1. 故やしきたかじんの妻・家鋪さくら氏が起こした「同時多発」裁判、映画評論家の木村奈保子氏のケースが和解判決により終結

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2016年08月11日 (木曜日)

故やしきたかじんの妻・家鋪さくら氏が起こした「同時多発」裁判、映画評論家の木村奈保子氏のケースが和解判決により終結

故やしきたかじん氏の妻・家鋪さくら氏が、映画評論家の木村奈保子氏に対して、SNS(ソーシャルメディア)で「人格障害を伴う悪女」などと書かれ、名誉を毀損されたとして660万円のお金などを要求していた裁判が、8月4日に和解した。

木村氏に訴状が届いたのは2015年の8月中旬。百田尚樹著のノンフィクション『殉愛』に描かれた内容を反証した『殉愛の真実』(西岡研一ほか共著)が発刊された後に、木村氏は、FACEBOOK(ツイッター連動)で後者を絶賛する書評コメントを書いた。

その中の表現が名誉を毀損するものとして、総額660万円の訴状が送達されたのだ。

さくら氏は、関西の政治番組などで活躍した司会者で歌手でもある故やしきたかじん氏の後妻で、たかじん氏が亡くなる2ヶ月前に婚姻した。自身の看病物語『殉愛』を作家の百田氏に依頼した人物である。

この裁判の原告・さくら氏の代理人として登場したのは、ロス疑惑事件の三浦和義氏や薬害エイズ事件の被告・安部英氏を無罪にした辣腕、日本を代表する人権擁護団体である自由人権協会の代表理事を務める喜田村洋一弁護士である。喜田村氏は、読売の「押し紙」裁判では、読売には1部も「押し紙」は存在しないとも主張してきた。

◇高額名誉毀損訴訟

一方、木村氏は、弁護人を立てずに「本人訴訟」を選んだ。言論に対する抑圧を目的とした裁判であるという評価がその根底にあるようだ。

近年、言論に対する高額名誉毀損訴訟が増えており、弁護士を立てた場合、被告は請求額に応じて着手金を支払わなければならない。敗訴すれば、損害賠償金も負担しなければならない。勝訴しても成功報酬を支払わなければならない。

そのために原告は、裁判の勝敗とは無関係に、高額訴訟を起こした時点で、相手を経済的にも、精神的に追い詰めることができる。

一方、弁護士によっては、名誉毀損裁判を恰好のビジネスと捉え、積極的に高額訴訟を奨励する者もいる。筆者は、すでに一部の弁護士による「営業活動」の実態を把握している。「営業活動」は確か禁止されているはずだが、水面下では行われているようだ。

が、日弁連はこの社会問題の解決には消極的だ。

◇光文社、毎日新聞社、宝島社・・・

結果的に木村氏は、和解にたどり着いた。しかも、謝罪文を必要としないうえに、和解金も小額だった。弁護士を依頼せずに自分で裁判に対処したことは、結果的に正しい選択肢だったといえる。

なお、さくら氏は、木村氏以外に対しても、複数の訴訟を起こしている。たとえば、たかじん氏の一番弟子、打越元久氏(歌手)に対する裁判だ。第一審の大阪地裁は、打越氏に対して300万円の支払を命じたが、第2審の大阪高裁は、さくら氏を「公人」と認定し、賠償額も100万円に減額した。

さらに、さくら氏は光文社、毎日新聞社、宝島社などを相手に、多くの名誉毀損裁判を続行中である。

ちなみに、たかじん氏の実娘が百田氏の『殉愛』で名誉を毀損されたとして幻冬舎を提訴した裁判では、7月29日、幻冬舎に対して330万円の支払いを命じた。同じくたかじん氏元マネジャーも、百田尚樹氏と出版社を訴訟中で、判決が待たれている。

◇言葉の質が低いことは暗黙の前提

ちなみに名誉毀損の成立要件は次の通りである。

「ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決)」

この判例を基準にすれば、ツイッターやフェイスブックの書き込みで名誉毀損に該当する表現などほとんどないはずだ。もちろん、プライバシーを暴くなどの行為は別だが、相手を罵倒する言葉、たとえば「バカ」、「キチガイ」などと書き込んでも、それが真実と受け取る者はまずいないだろう。

言葉の質が低いことを暗黙の前提として、コミュニケーションをしているからだ。

名誉毀損裁判では、とかくある特定の言葉を捉えて、それが名誉毀損にあたるか否かを審理するがこれは間違っている。どのような脈絡の中で言葉が使われているのかを検証することなしに、名誉毀損に該当するか否かを判断することはできない。

その意味では、「人格障害」という表現は、昨今、橋本元大阪市長が精神科医で評論家の野田正彰氏を「人格障害」と分析したことを訴えた事件で、この表現自体が名誉毀損を構成するものではないと判決されたことは評価できる。

今回の事件では、多くの「殉愛」読者やファンサポーターなどネット民によって、さくら氏の疑惑や百田氏による出版社に対する圧力などを
指摘する声が広がり、いまなお怒りの炎が消えていない。

さくら氏が木村氏を訴えた裁判は、まったく道理がないというのが筆者の考えだ。弁護士も、訴訟を起こさないようにアドバイスすべきだった。

【参考記事】

【ツィッターによる名誉毀損の判例】歌手で作家・八木啓代氏のツィートを裁判所はどう判断したのか、裁判所作成の評価一覧を公開