福岡高裁で和解が成立、佐賀新聞の「押し紙」裁判、弁護団が声明を発表(全文を掲載)
佐賀新聞と元販売店主の間で争われていた「押し紙」裁判の控訴審で、和解が成立した。和解内容は公表されていない。
この裁判は、佐賀新聞の吉野ヶ里販売店の元店主・寺崎昭博さんが「押し紙」により損害を受けたとして、2016年に8186万円の損害賠償を求めたものである。第1審は、寺崎さんが勝訴した。佐賀地裁は、佐賀新聞社による「押し紙」が独禁法に違反すると認定し、同社に対して約1066万円の支払いを命じた。
これに対して原告・被告の双方が控訴した。第1審における寺崎さん側の請求額が高額だったことに加えて、控訴審では佐賀新聞社が和解を希望したことから推測すると、和解金額は高額になったと推測される。
寺崎さんの弁護団は、15日、「福岡高等判所第1民事部の矢尾渉裁判長のもとで、無事、和解により解決しましたのでご報告とお礼を申し上げます」と、和解を高く評価する声明文を発表した。全文は次の通りである。
【参考資料】
新聞協会が佐賀新聞販売店を表彰、新聞大会で贈賞、「押し紙」による独禁法違反にはふれず
日本新聞協会は、10月8日、今年の「地域貢献大賞」を佐賀新聞の販売店に贈ることを発表した。受賞の対象になったのは、佐賀県多久市の佐賀新聞・東多久販売店の宮口昭博店主である。「2011年の販売店開業を機に、住民とのふれあいの場をつくり地域を元気にしたいとの思いで『多久ちんどん芸能隊』を発足させ、地域活性化に取り組んでいる」というのが受賞理由である。
宮口店主は、10月の新聞週間に開かれる新聞大会で表彰される。
過去に販売店が「地域貢献大賞」を受賞した例としては、警察と新聞販売店が連携して実施している住民の監視・見回り活動などがある。新聞配達の途中や、購読料の集金先で不信な人物を発見したときは、警察に通報する活動である。そのために警察のスパイ活動への協力ではないかとの批判も一部にある。
【参考記事】読売防犯協力会の正体、共謀罪法案の成立で新聞販売店と警察が連携した「住民監視活動」がはじまる
ところで佐賀新聞といえば、今年の5月に判決があった「押し紙」裁判で、独禁法違反の認定を受け、約1000万円の損害賠償金の支払いを命じられたばかりである。しかも、裁判を起こした販売店だけではなく、全販売店に対して、新聞を押し売りしていた事実が認定された。
いわば公正取引委員会が独禁法違反で介入すべき案件に直面しているのである。
しかし、日本新聞協会は、判決後も何の対策も取っていない。本来、不祥事があった新聞社やその系列販売店に対しては、贈賞などを控えるのが常識であるが、今回はあえて佐賀新聞の販売店を選んだ。これはある意味では、佐賀新聞の汚名隠しではないか。
日本新聞協会は、新聞業界に「押し紙」が存在することを未だに否定している。将来もこれまでの販売政策の過ちを認める可能性は低い。
福岡高裁が和解を提案、佐賀新聞「押し紙」裁判の第1回口頭弁論
佐賀新聞販売店の元店主・寺崎昭博さんが起こした「押し紙」裁判の控訴審・第1回口頭弁論が、15日午後、福岡高裁で開かれた。裁判所は、双方に対して和解を提案した。
それに先立って、一審原告側が口頭で意見陳述を行った。
江上武幸弁護士は、「押し紙」を柱とした新聞の商取引きの仕組みについて解説した。佐藤潤弁護士は、控訴理由書の要旨を説明した。さらに原告の寺崎さんは、「押し紙」でみずからが受けた被害について述べ、「もうこれ以上同じような思いをほかの人にして欲しくありません」と締めくくった。
佐賀新聞弁護団からは、寺崎さんが陳述書の中で佐賀新聞販売店には「積み紙」の概念がないと記述している部分について反論があった。佐賀新聞の主張は、地区新聞公正取引協議会の規約(昭和60年)などに、「押し紙」と「積み紙」を禁止する条文が存在するというものである。
和解のプロセスは、寺崎さん側が10月15日までに和解案を提出する。その内容は現時点では不明だが、双方が合意に至らない場合は、11月5日に第2回口頭弁論を開き、結審する可能性が高い。
寺崎さんの弁護団が陳述した意見書は次の通りである。
【参考資料】
15日に控訴審、佐賀新聞「押し紙」裁判、一審原告が陳述書を提出、「営業には予備紙2%で十分」
佐賀新聞の「押し紙」裁判の控訴審は、15日の13:30分から福岡高裁の1015号法廷で開かれる。これに先だって、一審原告の寺崎昭博さんは、10日、裁判所へ陳述書を提出した。
この陳述書は、佐賀新聞の販売局員の陳述内容と原審被告の控訴理由書に対する寺崎さんの反論である。その中で、寺崎さんは佐賀新聞による優越的地位の濫用がどのようなものであるかを具体的に述べている。「押し紙」の手口、新聞の供給部数と折込広告の関係、販売店に対する威圧的な指導、寺崎さん個人に対する誹謗中傷などの実態を取り上げている。
◆◆
