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2021年01月15日 (金曜日)

産経「押し紙」裁判の判決を批判、週刊金曜日、産経が裁判所への上申書でメディア黒書を批判

本日発売の『週刊金曜日』が「『押し紙』を認めて責任認めず?」(金曜アンテナ)と題する記事を掲載している。黒薮の執筆である。この記事は、昨年12月1日に判決が言い渡された産経新聞「押し紙」裁判で、販売店を敗訴させた判決(野村武範裁判長)を批判した内容だ。

記事の中で、筆者は裁判の結審に先立って、産経の奥村毅弁護士と小泉裕樹弁護士が、期日の早期再設定(コロナウィルス感染拡大の影響で、一旦、取り消されていた)を求める上申書を裁判所へ提出し、その中で「メディア黒書」と筆者を批判していたことを報告している。紙面のスペースに制限あり、批判箇所の全体を引用できなかったので紹介しておこう。

以下、批判部分の記述である。

しかし、今般、本件訴訟につき悪質な記事がインターネットで配信されていることが発覚しました。

 配信しているのは、フリージャーナリストと称する黒薮哲哉氏で、「メディア黒書」と題するサイトの本年7月22日付けの記事(http://www.kokusyo.jp/oshigami/15389/)に本件訴訟に関する記事が掲載されております。記事には、本件訴訟で提出された資料がそのまま掲載されているうえ、訴訟経過についても原告有利に事実が歪曲されています、原告が訴訟を有利に進めるために黒薮氏と連携し、記事を配信させていることが明らかです。

 被告としても、当面は静観する予定でおりましたが、悪質な報道が繰り返され、エキサイトした場合は放置できないと考えております。

 裁判所におかれましては、以上の事情を斟酌いただいたうえ、できるだけ早期に期日を指定していただきますよう、上申いたします。

「原告が訴訟を有利に進めるために黒薮氏と連携し、記事を配信させている」と述べている。しかし、このような事実はなく、原告を取材し広義の「押し紙」問題を公にするように促したのは、筆者の側である。「押し紙」のような犯罪的行為は、容赦なく告発するように説得したのである。

もちろん産経側から取材は受けていない。

また、「悪質な報道が繰り返さ」たと述べているが、「悪質な報道」が何を意味しているのか具体的に示されていない。

昔、「裁判となればわが方のもの」と豪語した新聞人がいたが、恥ずかしい発言である。新聞人であれば、「調査報道となればわがほうのもの」でなくてはならない。自社のメディアで「押し紙」報道を批判すればいいだけの単純な話ではないか。

 

産経新聞の内部資料を入手、大阪府の広域における「押し紙」の実態を暴露、残紙率は28%

2021年01月14日 (木曜日)

読売、年間で約60万部の減部数、対前月差はコロナ禍の中でも約1万2500部の増加、2020年11月度のABC部数

2020年11月度のABC部数が明らかになった。それによると読売新聞は年間で約60万部の減部数、朝日新聞は約40万部の減部数となった。毎日新聞は、約26万部の減部数である。

全国の日刊紙の年間減部数は、約226万部である。東京新聞社が5社消えたに等しい。

新聞離れに歯止めはかかっていない。

減部数の原因は、新聞社が残紙(広義の「押し紙」)を減らした結果だと推測される。

折込広告の需要が高ければ残紙が多くても、販売店はある程度まで残紙による損害を相殺できるが、折込広告の受注が少なければ、残紙の損害を相殺できないので、新聞社は残紙を減らさざるを得ない。さもなければ新聞の戸別配達制度そのものが崩壊する。

ちなみに、紙媒体の読者と電子新聞の読者の分離は、ほぼ完了しているとみるのが妥当だ。

2020年11月度(最新)の部数は次の通りである。()内は前年同月差である。

朝日:4,892,411(−407,561)
毎日:2,045,652(−263,999)
読売:7,351,854(−602,272)
日経:2,048,943(−178,941)
産経:1,228,940(−122,302)

なお読売は年間では約60万部の減部数を招いたが、対前月差は約1万2500部の増加となっている。コロナ禍の中でも増加に転じた。

■「地方自治体が発行する広報紙の水増し問題」 全記事

東京都、『広報東京都』の折込み部数を「非開示」に、広報紙の水増し実態調査、仲介業者は読売系、印刷会社は共産党系

全国の地方自治体が税金で発行している広報紙の水増し実態を調査している筆者らの取材チームは、東京都が制作する『広報東京都』の調査に入った。しかし、東京都は、新聞折り込み部数データを「非公表」とした。これまでに実施した都道府県を対象とした調査では、全自治体が広報紙に関する情報を開示しているが、東京都だけが拒否するかたちになった。

取材チームは、東京都に対して、メールで次の点を問い合わせた。

1、発行している広報紙の名称……広報東京都
2、総発行部数(2020年6月の時点)
3、ポスティング枚数とポスティング業者
4、新聞折込枚数
5、広告代理店
6、印刷会社

東京都からは次の回答があった。

このたびは、「広報東京都」へのご質問をいただき、ありがとうございます。ご照会のあった事項につき、下記の通り回答いたしますので、ご確認いただければ幸いです。
 今後とも「広報東京都」をよろしくお願い致します。
  
 東京都 生活文化局 広報広聴部
 広報課出版担当
 電話:03-5388-3093

 1、発行している広報紙の名称
  広報東京都

(以下2020年6月の時点)
 2、総発行部数
 約303万部
 
 3、ポスティング枚数とポスティング業者
  ポスティングは実施しておりません。

 4、新聞折込枚数
 非公表とさせていただいております。

 5、広告代理店
(新聞折込み等)株式会社読売PR
 
 6、印刷会社
 あかつき印刷株式会社

 黒薮注:読売PRは読売新聞社系の広告代理店である。
 黒薮注:あかつき印刷は、共産党の印刷会社である。

◆◆
東京都が公表した『広報東京都』の総発行部数は、303万部である。これに対して2020年4月時点でのABC部数(公式の新聞発行部数)は、2,777 ,430部である。

約25万部が過剰になっているが、東京都の場合も他の大半の自治体と同様に、新聞折込のほかに、「都の施設、区市町村の窓口・出張所・区民センター、公立図書館、公立文化施設、郵便局、金融機関、都営地下鉄・JR・私鉄線の駅、公衆浴場、生活協同組合の店舗、医療機関、警察署、保健所、4年制大学など」にも置いているので、この約25万部が廃棄されているとは限らない。

今後の調査を要する。

ただ、次の3点を指摘しておきたい。

1、たとえ『広報東京都』の卸部数が、ABC部数を超えていなくても、新聞社の残紙問題は全国的に深刻になっており、依然として『広報東京都』が廃棄されている可能性がある。

