1. 明らかな独禁法違反を示す朝日新聞の内部資料、ASA宮崎大塚の例、販売店の自己責任論の破綻(1)

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2021年03月09日 (火曜日)

明らかな独禁法違反を示す朝日新聞の内部資料、ASA宮崎大塚の例、販売店の自己責任論の破綻(1)

はじめて「押し紙」問題が国会に持ち込まれたのは1981年3月だから、その年から数えて今年で40年になる。日本新聞販売協会の会報には、それよりもはるか以前から「押し紙」についての記述があるので、少なくとも「押し紙」が社会問題として浮上してから、かれこれ半世紀になる。さらに厳密に言えば、戦前にも「押し紙」が存在したとする証言もある。

わたしがこの問題の取材をはじめたのは、1997年である。以後、独禁法違反という観点から、最も理不尽に感じた「押し紙」裁判の判決のひとつは、2011年9月5日に下されたASA宮崎大塚の裁判である。ASA宮崎大塚の敗訴という結果に、今も納得していない。独禁法違反の明白な証拠を原告が提出したにもかかわらず、朝日新聞弁護団の詭弁の前に販売店が敗訴したからだ。

◆残紙の実態
ASA宮崎大塚は、次のような経営実態だった。たとえば2008年1月の部数内訳の例である。

搬入部数:4770部
発証部数:3449部
サービス部数:378部
即売部数:103部
予備紙(残紙):883部 

請求対象になった他の期間における部数内訳も、おおむね同じような実態である。

◆内部資料
上記内訳のうち「搬入部数」とは、販売店に搬入される新聞の部数である。言葉を替えると新聞の「注文部数」である。しかし新聞の場合、「注文部数」は、普通の商取引における「注文部数」とは、まったく中身が異なる。

たとえばコンビニ店主は、問屋から購入する商品の数量を自分で決める。チョコレート20箱とか、牛乳30パックとか・・・・。これが普通の意味での「注文数」 である。

ところが新聞業界には、「注文部数」を新聞社が決める慣行がある。信じがたいことだがそれが商慣行になってきた。わたしが取材した限りでは、熊本日日新聞を例外として、他の新聞社は新聞の注文部数を、販売店に代わって新聞発行本社が決定している。販売店が、新聞部数を自由に増減する権利(自由増減)が認められていない。

その決定的な証拠が、次に示す朝日新聞の内部資料である。

■朝日新聞の内部資料

この資料は、朝日新聞がASAに対して一斉にファックスで送信したもので、宛先は、「ASA所長各位」になっている。表題は、「08年目標数のお願い」。書面の執筆者は、朝日新聞西部本社の販売第一部長・西本信行氏である。

西本氏は、ASAの店主に営業活動に対する感謝の意を表した後、次のように文書を結んでいる。

 貴ASAの2008年の目標数案を別紙のように決定致しましたので、ご通知申し上げます。皆様方の更なるご活躍とより一層の飛躍をお祈り申し上げます

そして同じ通信の3ページ目で、「注文部数」を4770部に指定しているのである。

朝日新聞は、このような発注方法を複数年に渡って行っていたのである。

◆自己責任論
このケースのように「注文部数」を新聞社が決めるのが、新聞業界の慣行になっている。しかし、独禁法の新聞特殊指定は、「販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること」を禁止している。朝日新聞の販売政策は、明らかに独禁法に違反している。普通の解釈をする限り、独禁法違反は否定しようがない。

ところが朝日新聞弁護団は、それを認めず残紙が発生した原因について、あれこれと理屈を組み立てていったのである。たとえば、被告準備書面(3)で「普及努力義務から導かれる目標数」という節を設けて、次のように述べている。

販売店は、新聞販売店契約により、特定の販売区域における独占的販売権を保障されていることから(テリトリー制)、当該販売区域において、新聞部数を維持・拡大するには、販売店による普及努力が不可欠である。そのために、新聞販売店契約上、販売店には普及努力義務が課されている。(略)

つまり残紙を販売店の自己責任とする主張が展開され、裁判所もそれを認めたのだ。常識的に考えれば、「販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給」すれば、独禁法違反に該当するはずだが、朝日新聞が自己責任論で対抗し、裁判所も最終的にそれを認めて、原告の元店主を敗訴させたのである。独禁法の適用を免れたのだ。

朝日新聞弁護団の戦略は、「販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給」する行為が、独禁法違反としては適用されないという主張を貫くことだった。それを前提として販売店の自己責任論を持ち出し、勝訴したのである。「押し紙」裁判の複雑さはこのあたりに存在するのである。

◆裁判所の見解が変化する兆し
しかし、昨年5月の佐賀新聞「押し紙」裁判で、佐賀新聞の独禁法違反が認定された後、徐々に販売店の自己責任論が通用しなくなり始めている。(続)

 

【参考記事】佐賀新聞「押し紙」裁判、判決の公開と解説、佐賀新聞社の独禁法違反を認定