ABC部数のロックの実態、「積み紙」の責任も新聞社に、残紙問題の最大の被害者は広告主
日本ABC協会が、公表している新聞のABC部数は、実配部数を反映していないのではないかという疑問が、メディア黒書に寄せられている。特定地域のABC部数が、長年に渡ってロック(部数の増減がゼロの状態)されている事実が調査で判明したことが、疑惑を呼んでいる原因のひとつである。かねてから疑惑はあったが、具体的な数字で、それが明らかになってきた成果である。
こうした状況の下で、筆者は古い『読売ファイル』から、読売新聞社の興味深い主張を発見した。それを紹介する前に、まず、ABC部数ロックの例を示しておこう。
なお、部数ロックの問題は、読売新聞社だけに限定した問題ではない。新聞業界全体の問題である。
《朝日新聞・東京都武蔵村山市》
2016年4月 :4975部
2016年6月 :4975部
2017年4月 :4975部
2017年10月 :4975部
2018年4月 :4975部
2018年10月 :4975部
2019年4月 :4975部
2019年10月 :4975部
2020年4月 :4975部
産経新聞「押し紙」裁判が和解、大阪地裁、産経が和解金300万円の支払い、独禁法違反は認めず、
産経新聞の販売店を経営していた男性が、廃業後の2019年に大阪地裁で起こした「押し紙」裁判が、今年の1月に和解解決していたことが分かった。和解内容は、産経新聞大阪本社が、元経営者に300万円の和解金を支払うことなどである。
しかし、元経営者が主張していた産経新聞社に対する独禁法違反については、認定しなかった。(詳細は文末の和解調書)
2021年3月のABC部数、朝日は年間で44万部減、読売は57万部減
2021年3月度のABC部数が明らかになった。それによると、朝日新聞は年間で約44万部を失った。また、読売新聞は57万部を失った。新聞部数の減少傾向に歯止めはかかっていない。
中央紙5紙の部数は、次の通りである
【連載】「押し紙」問題⑩、新聞社経営の汚点とジャーナリズム、「中川先生に恩返しをする機会が近づいております」
新聞のビジネスモデルという場合、狭義には新聞の商取引の仕組みを意味しているが、副次的には、新聞販売制度を支える法律的なルールも含まれる。たとえば新聞に対する再販制度の適用である。また、新聞に対する消費税率の軽減措置制度である。
これらの制度は、新聞社の収益に直接な影響を及ぼしている。しかも、見過ごせないのは、制度の維持が公権力の手に委ねられていることだ。逆説的に言えば、公権力は残紙という汚点だけではなく、再販制度や消費税の制度に着眼することで、新聞を権力構造の中に組み入れているとも言える。さらに付け加えるとすれば、記者クラブの制度も、おなじ脈絡に位置づけられるが、本書の主題から逸脱するので、ここでは言及しない。
いずれにしても日本のジャーナリズムを世論誘導の道具にする制度が、客観的に存在しているのである。この構図は記者としての気概だけでは、切り崩すことができない。
以下、新聞に対する再販制度の適用と、消費税率の軽減措置制度について検証してみよう。残紙問題との関連の中で、再考してみると、ジャーナリズムの障害になっていることが見えてくる
【連載】「押し紙」問題⑨、残紙が強引な新聞拡販の引き金に
全体の3分の1を掲載しました。全文は、ウェブマガジンで購読できます。【全文は、ウェブマガジン(有料)で購読できます】
新聞のビジネスモデルの構図は、原則として、残紙で生じた損害を折込手数料や補助金などで相殺するものである。残紙部数に相応する折込手数料が、新聞社に「上納」される仕組みになっている。
