1. 安保法制の裏に何が隠されているのか?多国籍企業の防衛部隊としての自衛隊、経済同友会の提言から読み解く

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2015年05月15日 (金曜日)

安保法制の裏に何が隠されているのか?多国籍企業の防衛部隊としての自衛隊、経済同友会の提言から読み解く

政府は14日に開いた臨時閣議で、安全保障関連法案を決定した。

これにより集団的自衛権の行使が可能になる。具体的には、日本が外国から武力攻撃を受けていなくても、同盟国が攻撃対象になった場合、自衛隊が武力を行使することができる。法案は、15日に国会に提出される。

海外派兵をどう解釈するのかという問題で、政府やマスコミが常に隠蔽(いんぺい)しているのは、グローバリゼーションが進む中で、多国籍企業の防衛部隊としての軍隊という側面である。

これが現代の海外派兵の本質といっても過言ではないが、国際貢献やテロ撲滅のための国際協力といった口実でごまかされてきた。

14日に安倍首相が行った記者会見でも、多国籍企業の要求としての海外派兵という論点は語られなかった。また、記者から、この点を追及する質問もでなかった。が、実はこの点が最も肝心な部分なのだ。

財界は露骨に海外派兵体制の構築を求めてきた。そのことは、たとえば経済同友会がこれまで発表してきた提言を検証すると見えてくる。一例をあげると、2012年2月の「世界構造の変化と日本外交新次元への進化」と題する提言がある。そこでは、露骨に自衛隊の海外派兵必要論が展開されている。

◆グローバリゼーションと多国籍企業

その理由として経済同友会が指摘しているのが、「在外邦人保護に向けた体制整備」である。これは端的に言えば、多国籍企業の防衛体制の構築を意味する。海外留学生や旅行者の保護とは解釈できない。

厳密に言えば、多国籍企業が進出先におけるクーデターや革命などの政変で撤退に追い込まれる事態を回避するために、武力により「治安の維持」をはかるのが派兵の目的だ。それを「在外邦人保護に向けた体制整備」という言葉でごまかしているに過ぎない。
提言は日本企業の多国籍化を前提に次のように言う。

「今後、新興国のような高い経済成長が期待できない日本にのみ活動の場を求めるのではなく、広く世界に活動範囲を広げていきたいと考える日本人・日本企業が今後は一層増えてくることが想定される。

日本人の国際進出を視野に入れたとき、有事における在外邦人保護に向け、日本が対処能力、法的基盤を整備していくことは不可欠である。既に政府専用機、自衛隊機、自衛隊艦船を在外邦人の輸送に用いるための道は開かれているが、さらに緊急時において空港・港湾施設までの在外邦人の避難、輸送までも自衛隊が担うことを可能にするべきである。

また、現在、輸送の安全の確保が認められる場合のみ、邦人救出に踏み切ることが法律上許される形となっているが、より現実的な対応を可能とするためにも安全確保の要件は外すべきである。

邦人保護を行うに際しては、救援活動を行う現地の政府の同意を得ることは重要であり、その点においても平時より、安全保障に取り組む日本の姿勢について正確な情報を国際社会に提供しておくことが不可欠である。そうした信頼の基盤の上に、救出活動を、同盟国である米国を含め、多国間で行う可能性も生まれてくる。」

◆改憲も要求

こうした要望と見解に基づいて、経済同友会の提言は、集団的自衛権の行使や憲法改正を求めている。

「現在の日本政府の憲法解釈の下では、個別的自衛権を行使し、武力行使に至ることは認められているが、集団的自衛権の行使は、国防のための必要最小限度を超えるものであるとして認められていない。

しかし、集団的自衛権行使を容認しない現在の憲法解釈は、国際安全保障の確保のために日本が取り得る活動を著しく制約し、また有事における日米同盟の有効性を損ねる。今や東アジアのみならず、世界における安全保障の確保と日本の安全保障の確保は不可分である。

そして、米国は有事における日本防衛の義務を負うのに対して、日本は平時より米軍に対して基地提供を行うことをもって同盟を成立させるという関係は片務的であり、日本の国際的発言力の強化という観点からも、改善する必要がある。」

◆特定秘密保護法との関連

さらに提言は日米の協力体制に言及して、戦略上、「日米情報共有体制を強化」を求めている。特定秘密保護法の起源は、おそらくこのあたりに根付いているのではないか。

「平時、有事を問わず、情報の共有は同盟関係において非常に重要である。広く国際社会との関わりを持つ日本にとって、米国の情報収集力を活用できることは、同盟関係における大きな資産の一つである。今後、日本はより一層国際社会と一体となって、安定と繁栄への道を模索する必要がある。そのためにも、日米情報共有体制を強化する方策を探らなくてはならない。

情報共有の強化には、日本独自の情報収集・分析体制を強化することも必要であるが、同時に政府における情報管理・保全体制の整備にも速やかに着手する必要がある。情報保全に関わる信頼の確保こそ、情報共有の大前提である。」

◆ニカラグアと海外派兵

海外派兵と多国籍企業の関係は、たとえばラテンアメリカと米国の関係に焦点を当てると明確に見える。ニカラグアの例を紹介しよう。

ニカラグアは1979年までの約半世紀の間、ソモサ一家による独裁が続いていた。ソモサは米国の傀儡で、ニカラグアの産業から、政治、軍部までを掌握していた。

しかし、ソモサ政権は1979年に亡命。内戦の末にソモサ「王朝」は崩壊した。新たに政権の座についたのは、左派よりの路線を取るFSLN(サンディニスタ民族解放戦線)だった。

わたしは1985年に初めてニカラグアを取材したが、米軍を後ろ盾としたコントラと新政府による内戦が勃発する前の様子について、滞在させてもらった民家の少年が次のように話していた。

「それから(注:FSLNが首都を制圧した数日後)ブラック・バードがやってきた」

「ブラック・バード?」

「ブラック・バード、黒鳥だよ。アメリカ空軍の偵察機だよ。四日間に渡ってニカラグアの空を飛び回り、航空写真を撮って帰った。速度が速くてなにもみえないよ。時々、威嚇するように爆音だけが響いていた。みんな家の中に閉じこもって一歩も外出しなかった」(出典=拙著『バイクに乗ったコロンブス』)

その後、米国はニカラグアと国境を接するホンジュラスを米軍基地の国に変えた。そしてコントラと呼ばれる右翼ゲリラを世界一高性能な兵器で武装させ、新生ニカラグアに戦争を仕掛けたのである。当時のレーガン大統領は、コントラを「フリーダム・ファイターズ」と命名した。

なぜ、米国はFSLNを攻撃したのか。米国の多国籍企業が権益をもつラテンアメリカ全体に、ニカラグア革命の影響が広がることを恐れたのだ。米国は、ラテンアメリカに対して、繰り返し海外派兵を断行してきた歴史がある。

日本が構築を目指している派兵体制も、基本的には、日本企業の多国籍化を念頭においたものにほかならない