提示すべきだろう。

「士農工商ルポライター家業」というレトリックが、差別を助長する表現でないことは、全体の文脈からも読み取れる。
昼間氏は、ルポライターの悲惨な実態を、「襤褸をまといあばやら暮らしもおぼつかない。だから、請われれば書いて、いま追いかけているテーマの取材費の足しにする」と書いている。このような実態を強調するために、江戸時代の身分制度を引合いにだしたのである。文脈を理解すれば、昼間氏の意図は明快になる。

この程度の表現を差別と決めつけるのは、「差別者」の発掘が一次的な目的であると解されても仕方がない。

ただ、このレトリックがルポライターの惨状を表現する上で、最上の選択肢かといえば、疑問がある。使い古された陳腐なレトリックに過ぎない。だからといって、表現の自由を規制していいことにはならないが。

■■
冒頭で述べたように、このところ言論に対する告発が多発している。全体の文脈を無視して、特定の言葉を捉えは、「差別者」を作り出し、場合よってはネット上で集中砲火をあびせる現象である。本来、言語表現の評価は、発言者や執筆者の思想や属性とはかかわりなく、客観的に行わなければならないが、それとは反対の方向性が鮮明になっている。しかも、同調圧力が強く、話題が「差別」となると異論を唱えにくい空気がある。「差別=悪」の世論が形成されているからだ。

それを示す分かりやすい例としては、自民党の杉田議員が、自民党内部の会議の中で「女性はいくらでもうそをつけます」と発言したとされる問題と、その後の社会現象がある。

新聞・テレビの報道は、杉田氏がどのような文脈の中で、このような表現に及んだのかを報じていない。

それが原因で、大半の人が、この表現はすべての女性はうそをつける性質を有しているという事実を摘示した発言として受け止めている。

「事実の摘示」という解析は、名誉毀損裁判の法理として定着している。名誉を毀損する表現が、「事実を摘示」しているとして、法廷へ持ち込まれた場合、訴えた側(被告)は、争点の表現が真実であること、あるいは真実に相当することを反証しなければならない。さもなければ名誉毀損が認定される。しかし、争点の表現が意見の表明や評論であれば、一定の条件を満たした上で免責される。名誉毀損には当たらないと解される。つまり両者の違いを明確に区別しているのだ。

この原理を杉田議員の「差別発言」に当てはめてみると、新聞・テレビは杉田議員が、女性はひとりの例外なく嘘つきであるという事実を会議の席で摘示したと報じたことになる。だからこそ多くの女性が怒った。

しかし、杉田議員は、「差別発言」が発覚した直後に、「そんな発言はしていない」とコメントした。事実を摘示した発言ではなかったから、自分でも意外に感じて、「そんな発言はしていない」答えになったのだろう。

実際、杉田議員は、自身のブログの中で、市民団体の資金を横領した疑惑で逮捕された韓国の国会議員、尹美香(ユン・ミヒャン)氏を念頭において、「女性はいくらでもうそをつけます」と発言したと書いている。つまりメディアが発言の文脈を正確に報じていれば、問題となった発言は、女性の性質を摘示したものではく、尹美香議員の不正を念頭においた意見であったことが分かる。自民党のリークに応じた報道機関の責任は重い。

念を押すまでもなく、わたしは杉田氏の支援者でもなければ、自民党のシンパでもない。むしろ政権党が押し進めてきた特定秘密保護法や共謀罪法の導入など、言論の抑圧につながる政策には批判的な立場である。

しかし、「差別者」の属性がどうであろうと、発言内容を客観的に伝えることが、ジャーナリズムの基本原則である。正確に事実を確認した上で、それを前提に批判することは自由である。が、新聞・テレビは歪んだ報道で「差別者」と、それに反応する人々を多量に生み出したのである。

◆◆
昼間氏の「士農工商ルポライター家業」をめぐる問題の背景も、杉田議員の発言をめぐる問題の背景にも、わたしは故意に「差別者」を作り出そうという意図があるように感じる。それによって市民運動を活性化する戦略があるのではないか。それは政権党にとっても利益をもたらす。規制を強化して国民を監視・管理・指導する国策と共通する部分があるからだ。

実際、部落差別解消推進法やヘイトスピーチ解消法も、市民運動と連携した野党の「活躍」と、それに歩み寄った政権党の力で可決した経緯がある。市民運動には、公権力と利害が一致すれば暗黙の同盟関係を結ぶこともあるのだ。

この点を踏まえた上で、言論規制の是非を考えるべきだろう。規制をすれば、そのつけは国民全体に跳ね返ってくる。公権力は、そういう構図を仕組んでいるのである。だから杉田議員の発言をリークしたのだ。

