1. 集団による弁護士懲戒請求事件、「反訴」した弁護士側の請求方法に問題、被告を増やすことで賠償金の高額化を狙ったスラップまがい

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2018年05月21日 (月曜日)

集団による弁護士懲戒請求事件、「反訴」した弁護士側の請求方法に問題、被告を増やすことで賠償金の高額化を狙ったスラップまがい

大量の懲戒請求書が特定の弁護士に送付された事件が話題になっている。次のような内容である。

とあるブログを発端として、各弁護士会に対し、大量の懲戒請求が届いた問題で提訴の動きが進んでいる。神原元弁護士は5月9日、請求者らに損害賠償を求めて東京地裁に提訴。佐々木亮弁護士と北周士弁護士も5月16日に記者会見し、6月下旬から訴訟を起こすことを明かした。

しかし、この問題で負担が生じているのは、請求を受けた弁護士だけでない。彼らが所属する弁護士会にも郵送費用などが発生している。■出典

この問題について筆者は、ある政治家の意見を聞く機会を得た。政治家の考えは次のようなものだった。事件を主導した者は別として、大半の懲戒請求者は、この種の「戦術」に深く考えることもなく協力した可能性が高い。懲戒請求の方法には、大きな問題があるが、被害を受けた弁護士は、事件の主導者だけに限定して裁判を起こすのが筋だというものである。

ちなみに原告の弁護士らは、懲戒請求者全員を提訴する方針らしい。すでに示談(金銭解決)で裁判を回避した被告もいるらしい。

◇喜田村弁護士の手口

この事件では、被告の数を増やすことで、請求額の総額をかさ上げしている可能性が高い。被告の数を増やすことによって、賠償金額を高くする手口は、実は筆者自身も体験している。

2008年3月、筆者は読売新聞西部本社から2200万円を請求する名誉毀損裁判を起こされたことがある。訴因は、販売店の改廃事件だった。読売の社員3名が、販売店で強制廃業を宣告した後、読売IS社の社員が店舗から翌日の折込広告を搬出した行為を指して、「窃盗」と書いたことを理由に、2200万円を請求されたのだった。

その際、請求の対象者が明確に指定されていた。読売新聞(西部本社)に対して500万円、3名の社員に対して、それぞれ別個に500万円。弁護士の喜田村洋一自由人権協会代表理事に対して弁護士費用として200万円というふうに。これにより喜田村弁護士らは、賠償額を高く設定したのである。

ここには、司法制度を基盤にして、お金を稼ぎ出す構図が浮彫になっているのだ。

【参考記事】喜田村洋一弁護士らによる著作権裁判提起から10年、問題文書の名義を偽って黒薮を提訴、日弁連はおとがめなし①

◇弘中惇一郎弁護士や弘中絵里弁護士のケース

これとよく似たケースで、弘中惇一郎や弘中絵里弁護士が原告代理人を務めた裁判がある。この裁判では、被告が行った表現行為をカテゴリー別に分類して、ひとつひつとの表現行為に対して「お金」を請求している。次のような分類だ。

ア 「■■のブログ」

名誉毀損・・・・・・・・・162記事 1620万円(単価10万)

名誉感情侵害・・・・・・・101記事  505万円(単価5万)

プライバシー権侵害・・・・・85記事  425万円(単価5万)

肖像権侵害・・・・・・・・・・5記事   25万円(単価5万)

合計・・・・・・・・・・・・・・・・・2575万円

イ 「■■のホームページ」

名誉毀損・・・・・・・・・13記事  130万円(単価10万)

名誉感情侵害・・・・・・・11記事   55万円(単価5万)

プライバシー権侵害・・・・12記事   60万円(単価5万)

合計・・・・・・・・・・・・・・・・・245万円

ウ 「■■のblog」

名誉毀損・・・・・・・・・・7記事   70万円(単価10万)

名誉感情侵害・・・・・・・・3記事   15万円(単価5万)

プライバシー権侵害・・・・・5記事   25万円(単価5万)

肖像権侵害・・・・・・・・10枚    50万円(単価5万)

合計・・・・・・・・・・・・・・・・・160万円

エ「YouTube」

名誉感情侵害・・・・・・・・3動画   15万円(単価5万)

【参考記事】老夫婦が訴えられた名誉毀損裁判で、原告代理人の弘中惇一郎弁護士らが「抽象的概念」に対して請求単価を設定、417本の「記事」に3200万円

◇提訴により弁護士懲戒請求を抑制

改めていうまでもなく、先の2例は典型的な高額訴訟である。とりわけ筆者のケースでは、他に2件の裁判を提起されており、約1年半の間に3件、総額で約8000万円の請求を受けた。

今回の懲戒請求者全員に対する提訴にみる請求方法は、喜田村弁護士や弘中弁護士が選んだ請求方法と極めて類似している。請求金額の総計は、メディアでは公表されていないが、懲戒請求者の数から察して、莫大な額になるのでは。

いわゆる「訴権の濫用」(広義のスラップ)が問題になりはじめたのは、今世紀に入ってからである。いまや1億円の請求も珍しくない。筆者は、スラップを抑制するための運動にも参加してきた。仲間のライターと日弁連に対策を取るように申し入れたこともある。が、日弁連はまったく動かなかった。

喜田村弁護士に対しては、懲戒請求も行った。3件のうちの最初の裁判の中で、虚偽の事実を前提に提訴に及んでいたことが司法認定されたからである。が、日弁連は処分しなかった。つまり、原則として弁護士懲戒には応じないという姿勢があるのだ。弁護士の保護者なのだ。

と、すれば今回の懲戒請求をめぐる訴訟も、一方的に弁護士側に理解を示すわけにはいかない。懲戒請求などさらさら認められるはずがないことを、知った上で、みずからが受けた「被害」を強調して、提訴に及んだ可能性が高い。

弁護士懲戒に対する抑止効果を狙った高額訴訟としか考えられない。広義のスラップと同類なのである。相手が右翼だから、何をやっても正当化されることにはならないだろう。

法律の専門家が、法律という刀を振り回して、素人を切りまくっているような印象がある。剣道の有段者は、素人相手にやたらと剣を使うべきではないのだが。

◇ミュージックゲート裁判

参考までに、ミュージックゲート裁判の例を紹介しておこう。これも請求の方法が悪質な実例である。

【参考記事】

ソニーなどレコード会社31社が仕掛けた2億3000万円の高額裁判に和解勝利した作曲家・穂口雄右氏へのロングインタビュー(上)

ソニーなどレコード会社31社が仕掛けた2億3000万円の高額裁判に和解勝利した作曲家・穂口雄右氏へのロングインタビュー(下)