特に注目すべき点は、原審判決が販売店に対する新聞の供給部数を佐賀新聞が決めていることを認定しながら、その一方で十分に踏み込まなかった新聞の供給部数と折込広告の関係について、寺崎さんみずからが説明していることだ。
折込広告の定数(供給される枚数)は、新聞の供給部数に一致させる基本原則がある。たとえば新聞の搬入部数が2000部の場合は、折込定数も2000部に設定するのが従来の原則だった。従って「押し紙」にセットになっている折込広告は、配達されていないにもかかわらず料金だけは徴収される。それが実態とされてきた。
しかし、実際の折込広告の取り引き実態を確認すると、公共広告は例外として、民間企業の折込広告は、新聞の供給部数よりもはるかに少ない傾向が生まれている。
ところが佐賀地裁の1審判決はこの点を考慮せず一般論を採用して、単純に「押し紙」部数を基数として折込広告料金の水増し分を計算し、損害賠償額から控除している。供給部数と実配部数の差異を、折込広告水増しの温床となる「積み紙」と判断したのである。
これについて寺崎さんは、陳述書の中で説明している。それによると、佐賀新聞の販売店には、そもそも「積み紙」の概念がないという。
これは地方紙の販売店にはありがちなことである。と、いうのも地方都市では、折込広告の需要そのものがかなり少ないので、「積み紙」で販売店が利益を得ることは原則的にはあり得ないからだ。
折込広告の需要が多い都市部を拠点とする中央紙とは、事情が異なる。従って、地方紙は、「押し紙」率が相対的に低い。もっとも現在では、中央紙も供給部数に応じて折込広告の枚数が決められる状況にはない。折込広告の需要そのものが激減しているからだ。残紙が販売店に損害を与えているというのが、現在の普遍的な状況なのである。
◆◆
「押し紙」率は廃業時には最高で17%にもなっていた。部数にすると約500部である。しかし、予備紙は供給部数の2%で十分であるというのが、寺崎さんの主張である。これに関して、寺崎さんは次のように述べている。
1日に配達漏れ等と必要な部数の平均は多くて1~2部であり、それ以外の40部以上を営業紙として使用できます。
独禁法の新聞特殊指定に忠実な「押し紙」の定義は、販売店が必要としている部数(実配部数)に必要な予備紙を加えた部数をこえる新聞部数である。寺崎さんの販売店では、必要な予備紙は、供給部数の2%、40部程度だった。そして原審判決もその主張を認めたのである。
ちなみに佐賀県に隣接する熊本県の熊本日々新聞は、予備紙率を供給部数の1.5%と決めている。これは社の方針である。熊本日々新聞は、「押し紙」がない数少ない新聞社のひとつである。
新聞社を相手にした裁判では、よく相手方に対する誹謗中傷が行われる。佐賀新聞は寺崎さんに対しても、高級車に乗っているとか、遊び人であるとか、裁判の争点とは関係もなければ、根拠もない主張をしている。これに対しては、寺崎氏は具体的にこれまで使用した車種を示すなどして、反論している。
◆◆◆
陳述書に記されていることは、多くの地方紙の実態でもある。その意味で、今後の多発が予想される「押し紙」裁判の争点になりうるポイントなのである。
写真出典:Wikipedia
9月15日に控訴審、佐賀新聞「押し紙」裁判、原告が控訴理由書を提出、「『押し紙』そのものが契約違反」
佐賀新聞の元店主・寺崎昭博さんが佐賀新聞社に対して起こした「押し紙」裁判の控訴審が、9月15日に福岡高裁で開かれる。詳細は次の通りである。
日時:9月15日 13時30分~
場所:福岡高裁、1015法廷
※だれでも傍聴できる。
第1審(佐賀地裁)は、原告・寺崎さんの勝訴だった。佐賀地裁は、佐賀新聞社に対して、「被告の原告に対する新聞の供給行為には、独禁法違反(押し紙)があったと認められる」と認定して、1066万円の支払いを命じた。
【参考記事】佐賀新聞「押し紙」裁判、判決の公開と解説、佐賀新聞社の独禁法違反を認定
第1審判決に対して原告と被告の双方が控訴している。
【解説】
1審原告・寺崎さんの弁護団(江上武幸弁護士ら)は、佐賀地裁が佐賀新聞社による独禁法違反を認定したことについては高く評価している。しかし、その認定に整合した法的判断が行われていない箇所については判決を見直すこと、寺崎さんが受けた損害額の計算方法を見直すこと、さらには「押し紙」そのものが契約書違反に該当することなどを主張している。
控訴理由書の全文は、次の通りである。
以下、特に重要な3点をクローズアップしてみよう。
①公序良俗違反
民法90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と述べている。ここで言う「法律行為」とは、法律に則して「権利」や「義務」を行使することである。
この民法90条を根拠として、原告は「押し紙」と、それに連動しているABC部数の偽装工作などが公序良俗違反に該当すると主張している。
