1. 非核3原則は守られるのか、改めて問われる特定秘密保護法の違憲性

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2015年08月17日 (月曜日)

非核3原則は守られるのか、改めて問われる特定秘密保護法の違憲性

◆吉竹幸則(フリージャーナリスト・元朝日新聞記者、秘密保護法違憲訴訟原告)

 戦後70年、安倍談話が発表された。「侵略」や「おわび」の言葉は確かに入った。でも、自らの心からの言葉とは思えない空虚さが漂う。

そんな中で国会では、「核ミサイルも毒ガス兵器も自衛隊が輸送することは法文上可能だ」との安全保障法制を巡る中谷防衛相の答弁が波紋を呼んでいる。安倍首相は非核三原則を理由に「自衛隊が核兵器を輸送することは120%あり得ない」と火消しに懸命だ。

しかし、核ミサイル運搬が出来るように、こっそり安保法制の法文に忍ばせたのは、実は安倍政権なのだ。だから、この言葉も本心からとは思えない。

非核3原則は本当に守られるのか、国民はどう監視するのか、出来るのか。安倍政権の核兵器を含む米軍と一体になった戦争推進策に対し、集団的自衛権のみならず、最近下火になった特定秘密保護法の違憲性についても改めて論議を深める必要がある。

◇信用できない安倍首相の説明

参院平和安全法制特別委員会の質疑。中谷防衛相は民主党議員の質問に答え、「安保法案が成立すれば他国軍への後方支援として、核ミサイルや毒ガス兵器の輸送も出来る」との見解を示した。

その一方で中谷氏は、「持たず、作らず、持ち込ませず」との非核三原則の存在に言及。「核兵器を輸送することは想定していない」と、米国から頼まれても「拒否する」と答えた。安倍首相も「私は総理大臣として核輸送はあり得ないと言っているのですから、間違いありませんよ」と気色ばんだ。

だが、核ミサイルも毒ガスも輸送が法文で禁じられていなければ、その時の政権・政策判断でいくらでも運ぶことは可能になる。安保問題で憲法解釈を含め、戦後70年、この国が積み上げて来た数々の政策をいとも簡単に変えて来たのが安倍氏だ。彼が「120%あり得ない」と言うなら、その言葉は「200%」信用出来ない。

感情論で言っているのではない。「米軍の頼みなら、何でもする。たとえ核ミサイルでも運ぶ」との安倍氏の思惑が透けて見える明らかな証拠がある。それは今国会に提出された安保法制の一つ、「重要影響事態法」の中に隠されている。

◇弾薬の運搬にお墨付き

1999年に制定された「周辺事態法」を改正し、安倍政権が今国会に出したのが、「影響事態法」だ。その法文を細かく精査すれば分かる。しかし、最近の記者は不勉強だ。重要法案が出ても、文面を隅から隅まで読んで検証する習慣さえなくしている。だから記者も、多分気付いていないのだろう。その結果、報道もされず、世間にほとんど知られていない。

もし、この欄の読者で興味がある人がおられるなら、周辺事態法と新法の影響事態法案の文面を細かく読み比べてもらいたい。ヒントを出せば、3条1項で定める「アメリカ合衆国の軍隊に対する物品及び役務の提供、便宜の供与」の範囲の中について、「証拠」が隠されている。

両方の文面を読まれると、条文とは別に表の形で「備考」が付属されていることが分かるはずだ。しかし、新法では周辺事態法の「備考」に手が加えられ、こっそり改変されているのだ。

どう変えられたのかを見る。周辺事態法の「備考」では、米軍に供給できる物品の範囲について、以下のように定めていた。

「一 物品の提供には、武器(弾薬を含む)の提供を含まないものとする。

 二 物品及び役務の提供には、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まないものとする。

 三 物品及び役務の提供は、公海及びその上空で行われる輸送(傷病者の輸送中に行われる医療を含む)を除き、我が国領域において行われるものとする」

ところが、新法の「備考」では、「二」「三」が消えてなくなっている。「一」は、「物品の提供には、武器の提供を含まないものとする」となった。こう書いても、多分違いに気付く人は少ないかもしれない。()内の「弾薬を含む」が消されているのだ。これによって、自衛隊の活動も、運べる「物品」の性格も180度変わる。

◇クラスター弾、劣化ウラン弾

非人道的兵器と言われるのが、クラスター弾、劣化ウラン弾だ。しかし、それにとどまらず、核弾頭ミサイル、毒ガスまでもが消耗品。「武器」ではなく「弾薬」にあたるというのが政府見解だ。旧法の周辺事態法では、「備考」により、自衛隊はこうした「弾薬」を米軍に供給・輸送は出来ない歯止めがあった。