まして部落解放同盟が指摘した昼間氏の「士農工商ルポライター家業」という表現は、事実の摘示でも意見の表明でもない。格差の実態を表現するためのレトリックである。言論規制を検討する対象にすらならない。

仮に部落解放同盟が今後、謝罪を求めるのであれば、誰に対して謝罪するのかを明確にすべきだろう。

この問題について、自由闊達な議論が深まることを切望する。

 

「押し紙」に関する全記事

 

滋賀県の広報紙『滋賀プラスワン』、7万部を水増し、新聞発行部数・39万部に対して広報紙・46万部を提供、背景に「押し紙」

新聞に折り込まれて配布される地方自治体の広報紙が水増されているケースが次々と発覚している。

滋賀県が発行する広報紙『滋賀プラスワン』を筆者が調査したところ、滋賀県全域のABC部数(新聞の発行部数)が392,586部(4月の部数)しかないのに、滋賀県当局が464,000部の『滋賀プラスワン』(最新号)を提供していることが分かった。71,414部が水増しになっている。

配達中に折込媒体が破損する「事故」に備えて、通常、卸部数の2%程度は予備紙として認められているが、それに相当する部数は9280部しかない。この部数を差し引くとしても、大幅な水増し状態になっている。

◆◆
広報紙の水増しは刑法上の詐欺に該当する。しかし、販売店経営者のだれもが、このような「水増し制度」を望んでいるわけではない。水増しが発覚した場合、折込広告を受注できなくなるリスクが高いからだ。正常な取引を望んでいるひとも少なくない。

しかし、新聞社が構築して運用してきた新聞のビジネスモデルが、「押し紙」と折込媒体の水増しを前提としていることが多いので、この制度に異議を申し立てると、販売店経営そのものが成り立たなくなる。ここに構想的な問題があるのだ。責任は、新聞発行本社にある。

「押し紙」を取り締まらない公正取引委委員会にも責任がある。

◆◆
折込媒体そのものは、PR対象となる業種によっては、ある程度のPR効果がある。というのも、新聞と一緒に折込媒体が家庭内に持ち込まれるからだ。

これに対して全戸配布(ポスティング)の媒体は、飲食店のメニューなどを除いて、ポストからゴミ箱へ直行することが多いので、家庭内には持ち込まれない傾向がある。従ってPR効果は期待できない。

千葉県内の元販売店主は、次のように話す。

「広報紙の水増しが許されるとなれば、新聞関係者は、『押し紙』を含めて、なにをやってもいいことになりかねません。絶対に裁きを受けないことになります」

 

【調査報告】豊島区など東京都の12区で広報紙の水増しが発覚、新聞折込の不正と「押し紙」で税金の無駄遣い

■「押し紙」に関する全記事

 

 

22万部、埼玉県の広報紙水増し問題、広告代理店を訪問、「折込詐欺」の2つの類型

新聞に折り込むかたちで配布されている埼玉県の広報紙『彩の国だより』が、約22万部水増しされている問題を取材するために、わたしは12月9日、午後、さいたま市にある広告代理店、埼玉県折込広告事業協同組合を訪ねた。JR高崎線の上尾駅で電車を降り、道路地図を頼りに広告代理店へ向かった。

このあたりは東京のベッドタウンで、大小の積み木を無秩序宇に散りばめたような民家の群れが延々と広がっている。もともと農業地帯だったらしく、入り組んだ旧道や農道をそのままアスファルトで舗装し、それに沿って住宅を並べたような印象がある。緑とコンクリートが点在する近代的な生活空間というよりも、衣食住だけを目的とした古びた簡易宿泊所の連なりを連想させる。

◆◆
広告代理店の事務所は、アスファルト張りの広場に面して立っている。倉庫が隣接している。事務所の出入口は、スライド式の古風なガラス戸になっている。カーテンが閉まっていたので空き家かと思ったが、中を覗いてみると初老の女性がいた。知り合いの元販売店主さんから、「倉庫があるだけ」という情報を得ていたので、意外な気がした。

わたしが戸をノックすると、女性が出てきた。

「責任者の方はおられますか」

「今はいません」

わたしは要件を告げた。『彩の国だより』が22万部水増し状態になっている事実を告げた上で、倉庫に在庫はないかを尋ねた。女性によると、『彩の国だより』はすべて販売店に卸しているので、倉庫には1部も残っていなという。

