1. 携帯電話の基地局問題

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2015年01月06日 (火曜日)

携帯基地局問題、解決への展望は地権者へ健康被害に対する損害賠償を求める勇気

携帯電話の基地局撤去を求める裁判は、九州を中心に全国で発生している。その大半は、住民が原告となって、電話会社に対し裁判を起こすオーソドックスな構図である。

次に示すのは、全国で最も基地局関連の裁判が多発している九州地区における訴訟の「足跡」である。

・沼山津裁判(熊本市)1997年

・御領裁判(熊本市)1998年

・三潴裁判(久留米市)2001年

・楡木裁判(熊本市)2001年

・春木裁判(別府市)2002年

・荘園裁判(別府市)2005年

・霧島裁判(霧島市)2005年

・延岡大貫裁判(延岡市)2009年

裁判の勝敗は、いずれも原告住民の敗訴である。電磁波による人体影響が医学的に立証されていないというのが、これまでの司法判断だった。

ただし、2009年に起こされた延岡大貫裁判(被告KDDI)では、基地局の周辺で健康被害が多発している事実は認定された。しかし、この裁判でも、医学的な立証が大きな壁として立ちはだかったのである。結果、今も住民たちは、基地局からの強い電磁波に被曝している

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2014年12月30日 (火曜日)

KDDI基地局の操業停止を求める延岡大貫訴訟で原告が上告、原告団声明が司法を厳しく批判、「住民に苦痛と絶望を与えているのは裁判所」

KDDI基地局の稼働差し止めを求めた延岡大貫訴訟の原告団(岡田澄太原告団長)は、12月5日の控訴審敗訴(福岡高裁宮崎支部・田中哲朗裁判長)を受けて、地域住民を交えた今後の対応策を話し合い、19日に最高裁に上告した。

控訴審判決は、一審に続いて健康被害が発生していることは認めつつも、「科学的観点からの立証は不十分だと言わざるを得ない」という内容だった。

控訴審では、過去に起きた携帯基地局の稼働差し止めを求める3件の裁判で、いずれも被告の電話会社を勝訴させた前歴がある裁判長が担当するなど、電磁波問題とは別に、司法の公平性も問われていた。

12月5日の判決後に発表された原告団声明で岡田団長は、みずからの体験に照らし合わせて、日本の司法制度を次のように批判している。

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2014年12月05日 (金曜日)

NTTドコモから自民党へ750万円の政治献金、最新の政治資金収支報告書で判明

総務省が公表した最新の政治資金収支報告書(2013年度分)によると、携帯ビジネスを行っている企業や、そのグループ会社から、自民党の政治資金団体・国民政治協会に対して、政治献金が行われていることが判明した。

電話会社からの政治献金は、2012年度の政治資金収支報告書でも確認されており、通信業界と自民党の癒着が進んでいる可能性が高い。

2013年度の政治資金収支報告書から、該当部分を紹介しよう。

NTTドコモ:700万円
NTTデータ:350万円
NTT都市開発:150万円

KDDI:300万円

電話会社からの政治献金PDF

ソフトバンクについては、記録が見あたらなかった。

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2014年12月04日 (木曜日)

明日、携帯基地局の放射線による健康被害を問う延岡大貫訴訟の判決、司法の劣化を象徴する「事件」が頂点に

宮崎県延岡市の住民30人が、KDDIの基地局がまき散らしている放射線(マイクロ波)が原因で健康被害を受けたとして、KDDIに対して稼働停止を求めた裁判の控訴審判決が、明日(5日)、福岡高裁・宮崎支部で言い渡される。

この裁判は、2009年12月に提起されたもので、基地局問題を象徴する事件として、全国の注目を集めてきた。

第1審は原告の敗訴。原告が控訴していた。

勝敗について、結論を先に言えば、控訴審で原告が勝訴する確率は、限りなくゼロに近い。裁判の進行そのものが尋常ではなかったからだ。

そのために、皮肉にも電磁波問題だけではなくて、日本の司法制度が内包する「闇」も露呈することになった。

◇論理が破たんした地裁判決
周知のように携帯基地局から放射される放射線(マイクロ波)が人体に悪影響を及ぼすとする説は、年々、説得力を深めている。2011年には、WHOの外部団体である世界癌研究機関(IARC)が、マイクロ波に発癌性の可能性
があることを認定している。