ちなみに、「独禁法違反となる行為が、公序良俗に反する場合は(個別の契約など、私法上の効力も)無効」となるというのが過去の判例である。
つまり1審原告は、「押し紙」の独禁法違反認定だけではなく、さらに公序良俗違反に認定するように求めているのである。その理由として、「押し紙」が、「不当・違法に仕入代金」を徴収する手口であること、不正な広告料収入を得るための手段であること、それにこのようなビジネスモデルの中でABC部数の改ざんが公然と行われていることなどをあげている。
また、「押し紙」裁判で和解勝訴した別の佐賀新聞販売店の内部資料を、3年以上前に公正取引委員会に提出して対策を取るように求めているにもかかわらず、今だに何の対策も取っていない事実や、国会で「押し紙」問題が議題になり、公正取引委員会が対策を講じることを確約したにもかかわらず、実際には無視されている事実を前提として、「独禁法の規定する措置に委ねたのでは、その目的が十分に達成られない」ので、民法90条を適用すべきだと主張している。
②折込広告収入の計算
折込広告の定数(供給される枚数)は、新聞の供給部数に一致させる基本原則がある。たとえば新聞の搬入部数が2000部の場合は、折込定数も2000部に設定するのが従来の原則だった。従って「押し紙」にセットになっている折込広告は、配達されていないにもかかわらず料金だけは徴収される。それが実態とされてきた。
しかし、実際の折込広告の取り引き実態を確認すると、公共広告は例外として、民間企業の折込広告は、新聞の供給部数よりもはるかに少ない傾向が生まれている。
ところが佐賀地裁の1審判決はこの点を考慮せず、単純に「押し紙」部数を基数として折込広告料金の水増し分を計算し、損害賠償額から控除している。1審原告は、「新聞の供給部数=折込広告の搬入枚数」という従来の構図が事実ではない証拠を具体的なデータで示して、裁判所が損害賠償額から控除した金額を、再計算に基づいて訂正するように求めている。
③「押し紙」そのものが契約違反
原告は、新聞販売店契約の付随義務を果たすことは販売店だけではなく、佐賀新聞社にとっても、本来的な責務であると主張している。両者の商契約の2条によると、新聞販売店は労働基準法や新聞公正競争規約などの関係法規を順守しなければならない。販売店が関係法規を順守しなければ、新聞社に不利益を及ぼすからである。
と、すれば当選、新聞社が関係法規を順守しない場合は、販売店に不利益を及ぼすことになる。このような一般常識を前提に原告は、「契約当事者の一方にのみ、関係法規等の順守義務を課すことは不合理である」と主張している。
関係法規の中には、「押し紙」の禁止規定なども含まれている。つまり「押し紙」をはじめとする優越的な政策は、新聞社と販売店の商契約そのものに違反している、と主張している。
佐賀新聞「押し紙」裁判、判決の公開と解説、佐賀新聞社の独禁法違反を認定
既報したように佐賀新聞の「押し紙」裁判で、原告の元販売店主・寺崎昭博さんが勝訴した。佐賀地裁は佐賀新聞に対して、寺崎さんに約1066万円を支払うように命じた。
この判決の最大の評価点は、裁判所が単に寺崎さんが受けた被害だけではなく、86店ある佐賀新聞の販売店の大半で同じ被害が発生している高い可能性を具体的に指摘したうえで、「被告の原告に対する新聞の供給行為には、独禁法違反(押し紙)があったと認められる」と、認定したことである。佐賀新聞の販売店が一斉に「押し紙」裁判を起こせば、勝訴する道が開けたのである。
◆裁判所が下した賠償額について
請求額は約1億1600万円で、賠償額が約1066万円だから、原告が勝訴したとはいえ、原告の主張があまり認められなかったような印象もあるが、「押し紙」行為に関する肝心の部分では、原告の主張がほぼ認定されている。請求額に比べて賠償額が少ないのは次の理由による。主要なものを紹介しておこう。
①時効
請求は2009年(平成21年)4月から2015年(27年)12月までだが、平成2013年7月30日以前に支払った「押し紙」の仕入代金は、時効で消滅していると判断されたこと。
②逸失利益
逸失利益とは、「本来得られるべきであるにもかかわらず、債務不履行や不法行為が生じたことによって得られなくなった利益」(ウィキペディア)のことである。原告の寺崎さんは、「押し紙」で廃業に追い込まれたわけだが、仮に「押し紙」がなければ、65歳まで働けると想定される。原告弁護団は、それによって得られると推定される金額を請求したのであるが、認められなかった。
③慰謝料
慰謝料が認められなかったこと。
④弁護士費用
一部しか認められなかったこと。
⑤折込手数料
「押し紙」とセットになっていた折込手数料が、賠償額から控除されたこと。
◆原告販売店の「押し紙」を独禁法違反と認定した理由
裁判所が、佐賀新聞が原告販売店に行った「押し紙」行為を独禁法違反と認定した理由は、次のようなものがある。
