「押し紙」の経理処理は粉飾決算ではないか?、年間で1000億円規模、背景に税務関係者の天下りも
「押し紙」の経理処理が粉飾決算に該当するのではないかという指摘はかなり以前からあった。実際には販売していない「押し紙」が生む利益を、新聞社の収入として計上し、収入規模を大きく見せているのだから、常識的に考えれば粉飾決算ということになるだろう。
もう20年ぐらい前になるが、この点に関して「押し紙」裁判の原告だった販売店主に質問したところ、トラブルになった時は、●●さん(税務署の関係者)と話せば適切に処理してくれると発行本社から指示されていると説明した。そういえば税務関係者の天下りを受け入れている新聞社もある。
当時、「押し紙」問題に取り組んでいた沢田治さんも、この点に疑問を呈していた。
◆◆
日本全国で印刷される一般日刊紙の朝刊発行部数は、2021年度の日本新聞協会による統計によると、2590万部である。このうちの20%にあたる518万部が「押し紙」と想定し、新聞1部の卸卸価格を1500円(月額)と仮定する。この場合、「押し紙」による被害額は77億7000万円(月額)になる。この金額を1年に換算すると、約932億円になる。
「押し紙」率が30%であれば、年間で1165億となる。
実際には売れていない新聞の収入を、年間で1000億単位で収入として計上しているのである。その「押し紙」の買い取り資金の一部は、補助金として新聞社が支払っている。
このような経理処理に対して、半世紀に渡ってメスが入らない事実は、それ自体が重大だ。新聞社が権力構造の「PR部隊」として組み込まれている証ではないか。巧みな洗脳の背景に「押し紙」問題がある。
東京都内にこんなに安い土地はない、東京オリ・パラの選手村建設用地、元東京都職員が三井や住友へ続々と天下り
臨海部開発問題を考える都民連絡会が発行している『臨海かわら版』(6月18日)が、東京オリンピック・パラリンピックの選手村建設地の販売価格と、それ以外の都内の地価(それぞれの区で最も安い地点)を比較した表を掲載している。
選手村建設用地は、1㎡が約10万円(坪に換算すると33万円)で、「2020 晴海Smart City グループ(ディベロッパーで構成)」へ販売された。通常、土地の取引価格を決める場合は、地価を標準的な販売価格として交渉する大原則があるのだが、選手村建設用地の販売価格は、地価の約10分の1で取引された。都内のどこを探しても、これほど安い土地はない。次に示すのが表である。
この土地取引の手口は、若干複雑なので、どのように法の網の目をくぐり抜けたかは別の機会に説明する。ここでは、販売価格がいかに標準的な価格から乖離しているかを確認してほしい。
◇天下りの実態
「2020 晴海Smart City グループ」を構成するディベロッパーは次の通りである。『しんぶん赤旗』(2014年3月17日)の報道によると、筆者が赤で示した企業に、東京都の元職員が天下りしている。
・三井不動産レジデンシャル (1人)
・NTT都市開発 (2人)
・新日鉄興和不動産
・住友商事 ・
・住友不動産(2人)
・大和ハウス工業・
・東急不動産(1人)
・東京建物
・野村不動産 (1人)
・三井物産(4人)
・三菱地所
・三菱地所レジデンス
◇新自由主義=構造改革の手口
大企業に手厚い支援をして、経済を活性化しよとする政策。これが新自由主義である。労働法制の改悪など規制緩和をすすめるだけではなく、財政面でも大企業をサポートしているのである。その一方で市場原理にそぐわない福祉・医療・教育などは民間に丸投げするので、経済弱者にこれらのサービスが及ばなくなる。
こうした政策により、本当に経済が活性化するのか、再考する必要があるだろう。小泉構造改革からすでに20年近くなる。反映どころが、貧困がますます増えているのが実情だ。
貧困の実態は、下町を歩くとよく分かる。ぼろぼろのアパートに住んでいるひとがたくさんいる。そこから見上げる高層ビルの光景は、同時代の日本を象徴している。
【写真】舛添要一元知事。選手村建設用地の取り引きに知事として関わった。
歴代・検事総長の異常な「天下り」実態、進む腐敗、検察官の職能や士気低下の原因か?
広義の「天下り」問題は、昔からあったが、まったく解決されていない。しかも、事件を処理する立場にいた司法関係の元国家公務員までが、あたりまえのように企業に再就職する実態がいまだにある。これでは、経済事件などは放置されかねないケースが出てくるだろう。日本は学閥や人脈が、「後輩」に対して影響力を持つ前近代的な社会であるからだ。
検事総長は、検察組織のトップである。検事総長について検証してみても、退官後、ひとりの例外もなく天下りしている。法律事務所への再就職は、まだ許容範囲かも知れないが、一般企業への「天下り」は大きな問題がある。
本来、経済事件の被告となるはずの企業が、何の咎めも受けないことにもなりかねない。
次に示すのは、2004年以降に退官した検事総長の主要な天下り先である。
■大野恒太郎(2014年7月18日 - 2016年9月5日)
森・濱田松本法律事務所客員弁護士
■小津博司(2012年7月20日 - 2014年7月18日)
三井物産監査役、トヨタ自動車監査役、資生堂監査役、
■笠間治雄(2010年12月27日 -2012年7月20日)
日本郵政取締役、住友商事監査役、SOMPOホールディングス監査役、NKSJホールディングス監査役、キユーピー監査役、西武ホールディングス顧問、日清医療食品特別顧問、ワタキューセイモア特別顧問、一柳アソシエイツ特別顧問、イーサポートリンク顧問
■大林宏(2010年6月17日 - 2010年12月27日)
大和証券監査役、アサツー ディ・ケイ取締役、三菱電機取締役、新日本製鐵監査役、日本たばこ産業監査役
■樋渡利秋(2008年7月1日 - 2010年6月17日)
TMI総合法律事務所顧問、野村証券取締役、本田技研工業監査役、トーヨーカネツ監査役、
■但木敬一(2006年6月30日 - 2008年6月30日)
森・濱田松本法律事務所客員弁護士、日本生命保険監査役、(財)矯正協会会長、大和証券グループ本社監査役、イオン取締役、フジタ監査役
■松尾邦弘(2004年6月25日 - 2006年6月30日)
旭硝子取締役、トヨタ自動車監査役、日本取引所グループ取締役、ブラザー工業監査役、テレビ東京ホールディングス監査役、損害保険ジャパン監査役、三井物産監査役、セブン銀行監査役、小松製作所監査役、
■原田明夫(2001年7月2日 - 2004年6月25日)
原子力損害賠償支援機構運営委員長、住友商事監査役・取締役、資生堂監査役、セイコー取締役、日本郵政取締役、東京女子大学理事長、三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役、山崎製パン取締役
■出典
「天下り」の問題は、かなり以前から指摘されてきた。しかし、改善するどころか、ますます露骨になっている。日本がいかに社会進歩から取り残されているかの証である。
