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2015年05月19日 (火曜日)

大阪市の都構想をめぐる住民投票、マスコミが争点をはずした道州制の問題

大阪市が実施した都構想の住民投票が否決された。

この結果は、1996年に成立した橋本内閣の時代から歴代自民党政府が押し進め、安倍内閣の下で頂点に達している新自由主義=構造改革が、道州制導入という最終段階に来て、「NO」を突きつけられたことを意味する。

もっとも、マスコミが今回の住民投票の本質的な争点を隠していたので、都構想に「NO」を表明した人のうち、どの程度が都構想の根底に道州制導入への野心があることに気づいていたかは定かではないが。郷里としての大阪市が失われることに対して、「NO」を表名した人も少なくないかも知れない。

が、それはともかくとして、大阪市民は大変な悲劇の到来を食い止めた。

◆道州制の旗振り人としての橋下市長

新自由主義=構造改革の中心的な政策に「小さな政府」の構築がある。そのために自民党は、市町村、省庁、国立大学などを再編・リストラしてきた。財政支出を抑制するためである。それに連動して法人税を軽減してきた。

また、福祉・医療といった公的保障の枠を縮小し、それに代わって福祉・医療の分野を、新しい市場として民間企業に提供するなどの策を進めている。そして最終的には、福祉や医療の分野を地方に移譲し、財源が不足すれば地方自治体の裁量で、公的サービスを切り捨てる。これが想定される今後のプロセスである。

こうしたドラスチックな構造改革の受け皿となるのが、道州制である。

大阪市の橋下市長は、その道州制の旗振り役である道州制推進知事・指定都市市長連合の共同代表を務めている。もうひとりの共同代表である宮城県の村井知事は、橋下市長の敗北を受けて、18日、

「道州制に向けて歩みを進めているリーダーを失った。道州制への影響は間違いなく出る」(産経新聞)

と、話した。

マスコミは報じなかったが、大阪の住民投票は、安倍内閣にとっては、道州制の導入という新自由主義=構造改革の最終段階へ向けた布石だったのだ。その試みが否決された意味は大きい。

◆大阪府は新自由主義のモデル地区

安倍内閣は、大阪府を新自由主義=構造改革の導入を図るためのモデル地区(国家戦略特区)に指定している。国家戦略特区とは、新自由主義=構造改革を急進的に進めるためのモデル地区のことである。モデル地区で「岩盤規制」を撤廃したうえで、それを全国へ拡大するというのが、安倍内閣の方針である。

ところが安倍内閣は、橋下市長という受け皿を今年限りで失うことになる。

ちなみに国家戦略特区の「岩盤規制」撤廃は、自民党の思惑どおりには進んでいないようだ。これに苛立った経済同友会は、4月23日に、「国家戦略特区を問い直す〜特区のキーワードは“実験場”と“失敗の容認”〜」と題する提言を発表し、その中で次のように、特区における「岩盤規制」の撤廃を求めている。

「特区は岩盤規制により今までできなかったことを試せるチャレンジの場のはずである。もし失敗や弊害が生じたとしても、その原因が分かれば将来の取り組みの糧となる。まずは失敗を恐れずチャレンジすることが重要である。」

国家戦略特区における「改革」が進まないことに象徴されるように、新自由主義=構造改革は、貧困や社会格差をはじめさまざまな弊害を生んでいる。自民党の地方議員の中にも、新自由主義=構造改革の誤りにようやく気づきはじめた人もいるのではないか?

なお、最初に新自由主義=構造改革を叫んだのは、『日本改造計画』の著者・小沢一郎氏である。自己責任論や構造改革を唱えて、1993年に自民党を飛び出したのである。それが失われた20年の始まりだった。

2015年05月18日 (月曜日)

安保法制の狙いは自衛隊と米軍の一体化、在日米軍再編計画に迎合した安倍政権

◆吉竹幸則(フリージャーナリスト・元朝日新聞記者)

安全保障法制を正式に閣議で決定。安倍政権が、集団的自衛権容認と特定秘密保護法をこうも拙速に進めた狙いが、改めて明確になった。中東での軍事戦略がことごとく失敗、泥沼化で米国が水面下で強力に押しつけていた自衛隊と在日米軍の一体化計画に、日本が迎合するためだったのだ。

在日米軍の役割と重ね合わせて見れば、安倍首相がどう弁解しようとも、自衛隊は米軍の補完勢力となり、米国やその同盟関係にある国と一緒に世界で戦う国になる。既成メディアが、何故それを関連付けて明確に伝えないのか、私には不思議でならない。

◆米軍の補完部隊としての自衛隊

1990年、イラクがクウェートに侵攻したことに端を発し、米軍主力の多国籍軍がイラク攻撃を仕掛けた湾岸戦争。米国は自衛隊を派遣しなかった日本を「血を流さない国」とあからさまに批判した。しかし、この時期を境に、米国の軍事優先の中東軍事戦略は、失敗の歴史でもあった。

湾岸戦争後も、イスラム教聖地のサウジアラビアに米軍が駐留したことにビン・ラーディンが怒り、もともと親米のはずのアルカイダを反米闘争に向かわせた。その結果、2001年9月の米本土での同時多発テロを招き、報復としてのアフガニスタン・タリバン、イラク攻撃も裏目に出た。多くの若者の命を戦場で散らし、多額の軍事費の浪費は、米財政を圧迫し続けた。

2005年から始まった在日米軍再編計画は、この失敗・窮状をどう乗り切るか。米国の世界的軍事戦略の見直しの一環として始まったと言えるだろう。

米国にとり最大の軍事的懸案は、アフガンやイラクなどの極地紛争にあるのではない。中国の軍事力の台頭で、「不安定の弧」と呼ぶ北朝鮮から台湾海峡、南シナ海、インド洋、イラン、イスラエルなどの中東全体の紛争多発地域で、米国の軍事力をどう誇示するかだ。

しかし、イラクもアフガンも引くに引けない状態に陥った米国は、この「不安定な弧」にさらにつぎ込む兵力、軍事費も残っていなかった。そこに目を付けたのが、「沖縄の基地負担の軽減」を名目に「在日米軍再編計画」を進め、日本の自衛隊もその基地も、米軍の補完部隊として引き込むことだったのだ。

つまり、私が昨年末指摘したように、在日米軍再編の目的は「沖縄の基地負担軽減」でなく、日本本土に広がる自衛隊基地を、対中国戦略で米軍基地としてしまう「本土の沖縄化」にある(参照「秘密保護法、集団的自衛権のあまりに危険な実態、ジョセフ・ナイ元米国防次官補の語る日米軍事戦略」http://www.kokusyo.jp/yoshitake/6903/)。