1、実質的に佐賀新聞が年間目標を立て、それに沿って販売店に新聞の部数を注文させていた事実。年間目標を設定する際の具体的な方法は、次のようなものだ。
佐賀新聞は、毎年3月の定数(搬入部数)を基に次年度の年間目標を設置していた。たとえば3月の定数が1000部で、年間目標が72部とする。月に換算すると6部である。それを前提に、各月の目標定数(目標部数)を決める。たとえば次のように。
1月:1006部
2月:1012部
3月:1018部
4月:1026部
5月:1032部
6月:1038部
7月:1044部
8月:1050部
9月:1056部
10月:1062部
11月:1068部
12月:1072部
※これは実際の数字ではなく、説明の便宜上筆者が設定したものである。
1月から11月までの注文部数を1000部にして、12月だけ一気に1072部とすることは認められていない。
年間目標の設定に際しては、佐賀新聞の担当員が販売店を訪問して、店主と協議して決めるが、実質的には担当員の側に決定権がある。新聞の注文部数は、年間目標に沿った部数でおこなわれていた。
2、佐賀新聞が定期的に全店の一斉減紙を実施してきた事実があること。つまり佐賀新聞が全販売店の注文部数を決めていたのである。これについて判決は次のように述べている。
「販売店が購読部数に応じた部数を注文することができるのであれば、被告が販売店の救済のために一斉減紙を実施する必要はない。販売店の注文部数には、被告による拘束があったとみるほかない」(30P)
3、小城販売店の店主が申し立てた仮処分や本訴の中で、「押し紙」行為が明らかになった事実。佐賀新聞は、「年間販売目標に反する注文は普及努力義務に反するとして、年間販売目標に従った供給を続けた」(29)のである。2つの販売店が被害を訴えたことが功を奏した。
4、適正な予備紙の部数を、「原告が実際に原告販売店を経営する上で必要」とする部数と認定したこと。「本人尋問においては、(寺崎さんは)30部くらいで足りるし、予備紙率は2%あれば十分であると供述している」。
新聞社の見解は、残紙はすべて予備紙というものだが、「原告が実際に原告販売店を経営する上で必要としていた」部数とする見解が示されたのである。それ以外は、「押し紙」と認定されたのだ。
5、新聞1部の仕入価格が月額1692円で、折込媒体の手数料が月額750~1050円程度だったので、折込広告の水増しが目的で多量の残紙を購入していたのではないことが明確になったこと。
6、寺崎さんが残紙代金を支払うために、銀行から繰り返し借り入れをしていた事実があること。
7、ABC部数の公査対策を、佐賀新聞が指示していた事実があること。
佐賀新聞の販売局員は店主らに対して、残紙率が高いときは、帳簿類を改ざんして、実配部数との整合性を取ることを指示していたのである。
以上を理由として、裁判所は佐賀新聞の独禁法違反を認定したのである。
なお、原告が主張していた公序良俗違反や強迫などは認められなかった。
◆弁護団談話
2020年(令和2年)5月15日
佐賀新聞吉野ヶ里販売店「押し紙訴訟」原告弁護団談話
(文責 弁護士江上武幸)
本日午前11時、佐賀地裁民事部(達野ゆき裁判長)は、佐賀新聞社の独禁法違反の押し紙による経営政策を厳しく指弾する原告勝訴の判決を言いわたしました。
判決は、佐賀新聞社がABC協会の公査の際に押し紙の存在がわからないように販売店に偽装工作を指示していた事実や、販売店に対し年間販売目標に従った注文を求め販売店からの個別の減紙の申し出には応じない販売政策をとってきた事実を認め、これまでの経営姿勢を厳しく批判しました。
特に、新聞販売店経営に必要な部数は実配数とその2%程度の予備紙で足り、それを超える部数は独禁法の定める押し紙であり違法であるとの判断を示した点は、裁判所が独禁法の押し紙の公権的解釈規準を示したもので高く評価されます。
現在、新聞本社の意向に逆らえず大量の押し紙を購入させられている販売店にとって、押し紙返上に勇気と希望を与えられた名判決であり、全国的にもその影響は非常に大きいと考えます。佐賀地裁の裁判官の英断にあらためて敬意を表します。
【臨時ニュース】佐賀新聞の「押し紙」裁判で原告の元店主が勝訴、1066万円の賠償命令
【臨時ニュース】
佐賀新聞の元店主が起こした「押し紙」裁判で佐賀地裁は、15日、原告の元店主に対して1066万円の支払いを命じる判決を下した。「押し紙」裁判で勝訴判決が出たのは、2011年の山陽新聞の「押し紙」裁判以来。和解で販売店が勝訴するケースは相次いでいたが、裁判所が判決を下したのは9年ぶり。今後の「押し紙」裁判に大きな影響を及ぼしそうだ。
判決の詳細、判決文、弁護団声明は後日。
販売店が和解勝訴、佐賀新聞・小城販売店の「押し紙」裁判、勝訴の流れが販売店へ
佐賀新聞の小城販売店が起こしていた「押し紙」裁判が、昨年12月に和解解決していたことが分かった。