2、筆者が東京23区を対象として、それぞれ23区が発行する広報紙の水増し実態を調査したところ、23区のうち12区で水増しが明らかになった。この調査は、情報公開請求で入手したデータに基づいており、裏付けがある。調査結果を『紙の爆弾』(2020年5月)で公表したので、読者にはその記事の概要を次のリンク先で確認していただきたい。

【調査報告】豊島区など東京都の12区で広報紙の水増しが発覚、新聞折込の不正と「押し紙」で税金の無駄遣い

 

3、東京都のケースでは、仲介業者が読売系の広告代理店になっている。読売新聞は多数の新聞販売店と権益関係を持っている。従って、透明な取引という観点からすると、東京都は新聞社系ではない広告代理店を使うべきではないか。

4、『広報東京都』を印刷しているのが、日本共産党の組織であることも問題だ。共産党は、国会の場で残紙問題を追及してきた経緯がある。従って、東京都と権益関係を持っていると、『報告東京都』が水増しになっていた場合、残紙問題の追及がしずらくなる可能性がある。

◆◆
肝心なデータを非公開とした東京都に対して、今後、どのように対処するかは未定だが、おそらく過去10年に渡るデータの開示を、情報公開請求制度を通じて行うことになる。

新聞販売店が米を配達、新聞拡販のターゲットが高齢者に、背景に部数至上主義

新聞拡販時のトラブルが絶えない。東京都はウエブサイトに、高齢者に対して注意を喚起する記事を掲載している。トラブルの具体例をいくつか紹介している。そのうちのひとつは、次のように拡販の実態を報告している。

2か月前、新聞の勧誘員が来訪し、購読契約を勧められたが、目が悪いので断った。しかし、景品の洗剤8個入り2箱、米(10kg)2袋を次々と差し出し、帰ろうとしない。早く帰って欲しかったので、契約書にサインしてしまった。翌日、契約書を確認すると、半年後から1年間の購読期間となっていた。半年も先の契約を強引にさせられたので解約したい。景品を受け取ってしまったので解約できないだろうか。 (契約者 90歳代 女性)■出典

新聞紙面の質が低下したことに加えてインターネットが普及したことが重なって新聞購読者が激減する状況下で、新聞拡販のターゲットが高齢者になっている。視力や認知機能の低下などに向き合う弱者を狙った悪質な新聞拡販が後を絶たない。

しかも、勧誘の際に使う景品が、伝統的な洗剤やビール券に加えて、米まで登場しているようだ。新聞販売店が米を仕入れて配達する状況が生まれている。

拡販時のトラブルに対して、東京都は次のようにアドバイスしている。

 景品を受け取っていても、解約したい場合は、まずは事業者(販売店)に申し出てみましょう。事業者が、定められた上限額(※)を超える景品類の提供を行ったり、消費者の判断力が不足している状態(認知症など)で契約したときなどは、消費者の解約申し出に直ちに応じなければならないと、「新聞購読契約に関するガイドライン」に定められています。また、景品を消費していても解約できる場合があります。

※「新聞業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」に基づき、景品の上限額は、購読料(最大6か月)の8%です。

◆◆
2007年(平成19年)に国会で、悪質な訪問販売を防止する対策として特定商取引法の改正が議題にあがった。その際、新聞協会は、新聞が「公共性の高い商品」などとして、規制の強化に反対する見解を表明した。「自分たちには身に覚えがない」と言わんばかりの開き直った記述である。

1.法改正の趣旨は、悪質事業者から高齢者などを保護することであるはずだが、勧誘を拒絶する消費者に対する勧誘の禁止および勧誘意思の確認義務が、すべての訪問販売に導入されることになれば、営業活動の自由が侵害される恐れがある。規制強化は本来の趣旨に限定し、悪質事業者の違法な行為自体を取り締まれば足りるものであり、通常の営業行為は規制すべきでない。入り口の段階で、幅広く営業行為に規制の網をかけることは、過剰な規制につながる。

 2.新聞は、極めて公共性の高い商品であり、広く読まれ普及することによってその公共的役割を果たすことができる。その普及の方法については、これまで訪問販売を主体にし、94%という世界的にみても最高水準の戸別配達率を達成してきた。こうした新聞の公共的役割を妨げるような過度な規制はすべきではない。一方、消費者からの苦情については、各社ごとに苦情・相談窓口を設置し、解決している。また、特定商取引法の指定商品として、新聞セールス近代化センターを設立し、悪質セールスの排除に努めるなど、自主的な改善努力を積み重ねてきた経緯があることも、ぜひご理解いただきたい。■出典

これらの記述から、「ナベ・釜合戦」と批判された過去の新聞拡販に対する反省は読み取れない。あたかも正常販売を持続してきたように描いている。かつてのような恫喝めいた拡販が激減したことは事実だが、高価な景品を使って新聞購読を締結する戦略には変わりがない。

景品と引き換えに新聞購読契約を結ぶ発想は、筆者の知る限り、南北アメリカにはない。新聞はジャーナリズムの質で販売するというのが当たり前の理念として住民の間に定着しているからだ。もっとも日本と同様に公権力の意向に配慮しながら、記事を制作する新聞社はあるが、それは社の方針であり、読者もそれを承知の上で講読している。権力構造の歯車にはなっていない。

2021年01月10日 (日曜日)

米国の混乱で露呈したトランプ政権による内政干渉の本質と戦略、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグアにおける「不正選挙」キャンペーン、香港の「市民運動」に対するテコ入れ

トランプ大統領の支持者らが米国の議会党に乱入して、4人が死亡した。この事件は、はからずもベネズエラ、ボリビア、ニカラグア、それに中国に対するトランプ政権の敵対戦略の手口を露呈した。

その意味では、単に米国政治を考える機会というだけではなく、米国の対外戦略(策略)を考える格好の機会を与えてくれる。とりわけ日本のメディアは、ラテンアメリカの政情をほとんど報じないうえに、報じても不正確な情報しか提供しないので、トランプ政権による他国に対する内政干渉の手口を考える糸口になる。

米国の第3世界に対する戦略は、かつては海外派兵を柱としたが、現在は、他国の市民運動を資金面でテコ入れすることで、政治的な混乱を誘発し、「反米政権」の転覆を企てる戦略へ変わりつつあるのだ。現在の米国の「市民運動」をみるとそれが輪郭を現す。

◆◆
ベネズエラとボリビアでは、トランプ政権下の時代に大統領選挙が実施された。ニカラグアの場合は、トランプ政権が発足したのと同じ2017年に左派のFSLN政権(サンディニスタ民族解放戦線)の2期目に入った。(厳密に言えば、FSLNは1985年にも政権を取っている3期目)