しかし、残紙には別の側面もある。それは残紙が新聞拡販活動の「起爆剤」となってきた事実である。販売店は残紙の負担を少しでも、減らすために拡販活動に奔走する。残紙の性質が「積み紙」であろうが、「押し紙」であろうが、少しでも残紙を減らしたいというのが販売店の希望である。と、いうのも、「押し紙」は販売店の経営を圧迫し、たとえ「積み紙」であっても、それが発覚すると訴訟を起こされるリスクがあるからだ。
新聞社も対外的には、「積み紙」をしないように「指導」している。それは言葉を替えると、「残紙は、拡販活動ですべて実配部数に変えなさい」というメッセージでもあるのだ。また、「積み紙」の禁止が、新聞社の戦略に転嫁することもある。
過去に発生した販売店の強制改廃事件では、「積み紙」が改廃の口実になったケースも少なくない。「積み紙」によって新聞社の信用を毀損したから、改廃は当然だという論理と主張である。実際には、新聞社が勝手に過剰な部数の新聞を搬入していても、新聞社は販売店を改廃する際には、「積み紙」を口実にすることが少なくない。
大阪府でむかしこんな事件があった。
【連載】「押し紙」問題⑧、ABC部数の恐るべき裏面、歌手の「島倉雄三」が読者名簿に
第6章の一部を公開します。全文は、ウェブマガジンで公開されています。
残紙の性質が「押し紙」であるか、それとも「積み紙」であるかにかかわりなく、残紙の実態が社会問題として広く認識されてこなかった原因のひとつにABC部数の信頼性が高い事情がある。出版物の発行データとして権威があるのだ。
しかし、実情はそうではない。公査の過程でさまざまな問題がある。当然、データも信用できないが、大半の人は、それを知らない。ABC部数に残紙が含まれていることを知らない。
日本ABC協会が公査で残紙を摘発する方針を徹底していれば、第3章と第4章で紹介したような凄まじい残紙の実態は生まれなかったはずだ。
本章では、ABC公査の実態と、それによって生じるデータの信憑性を検証しよう。
ABC部数は、データが厳密なものであることを自称しているが、疑問が多い。これについて、まず日本ABC協会の見解を示そう。同協会のウェブサイトは、ABC部数について次のように説明している。
「押し紙」問題・連載⑦、 新聞の収益構造-ビジネスモデル(搾取)のからくり
全文はウェブマガジンで公開しています。公益性が高い記事なので約3分の2を公開します。(■ウェブマガジン)
残紙はだれに被害を及ぼすのかを整理してみよう。まず、残紙の性質が「押し紙」である場合は、「押し売り」の対象となる販売店が被害を受ける。残紙部数に相当する折込媒体が廃棄されるわけだから、広告主も被害を受ける。
もっとも最近は、広告主が水増しの実態を知って、自主的に折込定数を減らす傾向があり、必ずしも残紙部数と同じ部数の折込媒体が廃棄されているとは限らないが、少なくとも第1章で紹介した公共広告に関しては、従来どおり搬入部数と折込定数を一致させる慣行が続いているので、一定数が廃棄される。
残紙が「積み紙」の状態になっている場合は、販売店に損害は生じない。残紙による負担を折込手数料で相殺できるからだ。しかし、余った折込媒体は廃棄されるわけだから、「押し紙」と同様に、「積み紙」でも広告主は被害を受ける。
こんなふうに見ていくと、広告主は残紙がある限り、その性質が「押し紙」であろうが、「積み紙」であろうが、被害を受けることになる。その被害の実態を、シミュレーションにより具体的に検証しようというのがこの本章の目的である。それは同時に新聞の収益構造-ビジネスモデルのからくりを解明することでもある。
「押し紙」問題・連載⑥、銀行と税理士が新聞社の残紙政策の異常を指摘
この章の全文は、ウエブマガジン(有料)で読めます。ここでは、最後の節を掲載します。
・・・・・・・・・・・
さらに別の裁判が提起された。2021年2月に、長崎県佐世保市の元店主が、読売新聞西部本社に対して「押し紙」裁判を起こしたのである。原告の元店主は、1989年に長崎新聞の販売店主任として新聞業界に入った。その後、YCを経営するようになる。
