NHKが起こしたスラップ裁判、被告「NHKから国民を守る党」に対して 損害賠償命令
NHKがある奇妙な裁判を起こし、勝訴したことを伝える記事を、日経新聞(7月19日付け)が掲載している。記事のサマリーは次の通りである。
①2015年8月、NHKが千葉県内の女性宅を訪問して、受信料の支払いを求めた。女性はこれを拒否。
②女性は、「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏に電話で相談した。
③その2日後、女性は、HNKに対して慰謝料10万円の支払いを求めて、松戸簡易裁判所に提訴した。
④松戸簡易裁判所は、この事件を千葉地裁へ移送した。千葉地裁は、女性に敗訴の判決を下した。
⑤これを受けてNHKは、「NHKから国民を守る党」の立花氏らに対して、「勝訴の見込みがない裁判を女性に起こさせた」として、東京地裁で弁護士費用など54万円の支払いを求める裁判を起こした。
⑥東京地裁は立花氏らが「NHKの業務を妨害するため訴訟に関与しており、裁判制度を不当に利用する目的があった」と指摘して、請求通り54万円の支払を命じる判決を下した。【出典】
◇日本では訴権が優先のはずだが?
訴訟の提起そのものを違法とする裁判で、原告が勝訴することは極めて珍しい。サラ金の武富士がフリーライターらに対して起こした裁判が、違法とされた例はあるが、このケースでは武富士の武井会長が係争中に盗聴事件で逮捕されるなど、武富士に対する世論の批判が高まった事情もある。いわば特殊なケースなのだ。
日本では憲法で保障された訴権が優先されるのだ。
◇読売裁判の例
私自身も次のような体験がある。
2008年、読売新聞の江崎徹志法務室長が、筆者に対して著作権裁判を提起した。メディア黒書に筆者が掲載した江崎名義の文書を削除するように求める裁判である。江崎氏の主張は、この文書は自分が執筆し、自分が著作権者なので、筆者がそれを公開する権利はないというものだった。
ところが裁判の中で、争点の文書は、江崎氏が執筆したのではなく、読売の代理人・喜田村洋一弁護士(自由人権協会代表理事)が執筆した可能性が浮上したのだ。つまり本当は喜田村弁護士が執筆した文書であるにもかかわらず、江崎氏が著作権者になりすまし、強引に筆者を裁判の法廷に立たせた疑惑が浮上したのだ。喜田村氏と江崎氏が「共謀」していたことは言うまでもない。
判決は江崎氏の敗訴だった。争点の文書を喜田村弁護士が執筆していた高い可能性が認定されたのだ。つまり江崎氏には、提訴権そのものがなかったのである。それにもかかわらず強引に提訴したのだ。
当時、筆者は、読売からこの裁判以外にも、2件の裁判を起こされていた。請求額は約8000万円だった。
そこで筆者は、これらの裁判が「一連一体の言論弾圧」に該当するとして、読売に対して5500万円の損害賠償を求める裁判を起こした。裁判の提起そのものを問うたのである。
結果は、筆者の敗訴だった。江崎氏による著作権裁判を含め3件の裁判の提訴行為は問題がないと判断されたのだ。もともと訴権がない裁判を提訴する行為、つまり「でっち上げ」を、裁判所は「問題なし」としたのである。
江崎名義の文書を執筆した喜田村弁護士に対しては、弁護士懲戒請求を申し立てが、日弁連は、懲戒に値しないと判断した。
これが日本の司法の実態なのだ。
◇弁護士費用の賠償を命令
ところがNHKに対しては、裁判所は裁判の提訴行為を正当と判断して、原告が別の裁判で支払った弁護士費用を賠償するように命じたのである。
今回のNHK裁判で、NHKが敗訴していれば、「NHK受信料の恫喝的徴収→簡易裁判所への提訴」というパターンが広がる可能性がある。裁判所はこのあたりに配慮して判決を下した可能性が高い。
クローズアップ現代は、社会問題化しているNHK受信料の問題を取りあげるべきだろう。