◆米軍の司令部は座間基地へ移転

米・太平洋軍の主力部隊は、日本に駐留する陸軍第1軍団だ。その任務は、「日本の防衛」や「極東の平和維持」を大きくはみ出し、米・西海岸からアフリカの東海岸にまでが守備範囲。日米安保を始め、米韓、ANZUS(米、豪、ニュージーランド)、東南アジア集団防衛(米、仏、豪、ニュージーランド、タイ、フィリピン)と、米国が世界で結ぶ相互防衛条約7つのうち、5つを受け持つ米・軍事世界戦略の主力部隊だ。

再編計画の要は、自衛隊との共同作戦を視野に、軍団司令部を米本土から東京の防衛省にも近い神奈川県座間基地に移転することにある。

日本の自衛隊基地と米軍基地を一体的に運営し、「不安定な弧」で有事になれば、その司令の下で自衛隊基地を拠点として第1軍団とともに自衛隊を世界のどこにでも派兵することにある。

安倍政権が集団的自衛権容認を急いだのは、在日米軍再編に合わせ、一体での武力行使を可能にするためである。秘密保護法もこうした作戦が漏れることが防ぐのが、何よりの主眼であったことが見て取れる。自衛隊を戦闘部隊とするか、後方支援部隊にするかは時と場合で決められるとしても、相手国から見れば、日本は敵国であることに何の変わりもない。

◆周辺事態法の地理的用件を排除

この米国の狙いを下敷きに改めて、閣議決定された安保法制の中身を見てみよう。

武力攻撃事態法改正案では、「存立危機事態」を新設。日本が直接攻撃を受けなくても、「日本と密接な関係にある他国」が武力攻撃され、「日本の存立が脅かされ」、「他に適当な手段がない場合」、「自衛隊が武力攻撃出来る」としている。

さらに自衛隊が米軍の後方支援を出来る従来の「周辺事態法」は、「日本周辺」という地理的要件を取り払い、「重要影響事態法」に改変。「日本の平和と安全」のために後方支援の対象を米軍以外にも拡大、世界中で活動出来るにする。

「日本と密接な関係にある他国」とは、米国と相互防衛条約を結び、第1軍団が担当する韓国、豪、ニュージーランド、仏、タイ、フィリピンを指すことは間違いないだろう。

今後、ペンタゴンから移転し、座間基地に置かれる軍団司令部は、地理的にも近い防衛省と密接に協議し、共同作戦を練る。「不安定な弧」で何か起これば、真っ先に第1軍団が第7艦隊や第3海兵遠征軍とともに戦闘態勢に入り、同盟国が参戦する可能性もある。

そうなれば、同盟国も相手の敵国になり、軍事衝突があれば「日本と密接な関係にある他国」に対しての武力攻撃である。「存立危機事態」とみなされる可能性が高く武力攻撃事態法により、自衛隊は米軍と一緒に同盟国を攻撃する国に対し、武力行使することになる。

もし、「日本の存立が脅かされる」とは直ちに言えず、自衛隊が米軍の後方支援を担当する「重要影響事態」に認定されたとしても、米軍の司令部が日本にある以上、相手は日本を「敵国」として攻撃してくる。

「日本の存立が脅かされ」、「他に適当な手段がない場合」に該当するのは時間の問題であり、間もなく「存立危機事態」に格上げされ、憲法9条は有名無実。海外での「自衛隊の武力攻撃」が現実のものになり、日本本土も戦場と化す。

◆米軍の軍事要求を完全に満たす体制

安倍首相は、閣議決定後の記者会見で「戦争に巻き込まれることは絶対にない。自衛隊が世界で武力行使することもない」と断言。公明も9条改正に慎重な支持者への言い訳のためか、自民との与党協議で戦争に巻き込まれず、自衛隊派遣にも厳格な「歯止め」を作ったかのように見せかけた。

しかし、これは上記の通り、何の「歯止め」にもならない。結果責任のある政治家にとり、あまりにも無責任過ぎる発言であり、政治行動だ。

安倍首相は相手国に対し、日本を「敵国」とみなさず、本土攻撃されない「歯止め」を何か作ったのか、作れたのか。もちろんそんなものは何一つない。国際関係の中でそんな約束はあり得ないし、公明も安倍首相からそうはならない「歯止め」をどう引き出したのか。私にはその根拠が分からない。

安倍首相は、ゴールデンウィーク中の訪米で、オバマ大統領から大歓迎を受け、議会演説もさせてもらえたことで、得意満面だった。しかし、オバマ氏が最大の笑みを浮かべて安倍首相を迎えたのも、当然のことだった。こんな過大な米国の軍事要求に、100点満点以上に答を出してくれる首相は、日本には安倍氏以外にいなかったからだ。

米国は民主、共和党政権の区別なく、1950年の朝鮮戦争以来の東西対立で、9条改憲による米軍と一体となる自衛隊の軍事参画を、一貫して求めて来たと言っていいだろう。

しかし、吉田茂首相以来の日本の保守本流路線は、戦後復興を重視、経済優先・軽軍備路線を貫いてきた。「軍事に必要以上の金をつぎ込めない」と親米ではあっても、9条を盾に「集団的自衛権」は認めず、米国の要求をのらりくらりかわし続けて来た。

それを安倍首相は、いとも簡単に解釈改憲をしてひっくり返した。日米ガイドライン協議(日米防衛協力のための指針)で、実質、日米軍隊の一体化に合意。訪米中、日本の国会・国民まで差し置いて夏までに新安保法制を成立させることをオバマ大統領に約束した。

◆安倍首相の祖父・岸信介の野望

安倍氏が尊敬してやまないのが、祖父の岸信介元首相だ。岸氏は、戦争責任を問われA級戦犯に問われた。しかし、その後の米ソ冷戦の進展で米国にとり、「役に立つ人物」と目されたのだろう、1952年のサンフランシスコ講和条約発効とともに公職追放の身からも解放される。

政界復帰を果たすと、「日本の真の独立」を提唱し9条改憲を掲げた。これが当時の吉田首相とも対立する原因となる。しかし、その裏に、米CIAによる多額の資金提供を含む日本政界への工作があった輪郭が、最近の米秘密文書の公開などによって次第に明らかになっている。

しかし、その岸氏が首相になっても平和勢力による反対運動の激化で、1960年の日米安保条約改定までが精一杯。憲法9条改正、集団的自衛権容認による日米軍事同盟で、日本の自衛隊を海外派兵することまでは、とても進まなかった。

それを安倍首相は民主政権の崩壊以来のどさくさにまみれ、十分な国民議論にかけることなく、わずか2年半で成し遂げた。その裏には、自らの靖国参拝や歴史認識問題で中国、韓国を刺激。国内のナショナリズムも煽るなどの巧みな戦略もあったが、その手法は右翼の力も借りて日米安保改定に取り組んだ祖父譲りとも言える。

