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2021年04月12日 (月曜日)

連載・「押し紙」問題②、「秘密裏に大量廃棄される広報紙」

◆メディアコントロールの温床

2019年の夏、わたしは新聞販売店で働いていたひとりの青年から、東京都江戸川区の広報紙『えどがわ』が日常的に廃棄されているという告発を受けた。告発メールには、販売店の店舗に積み上げられた『えどがわ』を撮影した写真が添付してあった。新聞折り込みを行った後に残ったものである。

わたしは、これだけ多くの水増しされた折込媒体を見たことがなかった。尋常ではないその量に、改めてこの種の不正行為と表裏関係になっている残紙問題が深刻になっていることを実感した。

残紙とは、新聞社が新聞販売店に搬入した新聞のうち、配達されないまま店舗に残った新聞のことである。広義に「押し紙」とか、「積み紙」とも呼ばれている。その正確な定義は次章で説明するとして、ここでは販売店で過剰になっている新聞部数と解釈すれば足りる。

たとえば新聞の搬入部数が4000部であれば、折込媒体の搬入部数も4000部である。販売店へ搬入される折込媒体の部数は、残紙を含む搬入部数に一致させるのが原則的な商慣行になっているのだ。もっとも私企業の折込媒体の場合は、この原則に当てはまらないことがあるが、公共の折込媒体の場合は、両者を一致させることが慣行になっている。

告発者によると、この販売店には大量の残紙があるので、実際に配達している新聞部数よりもはるかに多い部数の『えどがわ』が搬入されるという。その結果、残紙は言うまでもなく、配達後に残った『えどがわ』も古紙回収業者に引き渡しているらしい。それが昔からの慣行だという。

わたしは、告発者に対して、この販売店で発生した残紙の写真を送付するように依頼した。残紙量を確認すれば、廃棄されている残紙と『えどがわ』の量が一致しているかをおおよそ推測することができるからだ。

告発者の青年にこの販売店におけるおよその新聞部数の内訳を尋ねたところ、搬入部数は約4000部で、配達部数(実際に配達している部数、あるいは読者数)は約1300部とのことだった。約2700部が残紙となっている。
当然、残紙2700部に準じる部数の『えどがわ』も、折込料金だけを徴収して廃棄している公算が強い。

◆東京・江戸川区の広報紙を大量廃棄
新聞社経営や販売店経営の汚点は、公権力によるメディアコントロールの決定的な温床になるというのが、かねてからのわたしの仮説である。そこでわたしは、広報紙の水増し問題の調査に着手した。
わたしは、情報公開制度を利用して、2019年度の江戸川区全域における『えどがわ』の新聞折込み枚数(以下、折込定数)を調べてみた。開示された資料によると、それは14万4700部(朝日、読売、毎日、日経、産経、東京)だった。江戸川区全域にある販売店に対して、総計で14万4700部の『えどがわ』が搬入されているのである。

残念ながら、江戸川区全域における新聞の実配部数を示すデータは存在しない。そこで参考までに、江戸川区全域におけるABC部数を調べてみた。

ABC部数というのは、日本ABC協会が定期的に公表している新聞の発行部数である。発行部数なので、この中に残紙も含まれているが、その枚数は分からない。しかし、折込定数がABC部数を超える異常な現象も時々みうけられるので、念のために、『えどがわ』でもこの現象が起きていないかを調べることにしたのだ。

調査の結果、『えどがわ』の折込枚数とABC部数が明らかになった。次のようになる。

『えどがわ』の折込部数:14万4700部
江戸川区のABC部数:13万4303部

ABC部数よりも『えどがわ』の部数の方が約1万部ほど多いことが判明したのだ。つまりたとえ残紙が1部たりともなくても、1万部の『えどがわ』が過剰になっているのだ。内部告発をした青年が送付した写真で明らかになった残紙の実態が、他の販売店でも日常化しているとすれば、大量の『えどがわ』が残紙と一緒に廃棄されていることになる。

◆東京は23区のうち12区で水増し
江戸川区における広報紙の水増し実態が判明したことを受けて、わたしは東京都の全23区を対象として、広報紙の配布実態を調査した。残紙の実態は分からないが、販売店に対する広報紙の割り当て枚数が、ABC部数を超える実態が、江戸川区以外でも起きていないかを調べることにしたのである。

調査の第一ステップとして、まず各区役所の情報公開窓口に、新聞折り込みにより広報紙を配布しているかどうかを問い合わせた。その結果、23区のうち16の区が新聞折り込みによる広報の配布を実施していることが分かった。次の区である。

荒川区、文京区、千代田区 、中央区、江戸川区 、板橋区 、目黒区、港区、練馬区、大田区 、世田谷区、品川区、新宿区、杉並区、墨田区、豊島区

新聞折り込みを実施していない区は、次の7区次である。

足立区、葛飾区、北区、江東区、中野区、渋谷区、台東区

新聞折り込みを実施している16区については、販売店に残紙があれば、たとえ折込枚数が新聞の搬入部数を上回っていなくても、広報紙が水増し状態になっている。

その残紙が各新聞販売店にあるかどうかを、わたしのような第三者が帳簿上で確認することはできない。そこでわたしは折込枚数が新聞のABC部数を上回っているケースだけを「水増し」と定義した。この定義を前提としても、次の12の区で「水増し」の定義に当てはまる実態があることが判明した。

荒川区、文京区、江戸川区、目黒区、港区、練馬区、大田区 、世田谷区、品川区、新宿区、杉並区、豊島区

表(■1の3省略)は、12区における広報紙の発行総部数、折込枚数、それにABC部数の比較一覧である。いずれの区でも折込枚数がABC部数を上回っている。広報紙が水増し状態になっている。その水増し率は、おおむね20%前後であるが、目黒区は29.8%、豊島区は42.7%と突出している。
しかも、これらの水増し率は、残紙が一部も存在しないという前提で計算したものである。残紙の実態については、第3章で詳しく検証するが、少なくとも搬入される新聞のうち2割から3割は、残紙になっているというのが常識的な見方である。そうすると実際の水増し率は、表(■1の3省略)で示したものよりも、はるかに高くなる可能性が高い。

水増し率7・2%の江戸川区ですら、大量に積み上げられた残紙と広報紙が写真撮影されているのである。広報紙の水増しは、放置できない問題といえるだろう。

◆豊島区の広報紙、水増し率43%
12区の中から、もっとも水増し率が高い豊島区のケースをクローズアップしてみよう。豊島区は、広報紙『広報としま』を発行している。同区のウェブサイトによると、「毎月1日は『特集版』と『情報版』を、毎月11・21日は『情報版』を発行」している。「また年に2回、『特別号(としまplus)』(A4冊子版)を全世帯に配布」する。

