1. 老夫婦が訴えられた名誉毀損裁判で、原告代理人の弘中惇一郎弁護士らが「抽象的概念」に対して請求単価を設定、417本の「記事」に3200万円

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2014年07月14日 (月曜日)

老夫婦が訴えられた名誉毀損裁判で、原告代理人の弘中惇一郎弁護士らが「抽象的概念」に対して請求単価を設定、417本の「記事」に3200万円

スーパーに陳列されているリンゴやミカンに単価が表示されていても違和感はないが、たとえば「名誉毀損」といった抽象的なものに対して単価が設定されているとすれば、戸惑いをおぼえるに違いない。

少なくともわたしがこれまで取材した名誉毀損裁判ではこのような前例がない。そこでまずは、単価設定の具体的事実を示そう。弘中惇一郎弁護士らが、年金で生活する無名の老夫婦に対していきなり起した裁判の訴状の記述である。ただし、()内は、便宜上黒薮が訴状の記述を根拠に補足した数字である。

ア 「■■のブログ」

  名誉毀損・・・・・・・・・162記事 1620万円(単価10万)

  名誉感情侵害・・・・・・・101記事  505万円(単価5万)

  プライバシー権侵害・・・・・85記事  425万円(単価5万)

  肖像権侵害・・・・・・・・・・5記事   25万円(単価5万)

  合計・・・・・・・・・・・・・・・・・2575万円

イ 「■■のホームページ」

  名誉毀損・・・・・・・・・13記事  130万円(単価10万)

  名誉感情侵害・・・・・・・11記事   55万円(単価5万)

  プライバシー権侵害・・・・12記事   60万円(単価5万)

  合計・・・・・・・・・・・・・・・・・245万円

ウ 「■■のblog」

  名誉毀損・・・・・・・・・・7記事   70万円(単価10万)

  名誉感情侵害・・・・・・・・3記事   15万円(単価5万)

  プライバシー権侵害・・・・・5記事   25万円(単価5万)

  肖像権侵害・・・・・・・・10枚    50万円(単価5万)

  合計・・・・・・・・・・・・・・・・・160万円

エ「YouTube」

  名誉感情侵害・・・・・・・・3動画   15万円(単価5万)

対象記事の総数は、417記事である。

はじめてこの訴状を読んだとき、わたしは訴訟がビジネス化してきたのではないという危惧を感じた。このように事務的で、人間的感情を排除した請求例に接したことがなかったからだ。

求めているお金は弁護士費用などを含めて、3294万5000円である。しかも、この請求額は、「平成24年11月」までの記事等を対象にしており、訴状には、「平成24年12月以降に掲載された記事についても、請求を追加する予定である」と明記されているのだ。そうすると最終的な請求額は、5000万円、あるいは6000万円になるかも知れない。年金で生活している老夫婦が簡単に支払えるような額ではない。

◇武富士裁判の代理人で、批判も

この裁判を提起したのは、次の弁護士たちである。(敬称略)

弘中 惇一郎

弘中 絵里

大木 勇

品川 潤

山縣 敦彦

■出典

弘中弁護士は、かつてロス疑惑事件の被告・三浦和義氏を無罪にしたり、薬害エイズ事件の被告・安部英被告を無罪にした実績がある。人権派として有名だ。自由人権協会の理事を務めたこともある。

また、捏造報告書の流出がからんだ小沢一郎氏事件でも、小沢氏を弁護して無罪を勝ち取った。その反面、サラ金の武富士がフリージャーナリストらに対して起した億単位の高額訴訟では、武富士の代理人を務めて、批判されたこともある。

裁判の原告は、原告側準備書面によると、「私人」の女性である。しかし、わたしが調べたところ、原告には著書や翻訳書もあり、食関係の市民講座の講師を担当したり、チャリティーコンサートを主催するなど、社会的な責任も重い著名人である。雑誌にも写真入りで登場している。

◇名誉毀損の記事1本につき10万円請求

訴状によると事件は、被告Aと被告B夫妻が、ブログやホームページの記事などで、原告Cの名誉を毀損したり、肖像権などを侵害したというものである。そこでブログ記事をバックナンバーにまでさかのぼって、「名誉毀損」に該当するもの、「名誉感情侵害」に該当するもの、「プライバシー権侵害」に該当するもの、「肖像権侵害」に該当するもの等に分類し、単価と該当記事数を確定した上で、請求額を設定したのである。もちろんその他にも記事の削除などを求めているが、この裁判の際立った特徴は、お金の請求の方法である。