これらの国では、大統領選の直後、あるいは大統領選から若干の期間を経た後、「不正選挙」を口実とした反政府キャンペーンが展開された。「西側メディア」が、反政府キャンペーンを大々的に報じてきた。

国会議員選挙のレベルでも、やはりメディアは「不正選挙」の反政府プロパガンダを繰り返し展開してきた。

その反政府運動を展開してきたのは、トランプ政権の支援を得た現地の市民運動体だった。たとえばニカラグアの場合、次の4団体が、ニカラグア国内の市民運動体に対して資金援助を行ってきた。

1、 N E D(全米民主主義基金)

2、アメリカ合衆国国際開発庁

3、 米国国防省

4、 その他

このうちNE D(全米民主主義基金)は、「各国の民主化を支援する非営利団体だが、予算の大半は米政府が拠出している。人権問題が米中間の大きな懸案となるなか、中国政府はNEDを米政府の先兵とみなす」(朝日新聞)団体である。

2019年のボリビア大統領選の後には、反政府派の市民運動が「不正選挙」を口実として、クーデターを起こした。モラレル大統領は海外へ亡命を余儀なくされた。しかし、「西側メディア」はモラレス大統領が不正選挙の批判をあびて、身の安全のための亡命したと報じたのである。

この反政府キャンペーンには、米州機構が関与していたことも明らかになっている。(ボリビアでは昨年、再選挙が行われ、モラレス派が圧勝した。)

ちなみにNED(全米民主主義基金)は、香港の市民運動に対しても資金援助を行ってきた。チベット問題にも介入している。

が、日本を含む「西側メディア」は、世界各地で混乱を引き起こしてきた市民運動を、正当な運動として報じてきたのである。現在の米国の混乱については、トランプ派を批判するスタンスを取っているが、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグア、香港については、混乱を起こしてきたグループを擁護する報道を延々と続けてきたのである。

◆◆◆

「西側メディア」は、トランプ政権による他国に対する内政干渉については報じていない。

新聞研究者の故・新井直之氏は、『ジャーナリズム』(東洋経済新報社)の中で、次のような提言をしている。

「新聞社や放送局の性格を見て行くためには、ある事実をどのように報道しているか、を見るとともに、どのようなニュースについて伝えていないか、を見ることが重要になってくる。ジャーナリズムを批評するときに欠くことができない視点は、『どのような記事を載せているか』ではなく、『どのような記事を載せていないか』なのである」

仮に香港の市民運動で死者が4人も発生すれば、「西側メディア」は、大々的な報道を展開するだろう。反中国の世論を形成する格好の機会になるからだ。中国政府にも責任があるというスタンスを取るにしても、米国から支援された香港の市民運動の本質については客観的に伝えるべきだろう。民族自決主義の尊重という観点からすれば、問題がある。

現在の米国の混乱を検証すると、トランプ政権の内政干渉を柱とした戦略の手口が見えてくる。

幸いに米国での「不正選挙騒動」のデタラメが露呈したために、メディアによる反共プロパガンダは鳴りをひそめている。ただし、次のような例外はあるが。

■(毎日新聞) ベネズエラの野党指導者グアイド氏が単独会見 国会議員選「完全な不正」 「マドゥロ政権、独裁にコロナ利用」

『週刊金曜日』が広報紙の水増し問題を指摘、「押し紙」同様に古くて新しい問題

8日に発売された『週刊金曜日』が埼玉県の広報紙『彩の国だより』(月刊)が、約22万部水増しされていることを報じた。(9ページ)『彩の国だより』は、新聞折り込みのかたちで、配布されるが、埼玉県が広告代理店(埼玉県折込広告事業協同組合)へ卸している部数は、新聞の発行部数を約22万部上回っていた。

紙媒体が、広報紙の水増し問題を取り上げたのは、『紙の爆弾』に続いて2度目である。この問題は、「押し紙」問題と同様に古くから水面下で指摘されていたが、近年、水増しの割合が増えたこともあって全国各地で問題になっている。「押し紙」同様に古くて新しい問題である。

2016年には、広告代理店・アルファトレンドがこの問題を指摘され、倒産したケースもある。同社は、水増し部数に相当する部数を印刷もしなければ、販売店へも配布していなかった。詳細は、次の記事である。

 ■ 広告代理店・アルファトレンドが倒産、折込広告の詐欺発覚で

以下、メディア黒書で取り上げた広報紙の水増しの例を紹介しておこう。この問題の温床に、「押し紙」政策を柱として新聞社のビジネスモデルがある。

 

【調査報告】豊島区など東京都の12区で広報紙の水増しが発覚、新聞折込の不正と「押し紙」で税金の無駄遣い

 

千葉県の広報紙『ちば県民だより』、21万部水増しの疑惑、必要な予備部数は9000部、背景に新聞社のビジネスモデル

 

埼玉県秩父市で選挙公報の廃棄、2万6000世帯の地域で1万部水増し疑惑、問われる新聞協会の「教育の中に新聞を運動」(NIE)、過去に秩父市立大田中学校を指定校に

 

静岡県の広報紙『県民だより』、4万部水増し、各地で発覚する広報紙の「折り込み詐欺」

 

滋賀県の広報紙『滋賀プラスワン』、7万部を水増し、新聞発行部数・39万部に対して広報紙・46万部を提供、背景に「押し紙」

 

大阪府の広報紙『府政だより』を毎日新聞社系の印刷会社が印刷、請負先の代理店は福岡市のホープオフセット共同企業体、新聞折込部数については情報公開請求中

 

千葉県船橋市でも広報紙の水増し疑惑、広報紙の販売店向け卸部数がABC部数を1万3600部上回る、最大で約3万5000部の水増し

 

千葉県流山市で広報紙の大幅な水増し、約3万7000の新聞発行部数に対して約5万5000部を供給

2021年01月08日 (金曜日)

日本禁煙学会の作田学医師らが関与した4500万円のスラップ訴訟

【「紙の爆弾」、1月号より転載】

煙草の副流煙で健康被害を受けたとして、団地に住む三人の住民が隣人を訴えた裁判の控訴審で、東京高裁は十月二十九日、一審原告らの控訴を棄却する判決を下した。原告らが上告しなかったため、「冤罪」を主張していた一審被告の藤井将登さんの勝訴が確定した。
しかし、「終わりは始まり」である。

原告に診断書を交付したり、五通もの意見書を裁判所に提出するなど、裁判に深く関わった日本禁煙学会理事長の作田学医師に対して、将登さんは、被告にされたことで受けた被害の賠償を求める「反訴」の準備に取り掛かった。

