1. 博報堂事件の取材開始から1年、民間企業から省庁まで腐敗の構図が輪郭を現わす

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2017年02月27日 (月曜日)

博報堂事件の取材開始から1年、民間企業から省庁まで腐敗の構図が輪郭を現わす

「折込広告の水増し詐欺を受けている疑惑があるので、相談に乗ってもらえないでしょうか」

ちょうど1年前、わたしは1本の電話を受けた。電話をかけてきたのは、福岡市に本社がある化粧品の通販会社・アスカコーポレーションの社員だった。折込広告の水増し問題は、新聞社による「押し紙」と共に、わたしのライフワークだったので、すぐに承知して資料を送付してもらった。

送付されてきた資料を検証したところ疑惑があったので、取材することを想定して、まず、最初のステップとして、資料の提供者が信用できるかどうかを直接確認するために、福岡市まで足を運んだ。

博報堂事件の取材をはじめてまもなく1年をむかえる。当初は予想しなかった大事件の様相を強めている。今、事件の輪郭が鮮明になってきた。

アスカコーポレーションを訪問して、事情を聞いた。その中で同社が受けた被害は、折込広告に関する疑惑に留まらないことが分かった。テレビCMを約1500本も間引かれていた強い疑惑があることなども分かった。CMが放送されたことを証明する放送確認書に、放送の完了を証明するコードが欠落しているものが多量にあるのだ。

さらにワードで作成した偽造の放送確認書の存在も判明した。

博報堂は、電通や東急エィジェンシーなどを追い出して、2008年から、同社のPR業務を独占してきたのである。

◇アスカから内閣府へ

わたしは、アスカコーポレーションを舞台とした博報堂のPR業務の手口を調べる作業に約半年を費やした。次に着手したのは、内閣府における博報堂の業務実態の調査だった。その糸口は、まったくの偶然に見つけた。

わたしは新聞を取材対象にしていることもあって、定期的に公共広告へ投じられる国家予算の実態を調査している。昨年の5月にも、内閣府に対して広告代理店との間で交わされた業務契約書などを情報公開請求して入手した。その資料を精査するなかで、1組(契約書と請求書)だけ不信なものがあることに気づいた。博報堂のものである。契約額が約6700万円で、請求が20億円を超えていたのだ。

この1組のケースを調べたところ、内閣府の裁量で湯水のように国家予算を博報堂に流し込むシステムの存在が分かった。支出の名目は、新聞広告やテレビCMなどPR費である。第2次安倍内閣になってから、博報堂を通じてメディア企業に莫大な国家予算が流れ込んでいるのだ。

2015年度に内閣府が博報堂へ支払った国家予算の総額は25億円を超えた。

◇内閣府から省庁へ

わたしは内閣府とは別の省庁も調査することにした。この作業は現在も進行中で、省庁のレベルでも博報堂に対する疑惑が次々と浮上しはじめている。

たとえば文部科学省を例にすると、2015年度、たった9ページのウエブサイトの制作費として2100万円が支払われている。その前年には、博報堂とその関連会社に、同じプロジェクトで2件のウエブサイトを発注している。これ自体が不自然だ。1プロジェクトに1件のウエブサイトで十分ではないだろうか。しかも、制作費が異常に高い。

日本の教育界の司令塔で、こんなデタラメがまかり通っているのだ。

総務省でも重大な疑惑が浮上している。国勢調査のPRで新聞広告が使われたのだが、契約書では、延べ25本の新聞広告を掲載する取り決めになっていたが、その半分以上にあたる13本が掲載されていなかった。しかし、契約どおりの額が請求(6億円、他のPR業務も含む)されていた。

環境省や防衛省との取引でも疑惑、あるいは不明瞭な点が浮上している。たとえば除染関連の事業で2011年に、環境省から博報堂へ9億6000万円が支出されている。博報堂に対して過去に3年間で約90億円が投入された事実も、国会質問などで明らかになっている。

防衛省は、契約書の情報開示を引き延ばしている。

日本中央競馬会(JRA)のPR事業も博報堂が請け負っていることが分かった。管轄省庁は農林水産省である。

博報堂には、JRAではギャンブルのPRを行い、その一方で文部科学省の教育プロジェクトのPRを担当するという矛盾した姿勢も見られる。企業コンプライアンスが問われる。

◇省庁から地方自治体へ

地方自治体における博報堂の業務につても、調査を開始した。その中でたとえばわたしは、神奈川県に対して移住促進事業に関する博報堂の関与を調べるために、同事業の契約書・見積書・請求書を情報公開請求で入手した。

この情報開示手続きの中で、開示に反対する意見書が提出された。意見書を提出したのは、神奈川県の説明によると博報堂だった。

現在、この意見書を開示するように情報公開請求の手続きを取っている。

こんなふうに博報堂事件は、最初は1民間企業が取材だったのだが、取材範囲が省庁や地方自治体へ拡大している。不正経理に関した取材であるから、当然、国税局や証券等監視委員会、それに会計検査院なども取材対象になっている。

◇内閣官房からも「天下り」

経理とは別の視点から、博報堂人脈の調査も行った。この人脈調査に関しては、匿名による情報提供により重要な事実を知った。内閣官房から1名、内閣府から1名、広報業務を担当していた官僚が、博報堂に「天下り」していることが分かった。次の2名である。

 ・阪本和道氏(元審議官)

  ・田幸大輔氏(広報室参事官補佐・広報戦略推進官)

このうち田幸氏は、内閣官房の所属だった。内閣官房とは、総理大臣の直属機関である。

民間から省庁に至るまで、共通しているのは、契約どおりに仕事をせずに請求書を起こしている点である。後付けで請求額を増やしたケースも多数確認できる。このようなやり方は、日本では通用しても、契約書を重視する欧米では通用しない。たちまち摘発される。

今後は、博報堂グループの読売広告社などを対象に、折込広告の業務についても調査する方針だ。

新聞業界・広告業界の業界には、マスコミタブーがあるので、巨大メディアがこれらの業界の闇を報道することはあり得ないが、インターネットでは十分に可能なテーマである。

■情報提供の窓口 048-464-1413(メディア黒書)

【主要記事】

博報堂事件の主要記事を紹介しておこう。

■【解説】奇怪な後付け見積書が多量に、博報堂事件の構図はどうなっているのか?

 

■放送確認書の偽造(民間企業アスカ):チャンネルMnetに質問状、放送確認書の偽造疑惑について

 

■テレビCMの中抜き(民間企業アスカ):博報堂系のスーパーネットワーク社にCM「間引き」の疑惑と温床、10桁のCMコードは未使用

 

■視聴率の改ざん(民間企業アスカ):テレビ視聴率「偽装」の決定的証拠を公開、博報堂の担当員はビデオリサーチ「視聴率」との差異をどう説明するのか?

 

■過去データの流用(民間企業アスカ):博報堂による「過去データ」流用問題、編集の実態、アスカ側は情報誌のページ制作費だけで7億円の過剰請求を主張

 

■総務省:博報堂による6億円事業、H27年度国勢調査の新聞広告の間引き、架空請求の決定的な証拠

 

■文部科学省:ウエブサイト9ページに2100万円を支出、国家公務員と博報堂の異常な金銭感覚、背任・詐欺の疑いも?

 

■環境省:博報堂、環境省のクールビスでも国家予算の使途に疑問符、新聞広告では読売と日経を優遇①

 

■防衛省:防衛省に対する博報堂からの請求、自衛隊音楽まつりの企画が4373万円にも、公金の無駄遣いの典型