訴状の「第1 はじめに」には、次の抜粋のように被告を容赦なく批判する表現がある。

■被告らの攻撃の執拗さと悪質さは常軌を逸するもので、原告の過去の言動(しかも事実に反する)や原告のブログ記事の片言隻句をあげつらっては原告に対する罵詈雑言を書き散らす長文の記事を、毎日のように掲載し続けている。

 

  ■被告らの攻撃によって原告が蒙った精神的苦痛は甚大であり、被告らの攻撃が続く限り、原告が平穏な生活を送ることは不可能な状態にある。

注:太字は筆者)

ある事実を自分の目で詳細に観察して、それを言葉に置き換えた文章というよりも、慣用句を連発したものである。私見になるが、この種の表現は「結論先にありき」の文章に多い。

◇原告陳述書に閲覧制限

わたしはこの裁判を調査するために、まず、最初に被告夫妻を取材した。それから東京地裁で、裁判に関する資料を閲覧した。その結果、確かに現在の司法判断の基準からすると、被告のブログには名誉毀損的な表現と感じる箇所が見うけられた。しかし、本当に名誉を毀損しているかどうかは、事件の背景を含む全体像を把握しなければ見えてこない。

資料を閲覧してわたしが最も不思議に感じたのは、原告が弁護士と代理人契約を交わしてから、実際に提訴するまでに約半年のブランクがあり、その間、被告夫妻に対して抗議や警告を行った記録が見当たらないことである。代理人契約は、2012年10月23日に交わされた。しかし、実際に提訴したのは、2013年4月5日である。この間に、老夫妻に抗議した記録は見当たらない。

わたしが見落とした可能性もあるので、被告夫妻に問い合わせたが、やはりそのような事前の抗議はなく、いきなり訴状を突き付けられたという。

「原告が平穏な生活を送ることは不可能な状態」(訴状)になっていながら、肝心の警告を発しなかったことについて、わたしは事情を知りたいと思った。

さらに疑問に感じたのは、原告女性の陳述書などに閲覧制限がかかっていることである。これについて調べてみると、弘中弁護士らが閲覧制限を申し立て、5月26日にそれが認められていることが分かった。

原告の陳述書を閲覧できなければ、客観的に事件の背景を知りようがない。名誉毀損的な表現の評価もできない。そこでわたしは法律事務所ヒロナカに取材を申し入れた。

◇取材の申入れ

前略。

 わたしは、貴事務所が代理人を務めておられます■■■■氏を原告とした裁判を取材している者です。原告本人、あるいは代理人の方を取材させていただきたく、連絡しました。

裁判の全体像を説明していただくと同時に、名誉毀損といった抽象的な概念に単価を付ける請求方法について、確認させていただきたい点がいくつかあります。ご検討ください。

◇請求方法に倫理的な問題はないのか

これに対して、弘中絵里弁護士から次のような返答があった。

事件の全体像を申し上げるにはご本人の了解が必要ですので現状申し上げることは差し控えます。

ただ請求額について申し上げると類似事例の裁判例を参考に金額を算出しました。請求額が多くなったのは、書かれた記事の量が極めて膨大であり、また内容も看過できないものだったことによるものです。

本件のようにインターネット上で長年に亘り攻撃し続けられた場合にどのように対処したらよいのかという観点からもご検討いただけると幸いです。

取材の拒否ではないが、「現状申し上げることは差し控えます」とある。

ちなみに弘中絵里弁護士は、原告の女性が「インターネット上で長年に亘り攻撃し続けられた」と述べているが、被告夫妻の話によると、弘中弁護士が主張する長年(7年)の「攻撃」のうち、5年はブランクがあったという。

また、弘中絵里弁護士の文中に「請求額が多くなったのは、書かれた記事の量が極めて膨大であり、また内容も看過できないものだったことによるものです。」とあるが、既に述べたように、原告が法律事務所ヒロナカに相談を持ちかけてから、実際に提訴するまで、約半年の空白がある。この間に被告に対して抗議せずに、被告の言論を放置した理由がよく分からない。

原告は、「平穏な生活を送ることは不可能」(訴状)になり、弁護士に相談していながら、なぜ、放置したのだろうか。もちろんこの間、記事の本数は増えてる。原告の考えをぜひ知りたいものだ。

このところ名誉毀損裁判は増えている。それが言論表現の自由を脅かしている。この裁判に見られる請求方法に倫理的な問題はないのか、さらに検証が必要だ。他人の名誉を毀損したからといって、何をしてもいいことにはならない。特に原告に圧倒的に有利な現在の名誉毀損裁判の法理下では、お金の請求額や請求方法について、慎重な検討が必要だ。

MEDIA KOKUSYOは、今後、この事件を続報していく。