「代表者は、どちらの新聞社系統の方なんですか」

「それは言えません。もうすぐ戻ってくると思います」

女性は、自分は電話番をしているだけでなので、この件に関して詳しいことは分からないと言った。実際、取材の対象者ではなかった。わたしは紙に自分の名前と連絡先、それに取材を希望する旨を記して踵を返した。物陰から、しばらく事務所を見張っていたが、事務所にひとの出入りはなかった。

◆◆
折込媒体の水増し行為は、昔から問題になってきた。この問題を歴史軸でみると2つの類型がある。

【1類型】
配達する新聞部数に加えて、「押し紙」(広義の残紙)部数にも折込媒体がセットになっているために、「押し紙」があれば、自然発生的に水増し状態が生まれる類型。最近はスポンサーが「押し紙」の存在を知るようになり、自主的に発注枚数を減らすケースが増えてきた。その結果、民間企業の折込広告に関しては、1類型の水増し状態は解消されていると言われている。

地方自治体などの公共機関が発注する媒体(広報紙)については、依然として1類型になっているケースが多い。地方自治体が、自主的に折込媒体の発注数を減らすことはまずない。原則として、日本ABC協会が公表している新聞部数(ABC部数)に準じて、広報紙の卸部数を決める。当然、「押し紙」に相当する部分は水増し部数となる。

【2類型】
地方自治体と広告代理店の取り引きでは、広報紙の卸部数がABC部数を上回っているケースが多発している。これが2類型である。東京23区の場合、12区で2類型がみられる。

埼玉県の広報紙も2類系になる。埼玉県下の新聞部数が1,790,214部しかないのに、埼玉県は約201万部を発注している。従って、たとえ「押し紙」が1部たりとも存在しなくても、22万部もの折込媒体が過剰になっているのだ。県下の販売店に「押し紙」があれば、水増し部数は、22万部ではすまない。全体の3割ぐらい捨てられている可能性もある。

現在、わたしが取材しているのは、2類型である。

今、広報紙の卸部数がABC部数を上回る2類型が、全国各地で起きている。大阪府の『府政だより』に至っては、新聞社系の印刷会社が広報紙の印刷まで請け負っている。

新聞社と販売店の経営が悪化しているとはいえ、度が過ぎているのではないか。

 

■「押し紙」に関する全記事

大阪府の広報紙『府政だより』を毎日新聞社系の印刷会社が印刷、請負先の代理店は福岡市のホープオフセット共同企業体、新聞折込部数については情報公開請求中

大阪府の広報紙『府政だより』を毎日新聞社系の印刷会社である(株)高速オフセットが請け負っていることが分かった。高速オフセットは、1986年に「毎日新聞社とその関連会社の出資により設立された」。■出典

社長の橋本伸一氏は、毎日グループホールディングスの取締役でもある。■出典
地方自治体の広報紙の印刷が、新聞社系企業の収入源のひとつになっている実態が明らかになった。

◆◆
『府政だより』について大阪府に問い合わせた結果、次のことが分かった。

『府政だより』の搬出先の広告代理店は、福岡市に本社があるホープオフセット共同企業体である。住所は、福岡市中央区薬院1-14-5 薬院ビル7F。筆者が電話番号を調べたところ電話番号は登録されていないことが分かった。

しかし、同じ住所にホープという会社があり、この会社とホープオフセット共同企業体が実態としては同じであることが判明した。

『府政だより』の発行部数は、大阪府によると約282万部である。発行は年に8回。新聞折込にあてられる部数は、約277部である。

①と②の情報を踏まえて、筆者は2020年4月時の大阪府全域における新聞発行部数(ABC部数)を調査した。次の数字だった。

約232万部■出典 

新聞折込にあてられる『府政だより』の部数277万部を5万部ほど超えている。「押し紙」が1部たりともなくても、『府政だより』が水増し状態になっている。かりに「押し紙」(広義の残紙)があれば、水増しの割合はさらに高くなる。

ホープオフセット共同企業体のコメントも取った。それによると最近は、『府政だより』の割り当て部数は減ってきて230万部ぐらいになっているとのことだった。

◆◆
新聞折込部数に関して、大阪府とホープオフセット共同企業体の説明が異なっているので、筆者は8日、大阪府に対して、『府政だより』の新聞折込部数などを文書で開示するように求めて情報公開請求を行った。結果が判明した時点で、メディア黒書で報告する。

 

