1. 佐賀新聞の「押し紙」裁判、江上武幸弁護士ら原告弁護団が訴状を修正・再提出、「押し紙」の定義に新見解を示す

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2016年08月15日 (月曜日)

佐賀新聞の「押し紙」裁判、江上武幸弁護士ら原告弁護団が訴状を修正・再提出、「押し紙」の定義に新見解を示す

佐賀新聞社を被告とする「押し紙」裁判で、原告の元販売店主・寺崎昭博氏の弁護団は、訴状を再提出した。この裁判は、もともと6月3日に佐賀地裁へ訴状が提出されていたが、その後、原告弁護団は訴えの中身を再検討して、今回の再提出となった。

請求額は8186万円。新しい訴状では、「押し紙」の概念で新見解が示されているほか、佐賀新聞社による優越的地位濫用やABC公査の実態が記録されている。

■訴状(全文)

■「押し紙」一覧表

◇開業から改廃まで

原告の寺崎氏は、2009年4月に佐賀新聞・吉野ヶ里販売店の経営者になり、2015年12月末で廃業した。負担させられていた「押し紙」の割合は、当初は10%程度だったが、ピーク時の2012年6月には約19%に。その後、佐賀新聞社が全販売店を対象に「押し紙」を減らしたこともあり、廃業時には約14%だった。

寺崎氏は、繰り返し佐賀新聞社に対して「押し紙」を減らすように求めたが、同社は申し出には応じなかった。担当員や販売局長らを交えた面談の際には、販売局長が、「残紙があって苦しいのはわかるが、『残紙』は販売店の責任だから切ってやることはない」と発言するなど、佐賀新聞社は「押し紙」政策を改めようとはしなかった。

その結果、新聞代金の納金が遅れるようになり、販売局長から、「これ以上納金の遅れが続き、その金額が信認金を超えれば改廃になる」と告げられた。

実際、納金が遅れるようになり、寺崎氏は2015年の12月末日付で廃業に追い込まれた。

理不尽な「押し紙」制度に納得がいかなかった寺崎氏は、福岡県久留米市の江上武幸弁護士に相談した。江上武幸弁護士は、「押し紙」問題の専門家で、読売新聞社を相手取った真村訴訟では読売に勝訴している。読売による優越的地位の濫用と「押し紙」政策を認定させたのである。この判決は、2007年12月に最高裁で確定し、その後、「押し紙」問題を考える指標になっている。

■真村訴訟福岡高裁判決(全文)

江上弁護士は、寺崎弁護団を結成して訴訟の準備を進め、提訴に至ったのである。

◇「残紙」=「押し紙」の新見解

訴状で弁護団は、「注文部数」、「押し紙」、それに「残紙」についての概念を新しい視点から再定義している。従来、「注文部数」とは、書面上に明記された新聞の仕入れ部数だった。その数字は、たとえ新聞社から強要されたものであっても、書面上では、販売店が自主的に注文した形式になっているので、「注文」に基づいて搬入された新聞部数が過剰になっても、「押し紙」とは見なされない。従って「残紙」と呼ばれる。裁判所も「残紙」を「押し紙」として認定してこなかった。

このような従来の見解に対して、弁護団は、「残紙」も「押し紙」に該当するとの新見解を、公正取引委員会などの文書を歴史的に検証することで示している。(訴状11ページ~)

すなわち、特殊指定にいう「注文部数」とは、販売店が新聞社に形式的に注文した部数を意味するのではなく、部数の中身に着目して「新聞購読部数」に「地区新聞公正取引協議会が定める予備紙等」を加えた販売店経営に必要な部数を「注文部数」と定義している。

 従って、この定義に反して、販売店が販売店経営に必要な部数以上の部数を注文した場合、新聞本社はその部数を供給してはならない独禁法上の義務を課せられている。

◇ABC公査の実態

訴状の中で、弁護団はABC公査についても具体的に言及している。

新聞本社の発行する紙面広告料は発行部数の多寡によって決まる。この発行部数はABC協会が発表する部数であり、各新聞本社の販売店に対する供給部数の合計であり、実際の読者の数ではない。しかし、発行部数と実際の読者の数に差がありすぎると、広告主の判断に悪影響を与えるため、ABC 協会は公表部数の信頼性を確保するために公査を実施している。

 公査は、2年に1度、新聞本社及び販売店を調査員が訪れて帳簿等を調べる方法によって実施されている。

 被告は、各販売店が大量の「残紙」を抱えているため、ABC 協会の公査で「残紙」の存在が発覚しないよう、あらかじめ販売店に対し公査に備えて「残紙」を隠ぺいする偽装工作を指示および指導している。

 具体的な隠ぺい工作の方法としては、まず、販売店ごとに定数に占める「残紙」の割合を計算するよう指示し、「残紙」の率が高い場合は、残紙率を下げるために実配数を増やすよう指示している。実配数を増やす方法としては、読者の存在を裏づけるための架空の領収書を作成したり、読者台帳等の帳票類の数字に手を加えたりする方法などを指示している。

 「公査対策用の1ヶ月分の帳票類ができあがったところで、次の月の帳票類の作業に入る前に、一度担当に確認してもらったほうが良いでしょう。」と、販売店に対し偽装工作の結果について担当のチェックを受けるよう、細部にわたる指示を行っている。

 このことも、被告が販売店に大量の「残紙」が存在する事をあらかじめ知っていたことを示すものある。

◇優越的地位の濫用

優越的地位の濫用については、単に「押し紙」の強要だけではなく、佐賀新聞社が販売店の人事にまで介入している事実(訴状9ページ)や、増紙計画を達成できなかった販売店に対して罰金を課していた事実(訴状9ページ)、さらには本来3年間に定められるはずの商契約を、非協力とみなした販売店に対しては、大幅に短縮している事実(訴状9ページ)などを指摘している。

◇「報告事件」対策

メディア黒書は、佐賀新聞の「押し紙」裁判を、裁判資料の公開も含め、随時報道していく。インターネットの利点を活用した報道を展開する。それが「報告事件」を防止する対策になる。

「報告事件」とは、最高裁事務総局が干渉する裁判を意味する。書記官に裁判の進行を報告させ、事務総局の意に添わない判決が出る可能性が浮上すると、人事権を行使して裁判官を交代させるなどの「対策」を取る。こうした「対策」がメディア企業や一般の大企業との汚職の温床になることは論をまたない。

「報告事件」の存在は、最近、複数の元裁判官らの著書により、その存在が輪郭を現しはじめている。

【写真】江上弁護士の事務所に、証拠として保存されている1週間分の「押し紙」と、それに付随する折込広告。左が江上弁護士、右が原告の寺崎氏。