しかも、驚くべきことに、2007年の第1次安倍内閣の下で、天下りの規制は緩和されているのである。安倍政権に「天下り」問題を解決しようという気など毛頭ないことは言うまでもない。甘えの構造が、職能や士気の劣化にも繋がっているようだ。
ロッキード事件の担当検察官は今、「天下り」が経済事件の公平な捜査・裁判をさまたげる
1976年の7月27日、東京地検特捜部は田中角栄を逮捕した。ロッキード社の航空機売込みに便宜を図った際の贈収賄容疑による逮捕だった。
田中邸へ赴いたのは、松田昇という検察官だった。松田氏は同じ事件でやはり逮捕された児玉誉士夫(元内閣参与で政界フィクサー)の取り調べも行っている。
ロッキード事件の発覚から41年。読者は、松田氏が現在、どのような地位にいるかをご存じだろうか? 結論を言えば、さまざまな企業の役員として再就職しているのだ。元検察官が特定の大企業と特別な関係を持つことが、公正に経済事件を取り締まる際の障害になる可能性が高いことはいうまでもない。
松田氏が関係している企業と役職は次の通りである。なかには不祥事を起こしている会社もある。
平成17年1月:株式会社博報堂社外監査役(現在)
平成19年4月:三菱UFJニコス株式会社社外取締役(現任)
平成24年6月:日清紡ホールディングス株式会社社外取締役(現任)
平成27年6月:当社社外取締役(現任)
平成28年3月:株式会社読売巨人軍社外取締役(現任)
■裏付け
◇児玉誉士夫と博報堂
このうち、博報堂は広告代理店である。内閣府や中央省庁から国策プロパガンダの仕事を数多く請け負っている。この企業の過去を調べてみると、博報堂の持株会社が1975年に児玉誉士夫氏のグループに乗っ取られた事実がある。経緯については、次の記事に詳しい。
【参考記事】博報堂コンサルタンツの取締役に児玉誉士夫の側近・太刀川恒夫氏が就任していた、極右勢力と博報堂の関係
【参考記事】1975年ごろから博報堂へ続々と天下り、元国税庁長官2名、内閣府審議官や警察関係者も、病的腐敗の温床か?
「天下り」の問題は、昔からまったく解決されていない。放置されたままだ。最高裁判事を務めた人々までがあちこちの企業や法律事務所へ天下っている。
繰り返しになるが、こうした状況下では、天下り先企業が経済事件を起こした際、公正な捜査、公正な裁判は、形骸化しかねない。逆説的に言えば、それを知っているから、企業は天下りを受け入れている可能性が高い。
松田氏は、博報堂が内閣府へ送ったインボイスナンバーが欠落した請求書の額面総額が4年間で約64億円になっている事実をどう考えているのだろうか。文科省に対してウエブサイト1件で2100万円を請求した事実をどう考えているのだろうか。また、民間企業ともトラブルを起こしている事実をどう考えているのだろうか。
【参考記事】博報堂事件・重要記事特集
筆者は近々に松田氏に公開質問状を送付したいと考えている。
内閣府の隠蔽体質、官房の「天下り情報」は開示せず、博報堂から加計学園へ広がる不透明感
内閣府(総理の直属機関である内閣官房を含む)に対して、同府から「天下り」した職員の名前を過去にさかのぼって開示するように情報公開請求を申し立てている。これに対して内閣府は、内閣官房については開示できないと筆者に通知している。そこで筆者は不開示にする公式な理由を書面で提出するように求めている。
筆者は回答を待っているが、理由書は提出されない。情報公開請求に対して不開示を決定した場合は、その理由を書面で示すルールになっている。内閣府は過去にもそんな対応をしてきた。しかし、今回、内閣官房からの天下り職員の名前を開示しない理由を書いた書面は送られてこない。回答期限の1カ月をすでに過ぎている。
内閣府からの「天下り」は明らかにできても、内閣官房については、実態を公表できないというわけだから、何か特別な理由があるのだろう。
折しもこの時期、加計学園の問題で内閣府が加計学園へ便宜を図っていた疑惑が浮上している。菅官房長官は、17日の記者会見でそれを否定したが、内閣府の灰色ぶりを考えると疑惑があることは間違いない。
◇インボイスナンバーが欠落した請求書
既報してきたように、内閣府は博報堂との広告取引では、商取引の中身を不開示にしてきた。従って予算の用途が分からない。開示されているのは基本的に総額だけだ。たとえば、メディア黒書で繰り返し紹介してきた次の書面である。
この書面にはさまざまな不備があるのだが、たとえばインボイスナンバーが欠落している。企業の場合、ほとんど例外なくコンピューターと連動した会計システムで経理処理をしているので、原則としてインボイスナンバーの付番が必要になる。それをあえて外した合理的な理由が分からない。推測すれば、インボイスナンバーを付番しないことで、正規の会計システムとは別のところで会計処理した疑惑が浮上する。
筆者は博報堂の会計監査とシステム監査がどのように行われたのかを知りたい。これについて博報堂のあすざ監査法人に取材を申し入れたが、拒否されている状態だ。
【参考記事】博報堂によるエクセルやワードによる「手作り」請求書、対象は内閣府と中央省庁だけ、地方の「役所」宛ては正常
このような不透明な方法で2015年度だけで、約25億円を博報堂に支出しているのだ。しかも、同じような経理処理が、安倍内閣が発足する前年から始まっていたのだ。
疑惑を解明するためには、内閣官房から誰がどの企業に天下りしたのかを正確に把握しなければならない。ところがその情報は開示できないと言っているのだ。
◇児玉誉士夫を内閣参与に任命
過去にさかのぼって内閣府の実態を調査してみると、終戦直後から不可解な方針がみうけられる。たとえば東久邇宮内閣は、右翼の児玉誉士夫を内閣参与に任命した。総理大臣の“相談役”的な立場である。
その児玉の秘書・太刀川恒夫が博報堂コンサルタンツの重役になった時期(1975年)から、内閣府から博報堂への天下りが始まっている。警察関係者や国税庁長官も2名が天下っている。
直近で言えば、2016年には、内閣官房の田幸大輔氏(広報室参事官補佐・広報戦略推進官)が博報堂の顧問として天下った。
◇公共の「役所」が情報隠し
公共の「役所」がお金の使途や職員の天下り先を納税者に隠すわけだから尋常ではない。私企業が自社に関する情報を開示しないのは自由である。しかし、公共の「役所」が、情報隠しをするのは誤りではないか。
まして加計学園と内閣府の癒着疑惑が浮上してきた時期である。この件についても、「天下り」の実態などの初歩的な調査が必要だろう。
筆者には、内閣府が何の権限をもって、情報を開示しないのか理由が分からない。内部に汚職などの腐敗があれば、人事も含めて改めるのが公共機関を運営する最低ルールであるはずなのだが。
ちなみに内閣府からのPR予算は、2012年度から15年度の4年間で200億円を超えている。
1975年ごろから博報堂へ続々と天下り、元国税庁長官2名、内閣府審議官や警察関係者も、病的腐敗の温床か?
