1. 金竜介弁護士らが金銭請求している5億8,000万円に道理はあるのか? 892人を被告とする損害賠償裁判、弁護士大量懲戒請求事件、東京地裁も困惑か?

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2022年04月04日 (月曜日)

金竜介弁護士らが金銭請求している5億8,000万円に道理はあるのか? 892人を被告とする損害賠償裁判、弁護士大量懲戒請求事件、東京地裁も困惑か?

3月初旬、わたしは2人の弁護士が起こした損害賠償訴訟で、被告にされたAさん(男性)を取材した。この訴訟の背景には、一時期、メディアがクローズアップした一連の弁護士大量懲戒請求事件がある。現在では報道は消えてしまったが、しかし、水面下で事件は形を変えて続いている。

被告・Aさんによると、自らが被告にされた裁判では、被告の人数が892人にもなるという。Aさんは、その中の1人である。

この裁判を起こしたのは、金竜介弁護士(写真:出典=出典=台東協同法律事務所HP)と金哲敏弁護士の2名である。2人の原告の代理人は高橋済弁護士である。訴状は、2021年4月21日に東京地裁で受理された。

請求額は約5億8,000万円である。まもなく提訴から1年になるが、未だに口頭弁論が開かれていない。わたしが3月に東京地裁に問いあわせたところ、担当書記官は、「何もお答えできることはありません」とあいまいな返事をした。Aさんも、自分の答弁書を提出したが、その後、裁判所からの連絡はない。他の被告がどのような対応をしているのかも、知りようがない。

わたしは東京地裁で裁判資料の閲覧を求めたが、これも認められなかった。理由はわからない。

◆大量懲戒請求への道

事件の発端は、インターネット上のサイト「余命三年時事日記」に特定の弁護士に対して懲戒請求を働きかける記事が掲載されたことである。同ウエイブサイトからは懲戒請求のために準備した書式がダウンロードできたという。その書式に自分の住所や名前などを記入して、「まとめ人」に送付すると、集団による大量懲戒請求の段取りが整う。

高橋弁護士が作成した訴状によると、「少なくとも平成29年(2017年)11までに」は懲戒請求を働きかける記事が掲載されていたという。懲戒請求の理由は、次のとおりである。訴状から引用する。

「違法である朝鮮人学校補助金支給請求声明に賛同、容認し、その活動を推進することは、日弁連のみならず傘下弁護士会および弁護士の確信的犯罪行為である。
 利敵行為としての朝鮮人学校補助金支給要求声明のみならず、直接の対象国である在日朝鮮人で構成させるコリアン弁護士会との連携も過過できるものではない。
 この件は別途、外患罪で告発しているところであるが、今般の懲戒請求は、あわせてその売国行為の早急な是正と懲戒を求めるものである」

このような主張自体は、国境が消滅しはじめて言語なども多様化してきた現代の感覚からすれば時代錯誤だ、というのがわたしの考えだ。国際感覚が欠如した「島国根性」にほかならない。

しかし、懲戒請求者の全員が懲戒理由を吟味して、懲戒請求書を「まとめ人」に送ったわけではない。Aさんも深くは考えなかったという。

訴状によると、2018年4月19日ごろに、「東京弁護士会の綱紀委員会は、本件懲戒請求についての調査開始をした」。しかし、翌日に「事案の審査を求めない、との議決をした」。さらにその後、弁護士会としても「被調査人を懲戒しない」ことを決定した。そして、27日に金竜彦弁護士と金哲敏弁護士にその旨を通知した。

2人は「この議決書及び決定書の送達があった日に、自らが懲戒請求を受けたことを知った」のである。

◆個々人、別々に金銭を請求

金銭請求の内訳は、被告1名に付き慰謝料30万円、弁護士費用3万円である。(ただし、内金については控除)。金銭請求の総額は約5億8,000万円になる。

実は、被告をひとまとめにして金銭を請求する代わりに、被告個々人に対して個別に金銭請求する方法も一般化している。たとえばわたし自身の経験になるが、2008年、読売新聞社がわたしに対して2230万円の賠償を求める名誉毀損裁判を起こしたことがある。この裁判の原告は、3人の読売社員と法人としての読売新聞社だった。読売の代理人の喜田村洋一・自由人権協会代表理事は、3個人と1法人に対して、個々の金銭請求額を提示してきた。その結果、わたしの年収の10倍近い金銭請求額を突きつけれたのである。

裁判の結果は、地裁、高裁はわたしの完勝。最高裁が高裁判決を差し戻し、最終的には読売が劇的逆転勝訴を勝ち取った。わたしが、読売とその社員3人に約110万円の現金を払うことになった。

改めて言うまでもなく、個々人に対して金銭請求をしても、違法行為ではない。実際、金竜介弁護士と金哲敏弁護士は、この方法で約5億8,000万円というとてつもない金銭を請求したのである。

◆精神的苦痛による損害

しかし、損害金を請求するというからには、具体的な損害が発生していることが前提になる。ところが2人の弁護士が自分たちを対象とする大量懲戒請求が起こされていたことを知ったのは、弁護士会が懲戒請求を却下した後である。従って、精神的にも経済的にも損害を受けていない可能性が高い。あえて言えば、この事実を知らされたときに驚きと憤りを感じたという程度ではないだろうか。その損害の程度と5億8,000万円の請求に合理的な整合性はあるのだろうか。

初出:デジタル鹿砦社通信