基本的に区民は、デジタルブック版で『広報としま』にアクセスする制度になっているが、「ほか、日刊紙(朝日・読売・毎日・東京・産経・日本経済)への折り込みや、区内各駅の広報スタンド、区内ファミリーマート、区内公衆浴場、区内郵便局、区施設の窓口にも置いてい」る。「また、区内在住で、新聞を購読していない世帯(企業は除く)で、ご希望のかたに個別配布をしてい」る。戸別配布の部数は、同区の広報課によると、月に4000部程度である。

『広報としま』の折込枚数、ABC部数、水増し部数、水増し率は次の通りである。

新聞折込部数:76、500部
ABC部数:43、722部

過剰になった『広報としま』の部数は、32、778部である。水増し率にすると43%にもなる。残紙があれば水増し率は、さらに高くなる。そしてその可能性は、現在の新聞業界の状況からすると極めて高い。

さらにわたしは、過去10年にさかのぼって、『広報としま』の水増し実態を調査した。その結果、少なくとも2010年から水増し状態になっていたことが判明した。(◆ただし、資料そのものの入手が困難な年度が含まれている)

直近の2020年度の場合、ABC部数が3万7236部しかないのに、7万4950部の『広報としま』が発注・受注されていた。たとえ残紙が一部たりともなくても、4万部近くが配達されずに廃棄されていることになる。

改めていうまでもなく、広報紙の水増しが発覚した自治体は、東京23区のうちの12区だけではない。たとえば千葉県の場合、船橋市、流山市、柏市、山武市などで同じ問題が発覚している。しかも、これらの自治体における不正行為は、わたしが抜き打ち的に調べた結果、発覚したものである。全自治体を調査すれば、さらに不正常な状態にある自治体の存在が浮上する可能性が高い。

このうち山武市は、問題が発覚した後、2021年4月から新聞折り込みによる広報紙の配布を廃止して、全戸配布に切りかえた。流山市では、NHK党の市議がこの問題を追及し、市当局は調査をして、不正があれば改めると約束した。

念のために補足しておくが、地方自治体の職員はおそらく故意に広報紙の水増しを放置しているわけではない。新聞社がからんでいる事業で、公然と不正行為が行われていることが想像できないのである。

◆首都圏・一都三県の広報紙の水増し

都道府県の広報紙も、水増し状態になっている場合がままある。わたしは全国の各都道府県の県庁に対して、広報紙の配布方法についての問い合わせを行った。その結果、約3分の1程度の自治体で、新聞折り込みによる広報紙配布が行われていることが分かった。調査結果のうち、首都圏(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)のケースを紹介しよう。【続きはウェブマガジン】

2021年04月06日 (火曜日)

連載・「押し紙」問題①、「記者の志がジャーナリズムを変えるという幻想」

ウェブマガジン(有料)「報道されないニュースと視点」で、「押し紙」問題を新しい視点から捉えたルポルタージュを連載します。タイトルは、『「押し紙」とメディアコントロールの構図』。「押し紙」問題と折込広告の水増し問題についての最新情報を紹介すると同時に、新聞ジャーナリズムが機能しない客観的な原因を、「押し紙」を柱とした新聞のビジネスモデルそのもの汚点という観点から探ります。

1回目の序章の部分は、全文公開とします。 ■購読はここから

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◆記者の志がジャーナリズムを変えるという幻想

新聞ジャーナリズムが権力監視の役割を果たしていないという指摘は、かなり以前からあった。新聞を批判してきた識者は数知れない。読者は、次の引用文がいつの時代のものかを推測できるだろうか。

【引用】たとえば、新聞記者が特ダネを求めて“夜討ち朝駆け”と繰り返せば、いやおうなしに家庭が犠牲になる。だが、むかしの新聞記者は、記者としての使命感に燃えて、その犠牲をかえりみなかった。いまの若い世代は、新聞記者であると同時に、よき社会人であり、よき家庭人であることを希望する

この記述は、1967年、日本新聞協会が発行する『新聞研究』に掲載された「記者と取材」と題する記事からの引用したものである。

50年以上前の新聞批判だが、現在でもこの種の新聞批判は絶えない。新聞ジャーナリズムが衰退した原因を記者個人の志の問題として捉える類型の典型である。この種の思考の根底には、記者の熱意ひとつで新聞はジャーナリズムになり得るという考え方がある。

1997年、日本新聞労働組合連合(以下、新聞労連)は、「新聞人の良心宣言」なるものを発表した。この宣言もやはり新聞記者が記者としての倫理観を身に着けることの重要性を強調するなど、記者の精神の在り方こそが新聞ジャーナリズムを立て直すための鍵であるという観点に立って作られたものだ。少なくともわたしは、そんなふうに解釈した。経営上の客観的な汚点がメディアコントロールの決定的な道具になるり、そこにメスを入れることが問題を抜本的に解決する道筋であるという認識は読みとれない。 端的に言うと記者に向けた精神論なのである。

「宣言」の「はじめに」の一部を印引用してみよう。

【引用】新聞が本来の役割を果たし、再び市民の信頼を回復するためには、新聞が常に市民の側に立ち、間違ったことは間違ったと反省し、自浄できる能力を具えなくてはならない。このため、私たちは、自らの行動指針となる倫理綱領を作成した。他を監視し批判することが職業の新聞人の倫理は、社会の最高水準でなければならない。

さらに『創』(2012年4月号)に掲載された「危機に瀕した新聞界の再生は可能か」と題する座談会でも、新聞関係者は新聞ジャーナリズムの衰退を記者個人の職能や精神の問題として捉える従来の傾向が見られる。たとえば発言者のひとりである共同通信編集主幹の原寿雄氏の次の発言である。

【引用】社会的な立場・身分として、今の記者は企業ジャーナリストであって、職業ジャーナリストになっていない。企業ジャーナリストとしてのマインドが、従順なジャーナリズム、政府と一体化するジャーナリズムを作ってしまっていると思います。私はその事を問題視してきたのですが、突破口が見つけられませんでした。
 その根本には、戦争報道の反省が薄いという問題があると思います。

これら3件の記述が説いている考え方が頭から間違っているわけではないが、日本の新聞ジャーナリズムが機能しない背景には、もっと別次元の客観的な問題があるというのが、これからわたしが展開する論考である。