ところが新法では、「備考」から「(弾薬を含む)」をこっそり意図的に消すことにより、核ミサイルを含む非人道的「弾薬」でも自衛隊が輸送し、米軍に届けることを「法文上排除しない」(中谷氏)ことになったのだ。

この国は、戦争の悲惨な体験を通じ、憲法9条により平和国家を目指すと決意したのではなかったのか。世界で唯一の被爆国として、絶対に核兵器を使わないし、使わせないことも国是としたはずだ。しかし、70年談話とは裏腹に、この新法の法文からは、この国の首相として、民の心からの願いを汲もうとする姿勢の微塵も感じることは出来ないのだ。

集団的自衛権容認に基づく安保法制とは、米国の軍事戦略に沿い極東のみならず、世界のどこにでも出掛け、戦闘活動を支援することを可能にするための法整備と言える。自衛隊の位置づけは、ありていに言えば米軍の手先・パシリになることなのだ。

「備考二」「三」もなくしたことでも分かる。自衛隊が運んで積み込んだ核兵器を搭載した米軍機に自衛隊が空中給油することも出来るようになる。

安倍首相は「備考」を密かに変えることによって、米軍の要求に沿って「運べ」と言われたら、「弾薬」、つまり核弾頭でも毒ガスでも、自衛隊が運へるよう、わざわざ法律案の「備考」を意図的に改変した。だから、少なくとも国会答弁とは裏腹に、米国の要請があれば、核兵器までも運ぶことまでも「200%」想定。米国に忠実なパシリとして、むしろ「そうしたい」と心の中で思っていると見るしかないのだ。

◇非核三原則も歯止めにはならない

では、安倍氏や中谷氏が口にした「非核三原則」は、自衛隊の核ミサイル運搬を阻む歯止めとして本当に働くのか。広島での原爆・平和式典で歴代首相が必ず盛り込んだ「非核三原則」の「非」の字さえ言わなかったのも安倍氏だ。少なくとも、彼を野放しにしておくなら、本気で三原則を守り、自衛隊に「核ミサイルは運ぶな」との指示を出すとは考えられない。

実は、これまでの自民党歴代政権でも、三原則のうち「持ち込ませず」が本当に守られて来ていたのか、それさえも怪しい。米議会で退役軍人が「日本寄港の米国艦艇は核兵器を外さない」との証言したこともある。しかし、日本政府はこれまで何も対処しなかった。

なら、国民・住民それぞれが、自ら自分の地域を監視していかない限り、核兵器の持ち込みを止めることは難しい。実際に「非核三原則」を守らせるために、自治体・住民が取り組み、効果を上げて来た数少ない実例が、神戸市にある。「非核神戸方式」と呼ばれるものだ。

神戸市では1975年の市議会決議により、神戸港に寄港する外国艦船に「非核証明書」の提出を求めるようになった。米艦船の日本の港への入港は年間10-20隻だ。しかし、それ以降、米船は近くの姫路港などに入港しても、神戸港には一度も立ち寄っていない。

退役軍人の証言通りとするなら、核兵器を積んでいて「非核証明書」を出すのは抵抗感があるからだろう。それに万一、こうした証言によって核積載が露見することになれば、証明書を出したことも大きな問題になる。だから神戸港への入港は、面倒だから避けたに違いない。神戸市の取り組みは一定の成果を上げて来たのだ。

◇外務省機密漏えい事件

でも、特定秘密保護法が成立した今後はどうか。日本に寄港する米艦船に核ミサイルと言う「弾薬」が積まれているとしたら、それを自衛隊が運ぶことは法文上規制されていない。

当然のこととして、核兵器積載・運搬の事実は、日米共通の第1級の「特定軍事秘密」に指定されることは間違いない。もし知っている人がいるとしても、秘密保護法によって監視対象になり、漏らすことは厳しく取り締まられる。もちろん、ジャーナリストが取材し、報道することも困難だ。住民・自治体による監視機能は働かず、これからは「非核神戸方式」すらも機能しなくなる。

一つ、思い出して欲しい。1971年の佐藤内閣・沖縄返還協定締結のさ中、政府秘密情報を当時、毎日新聞記者だった・西山太吉氏が掴んだことが罪に問われた外務省機密漏えい事件だ。

西山記者は米軍基地返還に伴い、米国が沖縄の地権者に支払う土地現状復旧費用400万ドル(当時の換算で12億円)を日本政府が肩代わりして支払うとの密約が存在するとの秘密文書のコピーを入手。知り合いの野党議員に情報を流したことが罪に問われた。