将登さん個人に対する四五〇〇万円(控訴審は約二三〇〇万円)の請求は、常道を逸していた。高額請求に加え後述するように請求の根拠にも乏しかった。「反訴」は、訴権の濫用に対する警鐘である。今度は、禁煙外来の生みの親が、法廷に立たされることになったのである。

これまで将登さんは本人訴訟で対処してきたが、「反訴」では弁護士を立てる。すでに弁護士も内定している。

この裁判には原告を支援するために、著名な医師や科学者らが次々と関与した。そのうち中心的な役割を果たしたのが、作田医師ら日本禁煙学会の関係者だった。

◆証拠収集、ゴミ箱あさりを指示

事件の発端は、本誌(三月号)で既報したように、二〇一七年にさかのぼる。将登さんは、同じマンションの斜め上階に住むA家から、藤井家からもれる副流煙が原因で、自分たちは受動喫煙症(広義の化学物質過敏症)などに罹患(りかん)したとする苦情を持ち込まれた。

将登さんの煙草の副流煙が、自宅内まで入ってくるというのだった。それを理由にA家は、将登さんに禁煙を求めてきたのである。

しかし将登さんは、喫煙者ではあるが、ヘビースモーカーではなかった。自宅で吸う煙草の量は、一日に数本程度。しかも、喫煙する場所は主として、防音装置が施された密封状態の音楽室だった。高性能なフィルターが付いた空気清浄機も使っていた。それにミュージシャンという仕事柄、ツアーによる外泊もふくめ外出することが多いので、副流煙の発生源そのものが、常時存在したわけではなかった。

一方、A家も副流煙の侵入を防ぐために、窓をビニールで覆うなどの対策を取っていた。風も、年間を通じて、藤井さん宅からAさん宅の方向へ吹くことは少ない。そのことは、気象庁の風向データでも裏付けられ、裁判所もそれを事実認定した。

従って、たとえ微量の副流煙が、藤井家から屋外へ漏れることがあったとしても、それがAさん宅へ流入する可能性はほとんどなかった。しかし、A家は、将登さんの煙草が受動喫煙症などになった原因だと執拗に主張したのである。室内の壁が変色したのも、将登さんの副流煙が原因だと主張した。鉢植えの植物が枯れたのも、将登さんに責任があると主張したのである。

ところが裁判の中で、原告のひとりであるA夫(仮名)に約二十五年の喫煙歴があったことが分かったのだ。しかし、作田医師は喫煙歴と受動喫煙症とはあまり関係がないと意見書で弁解した。あくまでも将登さんの喫煙に固執し続けたのである。

A家が、このような訴訟を起こすことが可能になったのは、日本禁煙学会の関係者の協力があったからにほかならない。

日本禁煙学会は、裁判への組織的関与を否定しているが、同協会の複数の関係者とA家に接点があったことは紛れのない事実である。

A夫は、提訴に先だって日本禁煙学会の理事で東京都議(都民ファースト)の岡本光樹弁護士に副流煙による被害を相談した。A夫が証拠として裁判所へ提出した自身の日誌によると、岡本弁護士は、一七年二月十四日に横浜市のすすき野第二団地にあるA家を訪問した。室内で煙草臭の測定などをおこなった後、岡本弁護士はある提案をした。藤井家を訪問して煙草を吸っている現場を押さえようというのだ。A夫は、「行っても動じないと思う」と岡本弁護士を制した。その代わり、「護美箱(ママ)からタバコの吸いがらを探し出して証拠を掴むしかない」とアドバイスした。

この点について筆者は、岡本弁護士に事実関係を問い合わせた。岡本弁護士は、「ご指摘の内容は、事実です」とメールで回答した。

ちなみに原告は、岡本弁護士が執筆した「住宅におけるタバコ煙害問題」と題する論文を、証拠として裁判所に提出している。しかし、岡本弁護士は、この裁判の代理人には就任しなかった。

A家の代理人を引き受けたのは、山田義雄弁護士と息子の山田雄太弁護士だった。
山田弁護士親子は、提訴の有力な根拠のひとつとして、日本禁煙学会の作田理事長が交付した原告三人の診断書を提出した。これらの診断書には受動喫煙症、あるいは化学物質過敏症などの病名が記されている。その原因を、「団地の1階からのタバコ煙」と特定している。さらに発生源の人物を、「団地の1階」に住んでいる「ミュージシャン」と事実摘示している。

しかし、副流煙の発生源が将登さんとは限らないことは、前出のA夫の日誌を検証すれば容易に明らかになる。

この日誌を隅々まで注意深く読むと、皮肉にも「将登さん犯人説」を否定する記述の存在が明らかになる。将登さんが自宅に不在であるにもかかわらず煙草の臭いがすると、A夫は繰り返し記録していたのだ。

「将登の車、2時頃から夜9時現在なし。しかし、花の香り、お香の様なタバコの煙入ってくる。将登がいないのに」(平成30年6月23日)

「午後1時過ぎ、将登の車なし、(入浴)夕方将登車なし、しかし、タバコ臭、充満。風、西から東へ吹いている」(平成30年9月2日)

「朝から将登の車なし。おそらく昨日から帰っていない様だ。18:55、車なし。しかし、花の香りのタバコ ベランダに充満、部屋にも入ってくる」(平成30年9月8日)

「4:30ウォーキング 帰り、将登車なし、しかし、タバコの臭い、家の中に入ってくる。藤井家、将登がいないのに、敦子か、お嬢さんか?」

これら以外にも、同類の記述が延べ三十四カ所もある。それにもかかわらず作田医師は、診断書の中で副流煙の発生源は、一階に住んでいるミュージシャンであると断定したのである。背景に、芸能人に対する偏見があるのかも知れない。

ちなみに、原告と被告の双方が住むマンションの近くには、自然発生的にできた喫煙場がある。そこには大量の煙草の吸殻が散らかっていた。(現在は清掃されている。)

団地に隣接してバス停もあり、バスが一時停止するたびに、アイドリングにより排気ガスの量も増える。Aさん一家が、日常生活の中で多様な化学物質に接していたことも、原告の陳述書から読み取れる。病因となる化学物質の発生源は、無数にあるのだ。

◆作田医師、原告を診察することなく診断書を交付

三人の原告の中で最も症状が重いのは、A家の娘(以下、A娘)だった。原告の主張によると、A娘は寝たきりである。基礎疾患として一〇年来の乳癌がある。しかし、これらの事実を度外視して、原告らは将登さんの副流煙が原因で、A娘が体調を崩し寝たきりになったと主張し続けたのだった。