オバマ氏の笑みの裏には、米国の国益に沿って忠実に動いてくれる可愛い日本の首相と映っているからだろう。一方、安倍氏の得意満面の表情には、尊敬する祖父が、米国の庇護を受けてさえ成し遂げられなかった日米軍事同盟を自らの手で実現し、長期政権を米国に保証してもらえたとの高揚感があるのかも知れない。

◆米国の敵はすべて日本の敵に

外交は、常に崇高な理想としたたかな国益の組み合わせで展開される国際ゲームだ。米国の理想は、「人権」である。その手法は最大限に国益も実現できる強大な軍事力が背景だ。中国とも「人権」を掲げ対抗するとともに、したたかな国益計算で安倍首相を取り込み、日米軍事同盟で台頭する中国の軍事力と対抗する世界戦略を描く。

しかし、日本の理想は、戦争への反省、二度の世界大戦を踏まえ世界の人たちの願いも取り込んだ日本憲法にある。外務省がその実現のために努力した形跡も熱意もほとんど見られないのは残念だとしても、「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼し、われらの安全と生存を保持しようと決意した」不戦の誓いであり、武力の不行使を前提する「平和」が外交の基盤にならなくてはならない。本来、日米の国是の違いは明確である。

日米安保を更なる軍事同盟に深化させる今回の安保法制は、米国の敵をすべて日本の敵とし、世界の国々を敵・見方を明確に区別することだ。当然、武力の行使を前提とし、憲法・日本の国是・理想を捨てることでもある。安倍首相は国内では何とでも言い訳は出来ても、たとえ建前としてもこの理想を掲げた「平和外交」は、金輪際、国際社会の中で通用しなくなる。

果たしてそれでいいのか。国益から考えてみても、日本はまもなく2025年の超高齢化社会のピークを迎える。数少ない若者の命を、米国と一体になった武力行使でむざむざ散らす訳にはいかない。財政も戦後二度目の危機を迎える。吉田茂首相時代同様、国益は、国際社会でいかに頭を低くし、軽軍備・財政負担の軽減でこの時期を乗り切るかにしかないのだ。

私も中国の軍事力の台頭を否定するつもりはない。いや、だからこそ靖国・歴史認識問題で中国や韓国を刺激し敵対、日本のナショナリズムを煽って極東の緊張を高めてはならないのだ。米軍と一体となる軍事力の強化は、「平和」の理想を掲げる日本外交のフリーハンドをますます失い、日本の足元の国益に反する。

安倍氏の政策は、日本を取り巻く内外の環境からも、やがて破たんすると私は見る。しかし、外交での他国との約束は、政権が変わったことで簡単に覆せるものではない。もちろん、いったん敵視した国との修復も…だ。気が付いたときには、もう手遅れである。

安倍氏は、この国の美しい国土と若者の命を米国に捧げるつもりなのか。これから本格化する安保国会。言論統制・監視が強まる中、メディアは勇気をもって、在日米軍再編計画と一体化する安保法制の実態とその危険性を、国民に実感をもって感じられる的確な報道姿勢を貫く意地を見せてもらいたい。

≪筆者紹介≫ 吉竹幸則(よしたけ・ゆきのり)
フリージャーナリスト。元朝日新聞記者。名古屋本社社会部で、警察、司法、調査報道などを担当。東京本社政治部で、首相番、自民党サブキャップ、遊軍、内政キャップを歴任。無駄な公共事業・長良川河口堰のウソを暴く報道を朝日から止められ、記者の職を剥奪され、名古屋本社広報室長を経て、ブラ勤に至る。記者の「報道実現権」を主張、朝日相手の不当差別訴訟は、戦前同様の報道規制に道を開く裁判所のデッチ上げ判決で敗訴に至る。その経過を描き、国民の「知る権利」の危機を訴える「報道弾圧」東京図書出版)著者。特定秘密保護法違憲訴訟原告。

2015年05月15日 (金曜日)

安保法制の裏に何が隠されているのか?多国籍企業の防衛部隊としての自衛隊、経済同友会の提言から読み解く

政府は14日に開いた臨時閣議で、安全保障関連法案を決定した。

これにより集団的自衛権の行使が可能になる。具体的には、日本が外国から武力攻撃を受けていなくても、同盟国が攻撃対象になった場合、自衛隊が武力を行使することができる。法案は、15日に国会に提出される。

海外派兵をどう解釈するのかという問題で、政府やマスコミが常に隠蔽(いんぺい)しているのは、グローバリゼーションが進む中で、多国籍企業の防衛部隊としての軍隊という側面である。

これが現代の海外派兵の本質といっても過言ではないが、国際貢献やテロ撲滅のための国際協力といった口実でごまかされてきた。

14日に安倍首相が行った記者会見でも、多国籍企業の要求としての海外派兵という論点は語られなかった。また、記者から、この点を追及する質問もでなかった。が、実はこの点が最も肝心な部分なのだ。

財界は露骨に海外派兵体制の構築を求めてきた。そのことは、たとえば経済同友会がこれまで発表してきた提言を検証すると見えてくる。一例をあげると、2012年2月の「世界構造の変化と日本外交新次元への進化」と題する提言がある。そこでは、露骨に自衛隊の海外派兵必要論が展開されている。

◆グローバリゼーションと多国籍企業

その理由として経済同友会が指摘しているのが、「在外邦人保護に向けた体制整備」である。これは端的に言えば、多国籍企業の防衛体制の構築を意味する。海外留学生や旅行者の保護とは解釈できない。

厳密に言えば、多国籍企業が進出先におけるクーデターや革命などの政変で撤退に追い込まれる事態を回避するために、武力により「治安の維持」をはかるのが派兵の目的だ。それを「在外邦人保護に向けた体制整備」という言葉でごまかしているに過ぎない。
提言は日本企業の多国籍化を前提に次のように言う。

「今後、新興国のような高い経済成長が期待できない日本にのみ活動の場を求めるのではなく、広く世界に活動範囲を広げていきたいと考える日本人・日本企業が今後は一層増えてくることが想定される。

日本人の国際進出を視野に入れたとき、有事における在外邦人保護に向け、日本が対処能力、法的基盤を整備していくことは不可欠である。既に政府専用機、自衛隊機、自衛隊艦船を在外邦人の輸送に用いるための道は開かれているが、さらに緊急時において空港・港湾施設までの在外邦人の避難、輸送までも自衛隊が担うことを可能にするべきである。

また、現在、輸送の安全の確保が認められる場合のみ、邦人救出に踏み切ることが法律上許される形となっているが、より現実的な対応を可能とするためにも安全確保の要件は外すべきである。

