1. 22万部、埼玉県の広報紙水増し問題、広告代理店を訪問、「折込詐欺」の2つの類型

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22万部、埼玉県の広報紙水増し問題、広告代理店を訪問、「折込詐欺」の2つの類型

新聞に折り込むかたちで配布されている埼玉県の広報紙『彩の国だより』が、約22万部水増しされている問題を取材するために、わたしは12月9日、午後、さいたま市にある広告代理店、埼玉県折込広告事業協同組合を訪ねた。JR高崎線の上尾駅で電車を降り、道路地図を頼りに広告代理店へ向かった。

このあたりは東京のベッドタウンで、大小の積み木を無秩序宇に散りばめたような民家の群れが延々と広がっている。もともと農業地帯だったらしく、入り組んだ旧道や農道をそのままアスファルトで舗装し、それに沿って住宅を並べたような印象がある。緑とコンクリートが点在する近代的な生活空間というよりも、衣食住だけを目的とした古びた簡易宿泊所の連なりを連想させる。

◆◆
広告代理店の事務所は、アスファルト張りの広場に面して立っている。倉庫が隣接している。事務所の出入口は、スライド式の古風なガラス戸になっている。カーテンが閉まっていたので空き家かと思ったが、中を覗いてみると初老の女性がいた。知り合いの元販売店主さんから、「倉庫があるだけ」という情報を得ていたので、意外な気がした。

わたしが戸をノックすると、女性が出てきた。

「責任者の方はおられますか」

「今はいません」

わたしは要件を告げた。『彩の国だより』が22万部水増し状態になっている事実を告げた上で、倉庫に在庫はないかを尋ねた。女性によると、『彩の国だより』はすべて販売店に卸しているので、倉庫には1部も残っていなという。

「代表者は、どちらの新聞社系統の方なんですか」

「それは言えません。もうすぐ戻ってくると思います」

女性は、自分は電話番をしているだけでなので、この件に関して詳しいことは分からないと言った。実際、取材の対象者ではなかった。わたしは紙に自分の名前と連絡先、それに取材を希望する旨を記して踵を返した。物陰から、しばらく事務所を見張っていたが、事務所にひとの出入りはなかった。

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折込媒体の水増し行為は、昔から問題になってきた。この問題を歴史軸でみると2つの類型がある。

【1類型】
配達する新聞部数に加えて、「押し紙」(広義の残紙)部数にも折込媒体がセットになっているために、「押し紙」があれば、自然発生的に水増し状態が生まれる類型。最近はスポンサーが「押し紙」の存在を知るようになり、自主的に発注枚数を減らすケースが増えてきた。その結果、民間企業の折込広告に関しては、1類型の水増し状態は解消されていると言われている。

地方自治体などの公共機関が発注する媒体(広報紙)については、依然として1類型になっているケースが多い。地方自治体が、自主的に折込媒体の発注数を減らすことはまずない。原則として、日本ABC協会が公表している新聞部数(ABC部数)に準じて、広報紙の卸部数を決める。当然、「押し紙」に相当する部分は水増し部数となる。

【2類型】
地方自治体と広告代理店の取り引きでは、広報紙の卸部数がABC部数を上回っているケースが多発している。これが2類型である。東京23区の場合、12区で2類型がみられる。

埼玉県の広報紙も2類系になる。埼玉県下の新聞部数が1,790,214部しかないのに、埼玉県は約201万部を発注している。従って、たとえ「押し紙」が1部たりとも存在しなくても、22万部もの折込媒体が過剰になっているのだ。県下の販売店に「押し紙」があれば、水増し部数は、22万部ではすまない。全体の3割ぐらい捨てられている可能性もある。

現在、わたしが取材しているのは、2類型である。

今、広報紙の卸部数がABC部数を上回る2類型が、全国各地で起きている。大阪府の『府政だより』に至っては、新聞社系の印刷会社が広報紙の印刷まで請け負っている。

新聞社と販売店の経営が悪化しているとはいえ、度が過ぎているのではないか。

 

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