1. 大阪市の都構想をめぐる住民投票、マスコミが争点をはずした道州制の問題

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2015年05月19日 (火曜日)

大阪市の都構想をめぐる住民投票、マスコミが争点をはずした道州制の問題

大阪市が実施した都構想の住民投票が否決された。

この結果は、1996年に成立した橋本内閣の時代から歴代自民党政府が押し進め、安倍内閣の下で頂点に達している新自由主義=構造改革が、道州制導入という最終段階に来て、「NO」を突きつけられたことを意味する。

もっとも、マスコミが今回の住民投票の本質的な争点を隠していたので、都構想に「NO」を表明した人のうち、どの程度が都構想の根底に道州制導入への野心があることに気づいていたかは定かではないが。郷里としての大阪市が失われることに対して、「NO」を表名した人も少なくないかも知れない。

が、それはともかくとして、大阪市民は大変な悲劇の到来を食い止めた。

◆道州制の旗振り人としての橋下市長

新自由主義=構造改革の中心的な政策に「小さな政府」の構築がある。そのために自民党は、市町村、省庁、国立大学などを再編・リストラしてきた。財政支出を抑制するためである。それに連動して法人税を軽減してきた。

また、福祉・医療といった公的保障の枠を縮小し、それに代わって福祉・医療の分野を、新しい市場として民間企業に提供するなどの策を進めている。そして最終的には、福祉や医療の分野を地方に移譲し、財源が不足すれば地方自治体の裁量で、公的サービスを切り捨てる。これが想定される今後のプロセスである。

こうしたドラスチックな構造改革の受け皿となるのが、道州制である。

大阪市の橋下市長は、その道州制の旗振り役である道州制推進知事・指定都市市長連合の共同代表を務めている。もうひとりの共同代表である宮城県の村井知事は、橋下市長の敗北を受けて、18日、

「道州制に向けて歩みを進めているリーダーを失った。道州制への影響は間違いなく出る」(産経新聞)

と、話した。

マスコミは報じなかったが、大阪の住民投票は、安倍内閣にとっては、道州制の導入という新自由主義=構造改革の最終段階へ向けた布石だったのだ。その試みが否決された意味は大きい。

◆大阪府は新自由主義のモデル地区

安倍内閣は、大阪府を新自由主義=構造改革の導入を図るためのモデル地区(国家戦略特区)に指定している。国家戦略特区とは、新自由主義=構造改革を急進的に進めるためのモデル地区のことである。モデル地区で「岩盤規制」を撤廃したうえで、それを全国へ拡大するというのが、安倍内閣の方針である。

ところが安倍内閣は、橋下市長という受け皿を今年限りで失うことになる。

ちなみに国家戦略特区の「岩盤規制」撤廃は、自民党の思惑どおりには進んでいないようだ。これに苛立った経済同友会は、4月23日に、「国家戦略特区を問い直す〜特区のキーワードは“実験場”と“失敗の容認”〜」と題する提言を発表し、その中で次のように、特区における「岩盤規制」の撤廃を求めている。

「特区は岩盤規制により今までできなかったことを試せるチャレンジの場のはずである。もし失敗や弊害が生じたとしても、その原因が分かれば将来の取り組みの糧となる。まずは失敗を恐れずチャレンジすることが重要である。」

国家戦略特区における「改革」が進まないことに象徴されるように、新自由主義=構造改革は、貧困や社会格差をはじめさまざまな弊害を生んでいる。自民党の地方議員の中にも、新自由主義=構造改革の誤りにようやく気づきはじめた人もいるのではないか?

なお、最初に新自由主義=構造改革を叫んだのは、『日本改造計画』の著者・小沢一郎氏である。自己責任論や構造改革を唱えて、1993年に自民党を飛び出したのである。それが失われた20年の始まりだった。