邦人保護を行うに際しては、救援活動を行う現地の政府の同意を得ることは重要であり、その点においても平時より、安全保障に取り組む日本の姿勢について正確な情報を国際社会に提供しておくことが不可欠である。そうした信頼の基盤の上に、救出活動を、同盟国である米国を含め、多国間で行う可能性も生まれてくる。」

◆改憲も要求

こうした要望と見解に基づいて、経済同友会の提言は、集団的自衛権の行使や憲法改正を求めている。

「現在の日本政府の憲法解釈の下では、個別的自衛権を行使し、武力行使に至ることは認められているが、集団的自衛権の行使は、国防のための必要最小限度を超えるものであるとして認められていない。

しかし、集団的自衛権行使を容認しない現在の憲法解釈は、国際安全保障の確保のために日本が取り得る活動を著しく制約し、また有事における日米同盟の有効性を損ねる。今や東アジアのみならず、世界における安全保障の確保と日本の安全保障の確保は不可分である。

そして、米国は有事における日本防衛の義務を負うのに対して、日本は平時より米軍に対して基地提供を行うことをもって同盟を成立させるという関係は片務的であり、日本の国際的発言力の強化という観点からも、改善する必要がある。」

◆特定秘密保護法との関連

さらに提言は日米の協力体制に言及して、戦略上、「日米情報共有体制を強化」を求めている。特定秘密保護法の起源は、おそらくこのあたりに根付いているのではないか。

「平時、有事を問わず、情報の共有は同盟関係において非常に重要である。広く国際社会との関わりを持つ日本にとって、米国の情報収集力を活用できることは、同盟関係における大きな資産の一つである。今後、日本はより一層国際社会と一体となって、安定と繁栄への道を模索する必要がある。そのためにも、日米情報共有体制を強化する方策を探らなくてはならない。

情報共有の強化には、日本独自の情報収集・分析体制を強化することも必要であるが、同時に政府における情報管理・保全体制の整備にも速やかに着手する必要がある。情報保全に関わる信頼の確保こそ、情報共有の大前提である。」

◆ニカラグアと海外派兵

海外派兵と多国籍企業の関係は、たとえばラテンアメリカと米国の関係に焦点を当てると明確に見える。ニカラグアの例を紹介しよう。

ニカラグアは1979年までの約半世紀の間、ソモサ一家による独裁が続いていた。ソモサは米国の傀儡で、ニカラグアの産業から、政治、軍部までを掌握していた。

しかし、ソモサ政権は1979年に亡命。内戦の末にソモサ「王朝」は崩壊した。新たに政権の座についたのは、左派よりの路線を取るFSLN(サンディニスタ民族解放戦線)だった。

わたしは1985年に初めてニカラグアを取材したが、米軍を後ろ盾としたコントラと新政府による内戦が勃発する前の様子について、滞在させてもらった民家の少年が次のように話していた。

「それから(注:FSLNが首都を制圧した数日後)ブラック・バードがやってきた」

「ブラック・バード?」

「ブラック・バード、黒鳥だよ。アメリカ空軍の偵察機だよ。四日間に渡ってニカラグアの空を飛び回り、航空写真を撮って帰った。速度が速くてなにもみえないよ。時々、威嚇するように爆音だけが響いていた。みんな家の中に閉じこもって一歩も外出しなかった」(出典=拙著『バイクに乗ったコロンブス』)

その後、米国はニカラグアと国境を接するホンジュラスを米軍基地の国に変えた。そしてコントラと呼ばれる右翼ゲリラを世界一高性能な兵器で武装させ、新生ニカラグアに戦争を仕掛けたのである。当時のレーガン大統領は、コントラを「フリーダム・ファイターズ」と命名した。

なぜ、米国はFSLNを攻撃したのか。米国の多国籍企業が権益をもつラテンアメリカ全体に、ニカラグア革命の影響が広がることを恐れたのだ。米国は、ラテンアメリカに対して、繰り返し海外派兵を断行してきた歴史がある。

日本が構築を目指している派兵体制も、基本的には、日本企業の多国籍化を念頭においたものにほかならない

2015年05月14日 (木曜日)

5月16日(土)に電磁波問題を考えるシンポジウム、荻野晃也博士らが講演、LED・スマホ・携帯電話基地局・リニア・スカイツリーなどがテーマに

「身近に潜む電磁波のリスクを考える=LED、スマホ、リニア」と題するシンポジウムが、5月16日(土曜日)、13:30分から東京の板橋区立グリーンホールで開かれる。

これは、利便性の向上を最優先する国策の下で、新世代公害として水面下の問題になっている電磁波が人体に及ぼす影響などについて考えるために、「電磁波からいのちを守る全国ネット(荻野晃也代表)」が企画したものである。

参加費は資料代500円。事前予約の必要はない。

携帯電話の基地局設置により周辺住民が否応なしに受ける人体影響や、強引に基地局を設置してはばからない電話会社の方針に対する問題提起がなされるものと思われる。

海外では、基地局周辺で癌の発生率が突出して高いという疫学調査のデータ(ドイツなど)が出ているが、日本では、基地局設置が野放しになっており、電話会社と住民の間でトラブルが発生している。

ちなみにスカイツリーは、電磁波問題を考慮しないで、「開発」だけを先走った典型例である。スカイツリー周辺では、相対的にマイクロ波の数値が高いことが明らかになっている。

講師は、電磁波研究の第一人者・荻野晃也、環境ジャーナリストの加藤やすこ、市民団体ガウスネット代表・懸樋哲夫、環境ジャーナリスト・天笠啓祐の各氏。

シンポジウムの詳細は次のURLでアクセスできる。

http://tkuroyabu.net/wp-content

 

2015年05月13日 (水曜日)

渡邉恒雄会長が新聞社の多角経営を自慢、「読売新聞は全く安泰です」、ジャーナリズムから情報産業への変質の危険性

新聞社の衰退が指摘されるようになって久しいが、読売の渡邉恒雄会長は、今年4月の入社式に行った挨拶で、読売の経営が依然として安定していることを強調してみせた。多角経営の優位性を次のように述べている。新聞人の言葉というよりも、むしろ財界人の言葉である。

「各新聞社とも今、活字不況時代ということもあって、経営は相当苦しいですが、読売新聞は全く安泰です。しかも新聞だけではなく、全ての分野の経営において成功しています。

野球では巨人軍があるし、出版部門では、一番古い総合雑誌としての歴史を持つ「中央公論」を中心とした中央公論新社があるし、1部上場会社で、最近視聴率も上げている日本テレビも読売新聞が筆頭株主で姉妹関係にあります。