この事件の発端は2016年4月にさかのぼる。店主が佐賀新聞社に対して提出が義務づけられている部数に関する報告書に、「仕入れ部数2550部お願いします」と記載したが、佐賀新聞はそれを認めず、従来からの搬入部数2980部を送り続けたことである。
この時点で、差異の430部が1日あたりの「押し紙」となっていた。これを仕入れ価格に換算すると、約86万円(月額)になる。店主は、この86万円の納金を拒否した。
4月以降も佐賀新聞は、店主が発注した搬入部数を認めず、「押し紙」を続けた。店主の方も、「押し紙」に相当する仕入れ代金については、支払いを断った。
そして12月の時点で、「押し紙」部数に相当する未払い金は、約705万円になったのである。
この時点で佐賀新聞は、小城販売店との商契約を打ち切る旨(契約の更新拒否)を通知した。そこで店主は、地位保全の仮処分を申し立てた。佐賀地裁は、販売店の申し立てを認めた。明らかな「押し紙」であったからだ。ただし、地位保全の期間は1年に限定された。
◆弁護団声明
この事件は仮処分申立てのほか、本訴にも発展していた。おりしも佐賀新聞では別の「押し紙」裁判も進行していた。吉野ヶ里販売店が原告になった「押し紙」裁判である。
佐賀地裁は、これら二つの係争を統合した。
今回、和解解決したのは小城販売店の係争である。和解条件などは公開されていないが、原告の江上武幸弁護士は、次のような声明を出している。
佐賀新聞押し紙訴訟支援者各位 殿
2019年(令和元年)12月27日
佐賀新押し紙訴訟弁護団
弁護士 江 上 武 幸
各位におかれましては年の瀬を迎え、慌ただしい日々をお過ごしのことと推察申し上げます。
佐賀新聞社の小城販売店並びに吉野ケ里販売店の押し紙訴訟に対し、物心両面にわたり皆様方から多大なご支援とご協力を頂いており感謝の申し上げようもありません。とりわけ、去る11月1日と15日に両日にわたり行われました佐賀地裁での証人・本人尋問期日には法廷傍聴に多数ご参集いただき、まことにありがとうございました。裁判所に対し、押し紙問題の重大性と世論の関心の高さを十分理解してもらうことが出来たのではないかと考えております。
ところで、訴訟と並行して裁判所主導による和解の話し合いを重ねて参りましたが、12月26日、小城販売店につきましては佐賀新聞社と和解の合意が成立しましたので、皆様にご報告申し上げます。小城販売店経営の小山社長並びに私ども代理人弁護士ともども納得のいく解決が出来たものと自負しております。
なお、和解条項については、双方とも第三者には開示しないことになっておりますので、結果のみをご報告させていただくことになりましたことを、深くお詫び申し上げます。
他方、吉野ヶ里販売店に関しましては一致点を見出すことが出来ませんでしたので、予定通り来年の1月10日(金)に結審し判決期日が指定されることになっております。吉野ケ里販売店に関しましても、裁判所は私どもの主張に十分耳を傾け前向きに受け止めてくれているものと期待しています。
引き続き皆様のご支援・ご協力をお願いして ご報告とさせて頂きます。
その後、判決は4月24日(金)午前10時に決まった。
佐賀新聞の原正則販売局員がABC公査の対策を店主らに講義、「押し紙」隠しが目的か、裏付け資料の存在も判明
佐賀新聞社の原正則販売局員(当時)が、2015年2月、新聞販売店主の集まりで、「ABC公査対策」について講義していたことが分かった。
ABC公査というのは、新聞の発行部数を調査している日本ABC協会が、新聞販売店に対して抜き打ち的に行う部数調査のことである。新聞発行本社は、定期的に日本ABC協会へ新聞の発行部数を申告するのだが、その申告部数と販売店に実際に搬入している部数に乖離がないか、あるいは申告部数と販売店が実際に配達している部数(実配部数)に乖離がないかを調査するのが目的だ。
ABC公査が正しく行われていれば、新聞販売店の「押し紙」の実態が明らかになる。ところが多くの新聞社が、「押し紙」を隠すために、「ABC公査対策」を取ってきた。佐賀新聞社もその例外ではないことが、今回、判明したのである。
原販売局員は、講義の際に「ABCの公査にあたり」と題する文書を店主らに配布していた。
◆架空の読者をPC上に設定
資料「ABCの公査にあたり」 によると、「押し紙」を隠す方法として、次の段取りが教示されている。
【1】客観的に残紙(広義の「押し紙」)の実態を把握する。この作業は、原則として新聞の搬入部数から実配部数を差し引けば、導きだすことができる。ただし、 資料「ABCの公査にあたり」では、「押し紙」という言葉の代わりに「予備紙」という言葉を使っている。佐賀新聞社が、残紙はすべて予備紙という「詭弁」で理論武装しているからにほかならない。
【2】予備紙が多ければ、それを実配部数に偽る対策が必要悪として浮上する。これについて、資料は次のように述べている。
