1. 多発するスラップ訴訟、対策は名誉毀損裁判を多発する弁護士のブラックリストの共有

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2018年03月29日 (木曜日)

多発するスラップ訴訟、対策は名誉毀損裁判を多発する弁護士のブラックリストの共有

最近、司法の世界ですっかり定着した言葉のひとつに「スラップ」がある。
日本では、「いやがらせ裁判」とか、「訴権の濫用」というニュアンスで使われているが、この言葉の発祥国である米国では、「公的な活動参加に対する戦略的な訴訟」(Strategic Lawsuit Against Public Participation)という意味である。従って、日米では、スラップの意味が若干異なっている。

たとえば左巻健男氏の次のツィートである。

ニセ科学はすぐにスラップ訴訟を言い出す傾向がある。いや、賢いニセ科学は批判されてもスルーする。批判を相手にするよりは、ずっと多数の信じる人らに買って貰えばいいからだ。焦っている、凋落している、可笑しげな顧問や関係者がいるニセ科学がスラップ訴訟を言ったりやる傾向を感じる。

訴権の濫用の色調が濃い。

今世紀初頭に日本でスラップがはじまったころは、悪徳企業が原告になることが多かった。その典型は、改めていうまでもなくサラ金の武富士である。

ところが最近は、左派から右派まで、スラップで反対言論を牽制する傾向が顕著になっている。既報したように、簡易裁判所で本人訴訟を起こし、賠償金という「小遣い」稼ぎをしている人もいる。名誉毀損裁判は、原告が圧倒的に有利な法理になっているからだ。

スラップが増えているのは、単純にお金になるからにほかならない。弁護士が増えすぎて、しかも、知的レベルも人格も相対的に下がっているので、手軽な名誉毀損裁判へと走ってしまう。それが悲しき実体である。「人権派」の看板を掲げて信用を得ながら、「正義の訴訟」を繰り返すことになる。

スラップ対策については、2016年7月に、筆者を含むフリーランス記者3名で、日弁連に対して申し入れを行ったことがある。

【参考記事】フリーランス記者3名が日弁連に申し入れ、スラップ問題を研究するためのチームの設置を要望

しかし、その後、日弁連が対策を構築したという話は聞かない。スラップは放置されたままである。しかも、困ったことに問題を起こした弁護士を懲戒請求しても、なかなか認められない。筆者は、喜田村洋一弁護士(自由人権協会代表理事)に対して懲戒請求したことがあるが、これには判決までに2年を超える歳月を要した。判決を引き延ばされたあげく、結局、お咎めなしということになった。

【参考記事】喜田村洋一弁護士らによる著作権裁判提起から10年、問題文書の名義を偽って黒薮を提訴、日弁連はおとがめなし①

◇記録を残す意義

対策はあるのだろうか? 実は、スラップの対策として、かなり以前からフリーランス記者や編集者の間である戦略が考案されてきた。安易に名誉毀損裁判を起こす弁護士のブラックリストを作成して共有する案である。名前・所属事務所・言動などをデータベース化して、該当する人物には仕事を依頼しないなど、ある種の協力関係を構築するのだ。それにより不要な名誉毀損裁判を多発する弁護士を実質的に追放する戦略である。

もちろんデータベース化するにあたっては、リストに入れる該当弁護士を取材するなどして、その際に暴言などがあれば、それを音声記録として残しておく必要がある。しかし、スラップについての取材となると拒否される可能性が高く、そう簡単にできるわけではない。解決しなければならない問題は多い。

しかし、こうした対策を取らない限り、職業としてのフリーランス記者・編集者は成り立たない。出版労連や日本ジャーナリスト会議など、出版関係の組織がイニシアチブを取ってくれれば、決して実現できない対策ではないだろう。
緊急に考えなければならない課題である。

◇日本で起きた代表的なスラップ裁判

ちなみに日本で発生した典型的な訴権の濫用の実例を紹介しておこう。

ソニーなどレコード会社31社が仕掛けた2億3000万円の高額裁判に和解勝利した作曲家・穂口雄右氏へのロングインタビュー(上)

ソニーなどレコード会社31社が仕掛けた2億3000万円の高額裁判に和解勝利した作曲家・穂口雄右氏へのロングインタビュー(下)