本稿の「①」で述べたように、博報堂への天下りが始まったのは、1975年ごろからである。児玉誉士夫氏の側近で等々力産業社長の太刀川恒夫氏が博報堂コンサルタンツの取締役に就任した時期からである。
参考:本稿「①」博報堂コンサルタンツの取締役に児玉誉士夫の側近・太刀川恒夫氏が就任していた、極右勢力と博報堂の関係、①
『現代の眼』(1975年7月)によると、次の人々が博報堂へ天下っている。驚くべきことに内閣府の官僚も含まれている。その他に、国税局の長官が2名。
・松本良佑(副社長):元警察大学教頭
・佐藤彰博(公共本部長):内閣審議官室審議官兼総理府広報室参事官
・千島克弥(顧問):総理府広報室参事官
・池田喜四郎(公共本部次長):内閣総理大臣官房副長官秘書
・毛利光雄(社長秘書):警視庁総監秘書
・町田欣一(特別本部CR担当):警視庁科学検査部文書鑑定課長
また、日本経済新聞の人事欄によると、旧大蔵省からの天下りも確認できる。
旧大蔵省とも極めて親密な関係にあったのだ。
・近藤道生(社長):国税庁長官
・磯邊 律男(社長):国税庁長官
また、2017年3月の時点での天下り者は次の通りである。
・阪本和道氏(審議官)[博報堂の顧問]
・田幸大輔氏(広報室参事官補佐・広報戦略推進官)[博報堂の顧問]
・松田昇(最高検刑事部長)[博報堂DYホールディングスの取締役]
・前川信一(大阪府警察学校長)。[博報堂の顧問]
・蛭田正則(警視庁地域部長)。[博報堂DYホールディングスの顧問 ]
ロッキード事件で児玉氏を取り調べた検事・松田昇氏がなぜ、博報堂へ天下ることになったのかは不明だ。が、どのような事情があるにしろ、内閣府や検察庁など日本の中枢機関から、博報堂への天下りが慣行化している事実は極めて重大だ。特に内閣府の場合は、約25億円(2015年度)の莫大な国家予算を広告費の名目で支出しているわけだから、尋常ではない。
博報堂に5人の国家公務員が天下り、2007年の国会・内閣委員会でも、共産党の吉井英勝議員が指摘
内閣府、あるいは内閣官房(総理直属の機関)から博報堂への「天下り」が慣行化している実態が過去の国会議事録などから分かった。
現時点でも、博報堂への天下りは、少なくとも阪本和道氏(元内閣府審議官)と、田幸大輔氏(元広報室参事官補佐・広報戦略推進官)のケースが判明している。他の省庁からのものを含めると、松田昇氏(元最高検刑事部長)、前川信一氏(元大阪府警察学校長)、蛭田正則氏(元警視庁地域部長)らも博報堂、あるいはその持株会社である博報堂DYホールディングスに再就職している。
国家予算の一部が形を変えて、彼らに報酬として支払われていることになる。
なんのために博報堂グループが退職した国家公務員を受け入れているのかについては、個々の元国家公務員か、内閣府を取材しなければ分からないにもかかわらず、「天下り」の連携プレーを演じている当事者らは、阪本氏らの再就職は合法で「天下り」に該当しないという詭弁(きべん)を弄しているので、真相解明の糸口すら掴めない。
彼らの詭弁がどのようなものであるかは、後述することにして、国家公務員らによる凄まじい天下りの実態を過去の国会議事録から紹介しよう。
◇過去にも博報堂に5名が天下り
2007年5月11日の国会。内閣委員会で共産党の吉井英勝議員(写真)は、内閣府と広告代理店の不透明な関係を、特に新聞の公共広告に特化して追及した。内閣府が募集する公共の新聞広告(国策プロパガンダの媒体)の入札が、表向きは競争入札になっているが、実態としては随意入札や談合になっている事実を指摘している。
もちろんこの国会質問は、博報堂の実態だけに特化したものではなく、電通を筆頭とする日本の広告業界全体の談合体質を糾弾しているのだが、その中に不透明な取り引きの背景に「天下り」があることを指摘している。
博報堂の場合は、「経済社会総合研究所総括政策研究官を最後に退職した丸岡淳助氏の二人の天下りがあるということになっております」と、述べているほか、他の省庁も含めた実態については、「衆院調査局の中央省庁の補助金等交付状況、事業発注状況及び国家公務員の再就職状況予備的調査によれば」「博報堂には五人、うち常勤三人」だと指摘している。
その上で吉井議員は、次のように公務員制度改革が機能していない実態を批判する。
政府広報を契約する内閣府の人が天下りをしていっている。そして、この入札の一連のいろいろな問題の中で、いろいろな疑念とか疑惑、そういったものが持たれるものについて、やはりまずこれを徹底的に解明する。そのことなしに公務員制度改革を口にするということは、私は、かなり筋が違うんじゃないか。改革を口にするんだったら、まず実態の究明、解明だということを言わなきゃならぬと思うんです。
◇天下りが後を絶たない本当の理由
「天下り」はなぜ後を絶たないのか?