予備紙率が高ければ実配部数に調整が必要かと思われます。調整の理由としては、ABC部数は透明性の高さが問われ、佐賀新聞部数の信頼度に繋がるからです。
予備紙(押し紙)が多ければ、佐賀新聞の信頼度が落ちるので、「押し紙」を隠すことで、信頼度を高める必要があると言っているのだ。
【3】「押し紙」隠しの具体的な方法は、まず最初に、実際に使っている帳簿類をコピーすることである。
なお、念のための注釈しておくが、ここで説明している一連の作業は、販売店の帳簿を管理しているコンピューター上の作業を意味している可能性が極めて高い。佐賀新聞の店主がそれを証言しているうえに、新聞業界はコンピュータによる管理の時代に入っているからだ。
従って、帳簿類のコピーとは、コンピュータ上のデータのバックアップという意味である。
なぜ、バックアップを取る作業が不可欠なのだろうか。答えは簡単で、ABC協会に提示する改ざんした帳簿類が完成した後、帳簿を通常の状態へ戻す必要があるからだ。実際、これについて資料は次のように述べている。
(略)帳票をコピーすることが大切です。コピーした帳票が、自店の通常使用している帳票にします。(ママ)
通常使用している帳票に、(黒薮注:架空の読者の意味)調整部数(読者)を挿入し、(略)実際の部数(動き)の増減(読者)を記入することで、設定した自然な予備紙率の帳票になります。
架空の読者を帳簿に挿入するように指示しているのである。架空の読者とは、たとえば過去の読者である。あるいは全く架空の人物である。「安倍栄作」とか、「星野哲治」とか、「冬柴大作」とか・・・。昔は、ABC公査を受ける販売店が判明すると、総出でこうした改ざん作業をやっていたのである。
◆デュプロ(株)と同じ手口
「ABC公査対策」対策は昔からあった。最近、毎日新聞の元店主が、同店のコンピューターの管理をしていたデュプロ(株)の社員から、その手口の詳細を聞き出し、それを録音することに成功している。次の記事を参考にしてほしい。佐賀新聞の「ABC公査対策」とほぼ同じ手口であることが判明する。
【参考記事】新聞「ABC部数」はこうして改ざんされる――実行者が手口を証言、本社販売局の指示でcが偽の領収書を発行、入金一覧表なども偽造し数字を整合させる
◆「チラシの水増し詐欺」
周知のようにABC部数は、紙面広告の価格を決めたり、折込広告の発注枚数を決める際の参考資料になる。特に公共機関が発行する広報紙を新聞折込のかたちで配布する場合、ABC部数に準じて発注枚数が決定される。
その結果、ABC部数に「押し紙」が混じっていると、広報紙が水増しの状態になる。従って「チラシの水増し詐欺」になる。
「チラシの水増し詐欺」がなくなって最も困るのは、新聞発行本社である。販売店から受け取る詐欺の「上納金」(形式上は、新聞の卸代金)が受け取れなくなるからだ。
◆「何も答えません」
念のために佐賀新聞の販売局に繰り返し取材を申し入れたが、「係争中に付き、何も答えません」とのことだった。
佐賀新聞の「押し紙」裁判、原告が証人尋問でABC部数の問題を追及
11月1日に佐賀地裁で行われた佐賀新聞社を被告とする「押し紙」裁判の証人尋問が行われた。その中で、佐賀新聞の元販売局員が、販売店主らの集まりで講演し、予備紙数を減らす方法を教示していたことが明らかになった。原告の江上武幸弁護士による追及で明らかになった。ただ、その目的について元販売局員は明確な回答を避けた。
予備紙を減らす方法とは、残紙を有代紙のように見せかける方法を意味している可能性が高い。つまり「押し紙」を隠して、ABC考査で不正を指摘される事態を回避することが目的だと思われる。
講演の内容は文書としても残っている。詳細については、尋問調書を閲覧したうえで論評するが、ABC部数の問題が法廷へ持ち込まれたのである。
1日の尋問には、40人を超える人々が傍聴に訪れた。この中には、鹿児島県の南日本新聞社を被告とする「押し紙」裁判の原告店主らの姿もあった。
◆ABC部数の操作に言及
佐賀新聞の「押し紙」裁判は、地方紙が舞台ということもあってあまり注目されていないが、特徴的な点がいくつかある。
まず、ABC部数の操作により広告主が被害を受けている問題に踏み込んでいる点である。尋問の中でも、それにより誰が被害を受けているのかを原告が追及した。
さらに「押し紙」の定義についても、原告が新しい主張を提示している。従来は、新聞社が販売店に押し付けた新聞という定義になっていたが、新聞特殊指定の厳密な定義は、実配部数に予備紙を加えた部数を超える部数を「押し紙」と定義している。従って新聞社が強制した部数か否かは関係がない。
【参考記事】佐賀新聞の「押し紙」裁判、江上武幸弁護士ら原告弁護団が訴状を修正・再提出、「押し紙」の定義に新見解を示す
裁判は、年内に原告・被告の双方から最終準備書面が提出され結審する。判決は来年の春になる見込みだ。「押し紙」裁判では、政治判断が下されることがあり、監視が必要だ。
