1. 元博報堂・作家の本間龍氏がアスカの「15億円訴訟」を分析する、得意先の企業を欺く愚行の連続②

大手広告代理店に関連する記事

2016年12月08日 (木曜日)

元博報堂・作家の本間龍氏がアスカの「15億円訴訟」を分析する、得意先の企業を欺く愚行の連続②

元博報堂の社員で作家の本間龍氏に、2016年5月にアスカコーポレーションが博報堂に対して起こした「15億円訴訟」の訴状を分析・評論してもらった。広告の専門家による連載の2回目である。1回については、12月5日付けの記事

執筆者:本間龍(作家)

引き続き、アスカの博報堂に対する15億円訴訟の項目を検証してみよう。再掲するが、アスカが博報堂に起こした訴状の詳細は以下の通り。

1  情報誌制作費          7億7900万の過剰請求
2  撮影費                      2億6400万  〃
3  タレント出演料         1億6600万  〃
4  アフィリエイト         1億8700万  〃
5  通販番組制作費・編集費     1億4700万  〃
6  PR活動費              895万     〃
7  企画・メディアプランニング費   3000万    〃
8  TVCM費                5300万   〃
9  新聞広告費                   1100万円  〃
10 雑誌広告費                     1700万  〃
11 ラジオ広告制作費               60万  〃
12  イベント費                   2400万  〃
13  テレビ放映休止後の放映料      9700万  〃
14  ホームページ制作費            1300万  〃
15  通販番組受付業務費            4200万  〃

前回は8のTVCM費までを解説したが、その他で非常にいい加減さが目立つのが、12の「イベント費」だ。アスカは08年から12年まで年一回、メディア関係取引先を招いて「互礼会」というイベントを開催していて、その実施を博報堂に任せていた。

博報堂は、その請求金額総計に対し「博報堂営業管理費」10%を請求していたにも関わらず、アスカ側の了解のないまま「企画制作進行費」なる別項目を立てて二重請求がなされていた、とアスカ側に指摘されている。

◇福岡空港から中洲川端までが3万5000円?

またさらに細かいことだが。交通費の水増し請求も見破られている。「交通費(福岡市内)」として一式3万5000円という名目で費用を請求しているが、福岡空港から市内までの交通費が一式3万5000円もかかることはないことは明らかだ。

互礼会の会場(グランドハイアット福岡)はキャナルシティにあり、福岡空港から中洲川端までは地下鉄で一人260円(往復で520円)、中洲川端駅からキャナルシティまでは、タクシーでも1000円以内だからである。これなどはほとほと迂闊な例だと言えるだろう。

◇マージンを上乗せしてスポンサーに請求

さらに「連絡通信費・諸経費」という請求項目に対しては、そもそも「連絡通信費・諸経費」とか「制作・雑費」の内容自体が明らかではなく、全体の「運営関係費」という項目に詳細な細目が掲げられていながら、それらの細目の他に「連絡通信費・諸経費」という名目でさらに10万円近い費用が発生しているという。これなどは明らかに水増し請求をするための架空項目を後から作ったのだろう。

ちなみに「博報堂営業管理費」とは、見積(請求)金額全体にかかる博報堂のマージンを意味する。上記のようなイベントなら、会場のホテルや看板制作の施工業者、コンパニオン会社に対する支払い、そして実際のイベント実施を担当する地元のイベント会社に対する支払いなどが発生する。

博報堂はそれら全てをとりまとめる際、最後に博報堂のマージンを上乗せしてスポンサーに請求するのだ。これは全てのスポンサーに対して同様に行っている。

そこでアスカに対しては、博報堂の営業管理費は10%と取り決めてあったようだ。(パーセンテージはスポンサーによって異なる)しかしそれでは収益が低すぎて、大した儲けにならない。だから様々な項目を作っては請求金額の上乗せを図った様子が見えてくる。

◇即日の放送中止は困難な場合も

ただし、少々微妙な項目もある。13の「テレビ放映休止後の放映料」として、アスカ側がTVCMや通販番組の一斉中止を求めたのに全部を止められず、結果的に9000万円の過剰請求となったとの主張であるが、これはテレビ局との契約で即日全部停止とすることは困難な場合がある。

新聞ならば前日の深夜までに掲載中止と決めれば掲載されないが、テレビやラジオの場合は素材を数日前に搬入し、決められた時間に流れるよう機械にセットされているため、即日に反映することが難しい。

もちろん数日の間隔が空いていれば話は別だが、これは博報堂側のみの責任かどうか、難しいところだろう。

◇「博報堂営業管理進行料(10%)」と「進行管理・調整費用」の二重請求

しかし、最後の15「通販番組受付業務費」では、コールセンターの管理を委託された際の人数を水増しし、「博報堂営業管理進行料(10%)」を計上しているにもかかわらず、それとは別の「進行管理・調整費用」という項目もあったという。こちらは二重計上と疑われても仕方あるまい。

請求書を作る際(どこの業界でも似たようなものだと思うが)、個々の金額にほんの少しずつ利益を上乗せして請求することはあるだろう。しかしそれを承認されていない別項目でまとめて数字を立てては、すぐに上乗せがばれてしまう見本のような話ではないだろうか。

◇取引会社を欺く愚行

それにしても、よくもこれだけ問題が出ているものだと改めて驚愕する。2008年から博報堂の一社扱いとなって以降、次第に一件あたりの請求金額が増大していったのだが、せっかく得意先から信頼を得て全ての業務を任されていたのに、これではあまりに失礼なのではないかと思ってしまう。

個々の案件については博報堂側にも言い分もあるだろうし、アスカの見込み違いもあるかもしれない。しかし、かつてアスカの社長から全幅の信頼を得て大きな金額を頂戴していたのに、後からここまで巨額の過払いを指摘されるのは、博報堂側の体制や業務の進め方に問題があると言われても、仕方がないのではないか。

全体を俯瞰して見えるのは、博報堂の担当者が過度に利益を追求し、得意先のチェックの甘さにつけ込んで過剰な請求を行なっていた様子だ。前回や上記の内容は、広告代理店の営業経験者なら、誰がみてもおかしいと思うだろう。しかし、電通事件と同様、広告業界で食べている人間は、博報堂との関係を慮って誰もこの件に関して発言していない。しかし、不自然な物は不自然だと、きちんと言うべきだ。

私は電通事件に関しても厳しい発言を繰り返しているが、だからと言って博報堂の味方というわけではなく、全て是々非々で考えている。電通の組織的犯罪行為に比べて、この案件はいち営業担当者の暴走だと思いたいが、もし他にも似たような案件があるなら、今後も積極的に検証して発言していきたい。