答えは簡単で、言葉の定義にある。伝統的に司法の場では、天下りは官庁が国家公務員の退官後のポストを民間企業に設けさせて受け入れさせることを意味し、このような上からの強制がなければ、「天下り」とは解釈されないからだ。
実際には、「天下り」という言葉は、広義に国家公務員が取引先に再就職することを指しているが、司法の世界では、狭義の「天下り」にしか解釈されない。従って、再就職等監視委員会による調査基準も次のようにずさんなものになっている。
1 現職職員による他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供等規制
2 現職職員による利害関係企業等への求職活動規制
3 再就職者(元職員)による元の職場への働きかけ規制
これでは、問題の根源を絶てるはずがない。また、彼らに問題を解決しようという気概もない。彼ら自分自身、退官後の再就職を希望しているからだろう。
◇国策プロパガンダと金
余談になるが、「押し紙」という言葉も、恣意的な解釈が行われている。たとえば「押し紙」裁判で読売の代理人を務めてきた自由人権協会・代表理事の喜田村洋一弁護士らは、読売には、過去も現在も、1部の「押し紙」も存在しないと主張してきたが、筆者が保存している裁判記録によると、そのひとつの根拠になっていたのが、なんと「押し紙」の定義である。喜田村弁護士らによれば、押し売りした証拠がない新聞は、「押し紙」ではないので、読売には1部も「押し紙」が存在しないという理論になるのだ。
司法の世界では、この程度の論理が通用してしまう危険性があるのだ。実社会では、社会通念からして、販売予定のない商品を多量に仕入れるバカはいないので、販売店に残っている新聞は押し売りされたものと解釈して、広義に「押し紙」と言っているのだが。
「天下り」という言葉にも、まったく同じ罠が潜んでいる。
博報堂の諸問題は、かなり以前から国会で問題になってきた事が過去の国会議事録から判明した。しかし、まったく改善されることなく今日に至っている。
今も同じことを繰り返しているのだ。
これにメスを入れるには、やはり公共広告の在り方、あるいは国策プロパガンダと公共広告、金について考える住民運動を組織することも必要ではないか。
湯水のように国家予算を博報堂へ流し込む恐るべきシステム、年間で25億円に、博報堂へ「天下り」の実態(3)
内閣府から少なくとも2人の国家公務員が博報堂に再就職(広義の天下り)していることが分かっている。
既報したように次の2氏である。()内は退職時の地位だ。
■阪本和道氏(審議官)
■田幸大輔氏(広報室参事官補佐・広報戦略推進官)
なお、内閣府は、田幸氏について、「田幸氏は内閣府ではなく、内閣官房の所属なので、無関係」と話している。内閣官房というのは、内閣総理大臣の直属機関である。そうであるなら、より問題は重大だ。
その一方で、内閣府の裁量で湯水のように国家予算を博報堂に流し込める仕組みになっているプロジェクト「政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広報実施業務」が、2012年度から進行してきた事実がある。このシステムで内閣府が博報堂に支払った金額の合計は、2015年度を例に引くと、25億円を超える。
しかも、おかしなことに巨額の国家予算の支出に際して、内閣府は博報堂からアドバイスを受け、新聞広告やテレビCMの制作などで発生する費用とは別に、「構想費」という名目の費用も支出しているのだ。次に示すのが、構想費の年度別変遷だ。
2012年度:約3980万円
2013年度:約4640万円
2014年度:約6670万円
2015年度:約6700万円
年々、構想費が高くなっているのも極めて不自然だ。内閣府は事情を説明すべきだろう。
筆者が「構想費」について内閣府に説明を求めたところ、博報堂とはほとんど毎日打ち合わせを行いアドバイスを受けていた旨の説明があった。しかし、その日当が10万円で、365日、休みなくミーティングを開いたとしても、3650万円にしかならない。誰が見ても、不自然なお金が支払われているのだ。
ちなみに博報堂が内閣府に提出している請求書には、日付が入っていない。書面は、恐らくエクセルである。正規の会計システムに則した書面とは言えない。これについて博報堂のあすさ監査法人は、特に問題ないとしている。一方、博報堂DYホールディングスが上場している東証については、現在、書面で調査を求めている。
◇内閣府に対する情報公開請求
こうした状況の下で、メディア黒書への匿名通報で、2名の天下りが発覚したのだ。裏付けもある。両者とも広報業務に携わった職歴がある。
そこで筆者は、内閣府に対して次の情報公開請求を行った。
元内閣府職員の次の人物の内閣府内での職務歴を示す全資料。
阪本和道氏。田幸大輔氏。
開示が行われない場合は、異議申し立て、訴訟という段取りになるだろう。訴訟もジャーナリズム活動の「知らせる」という観点からすれば効果的な手段である。
◇再就職等監視委員会の調査依頼
一方、阪本氏に関しては、再就職等監視委員会に調査の申し立てを行った。次の内容である。
【引用】
2016年1月に内閣府から博報堂へ再就職された阪本和道氏について、調査を求めます。阪本氏が内閣府大臣官房長であった12年、内閣府と博報堂の間で「政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広報実施業務」と題する新しい政府広報の制度が構築され、この年から15年度まで、博報堂が連続してこの業務を請け負っております。
この制度の下で内閣府の裁量により、新聞広告やテレビCMの制作や配信、あるいは放送業務を発注することができます。その結果、15年度だけで約25億円もの国家予算が見積書による精査を経ることなく博報堂へ供給されてました。
この制度が設けられた12年当時に阪本氏が内閣府大臣官房長として、内閣府の広報に携わっていたことは、筆者にあてた「開示決定等の期限の延長について」(府広第533号 平成24年11月7日)などでも明らかになっています。博報堂はその後も、「政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広報実施業務」を請け負い、阪本氏が博報堂へ再就職した16年1月も、この業務は進行中でした。
従って国家公務員法の106条に抵触している可能性があり、調査していただくように求めます。
これに対して再就職等監視委員会から次のような返答があった。
2017年2月6日11:43着信「情報」拝読いたしました。
当委員会の調査事務への御理解・御協力ありがとうございます。