実際、ドイツ、イスラエル、ブラジルなどで行われた疫学調査では、携帯基地局の周辺に住む人々の間で、癌が多発していることが分かった。

インドのムンバイ市では、最高裁の司法判断を背景に、3200の基地局が撤去の対象になっている。

こうした世界の動きを見据えると、当然、延岡大貫訴訟は原告を救済するのが常識だが、第1審では、健康被害の発生は、客観的な事実として司法認定されたものの、基地局の稼働中止はそのまま続けてもいいことになった。
司法がKDDIのビジネスを救済したのである。
裁判所がその根拠としたのは、俗にいう「ノセボ効果」による健康被害であるとの判断である。「ノセボ効果」とは、思い込みによって生じる症状のことである。判決は、次のように「ノセボ効果」を認定して、KDDIを勝訴させた。

原告らその他の住民の中には、反対運動などを通じて電磁波の危険性についての情報を得たことにより、電磁波の健康被害の不安を意識したことや、被告の対応に対して憤りを感じたことなどにより、もともとあった何らかの持病に基づく症状を明確に意識するようになったり、症状に関する意識が主観的に増幅されていき、重くとらえるようになった者がいる可能性がある。

健康被害という客観的な事実と、「ノセボ効果」を結びつけるには、科学的な根拠が不可欠であるが、判決文では、それが完全に欠落しているので、判決全体を通読した時、論理が完全に破たんしていることが分かる。「論文」としては、失格のレベルである。

それにもかかわらず判決は効力を持ち、現在も延岡市の原告を苦しめている。

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2014年11月28日 (金曜日)

インドのムンバイ市が携帯基地局の設置を厳しく規制、3200局が撤去の対象

携帯基地局の放射線問題の解決に向けて最先端を走っている国はどこか?
そのひとつがインドである。インドのムンバイ市が、携帯基地局の厳しい規制に乗り出している。

インドで電磁波問題の研究が進んでいることは、つい最近、知人の研究者から聞いていたが、下記の記事を読む限り、想像以上にドラスチックな規制が導入されている。

しかも、このような激変は、インドの最高裁が出した決定に、端を発している。電話会社の権益を侵さない判決しか出さない日本の司法当局との違いを見せつけられる。次の記事を紹介しよう。

インドで携帯基地局の規制がはじまる

ムンバイ市が、学校、大学、孤児院の近くでの携帯基地局設置を禁止

インドで最も人口が多いムンバイ市は、2013年8月、学校、大学、孤児院、児童リハビリテーション施設、それに老人ホームから100メートル以内に携帯基地局を設置することを禁止した。同市は、学校や大学、それに病院などに設置されているアンテナを撤去するように命じた。

  さらにムンバイ市は、マンションの最上階に住む全居住者の承諾と、マンション居住者全体の70%の承諾がない場合、住宅の屋根にアンテナを設置することを禁止した。

 これにより法律に抵触する状態で設置されている3200の基地局の撤去が始まった。この政策は、もともと2013年1月に発案されたもの。(略)

  ムンバイ市があるマハラシュトラ州の州政府は、2013年10月の中旬、放射線の規制値を10倍厳しくするかわりに、ムンバイ市の方針を採用しない試案を発表した。現在、州政府と市当局の交渉が続いている。(黒薮訳)

■出典:Cellular Phone Task Force

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2014年11月18日 (火曜日)

訴訟のリスクを理解していない基地局の地権者、ドコモのように賃料が年間3000円のケースも

携帯電話の基地局設置をめぐる電話会社と住民のトラブルで、盲点になっているのが、賃料と引き換えに基地局の設置場所(たとえば、ビルの屋上や畑)を貸す地権者の責任である。

これまで九州では、7件の裁判が起きているが、被告はすべて電話会社で、地権者の責任が問われたことはない。

しかし、わたしが現場を取材した限りでは、基地局設置に反対している住民は、電話会社だけではなくて、地権者に対しても怒りを感じている。住民の健康を犠牲にして、賃料収入を得ているからだ。

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2014年11月14日 (金曜日)

ソフトバンクの資料で裏付けられた総務省の電磁波対策の誤り、現在の基準値を10万倍厳しくできる決定的根拠

携帯電話の基地局設置をめぐり各地で住民とのトラブルを起こしているソフトバンクが、神戸市の住民グループに提示した資料が興味深い。「電波測定結果報告書」と題する次の書面である。

「電波測定結果報告書」PDF

ソフトバンクの広報部は、13日、この書面が間違いなく同社が作成したものであることを認めた。それはある意味では、大変な勇気である。無線通信事業を展開している企業にとって、極めて不利に作用するからだ。