記者個人の志というスタンスに立った新聞ジャーナリズムの改革には限界がある。その理由は簡単で、日本の新聞社は、公権力が合法的に介入できる経営上の汚点を内包しているからだ。政府、官庁、警察、裁判所などの公権力は、新聞社経営の汚点に着目することでメディアをコントロールできる。逆説的に言えば、新聞人は経営の安定を図るために、公権力と暗黙の情交関係を構築せざるを得ない構図になっているのだ。

しかし、公権力と新聞の特殊な関係は今に始まったことではない。たとえば新聞研究者の故新井直之氏は、『新聞戦後史』(栗田出版)の中で、戦前から戦中にかけて行われた言論統制のアキレス腱となっていたのが、公権力による新聞社の経営部門への介入であったことを指摘している。

新井氏は、日中戦争が原因で新聞用紙の使用制限令ができたことを説明した後、「1940年5月、内閣に新聞雑誌統制委員会が設けられ、用紙の統制、配給が一段と強化されることになったとき、用紙制限は単なる経済的意味だけではなく、用紙配給の実験を政府が完全に掌握することによって言論界の死命を制しようとするものとなった」と指摘している。
新井氏はみずからの説を裏付けるために、「新聞指導方針について」(1940年2月12日)と題する文書を紹介している。

【引用】・・幸ひここに新聞用紙の国家管理制度が現存する。現在商工省に於いてはこの用紙問題を単なる物質関係の『事務』として処理しているが、もしこれを内閣に引取り政府の言論対策を重心とする『政務』として処理するならば、換言すれば、政府が之によつて新聞に相当の『睨』を利かすこととすれば、新聞指導上の効果は実績を期待し得ることと信ずる。
 ・・・之を要するに現下の情勢では、新聞に対し有効な指導を行使し得る方法は新聞の『企業』を掣肘する方法以外にはないのである。」

新井氏は、新聞報道を統制する手段として、公権力が新聞社の経営部門へ介入することを政策として行っていたことを指摘しているのである。こういう事情は今でも変わらない。「押し紙」や折込媒体の水増しといった不法行為を、公権力が黙認することで、新聞業界は高い利益を得る。大企業として存続してきた。それを取り締まれば、新聞社経営がたちまち成り立たなくなる構図がある。
その構図が生み出す実態、あるいはビジネスモデルがどのようなものなのか、これから検証していこう。

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2021年04月05日 (月曜日)

新聞折込を止めた山武市の英断、全国に広がるか?

千葉県山武市は、4月を機に同市が発行する『広報さんむ』の配布方法を、新聞折り込みから全戸配布(ポスティング)に切りかえた。『広報さんむ』が新聞販売店の店舗で大量に廃棄されている実態を、地元の『山武ジャーナル』(鈴木まさや代表)が丹念に調査して告発した結果だった。ジャーナリズム活動の成果にほかならない。

広報紙の大量廃棄の背景には、新聞社による「押し紙」政策がある。広報紙の折込み枚数は、新聞の搬入部数に準じて決める商慣行があり、その結果、新聞の配達部数を超えた『広報さんむ』が販売店に搬入され、配達されることなく、古紙回収業者によって回収・廃棄されていたのである。

同じような実態が全国各地にあるが、新聞社の「屋台骨」を批判すること対して委縮するメディアが多く、未だに解決に至っていない。「押し紙」制度(定数制度ともいう)は、少なくとも1970年代から水面下で問題になってきた。

山武市が『広報さんむ』の配布方法をポスティングに切り替えたのに伴い、鈴木代表がコラムを発表した。山武市における広報紙廃棄の実態が克明に描かれている。

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【編集長コラム】新聞折込を止めた山武市の英断、全国に広がるか?

山武市の広報紙「広報さんむ」の配布方法が、令和3年4月号から全戸ポスティングに変更され、4月1日には緑と白の帽子をかぶって自転車や徒歩で広報を配布しているシルバー人材センターの会員さんを、市内のあちこちで見かけるようになりました。

それまで山武市は「山武市新聞折込組合(代表:齋藤逸朗)」を通じて、新聞折込で方法を配布していましたが、組合の代表である齋藤逸朗氏が経営する「(有)齋藤ニュースサービス=YC成東」の店頭で、配達されない大量の新聞が古紙回収車に積み込まれたり、配送センターから納品された新聞が、配達に持ち出されず大量に取り残されていた様子などが確認され、組合の申告する折込数が世帯数を上回るなど明らかに過大であったことも明らかになりました。【続きは、「山武ジャーナル」】

 

2021年04月03日 (土曜日)

横浜副流煙事件を「虎ノ門ニュース」が報道、日本禁煙学会を鋭く批判

メディア黒書で取り上げてきた横浜副流煙事件が、4月2日、インターネットのニュース番組「虎ノ門ニュース」で大きく報じられた。武田邦彦氏と須田慎一郎氏による解説と評論で、的を得た内容だった。「日本禁煙学会」と称する団体そのものの異常さを指摘するものだった。

このタイミングで「虎ノ門ニュース」が横浜副流煙事件を取り上げたことで、3月31日に、医者や科学者や市民が行った作田学・日本禁煙学会理事長に対する刑事告発の行方も注目される。医師法20条違反で刑事処分を受けた場合、次は医師免許に関して、厚生労働省から何らかの処分を受ける可能性がある。

ニュース番組は、日本禁煙学会の実態、作田氏による医師法20条違反、作田氏が勤務していた日赤医療センターの責任、弁護士による異常行動などにも言及している。タブーを排した内容である。

 (横浜副流煙裁判は、26分~)

2021年04月01日 (木曜日)

横浜副流煙事件、刑事告発の窓口が東京地検特捜部から青葉署へ変更、告発人らが告発状を再提出

日本禁煙学会の作田理事長に対して7人の市民が起こした刑事告発の扱い窓口が、東京地検特捜部から、青葉警察署(横浜市)へ変更になった。

既報したように医師ら7人は、3月29日に、告発状を東京地検特捜部へ提出した。その後、特捜部の担当者から告発人の代理人弁護士に連絡があり、横浜副流煙事件の発祥地である横浜市青葉区を管轄する青葉署へ、告発状を再提出するようにアドバイスがあった。代理人弁護士と特捜部の担当者が話し合い、最終的に窓口を青葉警察に変更することなった。