また、非常に大きな不動産や土地を持ったよみうりランドも1部上場会社ですが、読売新聞から会長、社長等を出し、筆頭株主も読売新聞です。

ただいま皆さんに名演奏を聴かせてくれた読売日本交響楽団もグループの一員です。

そのほか読売理工医療福祉専門学校や読売自動車大学校、読売・日本テレビ文化センターなどがあります。

読売が持っている不動産では、プランタン銀座や、ビックカメラ(有楽町店)、マロニエゲートのほか、札幌駅前にはワシントンホテルグループのホテルがあります。非常に多角的に経営し、すべて万全の財務基盤を持って、文化的な貢献をしています」

渡邉氏が具体的にあげた業種で出版やジャーナリズムとはまったく関係がない分野としては、次のようなものがある。

※読売ジャイアンツ(プロ野球)
※よみうりランド(レジャー)
※読売日本交響楽団(音楽)
※読売理工医療福祉専門学校(学校)
※読売自動車大学校(学校)
※プランタン銀座(不動産)
※ビックカメラ・有楽町店(不動産)
※マロニエゲート(不動産)
※ワシントンホテルグループ(旅行)

読売はさまざまな分野へ進出している。読売新聞社はもはや新聞社単体というよりも、多種多様な事業を展開する巨大グループの一企業と言ったほうが適切だ。

◆新聞産業の衰退

新聞社が大規模な多角経営を行っている例は、日本のケースを除いてあまり聞いたことがない。ジャーナリズムという職種上、経済界と一定の距離を置かなければ、特定の企業や特定の業界のPR媒体に変質する恐れがあり、それなりの自粛が働くからだ。一般企業との区別は、新聞人の誇りでもある。

しかし、日本の新聞社では、読売ほど大きな規模ではないが、多角経営が一般化しているようだ。たとえば朝日新聞社は、東京・銀座に、新ビル「銀座朝日ビル(仮称)」(地下2階地上12階建ての)を建設する。毎日新聞社も不動産物件の所有者である。

新聞の読者離れに歯止めがかからないわけだから、多角経営に乗り出さなければ、新聞社本体の経営が悪化していく事情は理解できるが、それにより真実を伝えるジャーナリズムの役割が衰退し、単なる情報産業と化してしまう危険性も高い。

◆出版人としてのプライド

読売新聞社は、新聞販売店やフリーのジャーナリストに対して、たびたび裁判を起こしてきた事実がある。しかも、改憲問題などで、本来であれば読売の改憲論とは相容れないはずの護憲派・自由人権協会の弁護士を使っている。

そこには新聞人の核をなすはずの自分の思想への強いこだわりが感じられない。言論に対しては言論で対抗するという出版人としてのプライドも感じられない。企業法務が最優先されている印象がある。これも多角経営がもたらした弊害ではないか。

渡邉恒雄氏が語った内容は、新聞人というよりも、財界人の視点で貫かれている。記者が大企業の中の一員になってしまえば、ジャーナリズムもお金儲けの道具に変質しかねない。

2015年05月12日 (火曜日)

小沢一郎検審の偽装捜査報告書のネット流出事件から3年、小沢裁判の評価には真相解明が不可欠

 偽装捜査報告書のネット流出事件とはなにか?
この事件は、Media Kokusyoでも小沢一郎検審問題との関連で、たびたび取り上げてきた。紙メディアも事件の当初は報道している。

記事の大きさは、社によって異なるが、新聞の場合、少なくとも読売、朝日、毎日、産経は報じている。特に産経は、偽装報告書がネット上で公開された後の2012年5月5日に第1面で大きく取り上げた。

産経の報道によると、小沢検審へ送られ、その後、外部へ流出し、ネット上で公開された偽装の捜査報告書は、「何者かが意図的に流出させた可能性がある」という。

■5月5日付け産経新聞の記事

捜査報告書の流出ルートは、窃盗などのケースは別として、原則的には、検察側から流出したか、小沢弁護団側から流出したかの2ルートしかない。

2012年5月18日付け毎日新聞によると、「小川敏夫法相は18日の閣議後の記者会見で、『調査の結果、検察庁から流出したものではなかった』と明らかにした」という。

小川法相のコメントが真実とすれば、小沢弁護団側を調査する必要があるが、これまでどのような調査が行われたのだろうか。真相を解明するための最大限の努力は行われていない。これ自体が異常だ。新聞ジャーナリズムも調査対象からも外れている。

改めて言うまでもなく、真相解明が必要なのは、小沢氏の無罪判決の中身が、偽装報告書の流出により生じた検察批判の世論に、若干は影響された可能性も完全には否定し切れないからだ。だれが偽装報告書を流出させたかを解明しなければ、小沢一郎裁判の正しい評価もできない。

事件から3年、いま再検証が求められている。

2015年05月11日 (月曜日)

前年同月差は朝日が-65万部、読売が-58万部、2015年3月度のABC部数

2015年3月度のABC部数が明らかになった。それによると中央紙は、対前月差では、大きな変動はなかったものの、対前年同月差では、朝日新聞が約65万部、読売が58万部のマイナスとなった。

中央紙の販売部数は次の通りである。()内は、対前年同月差。

朝日新聞:6,801,032(-649,200)
毎日新聞:3,254,446(-67,296)
読売新聞:9,114,786(-576,151)
日経新聞:2,740,031(-28,588)
産経新聞:1,607,047(+17,800)

◆ABC部数と「押し紙」

ABC部数を解析する場合に、考慮しなければならないのは、ABC部数が必ずしも実配部数(実際に配達されている新聞の部数)を反映しているとは限らないという点である。

日本の新聞社の多くは「押し紙」政策を採用してきた事実があり、これが原因で「ABC部数=実配部数」という解釈を困難にしている。両者は別物である。

「押し紙」とは、新聞社が配達部数を超えて販売店に搬入する部数のことである。たとえば2000部の新聞を配達している販売店に、2500部を搬入すれば、差異の500部が「押し紙」ということになる。

新聞社は「押し紙」についても新聞の卸し代金を徴収する。また、「押し紙」部数をABC部数に加算することで、紙面広告の媒体価値をつり上げる。

広告主からも、「押し紙」政策を批判する声が挙がっているが、日本新聞協会は、「押し紙」は存在しないとする立場を貫いている。しかし、「押し紙」は、新聞業界では周知の事実となっており、それを足下の大問題として検証しないこと自体が真実を追究するジャーナリズムの姿勢からはほど遠い。

「押し紙」は独禁法に抵触するので、公権力がそれを逆手に取れば、メディアコントロールの道具になる。その意味では、極めて危険な要素だ。

■2015年度・3月のABC部数

2015年05月08日 (金曜日)