この資料の存在は、11日付け「黒書」でも紹介した。次の記事である。

参考記事: マイクロ波の規制値を大幅に厳しくできる決定的証拠、ソフトバンクが測定した電力密度は国の規制値の5204万分の1

簡単に概略を説明しよう。神戸市鈴蘭台でソフトバンクと住民の間で、基地局設置をめぐるトラブルが発生した。住民は、基地局の撤去を求めている。一方、ソフトバンクは、基地局の安全性を主張する。

その根拠としてソフトバンクが住民に提出したのが、「電波測定結果報告書」である。そこにはソフトバンクが、現地で測定した電波密度が示されている。たとえば次の数値である。

SBの測定値:0.000019215808μW/c㎡

(電波測定結果報告書では、[mW/c㎡]の単位が使われているので、規制値の単位と同様に[μW/c㎡]に換算した)

「0.000019215808μW/c㎡」が総務省が定めた規制値をクリアーしているから、基地局は安全だというのがソフトバンクの主張である。
その総務省が定めている規制値とは、次の値である。

総務省の基準値:1000μW/c㎡

ソフトバンクが測定した数値は、規制値の5204万分の1である。実際、そのことがこの書面には明記されている。

ちなみに世界一厳しい規制値(厳密には、目標値)を設けているのは、ザルツブルク市である。

ザルツブルク市の目標値:0.0001μW/c㎡

ソフトバンクが公表した測定値は、「0.000019215808μW/c㎡ 」であるから、ザルツブルク市の目標値を軽々とクリアーしているのだ。

さて、ここからが重要事項だ。

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2014年11月11日 (火曜日)

マイクロ波の規制値を大幅に厳しくできる決定的証拠、ソフトバンクが測定した電力密度は国の規制値の5204万分の1

次のPDF書面は、ソフトバンクが2003年2月7日に神戸市鈴蘭台にある携帯基地局の周辺で測定した電力密度である。

電波測定結果報告書PDF

この地区では、ソフトバンクの携帯基地局を撤去させる住民運動がある。ソフトバンクは、住民に安全性をPRするために、電力密度の測定を行い、公表したのだが、その数値は驚くべきものだった。何に驚いたのかといえば、数値の異常な低さである。

その「異常な数値」に言及するまえに、比較の基準にする代表的な規制値を紹介しておこう。

日本の総務省が定めている規制値は:1000μW/c㎡

 EUの提言値:0.1μW/m2 (室内は0.01μW/c㎡  )

  ザルツブルク市の目標値:0.0001μW/c㎡

これに対してソフトバンクが神戸市で測定した数値は、たとえば、③の地点では、次のようになっている。

0.000019215808μW/c㎡

(電波測定結果報告書では、[mW/c㎡]の単位が使われているので、規制値の単位と同様に[μW/c㎡]に換算した)

この数字を見て、読者は違和感を感じないだろうか?まず、世界一厳しいザルツブルク市の目標値である0.0001μW/c㎡よりも、はるかに安全な数値になっていることである。

ザルツブルク市の場合、目標値であるから、実際には目標値よりも高い数値が観測される可能性が高い。しかし、そのザルツブルク市の目標値を、ソフトバンクは軽々とクリアーしているのだ。

総務省が定めている規制値1000μW/c㎡と、ソフトバンク測定の0.00001921580μW/c㎡を比較すると、約5204万分の1になる。

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2014年11月06日 (木曜日)

携帯基地局のマイクロ波の規制値は世界的に緩い傾向、背景に人的被害よりも産業優先の国策

携帯基地局から発せられるマイクロ波の規制値には、グレーゾーンが多い。それゆえに誤解を招きやすい。

次に示すのは、2011年に総務省が発表した「平成22年度 電波防護に関する国外の基準・規制動向調査」と題する文書に記された国別の規制値である。1800メガヘルツの基地局を対象とした換算値である。

米国:1000μW/c㎡

カナダ:1000μW/c㎡

スウェーデン:900μW/c㎡

ノルウェー:900μW/c㎡

デンマーク:900μW/c㎡

ベルギー:225μW/c㎡

フランス:900μW/c㎡

英国:900μW/c㎡

ドイツ:900μW/c㎡

オーストリア:900μW/c㎡

スイス:6.6μW/c㎡

イタリア:100μW/c㎡(被曝限界) 、10μW/c㎡(注意値)

ギリシャ:441μW/c㎡

ロシア:100μW/c㎡

ポーランド:10μW/c㎡

この資料によって、わたし自身、マイクロ波の規制値に関する事実認識を改めなければならないことを自覚した。

これまでわたしは日本の規制値(日本:1000μW/c㎡ )だけが特別に緩やかで、欧米では規制値が厳しい傾向があると考えてきた。「黒書」にもそれを前提とした記述がある。