これを受けて首都圏在住の4人の告発人と弁護士は、31日の午後、青葉署に赴き刑事と面談し、書面一式を手渡した。刑事は、告発人から詳しく事情を聞いた後、犯罪を構成する要素が真実であれば、基本的には受理すると述べた。

◆事件と青葉署のかかわり

問題になっている3通の診断書を作田医師が作成したのは、2017年4月である。3通のうちA娘の診断書が交付された4月19日に、A娘らの山田義雄弁護士らは、それを待っていたかのように、藤井将登さんに宛てて家庭内での禁煙を求める内容証明郵便を送付した。この時点から、後に疑惑が浮上する診断書の濫用が始まったのである。

診断書は内容証明の裏付けだけではなく、青葉署に捜査を依頼する根拠にも使われた。山田弁護士らは、当時、神奈川県警の本部長の座にあった斉藤実氏(現在は、警視総監)らに接触して、2度に渡り青葉署の署員5人を藤井家に送り込み、取り調べをさせた。

しかし、煙草臭や吸いがらなど、煙草の痕跡は発見されなかった。

当時、取り調べにあたった望月刑事は、藤井将登さんの妻・敦子さんに対して、真摯に謝罪している。当時の署長や刑事の大半は、すでに異動しているが、敦子さんによると、望月氏は異動前に、この案件がうやむやにならないように、確かな引き続き体制を作ること約束した。(冒頭のユーチューブ参照)

◆◆◆
3月31日の青葉署での面談で、敦子さんは、2017年にこの事件を担当した5人の名前を明らかにした。約3年半のブランクを経て、青葉署が別の新しい観点から、事件の捜査に再着手する可能性が高い。

本ページ冒頭のインタビューは、藤井敦子さんが、当時の担当刑事・望月氏に対して行ったものである。望月氏は、2017年の捜査が間違いであったことを実質的に認めている。貴重な記録である。

 

2021年03月30日 (火曜日)

横浜副流煙事件、刑事告発のプレスリリース全文公開、診断書の悪用に警鐘

日本禁煙学会の作田学理事長を東京地検特捜部へ告発するに先だって、告発人7名のうち4名は、29日の午後、厚生労働省記者クラブで会見を開いた。その最に配布したプレスリリースは、次の通りである。

■写真説明:「化学物質過敏症レベルⅣ 化学物質過敏症」と同じ病名が2度記されている。また、化学物質過敏症では、レベル判定は行わない。この診断書とは別の診断書も存在する。そこには、「受動喫煙症レベルⅣ、化学物質過敏症」と記されている。しかし、受動喫煙症という病名は、世界標準の疾病分類であるICD10コードには存在しない。

 

【プレスリリース全文】

わたしたち7名の告発人は、3月29日の午後、東京地検特捜部へ日本禁煙学会・作田学理事長に対する告発状を提出します。事件の概要は次の通りです。

■事件の概要
この事件は、煙草の副流煙をめぐる隣人トラブルを発端としたものです。

2017年11月21日、A娘とその両親は、同じマンションの下階に住む藤井将登が吸う煙草の煙で「受動喫煙症」などに罹患したとして、喫煙の禁止と約4500万円の損害賠償を求める裁判を横浜地裁へ提訴しました。被告にされた藤井将登はミュージシャンで、自宅マンション(1階)の一室を仕事部屋にあてていました。その部屋は音が外部にもれない密封構造になっていて、煙草の副流煙も外部へはもれません。しかも、藤井将登は仕事柄、自宅にいないことが多く、自宅で仕事をする際も喫煙量は、煙草2,3本程度に限定されていました。

A娘らは、藤井将登と同じマンションの2階に住んでいます。ただし藤井宅の真上ではありません。真上マンションの隣に位置する住居です。つまり原告と被告の位置関係は、1階と2階を45度ぐらいの直線で結んだイメージになります。

この高額訴訟の根拠となったのが、A娘とその両親のために作田医師が作成した3通の診断書でした。特に審理の中心になったのは、A娘の診断書でした。作田氏は、A娘を直接診察せず、「受動喫煙症」という病名を付した診断書を交付しました。

ちなみに裁判の中で、A娘の父親に約25年の喫煙歴があったことも判明しました。
一審の横浜地裁判決は、2019年11月28日に言い渡されました。藤井将登の完全勝訴でした。原告の訴えは、体調不良という事実認定を除いて、なに一つ認定されませんでした。

それとは逆に藤井側の主要な訴えがほぼ認められました。しかも裁判所は、作田医師による診断書の作成行為を医師法20条違反と認定しました。また、日本禁煙学会の受動喫煙症の診断基準そのものが政策目的(煙草裁判の提訴)である可能性を指摘しました。

二審の東京高裁判決では、提訴の根拠になった作田医師作成の診断書が、意見書としか認められないと判断しました。

■刑事告発に踏み切った理由
この刑事告発には、社会的に重要な2つの意味があります。
まず第一に、この刑事告発は、医療関係者にとっても、患者にとっても真実の記録でなくてはならない診断書を、作田医師が診察をしていないのに診察したかのようにして、虚偽の内容で作成したことに対する責任追及の意味を持ちます。作田医師は、A娘の診断書を交付するにあたり、本人を直接診察せずに、「受動喫煙症」などと診断・記載しました。(医師法20条違反)。この診断書を根拠にA娘とその両親は、自分たちの隣人・藤井将登に対して、煙草の副流煙で「受動喫煙症」になったとして4500万円を請求する訴訟を起こしました。

しかし、作田医師が交付した診断書の内容は、診察をしないという医師法違反の行為により作成されただけでなく、みずからが理事長を務めている日本禁煙学会が推進している喫煙撲滅運動の政策目的に合わせて作成された、医学的な根拠を欠くものであったといわざるを得ません。「受動喫煙症」という病名は、世界標準の疾病分類であるICD10コードには存在しません。実際、A娘らが起こした訴訟は、一審も二審も棄却されました。

診断書が原因でこのような事件に至ったわけですから、それは同時に医療そのもの、とりわけ診断書に対する社会的信用を大きく失墜させるものです。日々真摯に医療に向き合っている大多数の医師に対する背信行為にほかなりません。厳しく断罪されるべきものです。

かりに非常識な診断書を作成した作田医師の責任が問われないとすれば、全国の医療機関で同じような診断書の悪用、都合の良い診断書を医師に書いてもらって、不当な賠償請求を行うことが横行する危険性があります。この事件は、医療関係者にとっても国民にとっても、看過できないものです。