西山氏の取材は、沖縄返還交渉で国民の知らない密約が交わされた事実を明らかにすることにあった。記者として国民の「知る権利」に応える当然の仕事である。

しかし、西山氏がコピーを入手するため、外務省女性事務官と男女関係を結ん
だとして、検察は国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕・起訴。西山記者は一審こそ無罪になったものの、控訴審で逆転有罪。最高裁もその判決を踏襲した。

「表現・言論の自由」があるにも拘わらず、検察も含め権力側に立つ司法が、何故、男女関係まで持ち出して西山記者を強引に拘束。その後有罪判決まで持ち込んだのか。

背景について多くの人の指摘がある。沖縄返還に際しての米国との密約は、土地復旧費用だけにとどまっていないのでは…という点だ。最大の疑惑は、核密約だった。日本政府には非核三原則がある。しかし、米軍は沖縄基地で極秘で保有されて来たとされる核兵器。沖縄返還後もそのまま黙認する約束が密かに日米両国で交わされていたのではないか、と言う問題だ。

事実なら、もちろん非核三原則に反する。この密約が世間に明らかになった場合の社会的影響は、土地復旧費用密約の比ではない。佐藤政権としては、復旧費用密約を認めてしまえば、「他にも密約はあるはずだ」として、芋づる的に核密約に飛び火することを最も恐れたはずだ。何としてでも、西山記者の活動を抑える必要があったのだ。そして西山記者は拘束された…。そんな疑念を持つ人が多かった。

◇日本が核戦争に巻き込まれるリスク

今後、もし違憲安保法制が成立し、在日米軍再編計画に迎合した日米軍事同盟が成立すればどうなるか。詳しくは私が以前に書いた以下の二つの記事を読んで戴きたい。

■秘密保護法、集団的自衛権のあまりに危険な実態、ジョセフ・ナイ元米国防次官補の語る日米軍事戦略

■安保法制の狙いは自衛隊と米軍の一体化、在日米軍再編計画に迎合した安倍政権

要約すれば万一、中国有事の際には米軍と一体運用された日本各地の自衛隊基地から、核兵器を搭載した米軍機が中国の核基地に対し爆撃に向かうことも想定される。もちろん、そうなれば日本本土が核攻撃の標的になることも覚悟しなければならないのだ。

しかし、今は国家公務員法に加え、多くの人が「違憲」と懸念を示しても、強行採決で成立した秘密保護法がある。爆撃の危険にさらされる国民にこうした情報が伝わることは、まずないだろう。

西山記者の前例がある。国家権力は狡猾で、無慈悲だ。核兵器に関する情報は徹底的に管理され、外に絶対に漏れない対策を取る。ジャーナリストが取材を試みても、権力はどんな理由をつけてでも、記者を拘束するだろう。それも世間で騒がれることを恐れ、核取材に対しての秘密保護法違反と言う形には絶対にしないはずだ。

何らかの別件をデッチ上げてでも拘束する手法が取られる。人々が気付くことさえ、困難だ。核攻撃にさらされて、初めて国民は事の真相を知ることとなる。でも、もう遅い…。そんな戦前社会への回帰を私は想像し、恐れる。

◇報道自粛するメディア

にも拘わらず、どうしてこの国のメディアはこうも鈍感なのだろう。NHKや読売は、国会での核論戦を伝えても、安倍首相や中谷防衛相発言の「非核三原則がある」との答弁の方を大きく伝え、核戦争に自衛隊が参加する危険をまともに報道していない。

朝日や毎日は、その危険は何とか伝えた。しかし、その朝日にしても1面トップ扱いを避けた。この国会論戦が、唯一の被爆国であるこの国が、核戦争に向かって実質一歩踏み出すきっかけになり、戦後の大きな転換点になりかねないと言うのに…である。私にはメディアが安倍政権に対して、あまりにも腰が引けているとしか見えないのだ。

≪筆者紹介≫ 吉竹幸則(よしたけ・ゆきのり)
フリージャーナリスト。元朝日新聞記者。名古屋本社社会部で、警察、司法、調査報道などを担当。東京本社政治部で、首相番、自民党サブキャップ、遊軍、内政キャップを歴任。無駄な公共事業・長良川河口堰のウソを暴く報道を朝日から止められ、記者の職を剥奪され、名古屋本社広報室長を経て、ブラ勤に至る。記者の「報道実現権」を主張、朝日相手の不当差別訴訟は、戦前同様の報道規制に道を開く裁判所のデッチ上げ判決で敗訴に至る。その経過を描き、国民の「知る権利」の危機を訴える「報道弾圧」(東京図書出版)著者。特定秘密保護法違憲訴訟原告。