この裁判で大きな争点のひとつになったのが、作田理事長が作成したA娘の診断書だった。それは将登さんによる「反訴」の有力な根拠である。

作田医師は、A娘を直接診察することなく診断書を交付したのである。皮肉なことに、この事実に最初に言及したのは、原告の山田弁護士親子だった。二人は準備書面の中で、A娘の診断書作成のプロセスを記述したのであるが、そこからは作田医師がA娘を直接診察していない事実が読み取れる。A娘は体調不良で外出できないので、作田医師がA娘の母親から聞き取りを行ったうえで、後述する他の医師による診断書などを参考にして、
診断書を交付したのである。

しかし、患者を直接診察せずに診断書を交付する行為は、医師法二〇条で禁止されている。診断書が患者の人権にかかわる証明書の類であるからだ。事実、第一審の横浜地裁は、この点を重くみて、作田医師の行為を「医師法二〇条に違反する」と断罪したのだ。
作田医師は、判決後にA娘を往診した。しかし、あとの祭りで、東京高裁も、作田医師が作成したA娘の診断書は、診断書として認めることはできないと判断したのである。ただし、医師法二〇条違反についての判断は避けた。

原告らは、作田医師の診断書とは別に、二人の医師が交付した診断書も、原告が受けた被害の証拠として提出した。倉田文秋医師による診断書である。もう一通は、宮田幹夫・北里大学名誉教授による診断書である。

しかし、東京高裁は、これらの診断書についても、根拠がないと判断した。まず、倉田医師の診断書については、日本禁煙学会が定めた受動喫煙症の診断基準そのものの不備を指摘した。日本禁煙学会の診断基準は、「受動喫煙自体についての客観的な裏付けがなくとも(患者による症状の申告で)診断が可能」(高裁判決)とするものである。つまり患者による症状の自己申告を重視しているのだ。

しかし、東京高裁は、「そこから受動喫煙の原因(本件では、被控訴人宅からの副流煙の流入)までもが、直ちに推認されるものとまではいい難い」と判断したのである。

宮田医師(注:A娘だけを診断)が交付した診断書については、「化学物質過敏症については、様々な原因物質が考えられ、その発生機序について統一された見解が得られておらず未解明である上、宮田医師が控訴人A娘に対して行った各種検査は、化学物質過敏症の原因物質の特定と直接結びつくものではない」と認定した。

東京高裁は、三人の医師が作成した三通の診断書を、いずれも証拠とはなり得ないと判断したのである。ちなみに宮田医師と倉田医師も、作田医師と同様に繰り返し意見書も提出している。三医師の協力ぶりは尋常ではなかった。

さらに、大川正芳一級建築士、松原幹生技師、日本禁煙学会理事の松崎道幸医師も意見書を提出した。しかし、裁判所はこれらの意見書も重視しなかったのである。

このように原告らは、著名な医師や科学者を次々と動員して、総出で将登さんを攻撃し続けたのである。それにもかかわらず、本人訴訟で対抗した将登さんに完敗したのだ。提訴そのものにかなり無理があったからだ。


◆作田医師が提訴を予見できた可能性

将登さんがこれから起こす裁判では、作田医師が第一審で問題になったA娘の診断書を作成した段階で、裁判が提起される可能性を予見していたか否かが争点になりそうだ。提訴目的で医師法二〇条違反を犯してまで、A娘の診断書を作成したかどうかが検証される。

作田医師がA娘の診断書を交付する前段には、次のような経緯がある。一六年十月三十一日に、A娘は倉田医師の外来を受診した。その際、問診票に、診断書の交付を希望する旨を記したが、倉田医師は、診断書を交付しなかった。しかし、「訴訟にまで進まないと問題解決できない可能性が推測」されたので、「診断書が必要な段階になれば作成します」(倉田医師の意見書)と助言した。

そして約五カ月後、倉田医師は実際にA娘の診断書を交付したのである。こうして作成された診断書を携えて、A夫の妻が作田医師の外来を訪れ、面談を受けた後、無診察によるA娘の診断書を入手したのである。それが裁判所に提出され、高額請求の根拠になった。

ちなみに、日本禁煙学会の「受動喫煙にお困りなら、こうしましょう」と題する受動喫煙対策マニュアルには、「最終的には裁判になるでしょう」と提訴をあおりかねない記述もある。

医師は、診断書を交付する際には患者に対して必ず使用目的を確認する。つまり、作田医師は、自分が医師法二〇条違反を犯して作成した診断書が、裁判に悪用される可能性を予見できた可能性が高い。弁護士も提訴を思いとどまるように指導すべきだったのだ。
今後、法廷で関係者の責任が検証されることになる。

2021年01月07日 (木曜日)

朝霞市の公有地への通信基地局設置事件、賃借料360円、設置計画を市に打診したのはKDDI、時系列ノート㉙

KDDIが埼玉県朝霞市岡3丁目の市営・城山公園内に通信基地局を設置した問題で、いくつかの新事実が明らかになった。既報してきたように、KDDIが朝霞市に支払う土地の賃借料は、月額で約360円である。朝霞市は基地局を「電柱」と解釈した上で、条例に従ってこの価格を設定したとしている。しかし、相場とはかけはなれている。

この基地局の設置計画は、KDDIが打診したのか、それとも朝霞市が打診したのか、朝霞市へ問い合わせたところ、「基地局の設置については、市から事業者へ打診はしておりません」との回答があった。つまりKDDIが朝霞市へこの計画を持ち掛け、両者が月額360円の賃借料で合意したことになる。

また筆者は、朝霞市が所有する公園に設置されているKDDI基地局の数と場所をすべて公開するように求めた。これに対して、次のような回答があった。

「市内の公園に設置されているKDDI基地局の数は2基で、詳細な場所については、朝霞市情報公開条例の非公開情報に該当するため、公開できません。」

賃借料は、やはり月額360円の可能性が高い。

◆◆
筆者は、この事件について朝霞市とKDDIに対して断続的に公開質問状(メール形式)を送付している。詳細については、以下の時系列ノート㉙に記録している。

 

【12月14日】

■朝霞市から黒薮への回答
黒薮 哲哉 様

令和2年12月7日付けでご質問いただきました内容につきまして、次のとおり回答させていただきます。

この基地局設置事業のKDDI側の担当部署と責任者を教えてください。
【回答】
事業者へ確認をお願いします。

この基地局設置事業に関して関係者が朝霞市の市庁舎以外の場所で面談したことはあるのか?
【回答】
工事施工中に城山公園で現場確認のための立会いは行っています。

令和2年12月14日

■質問「3」「4」についてのKDDIから黒薮への回答

黒薮様

KDDIエンジニアリング(株)
藤田です。

周辺にお住まいの方への対応として連絡させていただいております。
城山公園の基地局に関して頂いたお問合せについて回答させて頂きます。

周辺にお住まいの方への対応は、KDDIエンジニアリングにて対応させ
ていただいております。
基地局設置場所での面談も実施しております。

ご理解の程よろしくお願いいたします。

■黒薮から朝霞市とKDDIに対する質問

みどり公園課:大塚様
KDDI:藤田様

朝霞市岡の黒薮哲哉です。
引き続き質問をさせていただきます。

7】城山公園への基地局設置を打診したのは、KDDIなのか、それとも朝霞市なのか?

