政界スキャンダルで何が報じられ、何が報じられないのか? 依然として根強い大手広告代理店のタブー
類似した森友学園と加計学園の事件、稲田防衛大臣による日報隠蔽事件、豊田真由子議員をはじめ「安倍チルドレン」の不祥事・・。中央政界のスキャンダルがモグラ叩きのように頭を現し始めている。しかし、報道されていない事件も数多い。
報道の評価・解釈について創価大学の元教授・故新井直之氏は、次のような貴重な指摘をしている。
新聞社や放送局の性格を見て行くためには、ある事実をどのように報道しているか、を見るとともに、どのようなニュースについて伝えていないか、を見ることが重要になってくる。ジャーナリズムを批評するときに欠くことができない視点は、「どのような記事を載せているか」ではなく、「どのような記事を載せていないか」なのである。
何が報じられ、何が報じられないか? これについては、もちろん筆者ひとりで把握できるわけではないが、筆者の「守備範囲」から見ると、報道されない事件、あるいは積極的に報道されない事件には次のようなものがある。
①国際医療福祉大学の「特区疑惑」。(加計学園事件と同じ構図)
②東京晴海の公有地払い下げ事件(オリンピック利権)
③高市早苗議員と森裕子議員によるマネーロンダリング事件(還付金詐欺)
④「押し紙」問題(独禁法違反)
⑤NHKによる受信料の強制徴収(思想・信条の強制)
⑥NHKによるスラップ訴訟(恫喝)
⑦先の通常国会で、内閣委員会が約2ヶ月休会していた事実(安倍政権下の異常な国会運営)
⑧大手広告代理店を利用した内閣府などの裏金疑惑(汚職の疑惑)
このうち「③高市早苗議員と森裕子議員によるマネーロンダリング事件」については、起訴が近いのではないかという情報がある。詳細は、明日(25日付け)、メディア黒書で報告する予定。
◇請求書からインボイスナンバーを外す怪行為
①から⑦の問題で重要度の序列をつけるとすれば、最も深刻なのは、実は「⑧大手広告代理店を利用した内閣府などの裏金疑惑」である。これは大がかりな汚職の疑惑である。
この事件は『週刊金曜日』や『ZAITEN』(財界展望)、『ビジネスジャーナル』、『紙の爆弾』などが報じてきたが、大手メディアはまったく関心を示していない。大手メディアのビジネスモデルが広告・CM依存型であることが、その主要な原因だと思われる。
この疑惑事件の構図は単純だ。舞台は、現時点で判明しているものだけでも、内閣府、文部科学省、防衛省、復興庁、環境省、農林水産省と広範囲に及ぶ。
筆者が調べた限りでは、幸いに地方自治体のレベルまでには及んでいなかった。
内閣府を例にその手口を紹介しよう。
筆者は2012年度から2015年度までの4年間に、内閣府が大手広告代理店・博報堂との間で交わしたPR戦略に関する全契約書と全請求書を入手した。それを精査したところ、すべての請求書のインボイスナンバーが故意に外してあることが分かった。その額は64億円にもなる。
インボイスナンバーを外す行為が何を意味するのか、メディア黒書のバックナンバーから引用しておこう。最も重要なポイントである。
通常、企業が発行する請求書には、インボイスナンバーを付番することで、コンピュータと連動した会計処理を可能にしている。手動で処理していると大変な労力を要すからだ。会計処理を迅速に進め、しかも不正の防止にも効力がある。
コンピュータと連動したこの会計処理の原理は、クレジットカードのシステムを思い浮かべると分かりやすい。クレジットカードの番号が分からなければ、コンピュータは作動しない。従ってクレジットカードにナンバーの付番は不可欠である。
現在の会計システムも同じ原理で作動している。もちろん、インボイスナンバーがなくても、処理する方法はあるが、それは合理性の障害になるので、なるべく避けるのが一般原則である。従って正常な商取引では、あえてインボイスナンバーを付番しない合理的な説明はつかない。
博報堂の請求書から、インボイスナンバーが外してある事実は、これらの請求書が正規の会計システムとは別のところで、会計処理されている可能性を示唆している。もし、そうであれば会計監査もシステム監査も受けていないことになる。つまり裏金になっている疑惑があるのだ。
筆者は防衛省に対して、インボイスナンバーを外している理由を問い合わせたことがあるが、「答えません」という回答が返ってきた。
一方、博報堂の監査法人である「あずさ監査法人」は、取材を拒否している。
繰り返しになるが正常な商取引では、 インボイスナンバーを外すことはありえない。内閣府と省庁側が指示して、双方が合意した上でこのような処理をした可能性もある。博報堂が単独で行えば、会計検査院が問題視する可能性が高いからだ。
◇文部科学省のホームページ1件で2100万円
ただ、府省庁側からの指示があったとしても、博報堂に「ぼったくり」の体質があることは間違いない。たとえば、ウエブサイト1件の制作費として博報堂は文部科学省に対して、2100万円を請求している。防衛省に対しては約1400万円を請求している。次の記事を参考にしてほしい。
【参考記事】ウエブサイト9ページに2100万円を支出、国家公務員と博報堂の異常な金銭感覚、背任・詐欺の疑いも?
