1. 「押し紙」問題・連載⑦、 新聞の収益構造-ビジネスモデル(搾取)のからくり

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2021年05月04日 (火曜日)

「押し紙」問題・連載⑦、 新聞の収益構造-ビジネスモデル(搾取)のからくり

全文はウェブマガジンで公開しています。公益性が高い記事なので約3分の2を公開します。(■ウェブマガジン)

残紙はだれに被害を及ぼすのかを整理してみよう。まず、残紙の性質が「押し紙」である場合は、「押し売り」の対象となる販売店が被害を受ける。残紙部数に相当する折込媒体が廃棄されるわけだから、広告主も被害を受ける。

もっとも最近は、広告主が水増しの実態を知って、自主的に折込定数を減らす傾向があり、必ずしも残紙部数と同じ部数の折込媒体が廃棄されているとは限らないが、少なくとも第1章で紹介した公共広告に関しては、従来どおり搬入部数と折込定数を一致させる慣行が続いているので、一定数が廃棄される。

残紙が「積み紙」の状態になっている場合は、販売店に損害は生じない。残紙による負担を折込手数料で相殺できるからだ。しかし、余った折込媒体は廃棄されるわけだから、「押し紙」と同様に、「積み紙」でも広告主は被害を受ける。

こんなふうに見ていくと、広告主は残紙がある限り、その性質が「押し紙」であろうが、「積み紙」であろうが、被害を受けることになる。その被害の実態を、シミュレーションにより具体的に検証しようというのがこの本章の目的である。それは同時に新聞の収益構造-ビジネスモデルのからくりを解明することでもある。

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シミュレーションに採用する資料は、ある元販売店主が2018年にX新聞社に対して起こした「押し紙」裁判の中で、X新聞社が自ら作成し、裁判所に提出したものである。実際の商取引における収益の詳細と、残紙がないと仮定した商取引における収益の詳細を比較したものである。この資料は、はからずも新聞のビジネスモデルのからくりを解析する格好の材料となる。

なぜ、X新聞社がこのような資料を公開したのか、その真意は不明だが、おそらく自分たちは残紙により販売店に損害を与えていないという事を立証したかったのだろう。

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資料のタイトルは「収益対比表」(■6の1)となっている。この資料の中で、原告の店主が経営していた販売店における新聞の搬入部数、残紙部数、折込定数、それにひも付けされた金銭などが、実際の取り引きの場合と、残紙がない場合の取りきに分類されている。期間は、2012年7月から2016年7月の約4年である。

まず最初に、元店主が販売店を開業した2012年7月の取引を一例として、残紙と折込媒体の水増しの関係を説明しよう。X新聞社が「収益対比表」で公開した基礎データは次の通りである。

搬入部数:1020部
実配部数:491部
残紙部数:529部
折込定数:1050部※
折込手数料の総額:927,150円(総額)、新聞1部あたり883円
新聞卸価格:1772円
販売店に対する請求額:181万円(1772×1020部)
販売店が集金した購読料:145万円
補助金:1万円

※折込定数は端数を切り上げて表示されるので、このケースのように搬入部数が1020部の場合は1050部になる。

まず、この月の折込手数料の総収入は、右のデータが示すとおり約93万円である。(新聞1部あたりに換算すると883円)。もちろんこの数字は、残紙部数とセットになっている折込媒体が生む折込手数料も含んでいる。

一方、元店主が読者から集金した新聞の購読収入は、割引された購読料なども含めて約145万円である。

この販売収入・約145万円と折込手数料・約93万円の合計が、商取引で得た販売店の総収入ということになる。次の計算式である。

93万円+145万円=238万円

この額に加えてさらに、資料「収益対比表」によると、X新聞社は販売店に対して1万円の補助金を支給している。従って、238万円の収入に補助金1万円を加えた239万円が7月の公式の総収入ということになる。

これに対して、X新聞社が新聞の卸代金として販売店に請求した額は181万円だった。総収入239万円から181万円を差し引いた額が販売店の純利益である。次の計算式である。

239万円−181万円=58万円

この58万円から、元店主は店舗の家賃や人件費などを支払っていたわけだから、健全な経営は成り立たなかったのではないか。実際、開業した当初から、元店主とX新聞社は、残紙をめぐるトラブルになった。元店主の保証人になっていた親戚にX新聞社が、未納になった新聞の卸代金の支払いを求める事態も起きた。

 

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ここからがシミュレーションになる。次に、同じ部数の残紙がある状態で、折込媒体の受注だけが増えて新聞1部が生み出す折込手数料が2000円になった場合を検討してみよう。(先の例では、新聞1部に付き、883円)。このシミュレーションの目的は、折込媒体の受注量の大小が販売店経営に及ぼす影響の大きさを確認することである。