【8】住民説明会を開催した日時はいつか。また、対象者はだれか?

【9】住民説明会を開いた場所はどこか?

【10】基地局設置をめぐって黒薮とKDDIが話しあっている途中で、朝霞市がKDDIに工事再開を許可した理由はなにか。工事を再開する前に、KDDIから朝霞市へ連絡があったと聞きている。

黒薮

【12月26日】

 

【12月26日】
黒薮から朝霞市とKDDIへの質問

みどり公園課:大塚様
KDDI:藤田様

朝霞市岡の黒薮哲哉です。
引き続き質問させていただきます。質問番号は、11、12、13です。

【11】マイクロ波の被熱作用について、朝霞市はKDDIからどのような説明を受けたのか?

【12】城山公園にあるダイチャリのスタンドの賃借料はいくらか?

【13】基地局を電柱と考える根拠はないか?

説明義務を果たすように繰り返しお願いします。

【1月5日】

■朝霞市から黒薮に対する回答

黒薮 哲哉 様

令和2年12月10日及び令和2年12月14日付けでご質問いただきました内容につきまして、次のとおり回答させていただきます。

【5】朝霞市が所有する公園に設置されているKDDI基地局の数と場所を公開してください。
【回答】
市内の公園に設置されているKDDI基地局の数は2基で、詳細な場所については、朝霞市情報公開条例の非公開情報に該当するため、公開できません。

【6】城山公園内に設置されたKDDI基地局を4Gから5Gへ切り替える際、近隣住民にその旨を通知する予定はあるのか。
【回答】
事業者に確認をお願いします。

【7】城山公園への基地局設置を打診したのは、KDDIなのか、それとも朝霞市なのか?
【回答】
基地局の設置については、市から事業者へ打診はしておりません。

【8】住民説明会を開催した日時はいつか。また、対象者はだれか?
【9】住民説明会を開いた場所はどこか?
【回答】
住民説明については、令和元年7月6日から令和元年8月6日までの間で実施されたようです。個別具体的な内容につきましては、事業者に確認をお願いします。

【10】基地局設置をめぐって黒薮とKDDIが話しあっている途中で、朝霞市がKDDIに工事再開を許可した理由はなにか?工事を再開する前に、KDDIから朝霞市へ連絡があったと聞いている。
【回答】
基地局設置の工事については、事業者の考える作業工程で進められているものであり、市から工事中止や再開についての指示は行っておりません。

令和3年1月5日

問合せ  朝霞市都市建設部みどり公園課長  大塚 繁忠

【1月6日】
■KDDIから黒薮への回答

黒薮様

KDDIエンジニアリング(株)
藤田です。

周辺にお住まいの方への対応として連絡させていただいております。
城山公園の基地局に関して頂いたお問合せについて回答させて頂きます。

基地局の数、場所等、社外に公開していない情報についての回答は控えさ
せていただいております。
5Gについては、先に回答させていただいた通り、現時点での設置計画
は未定です。

ご理解の程よろしくお願いいたします。

【1月7日】
■黒薮からKDDIと(CC)で朝霞市へ送付

藤田様

朝霞市の黒薮です。
昨日、貴殿が送付されました下記「6」の質問ですが、正確に質問を理解した上でご回答ください。わたしの質問は、5Gへ切り替える計画があるかどうかではなく、もし、切り替えるとすれば、その際は住民にその旨を告知するのか、それとも告知なしにビジネスを進めるのかという質問です。「イエス」か「ノー」かでお答えください。この程度の質問が理解できないようであれば、話し合いは難しいのではないでしょうか。

【6】城山公園内に設置されたKDDI基地局を4Gから5Gへ切り替える際、近隣住民にその旨を通知する予定はあるのか。

黒薮

■■裏付け資料

読売の「押し紙」裁判、原告が準備書面を公開(全文を掲載)、「押し紙」の定義、残紙と渡邉恒雄の関係にも言及

YC大門駅前の元店主が読売新聞大阪本社に対して起こした「押し紙」裁判(大阪地裁)の審理が、12月17日、コロナウィルスの感染拡大をうけて、ウエブ会議のかたちで行われた。原告は準備書面(1)を提出(PDFで全文公開)した。次回期日は、3月16日に決まった。

準備書面の中で原告は、「押し紙」の定義を明らかにすると同時に、読売新聞に残紙が存在する背景を、渡邉恒雄会長による過去の発言などを引用しながら歴史的に分析している。

◆新聞の「注文部数」をめぐる原告の主張

改めて言うまでもなく、「押し紙」裁判では、審理の大前提として「押し紙」の定義を明確にする必要がある。一般的に「押し紙」とは、新聞社が販売店に対して買い取りを強制した新聞と解されてきた。筆者の古い著書においても、そのような説明をしている。従ってこの定義を採用すると、新聞販売店が折込媒体の水増しを目的として、自主的に注文した部数は「押し紙」に該当しない。「積み紙」という解釈になる。

しかし、独禁法の新聞特殊指定でいう厳密な「押し紙」行為とは、次の2点である。

①販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。

②販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。

実は、この定義には抜け穴がある。注文部数の定義があいまいなのだ。

一般に商取引においては、商店の側が卸問屋に対して、注文部数を決めて発注書を発行する。これはあたりまえの慣行で、全ての商取引に共通している。新聞の商取引も例外ではない。形式的には販売店が新聞社に対して新聞の注文部数を決め、それを伝票に記入する。

ところが販売店は発注の際に実配部数だけではなく、残紙部数を含めた部数を伝票に記入する。「押し紙」が独禁法に抵触するから、「押し紙」を隠すためにそのような慣行になっているのだ。しかし、形式的にはこれが新聞の注文部数ということになる。

従って、実際には「押し紙」が存在していても、新聞特殊指定の①②をすり抜けてしまう。新聞社は、「押し紙」行為はしていないと強弁することも一応はできる。実際、読売新聞社は「押し紙」をしたことは一度もないと主張してきた。