国家公務員法の再就職等規制に規定されているのは、
1 現職職員による他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供等規制
2 現職職員による利害関係企業等への求職活動規制
3 再就職者(元職員)による元の職場への働きかけ規制
の3つの規制です。
もし具体的な規制違反行為に関する情報(担当・氏名・時期など)がありましたら、お願いいたします。
この回答を読んで、読者は何を感じるだろうか。「1」から「3」に該当しなければ、「天下り」ではありませんと言っているのではないだろうか。調査するように依頼しているのに、証拠を提出しなければ調査しないと言っているのだ。
官庁からの「天下り」がなくならない原因がこのあたりにあるのではないか。マスコミは、このあたりをもっと厳しく指摘すべきだろう。
【写真】博報堂・戸田裕一社長
警察学校の校長ら警察関係者3名が再就職、再就職等監視委員会の「茶番劇」、博報堂へ「天下り」の実態(2)
博報堂へ「天下り」しているのは、内閣府の職員だけではない。警察関係者も天下りしている。
筆者が調査したところ、少なくとも現在、3人の警察関係者が博報堂へ再就職している。()内は前職である。[ ]は現在の肩書き。
■松田昇(最高検刑事部長)。[博報堂DYホールディングスの取締役]
■前川信一(大阪府警察学校長)。[博報堂の顧問]
■蛭田正則(警視庁地域部長)。[博報堂DYホールディングスの顧問 ]
警察と広告業とどのような関係があるのかはまったく不明だが、少なくとも次のことはいえるだろう。それは博報堂で不祥事が発生したり、刑事告訴や刑事告発の対象にされた場合など、警察関係のOBが工作すれば、司法による捜査を骨抜きにしやすくなることだ。
◇再就職等監視委員会の茶番劇
「天下り」が民主主義にとって不合理な慣行であることは言うまでもない。日本では、学閥や派閥が意思決定を行う際の大きな要素になっている。本来、国家公務員は退官すれば、政策決定に係わりをもたない、あるいは影響を及ぼす行為を控えるのが、民主国家の原則である。このあたりの意識が欧米から大きく遅れているのだ。
さらに再就職等監視委員会を設けて、表向きは「天下り」を取り締まっているが、取り締まり対象となる中味を見ると、実質的にはほとんど取り締まりが不可能な制度になっていることが分かる。次にあげるたった3項目が、取り締まり対象事項である。
1 現職職員による他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供等規制
2 現職職員による利害関係企業等への求職活動規制
3 再就職者(元職員)による元の職場への働きかけ規制
[1]はともかくも、[2][3]は、立証のしようがない。たとえば[3]の場合、料亭で酒を飲みながら政策決定しても、議事録の記録としては残らない。さらに退職後に、利害関係企業等へ交渉する行為は取り締まりの対象外である。官僚はみずからの利益のために、規制をあまくしているのだ。
これでは天下りが根絶できない。報道されていないが、実態はほとんど昔と変わっていない。
内閣官房の広報戦略推進官・田幸大輔氏が博報堂へ再就職、疑惑のプロジェクトに関与した高い可能性、博報堂へ「天下り」の実態(1)
内閣府との不自然な取り引きが明らかになっている博報堂。
既報したように、内閣府のナンバー2にあたる審議官・阪本和道氏が博報堂に「天下り」していた事実が発覚したのを機に、筆者は追加の調査を行った。
その結果、内閣官房の広報室参事官補佐(広報戦略推進官)・田幸大輔氏が、退官のひと月後にあたる2014年5月1日付けで、博報堂に天下っていたことが分かった。匿名の通報を受け、証拠書面も入手した。
田幸氏が務めた広報戦略推進官は、まさに広報活動の指揮を取る立場にある。
これに対して内閣府は次のように説明する。
「田幸氏は内閣府ではなく、内閣官房の所属なので、無関係」
内閣官房というのは、内閣総理大臣の直属機関である。そうであるなら、より問題は重大だ。
◇「田幸」から「阪本」へ
田幸氏が退官したのは、2014年3月31日。その翌日にあたる4月1日に、博報堂は内閣府との間で、「政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広報実施業務等」と題するプロジェクトの契約を結んだ。つまり田幸氏は、契約に至る過程で業務に係わっているのである。そのひと月後に田幸氏は、博報堂へ天下りしたのである。
法的にはさまざまな解釈があるかも知れないが、実態としては完全な天下りである。博報堂側の担当者を特定する必要がある。
ちなみに「政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広報実施業務等」のプロジェクトの実態については、2015年度のものを例に引きながら、メディア黒書で繰り返し報じてきたように、内閣府の裁量で湯水のように国家予算を博報堂に流し込むシステムである。しかも、「構想費」という名目で、内閣府の側が博報堂から、プロジェクトについてのアドバイスを「毎日のように」受けるという奇妙な構図になっている。
内閣府からは、2016年1月にも、阪本和道氏が博報堂に天下っている。阪本氏もやはり広報の仕事に従事した経歴を持つ。
ちなみに阪本氏の名前は、現在発売中の『週刊現代』が掲載している天下りリストにも入っている。それによると、退職金は6000万円。博報堂での地位は顧問である。
この他、同誌のリストには村木厚子氏の名前もある。博報堂が係わっていた郵政事件で逮捕され、「無罪請負人」の異名を持つ弘中惇一郎弁護士(自由人権協会)らの活躍で無罪になった人物である。この事件では、村木氏を調べた前田恒彦検事らが逆に逮捕され有罪になっている。不自然な点があるので、念のために再検証が必要かも知れない。【続く】
【写真】黒塗りで公開されたプロジェクトの博報堂の請求書。エクセルで作成されたとみられる。
徹底した調査が不可欠、元内閣府・阪本和道審議官の博報堂への天下り、博報堂への支払いはプロジェクト落札価格17億円を8億円超過、25億円に
内閣府でも天下りが明らかになっている。内閣府のナンバー2の要職にあった阪本和道元審議官が博報堂に再就職した問題である。博報堂が阪本氏を受け入れた背景は・・・。
『毎日新聞』(1月24日付け)の報道によると、「松野博一文部科学相は24日の閣議後記者会見で、組織的な天下りのあっせん問題を調べる大臣直轄の調査チームを設置したと発表した」という。