しかし、客観的に見ると、世界的に規制値が緩やかな傾向があり、例外的にスイスやポーランドなど低い国があると考えるのが、より事実に近いようだ。

あるいは、欧米では国とは別に、自治体や機関が独自にマイクロ波の規制値(厳密には、提言値や目標値)を定めているケースがあり、これらの数値は、国が定めている数値よりも極めて厳しいというのが事実である。

たとえばオーストリアの規制値は、900μW/c㎡ であるが、同国のザルツブルグ市の目標値は次に示すように極めて低い。

ザルツブルグ市:0.0001μW/c㎡

また、EUの提言値は次の値になっている。

EU:0.1μW/c㎡ (室内0.01)

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2014年10月28日 (火曜日)

視覚障害者にも容赦しないソフトバンク、今年4月から多摩市で携帯基地局の設置をめぐるトラブル

巨大ビジネスを展開するソフトバンクが、住民との間で次々とトラブルを起こしている。今年になってわたしが把握したものだけでも、3件。そのうちのひとつ、東京都多摩市のケースを紹介しよう。人権問題の側面が顕著に現れている。

◇携帯基地局と癌のリスク

初老にさしかかったころ両眼の視力を失った吉田綾子(仮名)さんは、今年の春から電磁波問題に巻き込まれている。吉田さんの自宅は、屋上に携帯基地局が設置された低層マンションの真向かいにある。窓を開けると、目と鼻の先に基地局が聳えているが、吉田さんはそれを自分の眼で確かめることができない。

ソフトバンクがこの基地局を設けたのは、半年前の4月だった。今のところ同社は、住民の抗議を受けて基地局を稼働させていないが、稼働が始まると、光が遮断された吉田さんの世界に容赦なくマイクロ波が忍び寄ってくる。

携帯基地局から放射されるマイクロ波による人体影響は、日本ではあまり報じられないが、世界的な問題になっている。二〇一一年にWHOの外郭団体である国際癌研究機関が発がん性の可能性を認定するなど、マイクロ波は健康リスクを高めると考えるのが常識になっている。世界各地で行われてきた疫学調査でも、危険を示す結果が導き出されている。

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2014年10月14日 (火曜日)

NTTドコモが茅ヶ崎市で、住民の反対を押し切って携帯基地局を稼働、隣接するマンション住民らの怒り心頭に

マンションやオフィースビルの屋上に携帯基地局が設置された場合、マイクロ波の影響を直に受けやすいのは、隣接するビルに住む人々である。

もっとも実際に電磁波密度を測定すると、基地局の真下で高い数値が測定されることもあり、厳密にはどの位置が高リスクであるかは一概に断定できないが、少なくとも理論上は、基地局があるビルの住民よりも、むしろ隣接するビルの住人の方が被害を受けやすい。マイクロ波に直撃されるからだ。

◇工事のペンディングを申し入れ

神奈川県茅ケ崎市は、人口24万人。湘南海岸に面した首都圏のベットダウンである。

茅ヶ崎市の○○地区で携帯基地局の設置をめぐる問題が勃発したのは、2012年の10月だった。住民の鈴木直人(仮名)さんが、自らが住むマンション群と境界を接する6階建てマンションの屋上に、工事用の足場が組まれているのを発見し、作業員に事情を尋ねたところ、NTTドコモが基地局を設置する計画が判明したのである。鈴木さんが言う。

「常識的に考えて強い電波を発するものを、住居のすぐ近くに設置するのは、危険ではないかと思い、工事を一旦ストップするようにお願いしました」

鈴木さんが住むマンションは、1棟を除いてすべて5階建てである。このうち基地局が設置されたマンションと通路や庭を挟んで向き合っている棟は、基地局からのマイクロ波を直射される可能性が高い。それにもかかわらずNTTドコモは、基地局設置についての何の通知もしなかったことに、鈴木さんらは納得できなかった。

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2014年09月19日 (金曜日)

携帯基地局のマイクロ波による健康被害を問う延岡大貫訴訟が結審、不自然な裁判長交代劇の背景に何が?