◆「チラシの水増し詐欺」
「押し紙」問題を報じる際、よく指摘されるのが、「押し紙」という言葉である。分かりにくいという指摘が多い。業界内部だけで使われている専門用語であるからだ。
「押し紙」問題を前面に出すよりも、むしろ折込広告の水増し問題を前面に出すほうが分かりやすいかも知れない。「押し紙」は新聞業界内部の問題であり、折込広告の水増しは業界の枠を超えて、不特定多数の広告主を巻き込む問題であるからだ。
「押し紙」よりも、「チラシの水増し詐欺」を強調した方が問題の本質が見えやすい。
折込広告の水増し問題(オリコメ詐欺)が法廷へ、佐賀新聞の「押し紙」裁判、11月1日と15日に証人尋問
佐賀新聞を被告とする「押し紙」裁判の証人尋問が、11月1日と11月15日に、佐賀地裁で開かれるのを前に、「押し紙」弁護団の江上武幸弁護士が「裁判傍聴のご案内」と題する文書を公表した。
既報したように、現在、佐賀地裁では佐賀新聞を被告とした2件の「押し紙」裁判が審理されている。吉野ヶ里販売店を原告とするものと、小城販売店を原告とするものである。
裁判の中で、折込広告の水増し問題が重要な検証点になっており、証人尋問の中でも、新聞社販売局の関与など事実の検証がおこなわれる可能性が高い。
法廷は、3階の1号法廷である。
「裁判傍聴のご案内」(抜粋)は次の通りである。
裁判傍聴のご案内 令和元年10月
佐賀新聞押し紙訴訟弁護団
代表 弁護士 江上武幸
(電話 0942-30-3275)
(FAX 0942-30-3276)
拝啓
各位におかれましては、ご健勝のことと推察致します。佐賀新聞社を被告とする「押し紙裁判」は、いよいよ大詰めを迎え、年内結審・来春判決の運びとなりました。
つきましては、佐賀地方裁判所において、次のとおり証人及び本人尋問が実施されることになりましたので、皆様に裁判傍聴のご案内を差し上げる次第です。ご多忙とは思いますが、振るってご参加いただくようお願い申し上げます。
記
1 吉野ヶ里販売店訴訟
(1)期日 11月1日(金) 午前10時~午後4時半
(2)尋問スケジュール
・井手研一 佐賀新聞 元販売局長
・江口賢一朗 同 同
・武富一也 同 元販売局員
・原正則 同 同
・寺崎昭博 吉野ヶ里販売店 元経営者
2 小城販売店訴訟
(1)期日 11月15日(金) 午後1時15分~午後4時
(2)尋問スケジュール
・常安和雄 佐賀新聞 販売局員
・小山 晃 小城販売店 経営者
佐賀新聞の「押し紙」裁判、11月1日に証人尋問、ABC部数の水増しを暴露か? 原告が呼びかけ文を発表
佐賀新聞社を被告とする「押し紙」 裁判の証人尋問が、11月1日に開かれる。詳細は次のとおり。
日時:2019年11月1日 午前10時~午後5時
場所:佐賀地方裁判所 3階
(佐賀県佐賀市中の小路3-22)
午前10時:証人・佐賀新聞販売局長 井出研一
午前11時:証人・元佐賀新聞販売局長 江口賢郎
午後11時30分:証人・元佐賀新聞販売局員・三神部会担当 武富一也
午後2時10分:証人・元佐賀新聞販売局員 原 正則
午後3時10分:証人・原告 寺﨑昭博
原告・寺崎さんは、証人尋問を前に証人尋問の傍聴を呼びかける文書を発表した。その内容から察して、尋問ではABC部数の水増しや、それに伴う折込広告の水増し問題にも言及するようだ。呼びかけ文をPDFで紹介しよう。
【「押し紙」事件の経緯】
原告の寺崎さんは、2009年4月に佐賀新聞・吉野ヶ里販売店の経営者になり、2015年12月末で廃業した。負担させられていた「押し紙」の割合は、当初は10%程度だったが、ピーク時の2012年6月には約19%に。その後、佐賀新聞社が全販売店を対象に「押し紙」を減らしたこともあり、廃業時には約14%だった。
寺崎さんは、繰り返し佐賀新聞社に対して「押し紙」を減らすように求めたが、同社は申し出には応じなかった。担当員や販売局長らを交えた面談の際には、販売局長が、「残紙があって苦しいのはわかるが、『残紙』は販売店の責任だから切ってやることはない」と発言するなど、佐賀新聞社は「押し紙」政策を改めようとはしなかった。
その結果、新聞代金の納金が遅れるようになり、販売局長から、「これ以上納金の遅れが続き、その金額が信認金を超えれば改廃になる」と告げられた。
実際、納金が遅れるようになり、寺崎さんは2015年の12月末日付で廃業に追い込まれた。
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「押し紙」問題がはじめてクローズアップされたのは、1970年代である。日本新聞販売協会が1977年に残紙のアンケート調査を行い、全国の新聞の8.3%が残紙になっているという結果を発表した。1980年に入ると、新聞販売問題は、国会質問の場で議題になった。85年までに15回に渡って、共産党、公明党、社会党の3党が15回に渡って「押し紙」問題を取り上げた。