増える携帯電話の基地局問題、追及は自粛傾向に、自宅から数メートルの所にアンテナを設置され癌になったケースも

 携帯電話の基地局設置をめぐるトラブルが多発している。今年の2月から現在までの約3ヶ月の間に、わたしが把握した新ケースは3件になる。いずれもMedia Kokusyoへの情報提供により実態を掴んだ。

このうち東京都世田谷区奥沢のケースについては、既報した通りである。NTTドコモがマンションの屋上に基地局を設置しようとして、住民との間にトラブルが発生した。

同社は、2013年にも、奥沢からほど近い目黒区八雲で、住民の反対により基地局設置を断念している。NTTドコモが設置を計画していた場所は、老人ホームの屋上だった。

大阪市の男性からも、基地局をめぐる情報提供があった。現地へ足を運んで現場を確認していないので、電話会社の社名は明かさないが、住居からほんの数メートルの地点に基地局(冒頭写真参考)があり、家族が癌になったという内容の通報だった。

さらに大阪府の高槻市からも、基地局を設置されてトラブルになっているという通報があった。

◆共産党も追及できない電磁波問題

携帯基地局の問題は、報道が抑制される傾向がある。また、国会の場でも徹底追及が進まない。こうした状況を招いている主要な要因は少なくとも3点ある。

まず、第1は基地局の設置が、ユビキタス社会の完成をめざす政府の国策になっている事情である。携帯電話の基地局を張り巡らせない限り、「いつでも、どこでも、誰でも」がインターネットを通じてつながる社会の実現は出来ない。それゆえに基地局を増やすことが、ユビキタス社会のインフラ整備ということになる。

そこに企業の利権が複雑にからんでいることは疑いない。IT産業が巨大ビジネスとして成立するから、巨額の政治献金の見返りとして、ユビキタス社会を目指す国策が打ち出されているのだ。

改めて言うまでもなく、国策に反対する闘いは、極めて高いリスクを背負う。正義を実現する最後の砦である司法やジャーナリズムが健全であればまだしも、裁判官もメディアも国策に対しては、「NO」を表明しにくい。

事実、この問題はほとんど報じられないし、これまで提起された基地局撤去を求める裁判では、ことごとく電話会社が勝訴している。

ただし、例外として、『週刊東洋経済』のように、企業名を公表して、報じているメディアもある。

さらに第3の原因として、電磁波問題に言及すると嫌われるという事情がある。携帯電話の普及率が100%を超え、だれでも、どこでも、当たり前に携帯電話やスマフォを使う風潮が生まれてくると、それに対して異論を唱えると、敵視される傾向がある。不愉快に感じるらしい。「空気を読めない人」ということになる。

特にスマフォのヘビーユーザー間でこのような傾向が強いようだ。

かつて共産党の紙智子議員は、国会で電磁波問題を取り上げていた。ところがいまは沈黙してしまった。おなじく共産党の吉良よし子議員は、僻地に携帯基地局を設置するために補助金を支給するように国会で求めている。むしろ国策を後押ししている。

(その一方で、原発には反対している。実は原発のガンマ線も電磁波の一種なのだが・・)

吉良氏には青年層の支持を取り込みたいという意図があるのではなだろうか?新世代公害である電磁波や基地局設置を、人類に禍根を残しかねない重大問題として認識しないのは、共産党議員のイメージから著しくかけ離れている。

◆知らないうちに進む洗脳

NHKは、番組の中に携帯電話やスマフォの使用を組み込んでいる。これらのツールにより放送の双方向化をはかろうという意図であるが、そこには、公害としての電磁波という問題意識が完全に欠落している。

こうした番組に日常的に接していると、電磁波問題に言及する者は、「頭がおかしい」という世論が形成されかねない。視聴者は気づいていないが、これが洗脳の典型的なプロセスにほかならない。

2015年05月07日 (木曜日)

「新党憲法9条」、評論家の天木直人氏がインターネット上の政党をスタート

元レバノン日本国特命全権大使で評論家の天木直人氏が、インターネット上の新しい政党「新党憲法9条」を立ち上げた。活動の舞台になるウエブサイトは29日に公開された。

これはイデオロギーを離れて憲法9条の尊重を前提に、インターネットを通じて政治のあり方を考える構想に基づいたものである。既存政党のように、選挙の時だけ自分の主張を展開するのではなく、インターネットを通じて双方向で日常的に議論を深めながら、最終的に議員を国会へ送り込むことを目指す。

現在の政党助成金や政務調査費などは、廃止を求める方針。既存の政党の反対でそれが実現しない場合は、党の活動基金という形で「ファンド」にして、納税者である国民に還元するとしている。

また、メディアのあり方については、真実を伝える努力をするメディアやジャーナリストを支援するとしている。

「新党憲法9条」の公式ウエブサイトは次の通りである。

■「新党憲法9条」の公式ウエブサイト

2015年05月06日 (水曜日)

だれが舞台裏で日本の政策を決めているのか? 安倍内閣の教育再生実行会議にアフラックや三菱重工の関係者

新聞やテレビを通じて政治を監視しても、だれが根底で政策の方向性を決めているのかが明確に見えてこない。輪郭が浮上しない。これに対してインターネットを駆使すると、政策決定のプロセスを読み取るデータが現れる。

日本人の多くが認識していない問題のひとつに、選挙で選ばれていない人々が、内閣設置の委員会などに参加して、直接に政策を方向付ける役割を担っている事実がある。日本に構造改革=新自由主義を導入しようとしているのは、保守系の政治家と官僚だけではない。彼らと関係が深い人々までが、政策の策定にかかわっているのである。

国会議員の人数が少ないことも、こうした問題を引き起こす原因であるが、政府が恣意的に政策の方向性をコントロールすることを意図して、有識者らにそのためのアリバイ的な役割を求めている可能性も否定できない。

たとえば新自由主義の教育改革を推進している安倍内閣の管轄下には、教育再生実行会議がある。ここに名を連ねている「有識者」は次の通りである。

漆紫穂子 (品川女子学院校長)
大竹美喜 (アフラック創業者)
尾﨑正直 (高知県知事)
貝ノ瀨滋 (政策研究大学院大学客員教授)

加戸守行 (前愛媛県知事)
蒲島郁夫 (熊本県知事)
鎌田 薫 (早稲田大学総長)
川合眞紀 (東京大学教授、理化学研究所理事長特別補佐)

河野達信 (岩国市立高森小学校教諭、前全日本教職員連盟委員長)
佐々木喜一 (成基コミュニティグループ代表)
鈴木高弘 (専修大学附属高等学校理事・前校長、NPO法人老楽塾理事長)
曽野綾子 (作家)

武田美保 (スポーツ/教育コメンテーター)
佃和夫 (三菱重工業株式会社相談役)
向井千秋 (東京理科大学副学長、日本学術会議副会長)
八木秀次 (麗澤大学教授)
山内昌之 (東京大学名誉教授、明治大学特任教授)

