2015年01月12日 (月曜日)
NTTドコモのインド戦略に暗雲、背景に携帯基地局の設置を厳しく規制する動き
『東洋経済(電子版)』(1月10日)に、「NTTドコモの誤算、インド投資撤退に難航、投資先の通信会社は960億円の債務超過」と題する記事が掲載されている。インドにおける携帯ビジネスが当初の予想どおりにいかなくなり、撤退しようにも、撤退できなくなったというのだ。
インドの投資案件から撤退を決めていたNTTドコモが、退くに退けない状況に陥っている。懸案は2009年に行った投資だ。ドコモは現地の通信事業者であるタタ・サービシズリミテッド(以下、タタ社)に合計2670億円を出資し、株式の26.5%を保有している。
だが、厳しい競争環境に加えて、獲得した電波が割り当てられないという誤算続き。業績は赤字で、投資から5年で減損など2220億円もの関連損失を計上している。
実は、インドで携帯ビジネスを進めている企業は、NTTドコモに限らず、大きな壁に突き当たっている。現地を取材していないので、確定的なことは言えないが、その大きな背景には、日本では報じられていないある決定的な事情があるのだ。
結論を先に言えば、携帯基地局の設置が極めて厳しく規制されるようになったのだ。その背景については、MEDIA KOKUSYO(2014年11月28日)で紹介した次の記事に詳しい。
インドで携帯基地局の規制がはじまる
ムンバイ市が、学校、大学、孤児院の近くでの携帯基地局設置を禁止
インドで最も人口が多いムンバイ市は、2013年8月、学校、大学、孤児院、児童リハビリテーション施設、それに老人ホームから100メートル以内に携帯基地局を設置することを禁止した。同市は、学校や大学、それに病院などに設置されているアンテナを撤去するように命じた。
さらにムンバイ市は、マンションの最上階に住む全居住者の承諾と、マンション居住者全体の70%の承諾がない場合、住宅の屋根にアンテナを設置することを禁止した。
これにより法律に抵触する状態で設置されている3200の基地局の撤去が始まった。この政策は、もともと2013年1月に発案されたもの。(略)
ムンバイ市があるマハラシュトラ州の州政府は、2013年10月の中旬、放射線の規制値を10倍厳しくするかわりに、ムンバイ市の方針を採用しない試案を発表した。現在、州政府と市当局の交渉が続いている。(黒薮訳)
◇理工系の先進国・インド
欧米こそが科学技術の先進国という偏見に支配されている人々は、インドが理工系の先進国に近づいている事実を冷静に受け止めるようとはしない。インドは、マイクロ波が生態系に及ぼす研究でも先端を走っている。
たとえば現在の段階では、ほとんど着手されていないマイクロ波が植物に及ぼす影響について、インド工科大学のギリッシュ・クマール教授は、『基地局からの放射に関するレポート』(Report on Cell tower Radiation,2010)で次のように述べている。
携帯局タワーから放たれる電磁放射は、その付近の野菜、穀物、果実などの植物に影響を及ぼす。携帯電話用のEMFは種子を枯らし、発芽と根の成長を阻害し、穀物、果実、植物の成長に、農業全体に影響を与えることを、研究結果が決定的に示している。高圧EMF送電線近くの麦畑・トウモロコシ畑の減収も報告されている。(渡邉建訳)
◇海外派兵の目的は?
インドで携帯基地局の設置に厳しい規制が課せられるようになった事実は重い。今後、欧米でも同じ傾向が現れる可能性が高い。
ただ、日本の場合、自民党と民主党に対して、IT関連の業界から多額の政治献金が行われているので、規制が大幅に遅れる可能性が高い。当然、人的被害も拡大することになるだろう。献金の実態については、次の記事を参考にしてほしい。
■携帯ビジネス関連の企業から、自民党の政治資金団体へ多額の献金、日本電機工業会から5000万円、ドコモから600万円、東芝から1400万円、2大政党制の影のカラクリ
NTTドコモのケースは、日本政府の立場からすれば、単に日本企業1社の権益にかかわる問題なので、傍観せざるを得ないが、かりにインドに進出している日本企業全体の権益にかかわるような問題が起きた場合、どのような措置が取られるのだろうか。おそらく、条件さえ整えば、それは海外派兵である。そのために安倍内閣は、改憲を急いでいるのである。
海外派兵は、国際貢献が目的ではない。経済がグローバル化する中で、多国籍企業の権益を守ることが本当の目的なのだ。しかも、安倍内閣は、それを日本単独でも行える体制を整えようとしている。
かつて海外派兵といえば、他国を植民地化することだったが、現在は、企業防衛が最大の目的になっている。同じ派兵でも、太平洋戦争時のスタイルに戻そうとしているのではない。そのために血税が注ぎ込まれるのである。