元店主が損害賠償の対象としたのは、2011年3月から2020年2月までの約9年間の残紙である。損害賠償額は、約1億2446万円。残紙率は、時期によって変動がある。最も残紙率が高かったのは、2017年3月の34.6%だった。
2021年04月23日 (金曜日)
連載・「押し紙」問題⑤、4月と10月に新聞のABC部数が水増しされる理由、広告営業を優位に展開するための不正な戦略
読者は、「4・10増減」(よん・じゅう・増減)という言葉をご存じだろうか。新聞販売店主の間では、周知になっている用語で、「4」は4月のABC部数を、「10」は10月のABC部数を示す。
4月と10月に新聞のABC部数が増えて、月が替わるとまたABC部数が減部数されるパターンのことである。逆説的に言えば、4月と10月に新聞社は、広義の「押し紙」を増やし、それが過ぎると再び部数を減らすというのだ。つまり販売店にとっては、年に2回、「押し紙」の負担が増す。
なぜ、新聞社はこのような政策をとるのだろうか。
連載「押し紙」④、広域における残紙量、新聞社の内部資料を公開
折込媒体の水増し行為の温床となっている残紙はどの程度あるのだろう。
残紙量は時代によっても新聞社の系統によっても異なる。あるいは販売店により、地域により差がある。
残紙問題が国会質問で取り上げられるなど、事件として浮上したのは、1980年代である。しかし、それ以前にも残紙は問題になっていた。日本新聞販売協会(日販協)が発行している『日販協月報』には、たびたび残紙に関する記事が登場する。さらに厳密にいえば、残紙は戦前にもあった。たとえば、日販協が編集した『新聞販売概史』によると、1930年に新聞販売店の店員が残紙を告発した挿話が紹介されている。
しかし、戦前・戦後をとおして新聞が残紙問題を報じることはほとんどなかった。自社が「押し紙」裁判に勝訴した時などに、それを誇らしく報じたことはあっても、残紙がなぜ問題なのかをジャーナリズムの視点から掘り下げたことはない。テレビ局も、残紙に関しては報道を控える方針に徹してきた。その大半が新聞社と系列関係を持っているからだ。
週刊誌や月刊誌は断続的に残紙問題を報じてきたが、それらは商取引上の問題、あるいは倫理上の問題としての視点が中心で、公権力によるメディアコントロールのアキレス腱という視点を欠いていた。新聞社の経営上の汚点を理由として、公権力が暗黙裡に新聞社経営に介入する構図を指摘したことはない。
本章では、残紙量を検証する。最初に広域における残紙の実態を歴史軸に沿って紹介し、最後に個々の新聞販売店における残紙のうち、特徴的なものを紹介しょう。
【シリーズ産経の残紙1】「反共メディア」の裏面、産経新聞の内部資料を入手、大阪府の広域における「押し紙」の実態を暴露、残紙率は28%
(この記事は、2018年10月26日に掲載した記事の再掲載記事である。)
これだけ大量の残紙があるにもかかわらず、公権力はなぜメスを入れないのか?
産経新聞の「押し紙」を示す新しい内部資料を入手した。「平成28年7月度 カード計画表」と題する資料で、その中に大阪府の寝屋川市、門真市、箕面市、四条畷市など(北摂第3地区)を地盤とする21店における「定数」(搬入部数)と、「実配数」が明記されている。
店名は匿名にした。「定数」(搬入部数)の総計は、4万8899部。これに対して「実配数」は、3万5435部である。差異の1万3464部が残紙である。予備紙として社会通念上認められている若干の部数を除いて、残りは「押し紙」ということになる。残紙率にすると28%である。
理由が不明だが、新聞は搬入されているが、配達していない店もある。赤のマーカーで示した店だ。今後、産経に理由を問い合わせることにする。
この内部資料が外部にもれたのは、販売店を訪問した産経の担当員が店にこの資料を置き忘れたことである。
次に示すのが資料の実物である。