天下りはかねてから汚職の温床として問題になってきたが、放置されてきたのが実態だ。天下りを受け入れているある広告代理店のOBは、次のように話す。
「天下りした者は、再就職先へ省庁の仕事を持っていくのが常識中の常識です。さもなければ、高い報酬を払って老人を再雇用するメリットはありません」
改めていうまでもなく、天下りの実態を調査する必要があるのは、文部科学省だけではない。内閣府も調査すべきだろう。
◇博報堂へ25億円
メディア黒書で繰り返し報じてきたように、内閣府の「ナンバー2」だった審議官・阪本和道氏が2016年の1月(退官の半年後)に、博報堂に再就職していた事実が明らかになっている。メディア黒書に匿名の通報があり、公文書(「国家公務員法第106条の25第2項等の規定に基づく国家公務員の再就職状況の公表について」)で、筆者が事実関係を確認した。
内閣府と博報堂の間には、2012年度から不自然な取り引きが続いている。
詳細はメディア黒書で報じてきた通りである。
たとえば2015年度に内閣府と博報堂で交わされたPR活動の契約は、契約額が約6700万円だが、単価契約(各作業の単価を設定して、自由に作業量を増減できる契約)を連動させていることを根拠に、見積書も作成せずに、次々と請求書を送りつけ、最終的に内閣府が支払った額は約25億円に達している。
※単価は、6700万円の構成要素で、単価契約としては認められないとする説もある。
たとえ単価契約を根拠とした請求が正当としても、このプロジェクトの落札額は約17億円で、落札額を8億円も超過している。繰り返しになるが、見積書も存在しない。
◇電通の版下制作費、内閣府は公文書で記録せず
さらにこのプロジェクトで制作された新聞広告の版下の一部を電通が制作していることが明らかになっている。その完成した版下を博報堂に提供し、博報堂が新聞各社に版下を配信して、広告掲載料のマージンを得たことになっている。
これについて前出の広告代理店OBは次ぎのように話す。
「電通が版下を制作して、博報堂に提供し、博報堂が版下を新聞各社に配信して広告掲載料のマージンを得る構図は不自然です。版下の制作費は30万円程度で、電通に何のメリットもないからです。小さな広告代理店が版下を制作して、電通に提供することはあり得ますが、その逆はまずありえません。」
ちなみに筆者が内閣府に対して、電通に支払った版下制作費の額を示す文書を公開するように求めたところ、内閣府は不存在と返答してきた。つまり版下制作費として電通に幾ら支払ったのか、内閣府は公文書で記録していないのだ。
このように内閣府と博報堂、さらには電通との間には、極めて不自然な取り引き関係がある。
既に述べたように、このような不自然な取り引きは2012年度から始まっている。
管官房長官は、阪本元審議官と博報堂の関係を綿密に調査する必要があるのではないか。
博報堂事件の総括、取材対象が民間のアスカから省庁へ急拡大、内閣府ナンバー2の天下りも判明
◇博報堂事件の第1ステージ
◇テレビCMの「中抜き疑惑」
◇放送確認書の偽造
◇博報堂事件の第2ステージ
◇全省庁に対して情報公開の開示請求
◇通信社OBらの支援
◇報道の広がり
◇戸田裕一社長名で巨額請求を繰り返す
この一年、わたしは博報堂がかかわった事件と向き合った。
その糸口は2月に1本の電話を受けたことだった。化粧品などの通販会社・アスカコーポレーション(本社・福岡市)からの電話で、折込広告の水増し被害を受けた疑いがあるので、資料を検証して、アドバイスをもらえないかという申し入れだった。
断る理由はないので引き受けた。折込広告の詐欺は、わたし自身が取り組んできたテーマである。
数日後、アスカから郵送されてきた資料を精査したところ、確かにアスカが折込詐欺の被害を受けていた可能性があることが分かった。たとえば東京・町田市の新聞のABC部数が約13万部しかないのに、15万枚の折込広告が見積もられていた。新聞購読者にもれなく折込広告を配布しても、13万枚あれば十分で、2万枚が過剰になる計算になる。
もっとも、なにか別の目的で2万枚を余分に印刷したというのであれば、別問題だが。「折込詐欺」は水面下の社会問題になっているので、わたしは取材することにした。
たまたまこの時期にアスカが本拠地としている福岡市近郊の久留米市へ取材にいく予定があった。メディア黒書でも取り上げている佐賀新聞の「押し紙」裁判の取材である。
この機会を利用して、わたしは福岡市のアスカを訪問した。情報の提供会社に直接あって、相手が信頼できる企業かどうかを確かめておく必要があったからだ。
アスカの社員から直接事情を聞いてみると、折込広告に関する疑惑以外にも、テレビCMの「中抜き」疑惑や、嘘の視聴率を提示してCMの口頭契約を結ばされた疑惑など、問題が山積していることが分かった。
係争の相手が博報堂であることも意外だった。紳士的なイメージがあったからだ。ただ、大手広告代理店に対するタブーがあることも知っていた。日本のメディア企業の大半は、広告依存型のビジネスモデルなので、広告代理店を抜きにすると経営が成り立たなくなるからだ。
逆説的に見れば、ジャーナリズムの光があたらない業界は、内部が腐敗していることが多い。タブーの領域こそが最高の取材対象になるのだ。この矛盾がジャーナリズムの魅力でもある。
そこでわたしはアスカに対して、博報堂との過去の取引に関する全資料を提供してくれるようにお願いした。2週間後に、段ボールいっぱいの資料が送られてきた。全資料ではないが、アスカが疑惑を抱いている取引に関する記録である。こうして博報堂事件の第1ステージの取材が始まったのだ。大手広告代理店に対するタブーに挑戦することになったのだ。
ちなみに博報堂は、完全にわたしの取材を拒否した。
◇博報堂事件の第1ステージ
事件の発端は、メディア黒書で既報してきたように、アスカの資金繰りが苦しくなり、同社のPR業務を独占していた博報堂に対する未払い金が発生したことである。博報堂はアスカの銀行口座を仮差押さえなどの強引な策に出たあげく、2015年の秋に6億円の支払いを求める裁判を起こした。
その結果、アスカには博報堂との過去の取引を精査してみる必要が生じた。6億円の支払いを求められて、本当に支払い義務があるかどうかを検証しない者はいない。そこで過去の取引を精査する作業に入ったのである。
その結果、博報堂の請求方法などに多種多様な疑惑が浮上してきたのだ。そして2016年5月、逆にアスカの側が博報堂に対して15億円の返金を求める訴訟(不当利得返還請求)を起こしたのだ。
さらに8月には、博報堂が過去に提示していたCMなどの番組提案書に嘘の視聴率が記されていたとして、番組提案書の無効を求める裁判を起こしたのだ。この裁判の請求額は約43億円だった。