この点を前提として、原告準備書面(1)は、新聞特殊指定でいう注文部数の定義が別に存在していることを、歴史的に証明している。それは独禁法の中で、新聞が一般指定ではなく、特殊指定に分類されている事実とも整合している。特殊指定であるから別の定義があるのだ。

1964年に公正取引委員会は「新聞業界における特定の不公正な取引方法」を交付した。その中で日本新聞協会が定めた「注文部数」の解釈基準が引用されている。以下、引用してみよう。

①「注文部数」とは、新聞販売業者が新聞社に注文する部数であって新聞購読部数(有代)に地区新聞公正取引協議会で定めた予備紙等(有代)を加えたものをいう。
(黒薮注:当時の予備紙率は2%である)

①を前提として、次の行為を禁止している。

②新聞社は新聞販売業者に対し、「注文部数」を超えて新聞を供給してはならない。

③新聞販売業者は、新聞社に対し、「注文部数」を超えて新聞を注文しないものとする。

つまり新聞特殊指定でいう「注文部数」とは、一般の商取引でいう「注文部数」とは定義が異なり、新聞の実配部数に予備紙を加えた部数を意味する。従って、「実配部数+予備紙」を超えた部数は、「押し紙」ということになる。このようにして、公取委は種類のいかんを問わず全ての残紙を排除する方向性を打ち出しているのである。

ちなみに公正取引委員会が新聞特殊指定でいう「注文部数」の定義を根拠に新聞社を指導した例としては、1997年の北國新聞がある。その際、公取委は、北國新聞とは別の新聞社でも同様の「押し紙」行為があることに苦言を呈している。

◆渡邉恒雄と残紙問題

また、原告準備書面(1)は、読売で残紙が発生している理由として、1991年に渡邉恒雄社長(当時)が打ち出した「販売第一主義」をあげている。同準備書面は、渡邉氏の次の発言を引用している。

「戦いはこれからである。再来年(94年)11月の創刊百二十周年までには是非とも1千万部の大台を達成して、読売新聞のイメージをさらに高め、広告の増収に貢献、経営体質を不動のものにしたい。現在、本社の全国部数は約980万部だが、今後2年余で30万部の増紙をしたい。1千万部を達成といっても、少し手を抜けば990万部になる。一度1000万部を達成したら、2度と1000万部を切らぬようにするためには、押し紙、積み紙、無代紙を完全に排除したうえで、1000万部以上を確保しておかなければならない。それにはどうしても30万部の増紙が必要だ。戦いは容易ではない。皆さんの指導力、経営力に頼るほかない」

渡邉氏は、「押し紙、積み紙、無代紙を完全に排除したうえで、1000万部以上を確保しておかなければならない。」と述べており、押し紙、積み紙、無代紙(新聞特殊指定の定義では、すべて「押し紙」)の存在を認めているのである。

原告は準備書面(1)全文

 

【資料】

■訴状

■「押し紙」一覧

真村訴訟福岡高裁判決

■読売新聞に関する全記事

千葉県の広報紙『ちば県民だより』、21万部水増しの疑惑、必要な予備部数は9000部、背景に新聞社のビジネスモデル

千葉県が税金で制作して、新聞折り込みで配布する広報紙『ちば県民だより』が、大幅に水増しされている疑惑が浮上した。

筆者ら取材チームが調査したところ、『ちば県民だより』の発行総数は、187万部(2020年6月時点)だった。このうち新聞折り込みで配布することを前提に、広告代理店が新聞販売店に卸している部数は、177万9000部(2020年6月)だった。

ところが千葉県下における新聞の総発行部数は、約156万8369部である。約21万部が過剰になっている。配布されずに廃棄されていることを意味する。

新聞発行部数の内訳は次の通りである。

朝日:375,531(20年4月、ABC部数)
産経:77,239(20年4月、ABC部数)
東京:52,001(20年4月、ABC部数)
日経:121,808(20年4月、ABC部数月)
毎日:109,305(20年4月、ABC部数月)
読売:687,353(20年4月、ABC部数月)
千葉:145,150(19年1月)■出典
合計:1,568,369部

■出典:千葉県のABC部数

 

朝日、産経、東京、日経、毎日、読売の部数は、日本ABC協会が公表している公式部数である。千葉日報は、日本ABC協会の会員社ではないので、発行部数は不明だが、日経新聞の記事の中で引用されている部数を採用した。

新聞の発行部数が公表された時期と、『ちば県民だより』の折込部数調査の定点観測時点には、若干のタイムラグがあるが、新聞の発行部数は顕著な低落傾向が続いており、ここで表示した新聞発行部数が、『ちば県民だより』の折込作業の時点で増えていることはありえない。

◆◆◆
次に示すのは、千葉県が公表した『ちば県民だより』についての情報である。

1.発行している広報紙名称…ちば県民だより
2.総発行部数…187万部(2020年6月時点。予備含む)
3.ポスティングについて…ポスティングは行っておりません。
4.新聞折込枚数…約177万9千部(2020年6月号。予備含む)
5.広告代理店…株式会社キョウエイアドインターナショナル
6.印刷会社…株式会社リフコム

◆◆◆
千葉県は、水増し分は「予備部数」という見方をしているが、適切な予備部数は、新聞業界の伝統的な内部ルールによると、搬入部数の2%とされてきた。現在、このルールは廃止されているが、新聞社の自己都合でそれを行った経緯があり、社会通念からすると予備部数は2%である。自動折込機が高性能になっているので、折込媒体の破損はほとんど発生しないからだ。

その2%を基準にすると、『ちば県民だより』の適切な予備部数は、9350部ということになる。22万部もの予備部数は必要がない。

また、新聞業界には、新聞社が販売店に対して不要な部数を押し売りする「押し紙」行為が慣行化しているので、『ちば県民だより』の水増し率はさらに高い可能性が濃厚だ。

販売店に搬入される新聞のうち、少なくとも2割から3割が「押し紙」だと言われている。場合によっては、4割にも5割になるケースもある。(写真参考)

広報紙の水増しと廃棄は、全国の自治体で問題になっている。この問題の原因は、新聞社が採用してきたビジネスモデルにある。「押し紙」により販売店が被る損害を、折込媒体の水増しで相殺するビジネスモデルが温床になっている。

 

自治体における広報紙の水増し問題に関する全記事(埼玉県、滋賀県、流山市、船橋市・・・)

 

■取材チーム:メディア黒書に対する妨害があったのを機に、複数の読者から取材協力の申し出があり、取材チームを結成した。全国の主要な自治体の広報紙を調査している。平行して情報提供も行っている。

2021年01月04日 (月曜日)

楽天モバイルは回答せず、「電磁波からいのちを守る全国ネット」の公開質問状

昨年(2020)年の12月3日、「電磁波からいのちを守る全国ネット」は、楽天モバイルに対して、4項目からなる公開質問状を送付した。しかし、1ヶ月が経過した今年の1月4日の時点で、楽天からはなんの回答もない。回答期限は12月18日だったので、その後、「全国ネット」は回答を催促したがやはり回答はなかった。

4項目の質問は次の通りである。

1、マイクロ波に非熱作用がないと考える根拠はなにか?

