1. 【調査報告】豊島区など東京都の12区で広報紙の水増しが発覚、新聞折込の不正と「押し紙」で税金の無駄遣い

地方自治体の広報紙・公共広告の水増しに関連する記事

【調査報告】豊島区など東京都の12区で広報紙の水増しが発覚、新聞折込の不正と「押し紙」で税金の無駄遣い

NHKが朝夕のニュースで放送している「ストップ詐欺被害!私は騙されない」では、振り込め詐欺をはじめ、これでもかというほど詐欺の手口が紹介されている。

一方、新聞に折り込んで配布される自治体の広報紙の一部が捨てられ、料金だけが徴収されている事例が多数あることは報じられていない。昨年から今年にかけて、筆者のところへ、「折込め詐欺」を告発する情報が次々と寄せられた。

その中から相互に関連する2件の告発を紹介しよう。騙されているのは東京都の23区の特別区のうち12区である。

「東京都江戸川区の広報紙、『広報えどがわ』が、配達されないまま大量に廃棄されています」

そんな告発と共に紙媒体が背の高さほどに積み上げられている写真がメールで送付されてきた。(左写真)

江戸川区は、『広報えどがわ』を新聞折り込みのかたちで配布してきた。しかし、実際に新聞に折り込まれているのは、販売店に卸した部数の一部で、配られずに大量に捨てられているというのだ。

ただ、写真を見るだけでは、広報紙の秘密廃棄が事実かどうかを確かめようがない。新聞に折り込む前の写真である可能性もあるからだ。

そこで筆者は情報提供者に対して、この販売店に「押し紙」があるかどうかを問い合わせた。「押し紙」の有無を検証することが、折込み媒体の水増し行為の実態を調査するための最初のステップだった。

「押し紙」とは、新聞社が販売店に対してノルマとして買い取りを強制する新聞のことである。たとえば2000部しか配達していない販売店に3000部の新聞を搬入すれば、1000部が「押し紙」である。残紙とも呼ばれ、新聞業界の暗部である。

自治体などの広報紙の販売店への割り当て枚数は、搬入される新聞の総部数に一致させる原則がある。民間企業の折込広告の場合、最近は広告主が自主的に枚数を減らすこともあるが、公共の媒体は従来の原則を貫いてきた。

というのも販売店へ搬入する総部数は、権威ある調査機関とされている日本ABC協会の公査を経ており、実際に配達される部数との間に大きな乖離はないとされているからだ。しかし、総部数(ABC部数)に「押し紙」が含まれていれば、媒体は水増し状態になる。


「押し紙」の有無についての筆者からの問い合わせに対して、「押し紙」の写真(左写真)が何枚も送られてきた。筆者は現場へ足を運んで情況を確認した。昼間の時間帯だったので、「押し紙」は確認できなかったが、写真に映っていた「押し紙」の保管場所は確認できた。

この販売店にどの程度の「押し紙」があり、それに伴って何部の『広報えどがわ』が廃棄されているかは、帳簿を見ない限り正確には特定できないが、送付されてきた写真を見る限り、「押し紙」が多量にあるので、広報紙の廃棄量も多量になっていると考えるのが自然だ。

◆◆◆

筆者は調査を次の段階へ移した。江戸川区の区役所へ足を運び、情報公開請求の権利を使って『広報えどがわ』の新聞販売店向け卸部数を開示してもらった。次に永田町の国立国会図書館へ行って、江戸川区の新聞のABC部数を調べた。その結果、次の数値が明らかになった。

ABC部数:13万4300
広報紙の折込部数:14万7000

新聞に折り込む『広報えどがわ』の部数が、ABC部数を1万部ほど上回っているのだ。逆転現象である。つまりたとえ一部たりとも「押し紙」がなくても、『広報えどがわ』は一万部ほど廃棄されている計算になる。

この実態を踏まえて、筆者は広報紙の配布に関する調査範囲を広げることにした。東京23区を対象に、各区の広報紙の水増し実態を調査することにしたのだ。『広報えどがわ』と同じ逆転現象が、他の区でも起きているのではないかと推測した結果である。

そこでまず東京都の各区役所に問い合わせて新聞折り込みで広報紙を配布している区を特定した。その結果、23区のうち16区で新聞折り込みが採用されていることが分かった。

この16区について、口頭で「2019年度6月時点における広報紙の新聞販売店向け卸部数」を聞き出した。新聞販売店に「押し紙」があることは、周知の事実となっているわけだから、これらの16区では、広報紙が水増しになっている可能性が高い。しかし、それだけでは裏付けが弱いので、江戸川区のケースと同様に、折込部数がABC部数を超えているケースだけを「水増し状態」と定義した。

その結果、この定義に当てはまったのは、荒川区、江戸川区、目黒区、港区、練馬区、大田区 、世田谷区、品川区、新宿区、杉並区、豊島区、板橋区の12区である。冒頭の図が各区のABC部数と広報紙の新聞販売店向け卸部数(19年6月時点)である。

これらの区では、販売店にたとえ一部の「押し紙」がなくても、広報紙が水増し状態になり、ゴミとして廃棄されていることになる。

最も水増し率が高いのは、豊島区の43%である。

◆◆◆
ただ、調査対象になった12区の担当者が、悪意をもってABC部数を上回る部数の広報紙の折込み配布を発注した可能性は少ない。新聞のABC部数と実配部数が整合していない事実がほとんど知られていないからだ。

その結果、12区の担当者は、「予備部数」を見込んで、言われるままにABC部数を上回る部数を発注した可能性が高い。ただ、たとえABC部数への上乗せ分が「予備部数」であるとしても、その割合は2%が常識とされている。1000部に対してわずか20部程度である。

 

【参考画像】「押し紙」回収の現場