PR業務はテレビCMの制作から、新聞広告の制作・掲載、イベント、それに情報誌の編集・制作まで多岐に渡るので、当然、裁判の争点も多い。分かりやすい具体例を、メディア黒書に掲載した記事からいくつか紹介してみよう。
■元博報堂・作家の本間龍氏がアスカの「15億円訴訟」を分析する、後付け水増し請求という悪質な手口①
■元博報堂・作家の本間龍氏がアスカの「15億円訴訟」を分析する、得意先の企業を欺く愚行の連続②(執筆:本間龍、作家)
■博報堂による「過去データ」流用問題、編集の実態、アスカ側は情報誌のページ制作費だけで7億円の過剰請求を主張
■プロの眼が見た博報堂事件、テレビ視聴率の改ざんをめぐりアスカコーポレーションが提起した42億円訴訟①(執筆:本間龍、作家)
■博報堂がアスカに請求したタレント出演料の異常、「 契約金が翌年に20%も上昇することなど有り得ない」
■朝日放送による「番組の中止→料金請求」問題で放送倫理・番組向上機構(BPO)に申し立て、放送確認書の代筆者は博報堂
◇テレビCMの「中抜き疑惑」
ちなみにテレビCMの「中抜き疑惑」も浮上している。「中抜き疑惑」とは、秘密裏にCMを放送しない行為をさす。しかし、「中抜き」は記録に残る。テレビCMがコンピューター管理されているからだ。
完成したCMに10桁のCMコードを付番しておくと、そのCMが放送された時、コンピュータに放送実績が記録される。そして放送確認書をプリントアウトすると、書面の中にCMコードが表示されている。
博報堂事件では、このCMコードが非表示になっている番組が、少なくとも1508件あることが判明したのだ。このうち979件が、スーパーネットワークという衛星放送局の取り扱い分だった。この会社について調査してみると、博報堂の株が50%入っていることが分かった。博報堂そのものである。
CMの「中抜き」は、1990年代の後半に、福岡放送、北陸放送、それに静岡第一テレビで発覚し、大きな問題になった。再発を防止するために、放送関係者と広告関係者が、2000年から10CMコードでコンピュータ管理するシステムを導入した経緯があった。従って放送確認書のCMコードが非表示になっていれば、常識的には、CMは放送されていないと判断できる。
もちろんアスカは、放送されていない可能性が高いCMの料金も徴収されていた。博報堂を過信していた上に、請求書の送付が経理「締め日」ぎりぎりだったこともあって、請求内容などをよく確認する時間的な余裕がないまま、支払い承認をしていた結果である。
◇放送確認書の偽造
その放送確認書を何者かが偽造していたケースも判明している。この事件については、詳しく報じたので、記事をリンクしておこう。
■博報堂事件、放送確認書そのものを何者かが偽装した疑い、確認書の発行日とCM放送日に矛盾
◇博報堂事件の第2ステージ
博報堂事件の第2ステージは、博報堂と省庁の関係を検証する作業である。具体的には、省庁から博報堂に対するPR関連業務の発注実態の調査だ。
わたしが第2ステージに着手することになったのもまったくの偶然である。わたしは従来から新聞社を取材してきたこともあって、公共広告の出稿実態を定期的に調査してきた。その調査対象のひとつが内閣府である。
2015年度(2015年4月1日~2016年3月31日)に広告代理店が内閣府に送付した請求書を情報公開請求で入手して精査したところ、1点だけ尋常ではないものが出てきた。それが博報堂が内閣府に送付した次の請求書である。
この請求書については、メディア黒書で繰り返し公表してきた。注目してほしいのは、27ページである。27ページから請求書に対応する契約書が掲載されている。
契約書によると、契約額は約6700万円だ。しかし、複数の請求書の金額を合計すると請求額が20億円を超えていたのだ。
これについて内閣府は、6700万円は、この企画の「構想費」にあたり、他のPR活動については、口頭とメモで、博報堂に指示を出していたと説明している。見積書も存在しない。博報堂がこのような請求を繰り返し、内閣府が支払いに応じてきたのである。博報堂事件の第一ステージで、博報堂が後付け請求で請求額を増やす手口を把握していたので、わたしは直感的に怪しいと思った。
実は、この不自然な請求と支払いに関しては、かなり多くの情報や感想がメディア黒書に寄せられている。その中に興味深い証言があった。
「これは博報堂が正規に使っている請求書ではありません。おそらくエクセルで作成しています」
別の証言者は、
「他年度でも同じことをやっていますよ」
他年度でも同じことをやっていれば、疑惑のある金額は莫大になる。そこでわたしは裏付けを取るために、内閣府に対して2011年度から2014年度、さらに2016年度を対象として、博報堂が内閣府に送付した請求書の情報公開を申し立てた。(2015年度については、既に入手済み)。
その結果、2012年度から、請求額が契約額を大きく上回る請求パターンが繰り返されていることが判明したのだ。この特殊な請求書方法については、さまざまな分野の専門家に意見を聞いた。いくつか紹介しょう。
「これだけ金額が大きいわけですから、見積書がないとすれば、なにかそれに代わる書面があるはず。それがなければ支出はできない」(弁護士)
「このような請求書方法は聞いたことがない」(税理士)
「1件の広告ごとに見積書、契約書、請求書がなければおかしい」(税理士)
「これは博報堂の正規の請求書ではない」(黒書への情報提供)
「これだけの額(20億円)が新聞広告の掲載料というかたちで新聞社に流れているとすれば、メディア対策費の性質が出てくる」(黒書への情報提供)
さらに調査を進めるうちに、メディア企業に対して支払われた広告料の総額が、予算枠をはるかに上回っていることが判明した。つまり決められた予算とは、別の財源から資金を調達した疑惑があるのだ。そのための工作なのか、全請求書に日付が付されていない。これについては次の記事で報告した。
■内閣府は2015年度の広告費をどこから調達したのか、少なくとも5億200万円の出所が不明、新聞社にも疑惑、大疑獄事件の様相
◇全省庁に対して情報公開の開示請求
内閣府に対する請求が不可解だったので、わたしは念のために他の省庁についても調査対象とした。博報堂との取引に関する内部資料(見積書、契約書、請求書)を開示するように、情報公開請求を行った。
12月になって開示が本格化した。その中で、たとえば、一件のウエブサイト制作に2100万円を請求していた事実などが判明した。
■内閣府に続いて文科省でも博報堂がらみの資金疑惑、 民主党の蓮舫氏らは事業仕分けで何をしていたのだろうか?