2、アメリカの国立環境衛生科学研究所のNTP(米国国家毒性プログラム)の最終報告について、貴社はどのような見解を持っているのか。

3、貴社の基地局周辺で健康被害が発生した場合、どのように対処する計画なのか。

4、基地局の設置が原因で、不動産の価値が下落した場合、どのような補償を考えているのか。

◆◆
昨年の秋ごろから、楽天モバイルの基地局設置計画に対して住民が計画の撤回を求めるケースが相次いでいる。「全国ネット」は、住民から支援要請があれば、チラシのひな形を提供するなど支援活動を続けてきた。その甲斐があって、大半のケースで問題は解決しているが、東京都目黒区本町のケースのように解決に至っていない例もある。

目黒区本町のケースは、化学物質過敏症の患者が集うサロン「はなちやんカフェ」の近くに携帯基地局が設置された例である。電磁波の影響で、「はなちゃんカフェ」は運営そのものが難しくなっている。

■はなちゃんカフェ

楽天をはじめとする電話会社が総務省の電波防護指針を守って基地局を操業していることは事実だが、規制値そのものが欧米に比べると異常にゆるやかで、実質的には規制になっていない。

たとえば欧州機構が定めているマイクロ波の勧告値は、0.1μW/c㎡ であるのに対して、日本の総務省が定めている規制値は1000 μW/c㎡である。天地の差がある。なぜ、これだけ大きな差があるのか、その理由も明らかになっている。

マイクロ波に遺伝子毒性があることを前提にして欧州機構が勧告値を決めたのに対して、日本の総務省は、マイクロ波には遺伝子毒性がないという前提で規制値を決めたからである。従って、総務省の見解が誤っていれば、日本国民は将来的に計り知れない被害を受ける可能性が高い。癌や神経系の病気が、激増すると予測される。

公開質問状の無回答は、住民が電磁波による被害を受けた場合も、楽天は責任を負わないという表明である可能性が高い。

2020年12月31日 (木曜日)

同時代を認識する困難、新聞・テレビの誤った歴史観

現代社会に生きている人々は、恐らくひとりの例外もなく、江戸時代が露骨な階級社会であった事実に異論を唱えないだろう。しかし、タイムマシンに乗り、200年前の世界へタイムスリップして、江戸の住民たちに対して、

「あなたはいま自分が残忍な階級社会に生きているという認識を持っていますか?」

と尋ねたら、だれも不可解な表情を浮かべるだろう。

だれ一人として、自分たちが武士に支配された理不尽な階級社会に生きているという認識は持っていないだろう。そのような意識が広範囲に存在すれば、江戸の社会制度は崩壊へ向かう。治安が維持できなくなる。

◆◆
人間の意識や感覚は、動物に共通した生理反応による脳の分泌物ではなく、その時代の経済制度に連動したプロパガンダを基盤として形成される。広義の社会教育の結果にほかならない。意識の形成には、唯物論が主張する「存在が意識を決定」する原理が働く。

我々が江戸時代の階級制度の非人間性を認識できるのは、現代社会で養われた知識と意識をフィルターとして、歴史を再検証するからにほかならない。現代に比べて、江戸時代は理不尽な社会という評価になる。

江戸時代の人々は、武士や天皇を尊ぶべきだという社会通念を持っていた。そんな思想が支配的だった。

それに加えて、社会科学も未発達の時代であったから、自分たちが階級社会に生きている人間であるという認識もなかったはずだ。感覚の鋭い人が、漠然と不平等な社会の実態を感じることはあっても、それを社会科学の視点から認識することはできなかった。階級社会から生まれる価値観を空気のように受け入れていたと推測される。

◆◆
実は、同じ原理が現代社会でも働いている。現代に生きている人々の大半は、自分たちが労働力の搾取を前提とした階級社会に生きているという認識を持っていない。江戸時代の階級社会についてはその非人間的な本質を認識できても、現代社会が封建制度の没落に代わって生まれた別のタイプの階級社会であることには気づいていないはずだ。

その結果、自分たちは自由主義の幸福な時代に生きていると勘違いしている。

しかし、これから先の100年後、あるいは200年後に生まれてくる未来の人々は、歴史を学ぶときに、20世紀から21世紀にかけて存在した時代を、公然とした搾取が横行していた階級社会として認識するはずだ。そしてこう呟くだろ。

「自分はあんな不幸な時代に生まれなくてよかった」

◆◆
同時代をタイムリーに認識する作業は容易でない。人間の意識の根源が社会そのものの中にあり、しかも、公権力のよる洗脳や世論誘導の影響で、時代に迎合した意識が形成されるからだ。

その結果、外国人の技能研修生を使って新聞を配達させ、莫大な利益をあげる仕組みを構築しても、それがいかに非人間的な行為なのかに気づかない。外国人の救済だと勘違いする。【続きはウエブマガジン】

2020年12月29日 (火曜日)

横浜副流煙裁判、反スラップ裁判、弁護士懲戒請求も必要

横浜副流煙裁判の被告・藤井将登さんが、来年早々に反スラップ裁判を起こす。原告には将登さんのほかに、妻の敦子さんも加わる。敦子さんが原告になるのは前訴の中で、非禁煙者であるにもかかわらず喫煙者として誹謗中傷されたからだ。

この事件は、将登さんが同じマンションの2階に住むAさん一家から、将登さんの副流煙が原因で、受動喫煙症に罹患したとして、4500万円の損害賠償を請求されたものである。しかし、第一審の横浜地裁も第二審の東京地裁も、Aさんらの請求を棄却した。第1審は、作田医師の医師法20条違反も認定した。

そこで藤井さん夫妻が反スラップ裁判を起こすことになった。しかし、この裁判は、Aさんらに対する反訴でも、Aさんの代理人・山田義雄弁護士親子に対する反訴ではない。Aさんら3人の診断書を作成した作田学・日本禁煙学会理事長を被告とした損害賠償裁判である。訴外者に対する反スラップ裁判なのだ。【続きはウェブマガジン】