■「押し紙」と「折り込み詐欺」に関する全記事

埼玉県の広報紙『彩の国だより』、22万部水増し、税金の無駄遣い?住民監査請求へ

税金で制作されている埼玉県の広報紙『彩の国だより』が、配布されることなく約22万部も捨てられている疑惑が浮上した。疑惑の裏付けは次の通りである。

12月1日、筆者は埼玉県庁に対して、『彩の国だより』に関する問い合わせを行った。その結果、次の事実が判明した。

■22万部水増しの根拠
「彩の国だより」は新聞折込みで配布されているほか、「各市区町村・県地域振興センター・県広聴広報課」に置いてある。

新聞販売店向けの卸部数は、2,012,000部(11月)である。この数字は、公共施設に置く部数を含んでいない。すべて新聞折込みを前提として提供された部数である。

次に「彩の国だより」を折り込む「運び屋」、つまり新聞の部数がどの程度あるのかを調べた。その結果、埼玉県全域で1,674,569部だった。出典は日本ABC協会が発行している『新聞発行社レポート』(4月)である。公共機関が広報紙を新聞折込みのかたちで配布する際、広告代理店への卸部数を決めるための指標としているのがABC部数である。

ただし、埼玉県の地方紙・埼玉新聞の部数はABC部数に登録されていない。そこで筆者は、埼玉新聞に発行部数を問い合わせた。その結果、発行部数は、115,645部(11月)であることが分かった。

以上の調査から埼玉県下における新聞の総部数は、次の数式で明らかになる。

115,645部(埼玉新聞)+1,674,569(朝日、読売、毎日、日経、東京、産経)=1,790,214部である。

■住民監査請求へ
以上のことから次の事実が判明した。埼玉県下の新聞の総部数が約179万部しかないのに、約201万部の「彩の国だより」が広告代理店へ提供されている。約22万部が水増し状態になっている。

ちなみに「彩の国だより」の全戸配布は行われていない。

広告代理店名は、埼玉県折込広告事業協同組合である。

「彩の国だより」は県の税金で制作されている。今後、埼玉県民である筆者は、住民監査請求を行う予定だ。

■なぜ広報紙の水増し実体を調査する必要があるのか
地方自治体の広報紙は税金で制作されている。その広報紙が大量に廃棄されていることは、税金をドブに捨てているに等しい。筆者は、これまで「押し紙」報道を続けてきたが、新聞関係者の良心に期待していたのでは、この問題は永遠に解決しない。

「押し紙」とか「押し紙」裁判という言葉をインターネットで検察しても、メディア黒書の記事は、トップページに表示されなくなった。

内部からの是正は不可能だ。今後、外部から是正するために、現在の新聞のビジネスモデルにより実害を受けている地方自治体の損害を明らかにする。

本来、新聞販売店は新聞の売買だけで経営できなけばならない。新聞業界はそのようなビジネスモデルに改めなければ、今後、生き延びることはできない。

 

◆「押し紙」に関する全記事

2020年12月07日 (月曜日)

『紙の爆弾』最新号、喫煙を理由とした高額請求の横行、「日本禁煙学会が関与した巨額訴訟の行方」

本日(7日)発売の『紙の爆弾』が、「日本禁煙学会が関与した巨額訴訟の行方」と題するルポを掲載している。筆者は、黒薮である。

既報してきたように、この事件は自宅の密閉した部屋で吸った1日に2,3本の煙草が、隣人(同じマンションの2階)の健康を害したかどうかが争われた。原告家族は、隣人の藤井将登さんの副流煙が原因で、「受動喫煙症」(化学物質過敏症の一種)に罹患したとして4500万円の「お金」を請求したが、横浜地裁裁は請求を棄却した。東京高裁も、一審被告の控訴を棄却した。

ちなみに原告のひとりに約25年の喫煙歴があったことが、審理の中で判明した。

『紙の爆弾』に掲載された最新の記事では、日本禁煙学会の関係者がいかにこの裁判に関与したかを報告している。また、来年早々に藤井さんが起こす「反スラップ反訴」にも言及した。「反訴」の土俵に立たされるのは、この裁判に深く関与した日本禁煙学会の作田学理事長である。

◆◆
このところ筆者のもとに、「禁煙ファシズム」に関する情報が寄せられている。中には弁護士から高額な金銭を要求されたという情報もある。公共の場での分煙は必要不可欠だが、喫煙スペースを設置した職場や自宅での喫煙の禁止を求めるのはゆきすぎではないか。喫煙を口実とした「集金」の側面がある。

「禁煙ファシズム」は、ひとつ誤れば統制社会の到来をもたらすことになりかねない。 危険な兆候だ。

 

■「押し紙」と「折り込み詐欺」に関する全記事

2020年12月06日 (日曜日)

2020年12月06日 (日曜日)

NHK

2020年12月06日 (日曜日)

2020年12月06日 (日曜日)

2020年12月06日 (日曜日)