内閣府以外の省庁の調査はまだ始まったばかりである。黒塗りで開示された書面については、徹底的に調査する。
◇内閣府の阪本和道・元審議官が博報堂に天下り
年末の12月28日、衝撃的な情報がメディア黒書に寄せられた。元内閣府のナンバー2が2016年1月に博報堂に天下りしているので、調査するように読者の方がアドバイスをくれたのだ。
天下りとの指摘があった人物は、阪本和道・元審議官。「審議官」は内閣府のナンバー2のポジションである。過去に、広報室長、内閣官房内閣広報室内閣審議官も務めている。博報堂の業務はPRに関連したものであるから、窓口は広報室である。従って阪本氏は、博報堂とも接点があるといえよう。
博報堂による不自然な20億円請求の件について、阪本和道氏が事情を知っている可能性がある。少なくとも阪本氏に事情を取材する必要があるだろう。
幸いに、再就職等監視委員会という機関が、内閣府に設置されている。同委員会のウエブサイトには、次のように記されている。
再就職等監視委員会では、再就職等規制違反行為に関する情報収集のため、規制違反行為に関する情報を幅広く受け付けています。
来年早々、わたしは再就職等監視委員会に対して、博報堂が阪本氏を自社に就職させた背景を調査するように申し立てを行う予定だ。
◇通信社OBらの支援
省庁の取材に追われているうちに、今度は横浜市の市民から、博報堂JVが開国博Y150(2009年4月28日から9月27日までの153日間)で企画を請け負って、62億円を請求し、横浜市議会で大問題になったという情報提供があった。横浜市議を取材して記事にした。
■疑惑に満ちた横浜市の「開国博Y150」、博報堂JVとの契約額は約62億円
このように取材の範囲が広がりすぎて一人では、博報堂事件を処理し切れなくなった。そんな時、通信社のOBの人達が取材を手伝ってくれるようになった。作家で元博報堂社員の本間龍氏も、寄稿してくれるようになった。
このうち通信社のOBは、次のように話している。
「これまで広告代理店の請求書を詳細に調査するジャーナリズム活動はだれもやらなかった。だから盲点になっていた。広告代理店の側も、このような手法で調査されるとは想像もしていなかったのではないか。これは日本のジャーナリズムの暗部だ。ある意味では、『押し紙』問題よりも深刻だ」
◇報道の広がり
博報堂事件の第1ステージでは、『ZAITEN』、『週刊金曜日』、『ジャーナリスト』、『MyNewsJapan』が記事を掲載してくれた。このうち『週刊金曜日』は3回の連載を快く引き受けてくれた。やはり広告に依存しないメディアである。
また、第2ステージでは、『ビジネスジャーナル』が記事掲載の機会を作ってくれた。
メディア黒書の読者は、次のような感想を寄せている。
「博報堂には、電通とは違った問題があります。電通の場合は被害者が会社内部の女性ですが、博報堂の問題は、被害者が広告主です。しかも、民間企業だけではなくて、省庁に対しても、不自然な請求を繰り返しています」
「広告代理店は、所詮、国策プロパガンダの機関です。予算を5分の1程度に削減すべきでしょう。請求額が普通ではありません。金銭感覚が異常です」
国会では、議員定数を削減して人件費を抑制すると同時に、国民の参政権を狭めようとする動きがあるが、削減する分野が完全に間違っている。旧民主党は、「事業仕分け」で一体なにをやったのだろうか?
◇戸田裕一社長名で巨額請求を繰り返す
博報堂が発行した請求書には、すべて戸田裕一社長(冒頭写真)の名前が付されている。戸田社長名で、庶民感覚からすると、極めて不自然な請求を繰り返してきたことになる。
なお、メディア黒書で入手した情報は希望者に提供している。たとえば『紙の爆弾』の記者に情報を提供した。その結果、何度か『紙の爆弾』が博報堂事件の記事を掲載した。
情報は共有物との認識と精神で、来年も幅広く情報提供を進めたい。もちろん、「押し紙」問題や携帯基地局問題についての情報共有も同じ方針だ。
内閣府の阪本和道・元審議官が博報堂へ天下り
メディア黒書では、博報堂が2012年ごろから内閣府へ送付してきた不自然な請求書について調査しているが、このほど阪本和道(元内閣府審議官)が退官後の2016年に博報堂に再就職(広義の天下り)していることが分かった。
裏付け資料は、内閣府が9月に公表した、「国家公務員法第106条の25第2項等の規定に基づく国家公務員の再就職状況の公表について」と題する文書である。
博報堂の不自然な請求書とは、請求額が契約額を大幅に上回っているものである。たとえば2015年度の場合、契約額が約6700万円で、請求額は約20億円となっている。その大半は、新聞広告の掲載費である。