日本の裁判所は、良心に誓って公正・中立な判決を下しているのだろうか?
隣人同士のささいな争いの仲裁であればともかくも、国策にかかわる問題をはらむ事件となれば、最高裁事務総局が審理の進行に目を光らせているのではないか?法廷を重ねるにつれて、そんな懸念を浮上させた裁判が9月5日に結審した。

舞台は、宮崎市にある福岡高裁宮崎支部である。3階建てアパートの屋上にKDDIが設置した携帯電話基地局の操業差し止めを求めて、延岡市大貫の住民30名が、宮崎地裁延岡支部へ提訴したのは2009年12月。敗訴。そして控訴。裁判は開始からまもなく5年になる。

延岡大貫訴訟は、基地局からのマイクロ波により、実際に発生した健康被害を理由に、基地局の操業停止を求めた全国ではじめての裁判だった。携帯電話の通信に使われるマイクロ波が将来的に人体に影響を及ぼすことを懸念して、予防原則の立場から裁判が提起された例は、それまでに数件起きていた。

しかし、延岡大貫訴訟は、マイクロ波による人体影響が世界的な共通認識になり始め、実際に被害が多発し始めた時期に起こされたのである。ちなみに2011年5月、WHO傘下の国際癌研究機関は、マイクロ波に発癌性がある可能性を認定している。

それだけに裁判は注目を集めた。NHKを除く多くのメディアが、新聞は地方版で、テレビはローカル放送で裁判の進行を報じてきた。本来は全国紙で報じなければならない大問題であるが、現場の記者の努力により、かろうじて地元では報じられてきたのである。

宮崎地裁延岡支部の太田敦司裁判長は、判決の中でKDDI基地局の周辺に住む人々の間に、耳鳴り、頭痛、不眠、鼻血などの症状が現れた事実を認定した。と、なれば当然、KDDIに対して操業の中止を命じる判決を下すのが道理である。

が、無線通信網の整備という利権がらみの国策が介在すると、そうはならなかった。住民たちが訴える種々の症状は、「ノセボ効果」が引き起こしたものであると認定したのだ。「ノセボ効果」とは、端的に言えば、「思い込み」のことである。地裁の太田氏は、判決の中で次のように述べている。

原告らその他の住民の中には、反対運動などを通じて電磁波の危険性についていの情報を得たことにより、電磁波の健康被害の不安を意識したことや、被告の対応に対して憤りを感じたことなどにより、もともとあった何らかの持病に基づく症状を明確に意識するようになったり、症状に関する意識が主観的に増幅されていき、重くとらえるようになった者がいる可能性がある。

太田氏がどの程度、「ノセボ効果」について理解しているのかは不明だが、少なくとも健康被害と「ノセボ効果」の因果関係を司法認定するのであれば、両者を論理的に関連づけなければならない。たとえば住民の間で見られる鼻血と「ノセボ効果」の関係である。医学的な論考が難しければ、鼻血と「ノセボ効果」の関係を示す疫学調査の事例を判決の中で提示すべきだろう。

が、判決を読む限りでは、そのような考察はどこにも見られない。こうした基本的な点を無視しているために、判決文は論理が極端に飛躍している印象をまぬがれない。結論先にありきの判決なのだ。

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2014年09月18日 (木曜日)

携帯基地局から200メートル以内、発癌リスクが極めて高い、ブラジルの調査でも判明、日本では秘密保護法の施行で情報ブロックも

ブラジルのベロオリゾンテ市は、ブラジル南東部、標高約 800 メートルに建設された計画都市である。人口は約240万人。

この市をモデルとして携帯電話の通信に使われるマイクロ波と癌の関係を調べる調査が行われたことがある。結果が公表されたのは、2011年5月。おりしもWHO傘下のIARC(国際がん研究機関)が、マイクロ波に発癌性(遺伝子毒性)がある可能性を認定した時期である。

調査は役所が保管している携帯基地局の位置を示すデータ、市当局が管理している癌による死亡データ、それに国勢調査のデータを横断的に解析したものである。対象データは、1996年から2006年のもの(一部に欠落がある)である。

結論を先に言えば、基地局から半径500メートルの円周内で、癌のリスクが高くなることが分かった。1万人あたりの癌による死亡数と、基地局からの距離は、次のようになっている。明らかな相関関係が浮上する。

距離 100mまで:43.42人
距離 200 mまで:40.22 人
距離 300 mまで:37.12 人
距離 400 mまで:35.80 人
距離 500 mまで:34.76 人
距離 600 mまで:33.83 人
距離 700 mまで:33.80 人
距離 800 mまで:33.49 人
距離 900 mまで:33.21人
距離 1000mまで: 32.78人
全市        :32.12 人

検証対象のエリアに複数の基地局がある場合は、最初に設置された基地局からの距離を採用した。そのために汚染源の基地局を厳密に特定できない弱点はあるが、大まかな傾向を把握していることはほぼ間違いない。

基地局から200メートル以内は極めて危険性が高い。

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