国会質問のなかで、最もインパクトを与えたのは、瀬崎博義(共産)議員による「北田資料」の暴露である。これは読売新聞鶴舞直売所の北田店主が、暴露した同店の資料で、それによると3割から4割程度が残紙になっていた。
ちなみに読売は、「押し紙」をしたことは一度もないと主張してきた。
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残念ながら国会質問を繰り返しても、「押し紙」問題は解決しなかった。日本経済が好調で、折込広告の需要が増えたからだ。「押し紙」があっても、折込広告の水増しで、損害を相殺できる構図が生まれると、店主らも「押し紙」問題にはふれなくなった。その結果、洪水のように「押し紙」が押し寄せ、産経新聞・四条畷販売所の今西龍二さんのように、「押し紙」小屋を建設する店主も現れたのである。
今世紀になって、1990年代に蓄積された「押し紙」が発覚しはじめた。
「押し紙」率が40%や50%は、特に珍しくない状態が生まれた。
2007年、福岡高裁が真村訴訟で、読売新聞の「押し紙」政策を認定する判決を下した。これを機にメディアが「押し紙」問題を取り上げるようになった。しかし、2009年に読売新聞社が、『週刊新潮』とわたしに対して5500万円の支払を請求する名誉毀損裁判を起こすと「押し紙」報道は消えた。
この裁判で読売の代理人を務めたのが、喜田村洋一・自由人権協会代表理事である。読売には、1部も「押し紙」は存在しないと主張したのだ。この弁護士が作成した書面は、事実の信憑性が疑わしいので、今後も検証する必要がある。わたしに対する著作権裁判でも読売の代理人を務め、虚偽の事実を前提に提訴していた高い可能性が判決で認定された。信用できる人間ではない。
佐賀新聞の「押し紙」裁判、原告・寺崎氏が販売局員のハラスメントを克明に綴った陳述書を提出
佐賀新聞の元販売店主・寺崎昭博氏が起こした「押し紙」裁判で、去る7月1日に同社の販売局の実態を克明に綴った寺崎氏の陳述書が提出された。陳述書は、原稿用紙に換算すると60枚をこえる分量で、寺崎氏が販売店主になった経緯から、「押し紙」により廃業に追い込まれるまでの経緯を書いている。ABC部数をかさあげする手口にも言及している。
この裁判は2016年6月に寺崎氏が起こしたものである。請求額は8186万円。最初、寺崎氏が江上武幸弁護士に相談し、「押し紙」弁護団が結成され、提訴に至った。
地方紙を舞台とした「押し紙」裁判ということもあって、あまり話題になっていないが、裁判の中で新聞社販売局の前近代的な体質が浮き彫りになっている。
次に引用する陳述書のくだりは、寺崎氏が販売局員から、「押し紙」を買い取らなければ、商契約を終了すると脅される場面である。
A担当が契約書を持ち帰れば、それは即廃業を意味します。
A担当は「押し紙を買わないと言われれば自分の立場上そうするしかない。」と言われました。私は、宮崎担当にこれ以上言っても仕方がないと思い直し、契約書を受け取りました。受け取った契約書の作成日は、平成27年4月1日と遡って記載されていました。
毎回資金ショートを起こすたびに思い悩んできたのですが、この時もなぜ借金を増やしてまで押し紙を買わされなければならないのか、決して読者を増やす努力をしていないわけではないのに、なぜ私だけが経営努力が不足しているように被告に言われ、社会全体の流れとして新聞の購読率の低下を被告は認めながらも、それがさも販売店の努力不足が原因であるかの如く論点をすり替えられ続けられなければならないのか、そして、何か言おうとすれば契約を盾に脅され続ければならないのか、被告が持っているはずの新聞社としての倫理観はどこに消えてしまったのか、借金を増やしてまで、在りもしない読者に対してチラシを貰い続け、押し紙代金のためにそれに正当な利益を加えてまで押し紙代金を払わされなければならないのか、様々な思いがあふれ出てきました。
◆新聞人の見解、「『押し紙』は一部も存在しない」
日本の新聞社は、「押し紙」を柱とした販売政策で事業を拡大してきた。「押し紙」問題が本格的に浮上してきたのは、1970年代であるから、それか50年近くが過ぎている。だが、大半の新聞社はいまだに「押し紙」をやめない。読売新聞社や日本新聞協会に至っては、今も「押し紙」は一部も存在しないと開き直っている。
その一方で、ジャーナリズムの旗を掲げている。これだけ甚だしい言行不一致の例は、珍しいのではないか。おそらく「押し紙」制作を廃止すれば、巨大化しすぎた事業を支えきれなくなるからだろう。
寺崎氏の陳述書の全文は次のとおりである。訴状と「押し紙」一覧も併せて紹介しておこう。
■訴状
写真:江上武幸弁護士(左)、原告の寺崎昭博氏(右)。背景の新聞は、証拠として弁護士事務所に持ちこまれた「押し紙」