2014年12月04日 (木曜日)
明日、携帯基地局の放射線による健康被害を問う延岡大貫訴訟の判決、司法の劣化を象徴する「事件」が頂点に
宮崎県延岡市の住民30人が、KDDIの基地局がまき散らしている放射線(マイクロ波)が原因で健康被害を受けたとして、KDDIに対して稼働停止を求めた裁判の控訴審判決が、明日(5日)、福岡高裁・宮崎支部で言い渡される。
この裁判は、2009年12月に提起されたもので、基地局問題を象徴する事件として、全国の注目を集めてきた。
第1審は原告の敗訴。原告が控訴していた。
勝敗について、結論を先に言えば、控訴審で原告が勝訴する確率は、限りなくゼロに近い。裁判の進行そのものが尋常ではなかったからだ。
そのために、皮肉にも電磁波問題だけではなくて、日本の司法制度が内包する「闇」も露呈することになった。
◇論理が破たんした地裁判決
周知のように携帯基地局から放射される放射線(マイクロ波)が人体に悪影響を及ぼすとする説は、年々、説得力を深めている。2011年には、WHOの外部団体である世界癌研究機関(IARC)が、マイクロ波に発癌性の可能性
があることを認定している。
実際、ドイツ、イスラエル、ブラジルなどで行われた疫学調査では、携帯基地局の周辺に住む人々の間で、癌が多発していることが分かった。
インドのムンバイ市では、最高裁の司法判断を背景に、3200の基地局が撤去の対象になっている。
こうした世界の動きを見据えると、当然、延岡大貫訴訟は原告を救済するのが常識だが、第1審では、健康被害の発生は、客観的な事実として司法認定されたものの、基地局の稼働中止はそのまま続けてもいいことになった。
司法がKDDIのビジネスを救済したのである。
裁判所がその根拠としたのは、俗にいう「ノセボ効果」による健康被害であるとの判断である。「ノセボ効果」とは、思い込みによって生じる症状のことである。判決は、次のように「ノセボ効果」を認定して、KDDIを勝訴させた。
原告らその他の住民の中には、反対運動などを通じて電磁波の危険性についての情報を得たことにより、電磁波の健康被害の不安を意識したことや、被告の対応に対して憤りを感じたことなどにより、もともとあった何らかの持病に基づく症状を明確に意識するようになったり、症状に関する意識が主観的に増幅されていき、重くとらえるようになった者がいる可能性がある。
健康被害という客観的な事実と、「ノセボ効果」を結びつけるには、科学的な根拠が不可欠であるが、判決文では、それが完全に欠落しているので、判決全体を通読した時、論理が完全に破たんしていることが分かる。「論文」としては、失格のレベルである。
それにもかかわらず判決は効力を持ち、現在も延岡市の原告を苦しめている。
◇不自然な裁判長交代
福岡高裁延岡支部で控訴が始まったのは、2013年の春だった。裁判が始まって間もなく、裁判長の交代があった。新しい裁判長は、福岡地裁から赴任してきた田中哲郎氏だった。
この田中氏、実は、過去に3度、携帯基地局がらみの裁判を担当して、3度住民を敗訴させた方である。その田中氏が、わざわざ宮崎に赴任して、延岡大貫訴訟を担当したのである。
最高裁事務総局が、KDDIを勝訴させるために、田中氏を宮崎に送り込んだと考えるのが自然ではないか。
ちなみに田中氏は、わたしが読売新聞社を訴えた裁判でも、途中から裁判長になり、わたしの本人尋問を拒否している。わたしの陳述書も、弁護団から厳重な抗議を受けるまで、受け取ろうとはしなかった。
そこで田中氏に対する忌避(きひ)を申し立てたが棄却された。もちろん、裁判はわたしの敗訴だった。
◇訴訟を起こす意義
延岡大貫訴訟で、原告が勝訴する可能性はほとんどない。しかし、提訴したことで、携帯基地局の放射線問題が全国に広がった。多くの人々が、基地局の近くに住んで、放射線を浴び続けるリスクを認識したのである。
その意味では、勝敗にかかわりなく裁判を起こすことは大事だ。今後、基地局問題では、電話会社の基地局を設置するためのスペースを貸している地権者も法廷に立たせることが大切だ。健康被害の責任の一端は、地権者にもあるからだ。