第2に、わたしたちは、作田医師が作成した問題の診断書が、A娘とその両親が藤井将登に対して起こした高額訴訟に悪用されたことを問題視しています。

既に述べたように、この裁判はA娘らの敗訴で、しかも、原審である横浜地裁は、作田医師による医師法20条違反を、控訴審である東京高裁は、作田医師が交付した診断書は、診断書としては認められないと認定しました。

わたしたちは、近年社会問題になっている弱者に対するスラップ裁判の再発防止という観点から、作田医師の責任を明確にする意味で刑事告発に踏み切りました。

■添付資料
1、告発状
2、横浜副流煙裁判の横浜地裁判決
3、横浜副流煙裁判の東京高裁判決
4、原告家族の診断書(甲1・2・3号証)
5、原告娘の診断書(甲3号証)と同一日付の異なる診断書(甲46号証の6)
6、横浜市から開示された行政文書(横浜市が無診察による不正な診療報酬請求と認めて、  医療機関から診療報酬を返還させたことを示す文書)
7、日本赤十字医療センターに対する疑義照会
8、日本禁煙学会および横浜副流煙裁判に関する情報

■告発人
・藤井敦子(英語講師)
・岡本圭生(医師・医学博士)
・安江博(理学博士)
・石岡淑道(藤井さんを支援する会代表)
・酒井久男(藤井さんを支援する会副代表)
・黒薮哲哉(フリーランス記者)
・他1名

野村武範判事の東京高裁での謎の40日、最高裁事務総局が情報公開請求を拒否、透明性に疑惑がある事務局運営の実態

今年の1月19日付けで筆者が、最高裁事務総局に対して申し立てた2件の情報公開請求を拒否する通知が到着した。通知の交付日は、3月24日である。情報公開請求の内容と通知内容は、次の通りである。

《請求A》
1、開示しないこととした司法行政文書の名称等
 野村武範判事が東京高裁に在任中(令和2年4月1日から令和2年5月10日)に、担当した事件の原告、被告、事件の名称、事件番号が特定できる全文書

2、開示しないこととした理由
1の文章は、作成又は取得していない。

《請求B》
1、開示しないこととした司法行政文書の名称等
 野村武範判事が令和2年5月11日に東京地裁に着任した後に担当した事件の原告、被告、事件の名称、事件番号が特定できる全文書

2、開示しないこととした理由
1の文章は、作成又は取得していない。

裏付けの原文

【参考記事】最高裁事務総局に対して3件の情報公開請求、産経新聞「押し紙」事件の野村武範裁判長の職務に関する疑問、東京高裁在任が40日の謎

 

◆なぜ情報公開請求を行ったのか?

なぜ筆者は、野村武範判事に関する上記2件について情報公開請求開示を行ったのか?
結論を先に言えば、それは野村武範判事に関する人事異動に常識では考えられない、不自然な事実があるからだ。あくまで筆者の主観による判断だが、珍しい、なにか特別な目的を持った恣意的な人事異動に思えたからだ。順を追って説明しよう。

次に示すのが野村判事の人事異動歴である。赤の部分に注目してほしい。

R 2. 5.11 東京地裁判事・東京簡裁判事
R 2. 4. 1 東京高裁判事・東京簡裁判事
H29. 4. 1 名古屋地裁判事・名古屋簡裁判事
H25. 4. 1 最高裁裁判所調査官(東京地裁判事・東京簡裁判事)
H22. 4. 1 東京地裁判事・東京簡裁判事
H21. 4.11 大分地家裁判事・大分簡裁判事
H18. 4. 1 大分地家裁判事補・大分簡裁判事
H16. 4. 1 検事
H16. 3. 1 最高裁総務局付(東京簡裁判事・東京地裁判事補)
H14. 4.11 函館簡裁判事・函館家地裁判事補
H13. 4. 1 函館家地裁判事補
H11. 4.11 東京地裁判事補 
■出典

検証を要するのは、東京高裁に着任したあと、東京地裁に異動するまでの期間が、40日しかない事実である。野村判事は、2020年(令和2年)4月1日に、東京高裁に着任して、同年の5月11日に東京地裁へ異動している。

東京地裁に着任した直後に、なぜか産経新聞「押し紙」裁判の裁判長に着任した。コロナウィルスの感染拡大で緊急事態宣言がだされ、東京地裁での審理がほとんど中止になった時期である。5月である。そして緊急事態宣言が空けると、野村判事は早々に裁判を結審させ、原告の元販売店主の請求を棄却する判決を下したのである。

この裁判では、既報したように、裁判所が2度にわたり産経新聞社に対して和解金の支払いを提案していた。つまり判決が下れば、賠償額の大小はともかくとして元店主が勝訴する確率が高かったのだ。新聞社による「押し紙」政策の判例が、東京地裁でも誕生する公算が濃厚になっていたのである。

野村判事が執筆した判決文は、司法判断の論理が破綻していて、「請求の棄却」を前提として判決文をでっちあげたとしか解釈できない。「押し紙」の存在を認めながら、損害規模が少ないからといった理由にならない理由を根拠に、損害賠償請求を完全に棄却しているからだ。

当然、この裁判が、「報告事件」に指定されていた疑惑が浮上した。そこで調査の第一段階として、野村判事が東京高裁での40日間にどのような仕事をしたのかを具体的に知るために、筆者は情報公開請求を行ったのである。

ところが最高裁は、情報公開請求の内容に合致する文書は存在しないという理由で、不開示を決めたのである。

◆事務局の透明性に重大な問題

裁判資料は行政文書ではなく、情報公開請求の対象にならないことぐらいは、筆者も知っている。しかし、どの裁判官がどの裁判を担当しているのかを、事務局の立場で把握しておかなければ、裁判所としての機能が働かないはずだが。

が、最高裁事務総局は、該当する文書は、「作成又は取得していない。」という理由で情報公開請求を拒否したのである。

ちなみに最高裁事務総局の決定に対する不服を申し立てる制度はない。理由を説明する必要もない。問答無用、斬り捨て御免の世界になっている。

現在の最高裁事務総局には、透明さに問題があるのではないか?