新聞1部が生み出す折込手数料が2000円になった場合の収入は、次の計算式で導き出せる。

2000円×1050部(折込定数)=210万円

一方、読者から集金できる新聞の購読料収入は、実配部数(購読者数)に変化がないので、約145万円のままである。この購読料収入145万円と折込手数料210万円の合計に補助金1万円を加えた額が、販売店の総収入になる。355万円である。次の計算式だ。

210万円+145万円+1万円=356万円

総収入356万円から、新聞の卸代金請求額(残紙部数を含む)181万円を差し引いた額が販売店の純利益である。次の計算式である。

356万円−181万円=175万円

折込手数料が新聞1部あたり883円の状態では、販売店の純利益が約58万円しかなかったが、2000円(シミュレーションの数値)になると、純利益が約三倍にふくれあがるのだ。その結果、残紙で生じる損害(新聞の卸代金)を折込手数料で相殺できる上に、さらに残紙が利益をもたらす構図になる。つまり折込媒体の需要が高く、折込手数料による収入が、新聞の卸原価を上回れば、残紙は販売店の負担にはならない。「積み紙」の状態になる。

「収益対比表」に示されたX新聞社のケースでは、新聞の卸代金が1部あたり1772円であるから、折込手数料がこの額を超えれば、販売店にとって残紙は負担にならない。残紙による損害は相殺できる。相殺できない場合は、新聞社が補助金を提供して、販売店が赤字にならないように調整する場合もある。

元販売店主らの証言によると、このような構図は、日本経済が好調な時期にはあったという。

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このようなビジネスモデルの構図を前提に、X新聞社の「収益対比表」を次の2点から検討してみよう。

① 残紙部数が生み出した約4年間における折込手数料の総額(広告主の損害)と金銭の流れ。

② 残紙は約4年間に販売店に損害を与えたか否か。

「収益対比表」によると、2012年7月から2016年7月の約4年間にこの販売店が得た折込手数料の収入実績は、「収益対比表」によると、約3921万円(39,229,400円)だった。この金額は、もちろん残紙部数が生んだ折込手数料も含まれている。
一方、かりに残紙を排除して実配部数での取り引きが行われていたと仮定した場合の折込手数料の総計は、「収益対比表」によると約2018万円(20,176,350円)だった。従って両者の差額が、残紙部数が生んだ約4年分の折込手数料ということになる。次の計算式である。

3921万円(39,229,400円)―2018万円(20,176,350円)=1903万円(19,053,050円)

この1903万円は、広告主らを騙して徴収した金額にほかならない。残紙の中身が「押し紙」であろうが、「積み紙」であろうが、広告主はこれだけの損害を被っているのである。広告主ひとりの被害額は、これほど大きくはならないが、複数の販売店で同じ規模の水増しが行われていれば、広告主の被害は計り知れないものになる。

しかし、この騙し取った1903万円が販売店の利益になったわけではない。その全部が、残紙部数(総計で、11,280部)に相応した新聞の卸代金(約2019万円)の相殺に充てられた。(計算の詳細は、※注1~2を参照。)

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※注1:残紙部数の根拠
・約4年間における搬入部数の総合計は、33,692部
・約4年間における残紙を除いた搬入部数の総合計は、22,412部

両者の差異が残紙部数ということになる。次の計算式である。
33,692部−22,412部=11,280部

※注2:残紙で生じた損害額の根拠
・約4年間におけるX新聞社からの新聞の卸代金の請求額は、60,519,958円
・残紙がないと想定した場合の約4年間におけるX新聞社からの新聞の卸代金の請求額は、40,351,513円

両者の差異が、残紙部数に対するX新聞社からの請求ということになる。次の計算式である。
60,519,958円−40,351,513円=20,168,445円
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それでもなお販売店は、残紙による損害の全部を相殺することは出来なかった。この点を計算式によって、確認しておこう。

残紙部数の請求額(20,168,445円)−折込媒体で得た折込手数料(19,053,050円)=1,115,395円

販売店は、約112万円(1,115,395円)の赤字を出している。
ただし、X新聞社が約4年間で254万円の補助金を支給しているので、販売店は最終的には、約142万円(1,424,702円)の黒字を出している。月額にして3万円足らずである。念を押すまでもなく、3万円で販売店経営を維持する人件費などの経費が足りるはずがない。が、それにもかかわらず、X新聞社は、残紙によりこの販売店に損害を与えたことにはならないのである。

それを立証するために、X新聞社は資料「収益対比表」を裁判所へ提出したようだ。裁判所もそれを認め、販売店を敗訴させたのである。