アフラックや三菱重工の企業関係者までが、教育再生会議に参加しているのである。

◆安保法制懇

憲法改正を目指している「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会有識者」(安保法制懇)も例外ではない。安保法制懇は、内閣総理大臣が開催し、「必要に応じ、関係者の出席を求めることができる」。ここでも選挙で選ばれていない人々が堂々と政策の方向づけにかかわっているのである。

安保法制懇の有識者は次の通りである。さすがに企業関係者は少ないが、政治思想のバランスを考慮した公平な人選とは思えない。

岩間陽子(政策研究大学院大学教授)
岡崎久彦(特定非営利活動法人岡崎研究所所長・理事長)
葛西敬之(東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長)
北岡伸一(国際大学学長・政策研究大学院大学教授

坂元一哉(大阪大学大学院教授)
佐瀬昌盛(防衛大学校名誉教授)
佐藤謙(公益財団法人世界平和研究所理事長)(元防衛事務次官)
田中明彦(独立行政法人国際協力機構理事長)

中西寛(京都大学大学院教授)
西修(駒澤大学名誉教授)
西元徹也(公益社団法人隊友会会長)(元統合幕僚会議議長)
細谷雄一(慶應義塾大学教授)

村瀬信也(上智大学教授)
柳井俊二(国際海洋法裁判所長)(元外務事務次官)

2015年05月05日 (火曜日)

安倍内閣の政策に直接関与する選挙で選ばれていない人々、サントリーの新浪剛史 社長ら、深刻な議会制民主主義の危機

1990年代の半ばから日本の財界が政界に対して一貫して求めてきたのは、構造改革=新自由主義の導入だった。現在、安倍内閣の下で進行しているドラスチックな構造改革に決定的な影響力を持っているのは、次のグループである。

■経済財政諮問会議

■日本経済再生本部

■規制改革会議

■国家戦略特別区域諮問会議

これらのグループの特徴は、安倍首相が「長」を務めていることである。また、日本経済再生本部を除くグループの中に、政治家以外の人々、具体的には財界の代表や識者が多数加わっていることである。

選挙で選ばれた国会議員が政策の方向性を決めるのであれば問題はないが、財界や識者の意向が政策に反映される仕組みになっている。以下、経済財政諮問会議、規制改革会議、それに国家戦略特別区域諮問会議を構成するメンバーのうち、選挙で選ばれていない人々の氏名を明記しておこう。

■経済財政諮問会議

黒田東彦(日本銀行総裁)
伊藤元重(東京大学大学院経済学研究科教授)
榊原定征(東レ株式会社 取締役会長)
高橋進 (日本総合研究所理事長)
新浪剛史 (サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長)

■規制改革会議

安念潤司 (中央大学法科大学院教授)
浦野光人 (株式会社ニチレイ代表取締役会長)
大崎貞和 (株式会社野村総合研究所主席研究員)
大田弘子 (政策研究大学院大学教授)

岡素之 (住友商事株式会社相談役)
翁百合 (株式会社日本総合研究所理事)
金丸恭文 (フューチャーアーキテクト株式会社代表取締役会長兼社長)
佐久間総一郎 (新日鐵住金株式会社常務取締役)

佐々木かをり (株式会社イー・ウーマン代表取締役社長)
滝久雄 (株式会社ぐるなび代表取締役会長)
鶴光太郎 (慶応義塾大学大学院商学研究科教授)
長谷川幸洋 (東京新聞・中日新聞論説副主幹)

林いづみ( 永代総合法律事務所弁護士)
松村敏弘 (東京大学社会科学研究所教授)
森下竜一( アンジェスMG株式会社取締役)

■国家戦略特別区域諮問会議

秋池玲子 (ボストンコンサルティンググループ、シニア・パートナー&マネージング・ディレクター)
坂根正弘 (株式会社小松製作所相談役)
坂村健 (東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授)
竹中平蔵 (慶應義塾大学総合政策学部教授)
八田達夫 (アジア成長研究所所長)

2015年05月05日 (火曜日)

安倍内閣の政策に直接関与する選挙で選ばれていない人々、深刻な議会制民主主義の危機

 1990年代の半ばから日本の財界が政界に対して一貫して求めてきたのは、構造改革=新自由主義の導入だった。現在、安倍内閣の下で進行しているドラスチックな有識者議員 秋池 玲子 ボストンコンサルティンググループ
シニア・パートナー&マネージング・ディレクター
同 坂根 正弘 株式会社小松製作所相談役
同 坂村 健 東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授
同 竹中 平蔵 慶應義塾大学総合政策学部教授
同 八田 達夫 アジア成長研究所所長構造改革に決定的な影響を持っているのは、次のグループである。

■経済財政諮問会議

■日本経済再生本部

■規制改革会議

■国家戦略特別区域諮問会議

これらのグループの特徴は、安倍首相が「長」を務めていることである。また、日本経済再生本部を除くグループの中に、政治家以外の人々、具体的には財界の代表や識者が多数加わっていることである。

選挙で選ばれた国会議員が政策の原案を作成するのであれば問題はないが、財界や識者の意向が政策に反映される仕組みになっている。以下、経済財政諮問会議、規制改革会議、それに国家戦略特別区域諮問会議を構成するメンバーのうち、選挙で選ばれていない人々の氏名を明記しておこう。

■経済財政諮問会議

黒田東彦(日本銀行総裁)
伊藤元重(東京大学大学院経済学研究科教授)
榊原定征(東レ株式会社 取締役会長)
高橋進 (日本総合研究所理事長)
新浪剛史 (サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長)

■規制改革会議

安念潤司 (中央大学法科大学院教授)
浦野光人 (株式会社ニチレイ代表取締役会長)
大崎貞和 (株式会社野村総合研究所主席研究員)
大田弘子 (政策研究大学院大学教授)

岡素之 (住友商事株式会社相談役)
翁百合 (株式会社日本総合研究所理事)
金丸恭文 (フューチャーアーキテクト株式会社代表取締役会長兼社長)
佐久間総一郎 (新日鐵住金株式会社常務取締役)

佐々木かをり (株式会社イー・ウーマン代表取締役社長)
滝久雄 (株式会社ぐるなび代表取締役会長)
鶴光太郎 (慶応義塾大学大学院商学研究科教授)
長谷川幸洋 (東京新聞・中日新聞論説副主幹)

林いづみ( 永代総合法律事務所弁護士)
松村敏弘 (東京大学社会科学研究所教授)
森下竜一( アンジェスMG株式会社取締役)