2021年03月26日 (金曜日)

【記者会見のお知らせ】日本禁煙学会の作田学理事長を刑事告発、29日、東京地検特捜部へ、虚偽公文書行使罪など

医師や科学者など7名が、29日の午後、日本禁煙学会の作田理事長に対する告発状を、東京地検特捜部へ提出する。筆者も告発人のひとりである。

告発状の提出に先立って、告発人らは厚生労働省の記者クラブで、記者会を予定している。スケジュールは次の通りである。

日時:3月29日、13:30分

場所:厚生労働省記者クラブ 厚生労働記者会(03-3595-2570)

   ※記者クラブの会員以外は、記者会の参加許可を得る必要があります。

関係資料:当日に参加者に配布

告発の根拠としている法律は、詐欺罪と虚偽公文書行使罪である。

作田理事長は、後に横浜副流煙裁判の原告のひとりになる女性に対して、診察することなく、「受動喫煙症」と自称する病名(「受動喫煙症」という病名は、世界標準の疾病分類であるICD10コードには存在ない)を記した診断書を交付した。

横浜地裁は、無診察による診断書の交付に対して医師法20条違反を認定した。また、日本禁煙学会の「受動喫煙症」の診断基準が、喫煙撲滅運動の政策目的で作成されていることも認定した。

作田理事長は、この不正な診断書を根拠に、診療報酬請求手続きも行っていた。

さらにこの診断書などが、加害者としてでっちあげられた男性に対して提起された4500万円の損害賠償請求裁判、つまり横浜副流煙裁判の提訴の根拠として使われた事情などがある。

刑事告発は、近年、社会問題になっているスラップ訴訟に対する責任追及の意味も持つ。

プレスリリースは、記者会見の会場で配布される。問い合わせ:黒薮、048-464-1413)

■横浜副流煙事件の全記事

2021年03月24日 (水曜日)

広島県府中市における読売のABC部数、4年以上にわたり5697部でロック(固定)、1部の変動もなし

【訂正】
23日付けメディア黒書の記事で、広島県における読売新聞のABC部数について、一部の自治体で、部数がロック(固定)されている旨を報じました。この記事の中で、ロックされていない自治体については、「その大半の自治体でABC部数が増加に転じている」と記しましたが、正しくは、「ABC部数の減少傾向がみられる」です。訂正すると同時に読売新聞大阪本社に謝罪します。

訂正後の23日付け記事は、次の通りです。

広島県全域におけるABC部数の解析、読売の部数、27自治体のうち10自治体で部数をロック、1年半にわたり1部の増減もなし、ノルマ部数設定の疑惑

 

◆◆府中市における読売のABC

さて、ここからが本題である。
広島県における読売新聞のABC部数の解析を進めたところ、府中市のABC部数が不自然なことが分かった。府中市の読売のABC部数を時系列に並べると次のようになる。

2014年4月 :5697部
2014年10月:5697部
2015年4月 :5697部
2015年10月:5697部
2016年4月 :5697部
2016年10月:5697部
2017年4月 :5697部
2017年10月:5697部
2018年4月 :5697部

この数字が示すように、2014年4月から2018年4月まで、まったく部数の変動がないことを意味する。不自然ではないか。ABC公査の信憑性そのものが疑われる。

 

2021年03月23日 (火曜日)

広島県全域におけるABC部数の解析、読売の部数、27自治体のうち10自治体で部数をロック、1年半にわたり1部の増減もなし、ノルマ部数設定の疑惑

広島県福山市の元YC店主が提起した「押し紙」裁判を機に、筆者は原告のYCがあった福山市をふくむ広島県全域を対象に、読売のABC部数の解析を行った。解析の対象期間は、元YC店主が請求対象期間としている2017年1月から2018年6月である。この期間に3回実施されたABC公査で判明したABC部数を解析した。

その結果、定数(販売店への搬入部数)が完全にロックされ、1部の部数変動もない現象が、県下全27の自治体のうち、10の自治体で記録されていたことが分かった。この中には、原告の元店主が店舗を構えていた福山市も含まれる。

福山市のABC部数は、2017年4月時点での公査では、38,194部数だった。2017年10月時点での公査でも、やはり38,194部だった。さらに2018年4月の公査でも、38,194部だった。つまり1年半に渡って、1部の部数増も、部数減もなかったことになっている。普通はあり得ないことである。この38,194部がノルマだった疑惑が浮上する。

言うまでもなく、これは原告店主のYCだけではなく、福山市にある全YCで、ABC部数が少なくとも1年半に渡りロックされていた疑惑を浮上させる。

福山市以外でABC部数がロックされた状態になっていた自治体と、そこでのABC部数は、次のようになっている。期間はやはり1年半である。1年半のあいだ1部の部数減も、部数増も記録されなかった。

広島市(南区):3,578
広島市(安佐南区):4,226
広島市(安佐北区)3,283

尾道市:11,147
福山市:38,194
府中市:5,697

大竹市:2,240
甘日市市:2,475
江田島市:325
安芸郡:1,650
神石郡 :4,77

◆◆
一方、ABC部数が変動していた自治体では、ABC部数の減少傾向がみられる。

ABC部数がロックされた自治体では、YCが一定の最低ラインの「責任部数」を負担していた疑いがある。

以下、裏付け資料である。マーカーで示した部分である。3つの年度のABC部数を比較して、各自治体で数字の変化がないことを確認してほしい。

■ 2017年4月

■2017年10月

■2018年4月

【写真】東京都江戸川区内の新聞販売店

2021年03月20日 (土曜日)

全米民主主義基金(NED)の「反共」謀略、ウィグル、香港、ベネズエラ・・・

読者は、次に示す支援金の金額が何を意味しているのかをご存じだろう。

ウィグル族の反政府活動(トルコ・中国):$8,758,300(2004年からの類型)

香港の「民主化運動」:$445,000(2018年) 
 
ボリビアの反政府運動::$909,932(2018年)

ニカラグアの反政府運動:$1,279,253(2018年)

ベネズエラの反政府運動:$2,007,204(2018年)

3月20日時点のドルと円の交換レートは、1ドル=108円だから、トルコ・中国向けの資金は、優に8億円を超えている。政治混乱が続くベネズエラの反政府勢力に対する資金援助に至っては、単年で2億円を超えている。

◆◆

全米民主主義基金は、その後、活動の範囲を世界規模に拡大する。ラテンアメリカに限っていえば、チリのピノチェット将軍による軍事政権の時代に、反政府勢力を支援したのも事実である。が、これは独裁政権の欠点を修正して、新自由主義の体制そのものは維持するという方針に基づいたものだったと思われる。日本でいえば、立憲民主党のような考え方である。新自由主義の体制そのものは、自民党と同様に保護することが大原則となっているのである。

