発展途上国におけるインフラ整備の裏面、行き着く先は積極的平和主義=海外派兵による治安維持
【サマリー】9月17日に成立した安保関連法案に対して財界が歓迎の意を表明している。経済同友会と経団連がそろって談話を発表した。
最近、マスコミは発展途上国における日本によるインフラ整備をPRするようになったが、インフラ整備の先には、多国籍企業の進出がある。そのためのインフラ整備の側面が強い。さらにその先には、海外派兵によって、進出先の国の「治安」を維持し、多国籍企業がぼろもうけできる体制の維持という青写真がある。
安倍内閣の積極的平和主義とは、海外派兵によって多国籍企業の権益を守る行為にすぎない。グローバリゼーションや新自由主義=構造改革を歓迎しているリベラル右派が、結局、安保関連法案に本気で反対できないのも、このあたりに事情がある。
9月17日に成立した安保関連法案に対して財界が歓迎の意を表明している。たとえば経済同友会は9月19日、小林喜代表幹事の次のような談話を発表した。
「1.本日、安全保障関連法案が参議院にて可決された。日本の安全と世界の平和・安定を図る上で、今回の法案成立の意義は大きい。日本の安全保障体制強化に向けた大きな一歩として評価したい。
2.一方、当法案をめぐり、憲法論や法律解釈論等に焦点が当たり、日本の安全保障政策をどうするのかという本質的な議論が深まらず、国民的理解の醸成に至らなかった点は、極めて残念である。政府・与党には、同法案の運用に向けて、一層、真摯な説明を継続していただきたい。
3.さらに、テロ、サイバー攻撃のような新たな脅威や情報戦争といった側面も含めて、与野党ともにさらなる議論を深めていただきたい。」
経団連の榊原定征会長もやはり9月19日にコメントを発表している。
「国民の生命や財産を守ることは国の最も重要な責務である。わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。このような中で、国会において長時間にわたり真剣な議論が行われ、安全保障関連法案が成立したことを歓迎したい。
今後、わが国が積極的平和主義のもとで国際社会の平和と繁栄にこれまで以上に貢献していくことを望む。」
◇多国籍企業の防衛戦略としての海外派兵
メディア黒書でたびたび指摘してきたように、自衛隊を海外へ派兵する要求は米国だけではなく、日本の財界からも出されてきた。そのことは、たとえば経済同友会がこれまでに発表した安全保障や海外における事業活動に関する提言にも色濃く反映している。
参考までに次の記事を紹介しておこう。
■経済同友会の提言が露呈する多国籍企業の防衛戦略としての海外派兵、国際貢献は口実
◇「侵略→占領→引き上げ」
海外諸国、特に発展途上の国々に対する支援は複雑な側面を持っている。多面性のかたまりにほかならない。最近、某テレビ局が日本がカンボジアなどで水道のインフラ整備を進めていることを報じていた。番組はこのような支援を善意の行為として報じていたが、それほど単純なものではない。
支援には矛盾した2つの側面がある。まず、水道を整備することで、地元の人々が大きな恩恵を受けることは間違いない。その意味では確かに善意の支援である。
同時になぜ日本がこうした支援に積極的に乗り出すのかという理由を考慮する必要がある。
結論を先にいえば、それは水道などのインフラ整備を進めなければ、多国籍企業が進出するための条件が整わないからだ。なぜ、多国籍企業が海外へ進出するのかは単純で、国際的な企業競争の下で、少しでも安い人件費で工場を操業することが戦略目標になっているからだ。そこで財界と癒着した政権がスポンサーになって、発展途上国のインフラ整備に乗り出すのだ。
従って多国籍企業が現地へ進出した後は、なるべく安い賃金で現地の人々を搾取する青写真があると見て間違いない。インフラ整備というのは、一見すると地元の人々を支援しているように見えるが、長いスタンスで見ると多国籍企業にぼろもうけをさせるために必要な条件を整備することが目的なのだ。
こうして多額の資金を「投資」して、海外進出の条件を整備した段階で、次に必要となるのが、現地の「治安」を維持するための派兵体制である。
安倍内閣が改憲に踏み出そうとしているのも、世界のあらゆる地域にピンポイントで軍隊を投入して、政変の火を消す体制を構築するためにほかならない。従って、安倍内閣の頭の中にあるのは、極右が想定しているような旧日本軍型の「侵略→占領→植民地」型の戦争ではなく、「侵略→占領→引き上げ」の戦略である。
積極的平和主義とは、端的に言えば、発展途上国における政変の火を消すための軍隊の投入を意味する。グローバリゼーションと新自由主義=構造改革を歓迎しているリベラル右派が、結局、安保関連法案に本気で反対できないのも、このあたりに事情がある。