【参考記事】博報堂が作成した陸上自衛隊向けの「手作り」請求書の異常、H28年度分を公開、HPコンテンツの改修で1420万円の高額請求、裏金の疑惑も?
「ぼったくり」の体質は、博報堂と化粧品のアスカコーポレーションの裁判の中でも、浮き彫りになっている。これについても次の特集記事を参考にしてほしい。
【参考記事】博報堂事件の重要記事特集
◇博報堂が顧問料を請求
さらにこのほど筆者が入手した博報堂の資料によっても「ぼったくり」の体質は一層裏付けられた。この資料は、前出のアスカコーポレーションとの裁判の中で、アスカコーポレーションを担当していた清水亮氏が作成したもので、「PR活動」、あるいは「PR活動費」の中身についてみずから説明したものである。
それによると「PR活動」とは、「PR会社が依頼会社に対し、企業のイメージ向上のためのPR(広報)戦略の提供、不祥事等の有事の際の企業及びマスコミ対応のアドバイス、人脈構築のための助言や紹介等を内容とするもので、その業務範囲は広範囲に及んで」いたという。
「具体的な業務はそのときどきによって異な」るが、「報酬は毎月一定の金額」だった。「いわゆる有事に備えた顧問契約の色彩が強いもの」だった。「毎月の労務に対する対価ではなく、顧問料的な性格のもの」で、「全く稼働しない時期もあ」ったという。
「全く稼働しない時期もあ」ったにもかかわらず、博報堂は2010年3月から2015年5月までは、毎月200万円を請求した。また、2012年6月から2013年5月までは、110万円を請求した。
通常、顧問料というものは、弁護士や税理士、それに各種団体の顧問に支払うものである。筆者は、広告代理店がクライアントから顧問料を請求したという話は聞いたことがない。
しかし、筆者がここで言いたいのは、広告代理店がクライアントから顧問料を請求したことが違法かどうかの法解釈ではない。さまざな口実をつけて、請求金額を増やしていく博報堂の巧みな手口である。
このような「ぼったくり」体質が高じて、、内閣府に対しては、4年間で約64億円ものインボイスナンバーを外した請求書を発行したのではないか。
◇電通の過労死事件の比ではない
大手広告代理店の事件といえば、電通の過労死事件がスポットライトを浴びているが、実は博報堂がからんだ経理疑惑の方が遥かに深刻なのだ。国家予算の使い方の問題であるからだ。しかも、舞台が中央の府省庁で、額が桁はずれに大きい。
さらに2015年度についていえば、電通が発行した請求書(内閣府)でも、インボイスナンバーが外してある事実を付け加えておかなければならない。
内閣府(内閣官房を含む)は汚職だらけの可能性がある。かつて日本の黒幕で、岸信介と昵懇だった児玉誉士夫が内閣参与を務めていたわけだから、過去にさかのぼって調査する必要があるだろう。安倍内閣の下でも、内閣府や内閣官房から博報堂へ審議官などが天下りしている。
【写真】博報堂が入る赤坂Bizタワー