ちなみにピノチェット将軍は、レーガンとサッチャーに並ぶ典型的な新自由主義者で、『チリ潜入記』(ガルシア=マルケス、岩波新書)によると、チリの首都では、繁栄の象徴である輝かしいネオンと極端な貧困が共存していた。

全米民主主義基金の基本的な方針は、米国資本に有利な市場を開拓するために、外国に親米政権を増やすことなのである。そのために「反米勢力」の強い、中国、ボリビア、ベネズエラ、ニカラグアなどの「市民運動」に対しては、湯水のような資金提供を続けてきたのである。現地の「市民運動」を支援することで、混乱を引き起こし、メディアを使って「反共キャンペーン」を展開し、最終的に左派の政権を転覆させるのが、その手口にほかならない。

マスコミがそれに連動していることはいうまでもない。

◆◆

新聞研究者の故・新井直之氏は、『ジャーナリズム』(東洋経済新報社)の中で、ある貴重な提言をしている。

「新聞社や放送局の性格を見て行くためには、ある事実をどのように報道しているか、を見るとともに、どのようなニュースについて伝えていないか、を見ることが重要になってくる。ジャーナリズムを批評するときに欠くことができない視点は、『どのような記事を載せているか』ではなく、『どのような記事を載せていないか』なのである」

日本の新聞・テレビが報じていないのは、親米派の「市民運動」の背後にいるスポンサーの実態である。隠しているのか、本当に知らないのかは不明だが、肝心な部分は報道の対象外になる。

ちなみに全米民主主義基金は、海外の「市民運動」に対する資金提供団体のほんのひとつに過ぎない。多国籍企業に有利な政治環境を準備するために、米国の複数の団体が資金援助をしている。

かつて米国の戦略は、海外派兵が主流だった。ところが1970年代にベトナムでこの伝統的な戦略に失敗した。1980年代は、ニカラグアとエルサルバドルでも失敗した。そして今世紀に入るころから、ラテンアメリカに関していれば、軍事介入は出来なくなったのである。ラテンアメリカの人々が軍事政権の扉を閉じ、民主主義が浸透してきたからである。

そこで登場してきたのが、海外の「市民運動」に介入する手口なのである。ベネズエラがその典型だ。アジアでは香港である。そして今また、ウィグル族の問題が国際政治の表舞台に立っている。

◆◆

香港問題やウィグル民族問題の報道を検証するとき、日本の新聞・テレビは、全体像を報道していない。

しかし、「市民運動」の舞台裏では、莫大な海外からの資金が動いている。それゆえに最近、中国政府とニカラグア政府は、こうした海外資金を禁止する法律を作った。香港では特にそれが厳しくなっている。

日本の新聞・テレビは、朝日新聞やTBSも含めて、中国政府の姿勢を批判している。日本人の感覚からすると、その論調は一応の道理があるかも知れない。しかし、たとえそうであっても、米国政府からの「市民運動」に対する資金援助の実態も、客観的な事実として報じる必要があるのではないだろうか。

中国や朝鮮が、仮に日本の「市民運動」に対して潤沢な資金を提供して、反政府運動を支援すれば、日本政府もやはり強権的に対処するだろう。それと同じことである。

◆◆

日本の学者やジャーナリストの中には、中央紙4紙に目を通して情報源としている人が少なからずいる。それはそれで立派な日課に違いないが、日本の新聞・テレビが公にしている情報は、全体像のほんの一部に過ぎない。むしろ隠している部分が多い。その限られた情報だけで、自分の世界観を作っているひともいる。

こうした人々にいくら米国政府と香港やニカラグアの関係を説明しても、まったく聞く耳を持たない。特に、リベラル派と呼ばれる人々にその傾向が強い。説明するのに大変なエネルギーを使う。

が、詳細な情報を自分で探すまでもなく、米国が連日のようにシリアをはじめ、世界のあちこちで爆弾を落とし続けている事実ぐらいは、日本の新聞・テレビでも断片的には報じているはずだが。世界の中で暴力を助長しているのが、米国であるぐらいのことは分かるのではないか?

日本の新聞・テレビを情報源にしていると、世界の全体像が見えなくなってしまう。国内の話題が新聞の1面にめじろ押しになるようではだめなのだ。

情報原としては、新聞・テレビよりもむしろ国境がないツイッターの方がましではないか。情報の裏付けを取る手間はかかるが、情報の糸口にはなるからだ。

2021年03月19日 (金曜日)

読売新聞の「押し紙」裁判、販売店との取引契約・第7条の問題、原告弁護団の主張、読売には新聞特殊指定を遵守する義務がある(3)

福山市の元YC店主が起こした「押し紙」裁判では、従来の「押し紙」裁判には無かった新しい争点がある。それは原告弁護団が打ち出したのひとつ争点で、販売店と読売新聞社の間で交わされた取引契約の第7条についての論考である。契約書の第7条は、次のように述べている。

「乙(注:販売店をさす)は,本件業務の遂行に関して,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律,不当景品類及び不当表示防止法,新聞業における特定の不公正な取引方法その他の公正取引委員会告示,新聞業における景品類提供の制限に関する公正競争規約等関係法令その他の諸法規を遵守しなければならない。」

この条項は、読売新聞社がYCに対して、新聞販売業務に関連した諸法規や規則を遵守するように求めた内容である。具体的には、独禁法の新聞特殊指定や景品表示法などの遵守である。

原告弁護団の主張は、第7條は形のうえでは、販売店に対する遵守義務として位置付けられているが、読売新聞社の側もやはりそれを遵守する義務があるという内容である。その理由について、原告弁護団は、準備書面(4)の中で次のように述べている。

「(筆者注:この条項は)新聞社である被告が法令を遵守することは当然の前提として,法令に疎い販売店に対し関係法令の遵守義務の存在を明確に認識させるために,条文上,名宛人として販売店だけを記載しているに過ぎない。」

周知のようにここで例題にあがっている新聞特殊指定は、「押し紙」行為を禁止している。従って読売が「押し紙」をしていれば、そは新聞特殊指定に抵触しており、販売店との商契約を忠実に履行していないことになるというのが、原告弁護団の主張である。

以下、準備書面(4)から、関連個所の全文を引用しておこう。

第5 被告の「押し紙」は新聞販売店契約上の債務不履行か(争点その2)

取引契約の当事者が当該取引に関連する法令の遵守義務を負うことは当然であり,議論の余地はない。新聞業界を規制の対象とする関係法令は,公正な競争の確保と優越的地位の濫用防止を目的とする独禁法新聞業特殊指定,新聞の勧誘行為を規制対象とする景品表示法(景品規制)や特定商取引法(訪問販売規制)等の法令が多数存在する。