■国家戦略特別区域諮問会議

秋池玲子 (ボストンコンサルティンググループ、シニア・パートナー&マネージング・ディレクター)
坂根正弘 (株式会社小松製作所相談役)
坂村健 (東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授)
竹中平蔵 (慶應義塾大学総合政策学部教授)
八田達夫 (アジア成長研究所所長)

2015年05月04日 (月曜日)

携帯電話の普及にともない増え続ける癌患者の増加、背景にマイクロ波が連動した複合汚染の可能性

国立がん研究センターが4月28日に発表した今年の「予測がん罹患数」は、982,100例(男性560,300例、女性421,800例)で、前年予想よりも約10万件増えた。原因として、同センターは、「高齢化とがん登録精度の向上が要因と考えられます。」と述べている。が、重要な原因はそれ以外にもある。

厚生省のデータによると、日本における癌患者の年次推移は、1996年から急激に増えて、以後、ゆるやかな増加傾向にある。

まったく指摘されていないが、これに連動するように上昇曲線を描いているのが、携帯電話の普及率である。総務省が公表しているデータ「移動体通信(携帯電話・PHS)の年度別人口普及率と契約数の推移」によると、携帯電話の普及率は、次のように上昇している。

1990年:  0.6%
1995年:  9.6%
2000年: 56.0%
2005年: 73.3%
2010年: 88.5%
2013年:101.7%

癌患者の増加を示す曲線と類似している。
携帯電話の普及率が増えると、それに伴い携帯基地局が増える。そこからは24時間、通信に使うマイクロ波が放射されるので、周辺の住民は否応なしに被曝することになる。

携帯電話の普及が始まったころは、マイクロ波に遺伝子毒性があることはほとんど指摘されていなかったが、その後、疫学調査などで、両者の関係が指摘されるようになった。そして2011年にWHOの外郭団体である国際癌研究機関がマイクロ波に発癌性がある可能性を認定した。

しかし、この時点では、特に都市部で携帯基地局が林立する状況が生まれていて、撤去自体が難しい状況になっていた。携帯基地局の撤去を求める裁判も提起されているが、いずれにも電話会社が勝訴して、撤去には至っていない。

もちろん携帯電話と携帯基地局が増えたことだけが、癌が増えた原因ではないが、重要な要素であることは疑いない。

◆ドイツの疫学調査

参考までに、ドイツとブラジルで行われた疫学調査の結果を紹介しておこう。

まず、最初に紹介するのは、ドイツの医師団たちが、1993年から2004年までの期間に、特定の団体から資金提供を受けずにナイラ市で行った疫学調査である。対象は、調査期間中に住所を変更しなかった約1000人の通院患者。マイクロ波の発生源である基地局は2局。最初の基地局は、93年に設置され、その後、97年に別の基地局が設置された。

医師たちは被験者の患者を、基地局から400メートル以内に住んでいるグループ(仮にA地区)と、400メートルよりも外側に住んでいるグループ(3地区)に分類した。そして2つの地区の発癌率を比較したのである。その結果、次のことが明らかになった。

最初の5年については、癌の発症率に大きな違いはなかったが、99年から04の5年間でA地区の住民の発症率が、B地区に比べて3.38倍になった。

しかも、発癌の年齢も低くなっている。たとえば乳癌の平均発症年齢は、A地区が50.8歳で、B地区は69.9歳だった。約20歳も早い。ちなみにドイツ全体の平均は、63歳である。

◆ブラジルの疫学調査

最近の疫学調査としては、2011年にブラジルのミナス・ジェライス州大学が発表したものがある。この調査でも、携帯基地局の周辺に住んでいる住民の癌による死亡率が、それ以外の地域の住民の癌による死亡率に比べて高い傾向があることが分かった。

リサーチの目的は、癌と携帯電磁波の因果関係を疫学的に調査することである。基礎データとして使われたのは、次の資料である。

1、市が管理している癌による死亡データ。

2、国の電波局が保管している携帯基地局のデータ。

3、国勢調査のデータ。

2006年12月までに、ミナス・ジェライス州大学があるベロオリゾンテ市では、856の基地局が設置された。(電磁波の密度は、最大で40.78μW/cm2。最小で0.04μW/cm2。)

1996年から2006年までに癌で死亡したと確認できたのは、7191人。1998年の約780人については、死亡時の住所が確認できなかったので、調査の対象外とした。

癌による死亡率は、基地局から500メートル以内の地域では、1万人当たり34.76人だった。他の地域では、この数字よりも減少する。

癌による死亡率(累積)が最も高かったのは、中央・南区の1000人あたり5.83人だった。ここには市全体の基地局の39・6%(2006年)が集中していた。

逆に最も低かったのは、バレイロ区の1000人あたり2.05人だった。 この地区の基地局は、全体の5.37%。ちなみに基地局の密集率が、バレイロ区よりも低い区も存在した。

◆複合汚染の視点

複合汚染というのは、汚染物質の相互作用が、相乗的な汚染をもたらすことである。マイクロ波と発癌の関係を考える際にも、複合汚染の視点が不可欠に
なる。

その複合汚染とはなにか?

分かりやすい例としては、子宮頸(けい)癌の発症に関する説がある。子宮頸癌の原因がHPV(ヒト・パピローマ・ウィルス)の感染であることはよく知らているが、HPVに「感染した人全員がかならず子宮頸癌になるわけではない。たとえば感染した状態で、ある環境因子にさらされて、DNAがダメージを受けるなどの条件が重なった場合、発癌リスクが高くなる」(利部輝雄著『性感染症』)のである。

地球上には数え切れない環境因子が存在する。事実、米国のケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)が登録する新しい化学物質の数は、一日で優に1万件を超える。こうした状況の下では、複合の因子が連鎖したときに人体に及ぼす影響を検証することは極めて難しい。

人体はひとそれぞれに外界から異なった影響を受けており、厳密に言えば外界の変化に応じて、身体も変化している。静止状態にはならない。ひとつの変化が次の変化を引き起こす運動の法則が働いているのだ。従って体質も個々人により微妙に異なる。同じ強度のマイクロ波に被曝しても、人によりリアクションが異なるゆえんにほかならない。

研究室での動物実験の結果は、必要以上に過信すべきではない。参考になっても、絶対的なものではない。と、いうのも実験装置の中の環境と、実際の環境は異なるだけではなくて、モルモットと人間の体質も異なっているからだ。と、なれば何を最も重視すべきなのだろうか。

それは実際に住民の間に健康被害が広がっている事実である。それが、公害に対峙する原点だ。その意味では、携帯基地局の周辺で、健康被害が発生している事実を指摘した疫学調査の結果は極めて大切な意味を持つ。疫学調査で公害の医学的な根拠を特定できるわけではないが、公害の対策を取るうえで、最も重視すべき要素にほかならない。