本件では,「読売新聞販売店取引契約書」(甲A第1号証)の第7条(法令の遵守)に,「乙(注:販売店をさす)は,本件業務の遂行に関して,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律,不当景品類及び不当表示防止法,新聞業における特定の不公正な取引方法その他の公正取引委員会告示,新聞業における景品類提供の制限に関する公正競争規約等関係法令その他の諸法規を遵守しなければならない。」との定めが置かれている。

この点,被告が作成した上記契約書の第7条には,同条により法令順守義務を負う者として,原告の販売店しか記載されていない。しかし,それは被告が契約書の作成段階において,そもそも被告自らが法令違反を犯すことを想定していないからである。被告が法令を遵守することは当然の前提として本契約書は作成されているのである。

従って,第7条の「法令遵守」の条文に被告の記載がないことを理由に,被告は原告に対し法令順守義務は負わないと解釈することは許されない。

第7条は,原告と被告が相互に当然負うべき法令遵守義務について,新聞社である被告が法令を遵守することは当然の前提として,法令に疎い販売店に対し関係法令の遵守義務の存在を明確に認識させるために,条文上,名宛人として販売店だけを記載しているに過ぎない。法令に疎い販売店に対し,新聞業に携わる者として,関係法令を遵守しない場合は販売店契約上は新聞社に対し債務不履行責任が生じることを確認する条文である。

独禁法新聞業特殊指定の「新聞業における特定の不公正な取引方法」を例にとれば,第2項の定価の割引禁止の名宛人は販売業者であり,第3項の押し紙禁止の名宛人は新聞発行業者であるところ,原告が第2項に違反して定価の割引販売をすれば被告に対する債務不履行責任を負うのに対し,被告が第3項に違反して「押し紙」をしても原告に対する債務不履行責任は負わないでよいというのはあまりにも不合理で身勝手な解釈であり,そのような解釈は,契約当事者として信義に反することはあまりにも明白である。

そのため,被告の原告に対する「押し紙」行為は,独禁法新聞業特殊指定第3項の法令違反であり,第7条の当然解釈・論理解釈の結果,被告は原告に対し法令遵守義務違反の債務不履行責任が認められる。

2021年03月18日 (木曜日)

YC店主が「押し紙」を断った決定的な証拠、販売店主だけではなく販売局担当員にも強いプレッシャー(2)

読者は、以下に引用するショートメールが何を意味するのか推測できるだろうか。読売新聞大阪本社の担当員が、あるYC店主に送ったものである。店舗で過剰になっている残紙を整理して、正常な取引に改めないのであれば、残紙の減部数を求める内容証明を送付すると店主が申し入れた翌日に、担当員が店主に対して送付したショートメールである。

「元気やな!いきなり整理できないので、次回の訪店で話ししましょう。お互いの妥協策を考えましょう。俺をとばしたいなら、そうしますか。」(平成30年4月3日:9時54分)

「書面を出したら、昨日言ったとおり、全て担当員のせいになります」(4月3日、10時1分)

「俺をバックアップしてくれる気持ちがあるなら、何か妥協策を考えないかい?逃げてるんではなく、ほんまに体調悪いんで次回訪店で話しょ。考えさせて」(4月3日、10時14分)

「明日から会社でるので、部長と相談するな。少し大人しくしてな。おれに一任しておくれ。」

ここで紹介したショートメールはほんの一部だが、これだけでもYC店主が残紙を減らすように申し入れていた証拠である。

◆◆

18日付けのメディア黒書で既報したように、喜田村洋一・自由人権協会代表理事ら読売弁護団は、福山市のYCが起こした「押し紙」裁判〈令和2年(ワ)第7369号〉の中で、読売新聞社ではなく、YC側に新聞の搬入部数(注文部数)を決定する権利があることを認めた。答弁書の中の次の記述である。再度引用しておこう。

「新聞販売店は独立した自営業者であり、自店の経営に必要な部数を自由に決定する権利・自由があることは認める」

この記述を業界用語で表現すれば、新聞部数の「自由増減」の権利である。コンビニ経営など普通の商取引であれば、店主が仕入品の数量を決定することが常識となっている。ところが新聞社の中には、新聞の卸元である新聞社が新聞の搬入部数を決め、しかも、長期に渡って同じ部数に固定するケース(定数制度)がままある。

店主が搬入部数を減らすように申し入れているのにもかかわらず「販売業者からの減紙の申し出に応じない行為」は、独禁法で禁止されている。

昔から読売が「自由増減」を認めているとする見解もあるが、改めて「押し紙」裁判の場で、この権利が再確認されたのである。従って新聞社が望む一定の営業成績の維持という観点から、販売店サイドが相応の部数負担をすべきか否かという論点が不要になり、裁判が迅速に進む可能性が高い。販売店が残紙を断ったかどうかだけが、争点になりそうだ。

◆◆
冒頭で紹介した元YC店主のケースでも、長期に渡る部数の固定が行われていた。読売新聞社は、2017年(平成29年)1月から、2018年6月までの1年半の期間、新聞の搬入部数を2280部に固定したのである。

従って、ショートメールが示すように、このロックされた期間に原告の元YC店主が搬入部数(注文部数)を減らすように申し入れ、それに応じなかったわけだから、店主が負担していた残紙は、「押し紙」ということになる。

◆◆
なお、冒頭のショートメールからは、YC店主だけではなく担当員にも新聞部数を維持するための強いプレッシャーがかかっていることが読み取れる。「俺をとばしたいなら、そうしますか」とか、「書面を出したら、昨日言ったとおり、全て担当員のせいになります」と告白している。

残紙の被害を受けているのは、販売店主だけではない。担当員も苦しめられているようだ。

人権派弁護士の旗手であり、自由人権協会で代表理事を務める読売の喜田村洋一弁護士は、このような労働現場の実態をどのように考えるだろうか?

◆◆
読売新聞大阪本社の販売局は、わたしの電話取材に対して、改めてYCに「自由増減」の権利があることを認めた。また、ショートメールを送った担当員は、不在だったので、言い分がある場合は、わたしに連絡するようにメッセージを残しておいた。現時点では、何の連絡もない。

 

【参考記事】明らかな独禁法違反を示す朝日新聞の内部資料、ASA宮崎大塚の例、販売店の自己責任論の破綻(1)